『 晩餐会へご招待 』
。
「さあさあ、おいで」
ずんぐりした奇妙な魚が、空を軽やかに泳ぎながらそう言った。
頭からひょろりと伸びた青白い灯りが、真っ暗森をふんわり照らす。
「主様がお待ちだよ。晩餐会の準備をしてお待ちだよ。鍋にお湯を沸かして、油に火を入れて」
くるくる、宙を舞う。
。。。。。。。。。
真っ暗森の奥の奥。
不気味で綺麗で大きなお屋敷。
「さあさあ、早く」
重そうな扉が音を立てて開いた。
人影はない。
「主様がお腹を空かせてお待ちだよ。野菜を刻んで、パンを焼いて。素敵なメインディッシュをお待ちだよ。げへげへげへ」
嫌な笑い声をあげて、魚は真っ暗な屋敷の中に入っていく。
少しでも離れてしまったら見失ってしまいそうで、ぼんやりした青白い光を慌てて追い掛けた。
。。。。。。。。。
「しかし美味しそうだ。美味しそうだ。いやはや、涎が、げへげへげえっ」
何かが風を切る音がして、嫌な笑い声が途切れて、青白い灯りが消えて。
「……」
足音もないのに、すぐ近くに誰かの気配を感じた。
「いらっしゃい、お客人。お待ちしていましたよ。さあ、転ばぬようにこのランプをお使いください」
優しい声と白橙色のランプ。
静かなその光に照らされた足元に、弱々しく光る青白い灯り。
さっきまで空を自由に泳いでいた魚が、ごろんと床に転がっていた。
ずんぐりした体には鋭利な黒い何かが突き刺さり、紫色の血液が床を汚していて。
「本日のメインディッシュです。この魚は、人間を騙し陥れ下品で醜悪な笑い声をあげた瞬間に一番美味しくなるのですよ」
「……」
この魚はどんな気持ちで死んだんだろう。
完全に消えた青白い灯りを眺めながら、口の中に溢れてくる涎に気付いた。
『 晩餐会へご招待 』