ミステイク

マンションのドアを開けると

マンションのドアを開けると、土足のままズカズカと青年が入り込んできた。そして、そのままリビングのソファにどっかりと腰掛けこう言った。
「あなた、人殺したでしょう」
遠く、どこかを見やる瞳の上にまぶたがのしかかっている。視点があっているのか、いないのか曖昧な表情でジッと見つめている。

「なんのことだ」
「とぼけちゃいけません。僕は全てわかっていますよ。あなた、竹下郁美という女性をご存知でしょう」
「…ご存知も何も、ああ、知っているよ。それがどうしたんだ」
「群馬の山奥で、遺体で発見されました」
「君は、何を言っているんだ」
「はは、おわかりのくせに。なにしろ、彼女を殺害してその遺体を山奥へ棄てたのはあなただからね。変質者の仕業に見せかけようとしたようですが、あなたは決定的なミスをしていました」
「…もういい、出て行ってくれないか」
「証拠ならあります。あなたが郁美さんを山奥へ捨てる際にあらかじめ用意しておいた道具の中で、唯一、ドライアイスだけが片付けきれずに今も車の中に残っているはずです」
青年は、寝癖だらけの頭をかきむしり、一度あくびをすると続けた。
「今頃、警察がそれを押収していることでしょう」

「なんだと? 私の車を、警察が調べているのか」
「ええ、ここに来る前に連絡をしておきましたから」
「なんてことをしやがったんだ!」
彼は、青ざめた表情で部屋を出て行った。駐車場へ向かったのだろうか。
「逃げるなんてできませんよ」青年は彼の背中にそう呼びかけると、こちらへ向き直った。「ところで、あなたは誰ですか」
この人、私のことを知らないの? 私は驚いて、彼に名前を告げた。
「竹下、郁美と申しますが」

驚いた表情のまま、青年はつぶやいた。
「ひょっとして、また夢か」



++超能力者++
市鷹二不二(いちたか・にふじ)
ESP:予知夢を見る

ミステイク

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ミステイク

2分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-31

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