暗々裏

 月が出ているおかげで手元と足元は見えるが、辺りは暗く、頼りになるのはペンライトだけ。
・・・とは言っても、ここは学校なのだが。
腕時計は、19時を指していた。
まさか、忘れ物をするとは。しかし、数カ月前のこの時間帯ではまだ明るかったはず。
まぁ、涼しくなってくれたのは、有り難い事だ。
一人、物思いにふけながら、歩を進め2階へと上がる。
2階には、A組~E組まで一直線に並んでいるが、今はA組にしか用はない。
 教室に入ると、窓の外から差し込む月光で自分の机を見つけるのは、簡単だった。
用が済んだらここに留まる必要もない。
足早に校舎を出て、止めてあった自転車にまたがり、学校を出た。
しかし、その時、月が雲に隠れ、サイレンの音が不気味に思えたからか、速度が速く感じた。
 数時間後、学校から連絡があり学校の一室に居た。時河(ときかわ)という刑事さんと、2-Bの担任櫻井 静先生と向き合っていた。
「何か悪い冗談ですか?」
「でもね~蒼君。彼はビニール袋を被って倒れていたんだぞ。それに、死ぬ直前に飲んだと思われるペットボトルからは、劇薬の成分が検出され、遺書まで見つかったんだ。これを自殺と見るのが自然だろう?」
僕の名前は、井原 蒼。数時間前、親友の西 広和が教室で亡くなっていたと言うのだ。
でも、広和は今日発売されるあるロックバンドの新譜を心待ちにしていたし、そのロックバンドに憧れてギターまで弾き始め、軽音部の活動も「すっごく楽しい」って言っていたお前が・・・そんな訳ない。
「まぁ、君がそう言うのも分かる。何か分かったら、娘に伝えるから、いつでも訪ねなさい。」
「ありがとうございました。刑事さん。ほら、井原君。挨拶は?」
「ありがとうございました。」
「うむ。」
会釈してその刑事さんは、部屋を出ていった。
「君も遅いから、帰りなさい」
「あっ先生、一ついいですか?」
「ん?」
「先生は、広和の死を自殺だと思っていますか?」
「ええ。さっきの刑事さんの話を聞く限りそうとしか思えないよ」
「そうですか・・・失礼します」
(先生は、広和の担任だろう?教え子の自殺を易々と認めるのか?)
そう言い返そうと、思ったが失礼だと思い自重した。
 翌朝、自分のクラスメイトに広和の事を尋ねまわったが、何せ他クラスの人なので知っている人も少なく、有力な情報は得られなかった。
「あいつに、聞いてみるか・・・」
その日の昼休み、あの刑事さんが言っていた"娘"へ会いに2-Cへ向かった。
「やっ」
「元気~。そんな訳ないか」
この声がその娘、時河 結(ときかわ ゆう)である。
「まぁ、私を尋ねて来たと言うことは、西のこと調べている所でしょ?違うか~?」
結は、ワハハと笑う。
「察しがいいな」
「昨日、お父さんに聞いたからね」
「そうか・・・」
「私は、そんなに頭は良くないのだよ」
「ハハ、そうだったな」
「そこは、否定する所だぞ~」
「ゴメン、ゴメン。で、本題だ。広和の事だか。」
「う~ん、その日は見かけなかったよ。でも、前見かけた時、すごく落ち込んでいたようだったよ」
「・・・そうか、ありがとう」
「あっ待ってよ~」
「どうした?」
「いや、私の友達に夏紀って言うミステリー好きの子がいるんだけど?」
「なつき?あぁ、熱海か。同じクラスだったのか?」
「そうだよ。ほら、窓際の席で本読んでるじゃん」
最前列の結は、後ろを向いて最後列の熱海を指さした。
熱海は、自分が指さされた事に気付き、読みかけの本に栞を挟み、そっと置いて、こっちに来た。
「どうしたの?結ちゃん」
「ほら、会ったことあるでしょ?私の彼氏」
「あっお久しぶりですね。井原君」
「あぁ。で、熱海を呼んだと言うことは・・・」
「アドバイスを求めに来た。違いますか?」
「さすが。じゃ話は早い。蒼から話は聞いてよ」
昨日にあった、刑事さんのやり取りと、広和の自殺を否定する根拠を熱海に話した。
「なるほど。軽音部の部室には行ってみました?」
「いや、まだだが」
「じゃ、行ってみようよ。あーおー」
「ですね」
そう言う成り行きで、僕らは、軽音部の部室前に居る。
最前列の結は、後ろを向いて最後列の熱海を指さした。
熱海は、自分が指さされた事に気付き、読みかけの本に栞を挟み、そっと置いて、こっちに来た。
「どうしたの?結ちゃん」
「ほら、会ったことあるでしょ?私の彼氏」
「あっお久しぶりですね。井原君」
