SS37 メソッド
とある失火に纏わる真実
「消えろ! 畜生!」
その男は布状の何かを振り回して、燃え上がる炎を押さえ込もうと必死だった。
だが乾き切った空気のせいで火は彼を嘲笑うかのように燃え広がっていく。パチパチと音を立てながら火の粉を散らし、やがてその建物のすべてを炎が覆った。
***
数人の少年たちが騒いでいた。
爆竹らしい破裂音を聞いた。
煙草を吸っているのを見た。
目撃者は無数に存在していた。
公園の周囲の住人で、深夜屯しては大声で怒鳴り合い、騒音を撒き散らす彼らを知らぬ者はいなかった。
皆十代後半の若者で、わざわざバイクや車でやって来る者までいたという。
住民はいつか問題が起こるだろうと危惧していたが、関わり合いになるのは避けたいし、警察に巡回の回数を増やしてもらうよう要請するくらいしか対応のしようがなかったという。
そしてついに事は起きた。公園の隅にある小さな物置小屋が燃やされたのだ。
些末な木造のその建物は自治会の持ち物で、月に一度行われる清掃活動で使用される道具類が収められているだけ、もちろん火の気などあるはずがない。
つまり火の不始末か、故意に火をつけた可能性が濃厚だった。
***
「俺たちはやってない!」「関係ねぇぞ」「離しやがれ!」
大捕り物があったのは、放火事件から二日後のことだった。
懲りずに集合した面々を警察車両が取り囲み、他人所有非現住建造物失火の罪で次々とパトカーへ押し込んでいく。
周囲は野次馬でごった返し、怒号が響き渡った。
***
その日を境に町は静けさを取り戻した。
住民懸案の不良たちはその後、ぱったりと姿を見せなくなったのだ。
「正直ここまでうまくいくとはな」焼け跡を眺めながら、町内会長はぽつりと呟いた。
町が平穏になるのなら、あんなボロ小屋など安いものだ。
***
「最近、学校はどうだ?」家に戻ると、ちょうど帰宅した孫の修一と出くわした。
「うん。全然イジメられなくなったんだ。この間の騒ぎでイジメてた奴らが捕まったから……」
「そうかそうか。それはよかった。これからは学校生活を楽しめるな」
「うん。おじいちゃん、ありがとう。おじいちゃんのしたことは正しかったんだね。僕、余計なことをするところだったよ」
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