いつかどうしても悲しいときには

恋愛小説です。
まだ途中なので書きたしたり、書きなおしたりするかもしれません。



登場人物は今のところ 主人公の尚央、と 
元彼―辰彦。

私が照らして、貴方が潤す



「もし僕が君の側にいられなくなったときは、僕は身体ごとなくなってしまうよ―」


以前付き合っていた人に、そんなことを言われた事がある。
あの時はそんな風に言われた事に、この人は私の事が好きすぎて好きすぎて、
私がいなくなったら生きていけない人なのね、と思った。
だけど月日は残酷で、次第に一緒に居る事に疑問を感じ、結局彼を振った。
その時の彼の顔を今でも覚えてる。
怒りも、悲しみもしなかった。いつも一緒に居る、自然なままの彼。

心の中でどう思ってたかなんてわからない。
少なくとも彼は、なんとなく私が別れを告げようとしてることを悟っていたのかもしれない。


だけどそれ以来、あんなにも私を想ってくれた人は現れなかった。

売れないバンドマンや大学教授、同級生の男子、大学時代の先輩。
付き合えば付き合うほど、最近の男はつまらない男ばかりだった。
会えばすぐに情事にもっていこうとする男や、束縛の激しい男。
ハマる事も、落ちる事もない恋。
私はこんな恋愛など、望んでないのだ。


誰にも見えない糸で繋がって、一緒にいなくてもわかりあえて、
見つめあって、抱き合って、
この世界に住んでいるもの全てが見えなくなるほどの気持ちを求めたい。
情事は蕩けるような甘さで、
この人としかしたくないと思えるくらいの、関係。
これは私と貴方の契り。約束事よ。
そんな風に。


だけど、付き合う男は誰も私の愛を受け入れる気持ちなどない。
自分の為だけに、私を使うような男など、いらない。



思えば、あの時の彼が、一番私の中で
求めていたものをくれていた人だったかもしれない。

彼と知り合ったのは同じ職場だった。
一緒にチームで仕事をしていたときに親密になった。
仕事終わりが遅くなった日、私と彼は二人で飲みに行った。
私が恋に落ちるのはすぐで、それでいてものすごく自然に好きだと思えた。

屈託のない笑顔で笑うと少し目が細くなる、そんな彼が愛おしかった。
また彼も、私を想ってくれていたのだ。
こんな偶然、こんな自然な、駆け引きのない恋があるだろうか。


そんな中、彼が店主に向かって言った。

「シンデレラを彼女に」

私はシンデレラ?と疑問に思い、
ねえ、シンデレラって何?わからないわ、
疑問の眼差しで彼の横顔をみつめたら、
君の色だよ、と言われた。

出てきたカクテルは
オレンジというよりも山吹色に近かった。
これはノンアルコール・カクテルで、シンデレラという名前だそう。

「君はお酒があまり得意じゃないと、さっき言っていただろ?
それなら、とノンアルコールで、尚且つ、僕が連想する君の色といったら」


「貴方は、お酒に詳しいのね。それに、色まで」


面白い人だな、と思った。まだ知らない事はたくさんあるはずなのに、
彼はそれを まだ君の事がよくわからないから、たくさんのことを教えてよ、とは言わない。
私はそういうタイプの男が苦手だ。
教えてよ、そう言うことに関して自分で知る努力をしない男は嫌なのだ。
実際、私も同じように。

好きだと思えば自分で知る努力をする。
教えてもらったら、つまらないじゃない。

そんな考えがあるから、
『君は変わってるよね』
とよく言われる。

変わってるなら変わってるでいいわ、それならこんな変わってる私を
愛してくれる人を探すものさっさと別れましょう。

私はそういう女なのだ。



彼に注文してもらったシンデレラに手を伸ばし、少し口をつけると、
甘い味が一気に口の中に広がった。
お酒が入ってないけれど、お酒を飲んでいるような気分になる、不思議なカクテルだ。

「美味しい?」

「とても美味しいわ、それに」


これは私の色なんだから、私に馴染んで当たり前でしょう?

微笑しながら。



―やっぱり君は僕の思った通りの女性だよ。


彼はそう言って、私の方に目線を向けている。

そうして私達の所に再びカクテルが運ばれてきた。

水色の中に気泡が漂うそれは、

彼の色だな、と思った。

「それは?」

「シャンパン・ブルースっていうんだ。僕のお気に入りのカクテルだ」

「それなら、そのカクテルは貴方の色ね」

私がそう言うと彼はカクテルを一口、口につけて、
そっと私の手を握ってきた。

私もそれに応えるように彼の細くて、でもそれでいてたくましい手を握り返した。

温かいものが手を伝い、全身に感じられる。

ああ、この人は私を理解してくれる。
私をきっと受け入れてくれる。

そう思った。



―私が貴方を太陽で照らして、貴方は私を水で潤すのね。



なら僕は、君に照らされて蒸発したら、無くなっちゃうじゃないか―



それほど私を愛してくれるなら、水に沈むわ。
蒸発してなくなるのはそれからにして。



その夜、私は恋をした。
私を認めてくれて受け入れてくれる、そんな男に恋をしたの。

いつかどうしても悲しいときには

いつかどうしても悲しいときには

世の中にはろくな男がいない―。 そんな中、以前尚央のことを好きでいてくれた男―辰彦の男を思い出す。 もしかしたらあの人は私の運命の人だったのかもしれない。 あんなにも、想ってくれていた人を、何故手放してしまったのだろう。 そんな過去の恋愛に後悔して毎日を過ごす尚央に、辰彦との突然の再会が訪れ― 受け入れ、愛してもらいたい女性と一人の女性しか愛せない、不器用な辰彦の物語。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-27

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