夏の日のアイス

この夏、ぼくは忘れられない体験をした。


アイスが溶けて、アスファルトが唸る。今年もそんな季節がやってきた。
ぼくはカップアイスが好きだから落とす心配は無いけどやっぱり暑いのは嫌だ。
カップの中でアイスが液体になっちゃう。それはあんまり美味しくない。
やっぱりアイスは冬だな、とぼくは思うわけだ。
それでもやっぱり暑いからついつい食べたくなる。
この日のぼくはスーパーカップを食べていた。
でも、残念なことに全部食べることはできなかった。
林に接している道(遠回りだけど影ができてて涼しい)をいつものようにアイスを食べて歩いていると、道の脇から突然大きな化物がでてきたんだ。
全身真っ黒でぼくにはよくわからなかったけどとにかく大きかった。
勝ち目がないのはわかってるけど逃げようにも逃げれない。
腰が抜けてしまったんだ。
だめだ、食べられる。
そう思った時に鉄パイプを持ってその化物に立ち向かった者がいたんだ。
なんとその者は化物の攻撃を一度貰ってしまったけど怯まず立ち向かい、そして追っ払ったんだ。


「それが君だったんだよ!若柳君!」
「なるほどな、そーゆーわけで…えーっと…お前はおれに馴れ馴れしくしたのか」
「あ、馴れ馴れしかったのか…ごめん」
気にすんな、と言って彼は笑う。ぼくはこの時、彼に少し憧れていた。
彼は右腕を包帯でグルグルに巻いている。多分そうだと思ったが気になってぼくはつい聞いてしまった。
「その傷って…やっぱりあの時の?」
若柳君は少しうーんと悩んでから、そうだと言って笑った。そしてすき焼きって美味くないか?といきなり話題を変えてきた。ぼくがまた謝ると思い気を使ってくれたのか、あるいはただ謝られるのが面倒だったのか。なにはともあれぼくは若柳君をかっこいいと思った。
「石原ってもう高校決めた?」
「うん、決めたよ。シマコーにしようと思ってる」
「シマコー?」
「島原高校」
「ああ、バラコーか」
「シマコーでしょ?」
「バラコーだろ?」
と、くだらない討論をいつものようにやっていた。
それは僕にとって、とても楽しい時間だった。
もう何度も若柳君の家に遊びに来ている。
彼の家は贔屓目に見てもとても住みたいと思うような家ではない。一言で言うとボロボロだった。
むしろいつ崩れてくるかが心配な程だ。
人だって若柳君とぼくだけでもう部屋はいっぱいいっぱいだ。
隣の部屋には若柳君のお父さんがいるらしいけどまだ一度も見たことはなかった。
正直来訪者にとってもいい環境とは言えないのに若柳君はここに住んでるんだからすごいと思う。
それでもやっぱりここに来てしまうのは、若柳君がいるからだろう。若柳君には責任を取ってもらわなくちゃ。
もう何度目になるかわからない位遊んだある日、ぼくは彼の家でなにかの袋を見つけた。
「若柳君、これなに?」
と聞いてみると
「ああ、それは親父のパチンコ玉だよ、袋あけてみ?」
というので開けてみた。
「綿?」
「その綿の中にパチンコ玉が何個か入ってる」
探してみると本当にあった。たまに落ちてるのを見かけることがある。
「でも、すくないね」
僕が言うと
「親父負けっぱなしだから」
と笑っていた。
石原、気に入ったなら持って帰っていいぞ?と若柳君は言うが流石にそれはだめだろう。
ぼくはそうとしたら突然、お父さんがいるという部屋の襖があいた。
お邪魔してますとぼくがいうとキッと睨んで
「ガキ!二度とそれに触るんじゃねーぞ」
と言ってきた。ああいうのをダメ親父というのだろう。
しかし、ぼくがはいと言おうとするとそれを遮るかのように若柳君は石原、それもらっていいよと言ってきた。
何言ってんだと思ったがもう遅い。ぼくたち二人はダメ親父の逆鱗に触れてしまったみたいだった。
すぐ拳が飛んでくると思ってみを縮めたが意外にもそんなことはなく、必死に怒りを抑えて若柳君に話しかけていた。
「なあ、リョウ。ワシのパチンコ玉はいった袋知らんか?二つあったはずなんだけど」
「母さんに渡したよ、どうせあんなの10円だろ。だから母さんに10円貰った。」
なぜ素直に言ってしまうのだろう。知らないと言えば済むのに。
そして今度は怒りをこらえ切れなかったようだ。
ダメ親父はふざけるな!!!!!
と言うと、ここで信じられないことが起きた。
なんと、ダメ親父の体がだんだんと黒ずんでいく、そしてその体躯もムクムクと膨れ上がって、あの時の化物のようになった。
あんまり驚いたんでぼくは若柳君にお父さんはジュッパチなの!?と訳のわからない質問をしていた。
しかも若柳君は律儀にいや、サンパチだよ、と答えている。そしてそれが余計に頭を混乱させた。
「ワシの金玉の半分を、ババアにやっただと!?このクソガキが!!」
いや、銀じゃん!
「ああ、あげたよ、お陰で10円貰えた」
「ワシの金玉が10円程度の価値なわけ無いだろ!!」
確かにお前の金玉10円だって言われて怒る気持ちはわかるけど、でも、銀じゃん!パチンコ玉銀じゃん!!
とか思っているとダメ親父が若柳君に襲いかかる、が、若柳君も負けてなかった。
近くにおいてあった鉄パイプを取り下から腕を突き刺して、それをそのまま腕の下がる勢いで腹に突き刺す。舞台セットの足の部分のようになっていた。
ダメ親父がものすごい悲鳴を上げる。さながら断末魔のように、家の中が震えている。
家が崩れてくるんじゃないだろうか。
そして、若柳君は気が付くと居なくなっていて、さっきまでそこにいなかった猛毒の蛇、コブラがいた。そして、そのコブラはダメ親父の体をスルスルと登って、持ち前の長い牙で首に噛み付いた。
頚動脈を切られたのか、ダメ親父は叫ぶのをやめ、バタンと倒れてそのまま動かなくなってしまった。
そして、ダメ親父の体の下敷きになったコブラはするりと抜けてぼくの方へ近づいてきた。
「やめろ、くるな!」
必死で叫ぶと、なんとコブラが喋るのだ。
おれだよ、石原というとだんだんコブラは形が崩れていき、そして、大きくなって若柳君になった。
「石原さ、ごめんな」
この時、ぼくには全く意味がわからなかった。
一体何を謝られたんだろうか。
しかし、ぼくの脳はそこで超回転を始め、一つの答えを導き出す。
「こんな怖いことに、お前の事巻き込んで」
「全然!そんなこと気にしないでよ!ぼくたち友達じゃないか!」
そして、ぼくの出した答えと
「ありがと、そんで、ごめんな」
「なにがだよ、何がごめんなんだよ」
彼の答えは
「おれはもう、お前には会えないよ」
こんな時だけ、一致してしまっていた。

夏の日のアイス

夏の日のアイス

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted