死にたがりと、生きたがり
いらない命はありません。
むしろ、欲しい命はあります。
フェンスを越えてみたり?
うんざりだ。
恋人にふられ、会社はクビになって、後輩の失敗をなすりつけられ…。
まだ山程ある。
いっそ、死んだほうがまし…。
そんな漫画に出るような言葉を心でつぶやき、靴を脱いだ。
「こんにちわ」
「うお⁉︎」
びっくりして、フェンス越しに後ろを振り返った。
そこにいたのは、車椅子の青年。
年は20前半だろうか。
「?こんにちわー!」
「え、?あ、こ、こんにちわ…」
「おじさん、死ぬの?」
「…は?」
「死ぬの⁉︎」
キラキラとした目で見ている…。なんだ、こいつ…。
「死ぬとこ見て嬉しいか?」
「俺とお友達になれるからね!」
「んん?」
「俺ね!明日、死ぬんだ!」
「………」
随分、軽く言うんだな…。
…。死ぬ、か。
「病気か?」
「そう!今はこうやって元気だけど、明日は死んでるんだ。…死ぬって不思議だよねー」
「……」
「俺は、カノジョに振られるわ、仕事は無くなるわ、後輩ちゃんの尻拭いはするわ…。壮絶な人生だよ!」
「俺と…」
同じ…。
「でもね、俺、生きたいんだ!明日が来るのが楽しみなんだ!」
「なんで?」
「明日には、必ず何かが変わってるから!昨日みたいな、今日はないからね!」
「…」
「現に、おじさんと会ったし!w」
「そうか…」
「だから、生きたいんだ。明日、また朝日をみたいな。可愛い看護師さんのおっぱいみたいなぁ…」
呑気なやつだな…。明日死ぬってのに。
「おじさん、なんで死にたいの?」
「そりゃ、…。………」
「意味もないのに、死んじゃダメだよー!もしかして、飛べるとか⁉︎」
「んなわけないだろ…」
「じゃあ、おじさんが死んだら、一緒に三途の川渡ろうね!もし、死んでなかったら、俺のこと見に来てね!」
「………。」
「死にたがりと生きたがりだね!俺たち!」
「そう、だな…」
「んじゃ!おじさんが生きてるか死んでるか!明日のお楽しみー!」
「…………。」
「この病院の、306号室!会いに来てね!」
翌日
「親族の方ですか?」
「いえ、知人です」
「そうですか。この人は身寄りのない人です。どうか、最後を見てあげてください。」
「…2人にしてください」
「あ……。おじさん…。生きてたんだね」
「お前のせいだ。お前が、あんなこと言うからだ。」
「ふふふ。あいにきてくれてありがと…」
「お前も、」
「……?」
「お前ももっと生きろよ!今日が最後なんて言うな!明日には、何かが変わってるかもしれねぇんだろ⁉︎」
「……うん…」
「死にたがりはお前の方だ!だから、死ぬなよ…!」
「生きたが、り、は、きっ、と、いいこと、が…ある、よ…」
「お前も、そうだろ⁉︎」
「おれはね、おじさんと、いま、こうやって……はなしてるのが…、いいことだよ…。生きてて、よか、…た……」
「…おい」
「………」
首がこてん、と横を向き涙が溢れていた。
その顔は、幸せそうだった。
数年後
俺は家庭を持っていた。仕事も順調だ。
可愛い一人娘もいる。
娘が5歳になったときのこと。
「おとーしゃん!しにたい?」
「はぁ?」
「わたしね、いきたいんだ!」
「変なこと言うのね。ふふふ」
「きのうね!れいくんに、ふられちゃったけど、あしたにはね!おともだちなんだよー!」
「…そうか。そうだよな…」
「おとーしゃん、ないてるの?あした、いっぱいわらおうね!」
死にたがりは、生きたがりを産んだ。
心の中では、生まれ代わりの子、と呼んでいた。
名前は、明日香。
死にたがりと、生きたがり
ありがちな話ですみません(汗
小さい頃、母に言われた一言を思い出して書きました。
もし被ったら、ごめんなさい!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。