「あぁ。で、熱海を呼んだと言うことは・・・」
「アドバイスを求めに来た。違いますか?」
「さすが。じゃ話は早い。蒼から話は聞いてよ」
昨日にあった、刑事さんのやり取りと、広和の自殺を否定する根拠を熱海に話した。
「なるほど。軽音部の部室には行ってみました?」
「いや、まだだが」
「じゃ、行ってみようよ。あーおー」
「ですね」
そう言う成り行きで、僕らは、軽音部の部室前に居る。
「・・・と言うか、今は昼休みなのだが、れんしゅうしているのか?」
「さあ、どうだろうな~」
結は、ワハハと笑う。熱海は、早速ドアをノックする。
「積極的だな」と苦笑する。
「どうぞ」
女子生徒の声が聞こえたので、ドアを開けた。
 部室には、その生徒しかおらず、胸の名札から一年生で名前が東横と言うのが、分かった。
「何か御用でしょうか?」
東横が首を傾けて尋ねる。
「西君って知ってますよね?その事で少し伺いたい事があって来ました」
やはり、熱海が口を開く。東横の表情は暗くなり、
「はい」と小さく呟いた。
「西君が亡くなった後、何か変わった事は無かった?」
熱海の言い方はソフトで、刺が見当たらない。
「西先輩が亡くなってから、松村先輩が西先輩のしていたギターを任された事でしょうか?前から、松村先輩はギターをやりたがっていたのですが、正直イマイチで・・・西先輩の方が技術もあったんです」
「そう。その松村先輩は、どんな人?」
「他人が失敗したら、容赦なく大声で怒鳴る人で、自分のミスは人になすりつけるような人です」
「なるほど、松村先輩は怖い?」
東横は、首を小さく縦に振る。
「なら、西君に変わった事はなかった?」
「えーと、西先輩らしくないミスばっかりしていた事でしょうか?その度に、松村先輩から怒鳴られていました。後、部活の最中によく松村先輩と抜け出していました」
「ありがとう、参考になったわ」
熱海は、そう言って部屋を出て行ってしまった。僕と結も後を追って部屋を出て行った。
「その松村と言うのは、怪しいなぁー」
「だが、熱海は何故松村を君付けしたんだ?」
「え?知らないの?蒼」
「知っているのか?結」
「ワハハ。蒼にも知らない事があるんだなぁー」
結によると、松村 弘太と言う人は一言で言うと、札付きの問題児で中学の頃はよく問題ばかり起こしていたらしい。
「やっぱり、松村は怪しいなぁー」
「なら、2-Bの人に聞き込みしますか?」
「そうするか」
しかし、そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。
「では、放課後」
「じゃあねーグスッ」
「失礼します。ほら、結ちゃん泣かない」
 それぞれの教室へと解散し、午後の授業を済ませた。
そして、一足先にHRを終えた熱海と結が迎えに来てくれた。しかし、クラスメイトは「彼女がきたぞ!ヒューヒュー」なんて冷やかしてきた。「(お前ら小学生か・・・)うるさい!黙れ!」と言い返してきたので、多分大丈夫だろう。結と熱海に・・・クラスメイトに言った「見苦しい所みせてしまったな」は皮肉だが。
それを「別にいいよー」とのんびり言える結が大好きだ。熱海も首を縦に振っていたが。
「じゃ、2-Bへ聞き込みに行くか」
「レッツラゴー」
「はい」
松村が休みだと言う事を確認し、2-Bの人を捕まえては、松村の事を聞き出そうとするが、名前を出すと、皆顔が強ばり「知らない」の一点ばりだ。
「クラスメイトなのに、知らないってあるか」小さく呟いた。
その時、
「そこで、何をしている!」
男の怒号が廊下に響く。
「何だ?何だ?」と皆が声の方向を向く。
その声の持ち主は、紙下と言う学年主任で、頑固な保守的。そう言う先生として知られている。
「そこの三人!」
そう言われて、自分達の事だと知った。
「こっちに来い!」
「僕達は、何も悪い事はしていない!」
「いいから、来い!」
連れて来られたのは、生徒指導室だった。
「お前らか?自殺と決まった案件を掘り返してあるのは?お前らが納得出来ない理由も分からん訳ではないが、他の生徒の事を考えたことあるのか?自己中心的な行動をやめろ!」
[違うだろう?先生が考えているのは、生徒の事ではなく"事件の風化"でしょう?遺書にいじめられたって書かれてなかったからって調べもしないくせに、今更生徒の事を考えろ?その言葉そのまま返しますが?先生?]
