愛しの都市伝説(13)

十三 商店街の組合にて

「伝説たちに、いろいろとやったけれど、協力してくれるのかなあ」
 一人の役員が呟いた。
「それに、協力してくれると言っても、何をしてもらうんだ」
 中上は笑っていた。
「まあ、これからですよ。まずは、伝説たちが、これまでどおり、動いてくれれば、きっと、何らかの形になりますよ」
「そうかなあ」
「そうですよ」
「まあ、待とう。これまでも、ずっと待って来たんだから。それよりも、私たちが何をするかだ」
 組合長の沢野が腕を組んだ。そこに、「大変だあ。大変だあ」と、「喫茶七人の小人のマスター」が組合事務所に飛び込んで来た。
「どうした」
「で、でた。ついに、で、でた」
「出たって、何が」
「不発弾か」
「まさか。三億円の宝くじが当たったのか」
「お化けか」
「黙ってないで、早く言え」
 肩を揺らし、大きな息を繰り返しているマスターに役員たちが矢つぎ早に質問を浴びせる。
「お化けじゃないよ。伝説が出たんだ」
 一息ついたマスターがようやく口を開いた。
「えっ」一同が立ち上がった。
「店の奥の定位置に、伝説のサラリーマンが座って、パフェを食べているんだ」
「ほんとうか」
「嘘じゃない」
「店は、伝説見たさに、客で一杯だ」
「そうか。ついに出たか」
「よし、みなさん。伝説に会いに行きましょう」
 中上が事務所から飛び出た。後から、役員たちも続いた。

「あっ、いる、いる」
 中上たちにもはっきりと伝説が見えた。歳の頃なら、四十歳から五十歳。髪は七・三に分け、メガネをかけている。スーツは縦じまで、中は、ピンクのYシャツと紫色のネクタイを締めている。心は横縞じゃなく、邪なのだろう。女子高校生たちは、伝説の近くの椅子の座り、カワイイ、のだ、キャー、サインしてだのと喚きながら、あっ、アイスクリームを食べた、バナナも食べた、と、伝説の一挙手一投足に、喜びの声を上げている。
 中上たちは、店の中が一杯で中に入れないので、店の外のウインドウからその様子を見つめている。店には入れ替わり立ち替わり、女子高校生やOLたちが入って来て、伝説と同じチョコレートパフェを食べながら、喜んでいる。
「何で、あんな奴が、キャーキャーと言われるんだ。俺のほうがかっこいいのに。それに、この店は俺の店だ。伝説の店じゃない」
 マスターは不満を露わにした。
「いいじゃないですか。おかげで、店は大繁盛だし、商店街も人通りが多くなった」
 中上が目を細める。

「あっちでも、人が集まっていますよ」
 役員の一人が指を差した。
「どこ?」
「本当だ」
「幸福まんじゅう屋の前だ」
「すると・・」
 中上たちは、パフェ屋からすぐ近くのまんじゅう屋に走った。まんじゅう屋の前は人盛りだった。店先では、まんじゅうマンが客の応対をしていた。まんじゅうマンと足下にしがみつく男の子もいたし、母親のスカートを左手で握ったまま、右手で指を咥えて、眺めている女の子もいる。
「パン、パン、パン、パン」
 手拍子が打ち鳴らされた。幸福まんじゅう音頭だ。右手を上げ、右足を出し、左手を上げ、左足を出す。輪踊りが始まった。幸福まんじゅうマンを始め、街行く人々が踊りだす。みんな、口にまんじゅうをほおばりながら踊っている。まんじゅう屋の主人も奥さんも、まんじゅうを作るのを、売るのを忘れて、一緒になって踊りだす。
「あっ、会長。一緒に、どうですか」
 まんじゅう屋の主人が、中上たちを見つけた。
「商売繁盛ですね」
「ありがとうございます。でも、まんじゅうの売り上げよりも、こうしてお客さんが来て、賑わうことが嬉しいんです」
「ええ、本当ですね」
 まんじゅう屋の主人と奥さんは心底、踊りを楽しんでいる。お客さんたちも喜んでいる。その中で、一番、顔面をくしゃくしゃにして喜んでいるのが、伝説の幸福まんじゅうマンだった。久しぶりに、みんなから思いだしてもらったことで、透明な姿が形となって現れることができただけでなく、一緒に踊れることに満足していた。

愛しの都市伝説(13)

愛しの都市伝説(13)

十三 商店街の組合にて

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-31

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