シャボン玉と看板

 私は久しぶりに母の実家に遊びに行くことになった。
 秋の3連休が土日と繋がった為、さながらゴールデンウィークのようだ。
 車に乗って3時間、高速道路を抜けて少し都会びいた商店街に入ると、もうすぐ車から出られるのかと気になったので、私は母に尋ねた。
「お母さん、もう少しで着くの?」
「おばあちゃん家は田舎だから。あと40分ぐらいかもね」
「40分? 私もう疲れたよ。車はあまり好きじゃないのに」
「まあ、遠いからいいんじゃないか。羽娜(はな)は小さい時に来たことがあるの、覚えてないか」
 サファリハットを被った父は、運転をしながら得意げに話しかける。
「来たけどさ、私ももう中学生だよ。3歳の頃なんて何も覚えてないよ」
 私は不機嫌そうに答えた。
「ほら、田んぼが見えてきたぞー」
 私の気を紛らわすのかと、内心思っていたものの後部座席から窓を除くと、そこには黄金色の稲が、遠くにある山の方まで広がっていた。
「田舎も悪くないでしょう」
「まだ車から降りてないし」
 私は母に不満の言葉で返した。
 母の実家に着くと、車から降りた私は樹脂の匂いと揺れの重圧から開放され、心が晴れた。
 祖母の家は平屋建てで、庭があり、風情ある外観は記憶上初めて来る私にも何処か懐かしさを感じさせた。
 中に入るとおばあちゃん、親戚一同に挨拶した後、私は少し散歩したくなって、出かけることにした。
 車の匂いがまだ頭の中に残っている。
 それを田舎の澄んだ空気でどうしても取り除きたかったのだ。
「ちょっと、散歩してくるね」
「あまり遠くへ行っちゃダメよ」
「うん」
 平屋を出て私は近所の田んぼを見ながら歩いた。
 呼吸をするよりも、私は風景が見たかったのかもしれない。
 しばらくすると田んぼの十字路にポツンと看板が置いてあるのが見える。看板は木で出来ていて、その場所まで近づくと私は書いてある文字を読み上げた。
「シャボン玉に……注意?」
 それを読むと、どこからかシャボン玉が風に乗って流れてきた。
 どこから来たのだろう。
 シャボン玉がいくつか割れたかと思うと、私は次第に眠たくなった。
 気が付くと私は神社の裏口に寝ていた。
「あれ、ここは……」
「これは、藁半紙?」
 私の下には藁半紙がいくつか敷いてあり、そのおかげで服は汚れなかった。
「なんかスースーする……え、嘘!」
 胸元を見ると私はブラジャーをしていなかった、誰かに外されたのだ。
 透けやすい制服にノーブラ、これはまずい。
 腕時計を見ると、家を出てから1時間ぐらい経っていた。
 神社から出ると幸い家からすぐ近くの場所だった。
 胸が透けて見えてしまいそうで、誰も居ないはずの道を私は腕で隠しながら歩く。
「ただいまー」
「あら、早かったわね」
 母は事態に気づいていない。
「私、ちょっと着替えるね」
 家に着くと私はすぐに着替える事にした。
 制服を脱ぎ、ブラジャーを付け、T-シャツに着替えた後私も親戚の人と少し話すことにした。
「ああ、羽娜ちゃん、そう言えば言うのを忘れてた」
 おばあちゃんが思い出したように話す。
「ここらへんは狸や狐が人をからかうからね」
「シャボン玉を使って人を眠らせて、いたずらするんだよ」
「狸や狐? へー、そうなんだ」
 しばらく話をした後、庭へ行くと、私のブラジャーが水の入った桶に返されていた。

シャボン玉と看板

シャボン玉と看板

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-30

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