とか思っているんだろうなぁー蒼は。
論争好きのあんたが噛み付かなかったのはすごいけど・・・
 学校と自分の保身について、喋っていた先生が気づけば居なくなっていた。
その頃には、暗くなっていたので帰ることにしたが、その帰り道は僕に気を遣ってくれたのか、誰も話そうとはしなかった。
 翌日の昼休み、2-Dの人に聞き込みをする事にし、教室に向かっていた所に、
「井原君」
そう呼び止められた気がしたので、声の方向に振り向いた。
そこには、廊下を走ってまでも呼び止めようとしたらしく息が上がっていた男子生徒がいた。
あれ?この生徒何処かで?
「すいません、呼び止めてしまって。僕は柳 京一(やなぎ けいいち)と言います。広和君の事を調べているんですよね」
そうか、思い出したぞ。柳は広和と同じクラスで同じ部活動生だった。
広和から聞いた事がある。
「で?どうしたんだー?」
「広和君は、松村君からいじめを受けていたかもしれません」
早口でそう喋るなり、また息が荒くなりうずくまってしまった。
しかし、素早くズボンの後ろポケットからビニール袋を取り出し、口に当てた。
しばらく、うずくまっていたが少しずつ回復してきた様ですっと立ち上がり「すいません」と頭を下げた。
「過呼吸ですか?」
「はい、持病です」
「いつ頃から、発病したんですか?」
柳は、上を見上げ、はぁと一呼吸置き、
「僕も、松村から嫌がらせ...いじめを受けていたんだ」
柳が言うには、広和のギターテクニックを妬んで、松村が嫌がらせをし始め、それに耐えかねた柳は止めるように言ったが全く聞かず、彼も嫌がらせを受け始めたとの事。柳が全て言い終えるのと同時に、チャイムがなってしまい、解散することにした。
 放課後、熱海の提案で軽音部の部室に行く事にした。部室に着くなり、松村が出て来た。目が合い、睨まれたが無視した。
今は相手にする場面では、ないからな。
部室では、東横がホッとした顔で立っていたが、慌てて僕たちに気づき、「どうぞ」と向かい入れてくれた。
「早速ですが、柳君の事を聞きに来ました」
「そうだ。何故この前、柳が居ることを教えなかった?」
「すいません。最近、柳先輩は、部活に出てないので...」
「柳君が、過呼吸を持っている事は知っていました?」
「はい。常にビニール袋をポケットに入れていましたから
...そういえば。」
「どうしたの?東横ちゃん」
「いえ、西先輩が自殺した日、いつもの様に、部活の途中で松村先輩と西先輩が一緒に何処かに行ったんです。その後、柳先輩が二人を追うように出ていってしまったのですが、その時ビニール袋はありました。けれど、帰って来たのは、松村先輩より遅く、後ろのポケットにあるはずの、ビニール袋がありませんでした。
って、関係無い事ですよね?すいません」
「そんな事ないわ。それで、そのビニール袋な何色でした?」
「えーと...白でした。」
「そう。有り難うね」
熱海は、振り返って「いきましょう」と僕たちに呟き部屋を出て行った。僕たちも後を追い、部屋を出た。
部屋から出るなり熱海が、
「もう遅いから、帰りましょう」
と言って来た。まだ、17時だったが、何かあるのだろう。そう思い、従う事にした。
その帰り道の途中。やはり、
「ねぇ、井原君。西君はビニール袋を被って亡くなっていた。そうですよね?」
「そうだが」
「結ちゃんのお父さんは、警察官ですよね?」
「そうだぞー」
「なら、犯行に使われたビニール袋の色とその内側を調べてもらいたいのですが?
