『 変わり者と嵐の夜 』
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大きな嵐が来る。
ミドーがそれを聞いたのは、突風が家の屋根を壊した直後だった。
「遅いよ、ほんと」
激しい雷雨は容赦なくミドーの部屋を濡らし、もちろんミドーもビシャビシャに濡らした。
「この時期は立て込んでるのだ。すまないね」
薄桜色の伝書鳩は澄ました顔。
次に行く場所が書かれた手帳を、パラパラとめくる。
「三年前の月が落ちた夜、あの時も君はそうだった。天窓いっぱいに満月が近付いてくる頃になってから、『二ヶ月後に月が落ちてくるらしいね』なんて伝言を届けて来たじゃないか」
薄桜色の伝書鳩は驚いたような顔をして、ミドーを眺めた。
「おや、僕たちの区別がつくのかい?」
ミドーの部屋の床に雨水が溜まり始める。
伝書鳩は足が濡れるのを嫌ったのか(既に全身ずぶ濡れな訳だが)少し高い棚に飛び移った。
「此処に来た伝書鳩の中で、手紙じゃなく声で伝えて来たのは君だけだから」
伝書鳩の銀の足輪には『エドゥロイ』の文字。
この世界では『変わり者』という意味だ。
「なるほど。それはそうかもしれない」
ぴったりな名前だろう?と、エドゥロイは笑う。
確かにそうだね、とミドーも笑った。
『 変わり者と嵐の夜 』