モルドレッド卿はアヴァロンの道を征く

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prologue


《序章》


 奇蹟を起こせる聖人がいようが、感情を制御されたバイオロイドがいようが、並外れた身体能力を持つサイボーグがいようが、世界が変わろうが、戦争がなくなるわけないだろ。

 この地球という惑星の余すところ無く開拓し、月や火星にまで手を伸ばして、テラフォーミング計画なんてご大層なものを掲げたところで。人工的な環境サイクルシステムを作り出し、心地よい環境を取り戻したところで、何が変わると言うんだ。どこまで行っても、“人”は“人”でしかないし、争いをやめるなんて、そんな夢物語にもなり得ない妄想が実現するはずもない。

 まあ、昔と比べたら幾分かはマシになったさ。暗黙の了解とは言え、戦場にルールが出来て、制限が設けられたことで、いつの間にかこの泥臭い戦争も『クリーンな戦争』と呼ばれるほどになったしな。……ま、そうは言っても、誰もが必ずしもそれを守る保証は無いがな。

 どの国も必ず守っていることと言えば、核を使わないようにしているということぐらいか。化学・物理学者のオットー・ハーンが原子核分裂を発見し、トリニティ実験が行われて以来、竜人と妖精人が「私たちには過ぎた代物だ」とかなんとか言って、核兵器はもちろん、原子力発電も禁止されたからな。ふたつの『種族』から禁止されれば、如何に強欲な人間と言えどもさすがに誰も手を出さないさ。

 ま、核が禁止されても、戦場が血生臭いことに変わりはないんだがな。

 要はそういうことだ。


 ―――世界が違えど、結局は同じ。


 パラレルワールド? 平和な世界? 未来予想図? もうひとつの可能性? そんなものは掃き溜めにでも捨てた方が有意義で最良の選択だ。

 若人は将来、有能な兵士になるために日夜鍛錬を積め。老人は知識を若人に継いで逝け。技術者諸君は他勢力に負けぬよう優秀な銃器と兵器を造れ。赤子は火薬の匂いと軍靴の音を感じて育て。

 争いのない世界なんて存在しない。仮に平和な世界があったとしても、優秀な諸君らのことだ。どうせ人口が膨れ上がって資源の奪い合いという生存競争をすることになるだけだ。それならいっそのこと、戦争でもして人口を最適な数に保ちながら生き長らえる方がまだマシだろうよ。なにせ、戦争でなら怒りの矛先を向ける相手がいるんだからな。

 それとも、どこに矛先を向ければいいのかわからないまま、自分の一生を恨みながら死ぬ方が好みか? まあ、どちらであっても私には関係のないことだが。

 ……さて。

 それじゃあそろそろ、「戦争は憎むべき行為だ」などと手頃な一面しか捉えていない平和ボケしている諸君らに、私が少しだけ話してやるとしよう。

 戦争のもうひとつの在り方を。

 そしてそこで生きる者の話を。

モルドレッド卿はアヴァロンの道を征く

モルドレッド卿はアヴァロンの道を征く

世界は幾多にも分岐している。 しかし、人よりも深い智を持つ聖人が、人よりも永い命を持つ人造の人間が造られても───結局、戦争がなくなることはなかった。 高度な智能を持って生まれた。 それが、戦争が起きる理由。 しがない従軍記者・ヴィルヘルムは、軍より徴兵命令を下されたことを切っ掛けに、雪が降り積もるアルタイの地にて蒼空色の眼を持つ一人の軍人と出逢った。 明確な善悪が存在しない戦場。青年はその中で、人の尊さと業を知り、大切な“モノ”を見つける。 これはその切っ掛けを描いた物語だ───。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-28

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