それから、井原君にはコレをお願いします」
3行程の箇条書きで、まとめられたメモ用紙を渡された。
「それはいいが、どうするつもりなんだ?」
「それは、内緒です。明日の昼休みに結果を教えて下さいね」
だそうだ...何か引っかかる所があるらしい。
 広和の死から2日経った昼休み、2-Cへ向かうと、二人は待ちくたびれたらしく僕を白い目で見つめる。
「おそーい」
結はムッと頬を膨らます。
それを可愛いと思ってしまうのは、仕方無いことだ。
「すまないな」
「ムー、謝ってくれたから許す」
「ありがとう。所で、熱海。昨日の続きは?」
「その前に、二人とも頼んだ事は?先ず、井原君から」
「あぁ、あのメモ通りだったよ」
「結ちゃんは?」
「ビニール袋は、白色で、西とは別のDNAが見つかったぞー」
「そうでしたか」
疑惑が確信へと変わった。
そんな言い方だった。
「今から言うことは、放課後まで他言厳禁ですよ」
「分かった」
熱海の口から、この事件の真相が語られた。
淡々と一つ一つのトリックを解いていった。
最後に、ため息を吐き。
「私が言った事は、井原君が伝えるべきだわ。手回しは私と結ちゃんでしますから、放課後、生徒指導室で会いましょう」
そこで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
放課後。
生徒指導室には、テーブルを挟み、右側には入り口から近い順に、
結と熱海、東横、櫻井先生。
左側には、近い順に、
柳、紙下学年主任、松村という順で、座っていた。
結の方を見る、右手でOKのサインを出していた。
「では、皆さんにご集まり頂いたのは、先日の事件について確認したい事があります」
「確認も何も、あれは自殺だと何度言わせれば」
「紙下先生。静かにしてくれませんか?話に興味が無いなら、先生は退室してもらっていいですよ
そう、「口出しするなら、出て行け」と蒼は、言っているのだ。
それが、分かったらしく、
「ちっ、分かった。話を続けてくれ」
あの紙下先生を黙らせるとは・・・
「あの事件では、劇薬が入ったペットボトル飲料とビニール袋を使った自殺と見なされていました。でも、おかしいとは思いませんか?何故、自殺方法を併用したのでしょうか?それは、劇薬とビニール袋を仕掛けた犯人が別々だと考えると筋が通ります。被害者は、日常的にいじめを受けていた可能性があり、ペットボトルに劇薬を混入させた人物は、あくまでもその範囲内での悪ふざけにしか過ぎず、殺すつもりは無かった。違いますか?松村君?」
松村が僕を睨んでくる。
「あの日君は、保健室に数時間居たそうですね。養護教諭がそう言っていました。それから、幾つかの薬が無くなっていました。あの日は、君しか保健室を訪ねなかったから疑われていましたよ。」
松村が勢いよく立ち上がり、机をバンと叩いた。
「おい、ちょっと待て。俺は殺していないし、それはあくまでも状況証拠だろ?」
「誰も君が殺したなんて言っていないでしょう?話は、最後まで聞くべきですよ」
松村が舌打ちをし、座った。
「だとしたら、ビニール袋を被害者にかぶせるたのは、誰でしょう?
柳くん、君ではありませんか?恐らく、劇薬入りのペットボトル飲料を飲みうずくまっている被害者の頭にビニール袋をかぶせ留めた。しかし、被害者は外す事が出来ずに、窒息してしまった」
「証拠は、有るんですか?証拠は?」
こういう時に、"証拠"と言う言葉を口に出す奴は、自分が犯人だと言っている様なものだ。
「ビニール袋の内側から被害者とは、別のDNAが検出されました。照合すれば分かりますよ?」
柳はがっくりとうなだれ膝をついた。
「あの日、広和君と松村が一緒に部室を出て行ったので、すぐに抜け出して後を追いました。しかし、見失ってしまい、探し回りました。そうしたら、2-Bでうずくまっている広和君を見つけました。"どうしたの?"と聞くと、机の上にあるペットボトルを指さし、途切れ途切れに"喉が乾いていたので、飲んだ"と言いました。すぐに、松村が嫌がらせで何か入れたんだろうと思いました。けれど、頭の中では広和のせいで僕は...と思っていたら、広和君の頭にビニール袋を被せてとめていました。しかし、外すことが出来ずにぐったりしていました。すると、足音がしたのですぐに隠れました。松村と櫻井先生でした。先生は、持っていたコピー用紙を広げ、机に貼り二人とも逃げるように去って行きました」
「ちっ、そいつの言う通りだ。西は俺のパシリだったのによ」
「確かに、君は人を殺してはいないが、二人の人生を滅茶苦茶にしたんだ...お前、死ねばいいよ」
松村もぐったりうなだれる。
「櫻井先生、本当なんですよね?」
「えぇ、否定はしないわ。遺書をパソコンで打って机に貼るように指示されたわ。でも、彼から脅されてやった事だわ」
「そうですか。そんな事で犯罪に加担するんですね」
「他に、方法が無かったもの」
「俺は、櫻井先生から言われたことをしたまでだからな」
「...分かっています」
こいつは、最後まで自分の保身かよ。
「あぁ、そうだ。言い忘れていたが、後で否定されたら元も子もないから、録音させてもらった」
熱海は、胸ポケットからICレコーダーを出す。
「バッチリです」
結がお父さんに経緯を話し、3人は逮捕され学校を去る事となった。
ついでに、紙下先生は学年主任を辞めさせられたが。

暗々裏

暗々裏

親友が自殺した真相を追いかけるミステリー風短編。 (著者がサイトに載せていたのを転載しました。 ※そのサイトからは削除したので、ここだけの掲載です ※書き直したものを改めて載せるつもりです。)

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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