野良猫草

出会い

どこにでもある商店街の隅に

一匹の野良猫がいました

その野良猫は、人々が前を通り過ぎるたびに甘えた声で鳴いていました

『痛い』

野良猫の後ろで声が聞こえてきました

野良猫が振り返ると

そこには人間に踏まれ

倒れた一本の白いお花が咲いていました

野良猫は近寄り

「大丈夫?」

そう言って優しく前足で起こしてあげました

『ありがとう』

お花は弱々しく言いました

「人間はなぜ踏んだの?

こんなに綺麗なのに」

『仕方ないよ

人間には僕なんて見えてないからね』

「そっかぁ…」

『ところで君はなんで人間に鳴いていたの?』

「人間は食べ物をくれるんだよ」

『そうなんだね

人間にも良い人もいるんだね』

「うん

でも蹴られたりもしたよ」

『同じだね…』

「ねぇ

また明日もここに来ていいかな」

『うん!

またお話しようよ

助けてもらったしこれからはお友達だね』

「友達?」

『そうだよ

君と僕は今日から友達』

「わかった!

じゃあまた明日もくるね!」

『うん

また明日ね』

そう言って野良猫は走って行きました

何とも言えない嬉しい気持ちで

「友達かぁ

初めて出来た!

嬉しいな!」

野良猫はルンルンに帰っていきました

春の日

野良猫は毎日友達のいる場所に向かいました

今日はお魚を口にくわえてルンルン気分です

友達の横にたどり着くと

『おはよう

君の口にあるのはなんだい?』

お花は物珍しい物を見たように聞きました

「これはお魚って言うんだよ

お魚がいっぱい置いてる所の人間にもらったんだ」

『良かったね

お魚は美味しい?』

「うん!

とっても美味しいよ!」

『そうなんだぁ』

お花は満足そうに答えました

野良猫は不思議な顔をしてお花に聞きました

「君は何も食べないの?」

お花はまた満足そうに答えました

『太陽や土や雨が僕をお腹いっぱいにしてくれるんだよ』

「太陽が?」

野良猫は眩しそうに空に輝く太陽を見ました

『そうだよ

太陽も僕がいるこの土も

雨が降ったらお水をくれる』

「そうなんだ

でも想像したらお腹いっぱいにならないけどなぁ…」

野良猫の不思議そうな顔を見たお花はクスクス笑いました

お魚を食べてお腹いっぱいになって眠たそうな野良猫を見てお花は言いました

『今日は暖かいね』

「うん

眠たくなってきちゃった」

横で丸くなった野良猫を見て

『じゃあゆっくり寝ていいよ』

野良猫は目を閉じて言いました

「ありがとう

おやすみ」

『おやすみなさい』

春の陽気に心地よい風が野良猫とお花を包み込むのでした

夏の日

太陽の暑さが全てを焦がすような夏の日の事でした

いつものように野良猫は友達の所へと向かいました

野良猫が近づいていき

ふと見るとお花は元気がありません

「どうしたの?」

野良猫が心配そうに聞きました

お花は元気なく返事をしました

『太陽が元気をいっぱいくれるんだけど

暑くてお水がなくなってきたんだ』

野良猫は話を聞いた瞬間に何も言わずに駆け出して行きました

野良猫は近くにある川に飛び込み

体を濡らしてお水を口いっぱいにいれ

また駆け出して行きました

お花の横に帰ってきたらすぐに

お花を包み込むように丸くなり

口から少しずつお水をかけてあげました

お花は野良猫のおかげでお花は少しずつ元気になっていきました

『ありがとう

君のおかげで元気になったよ』

「ほんとに良かった!

元気になったなら僕も嬉しいな」

『君は僕の空だね

雨を降らせてくれた』

「そっかぁ!

空かぁ!」

野良猫は誇らしげに言いました

『本当にありがとうね』

「お礼なんていいよ

僕は今日から君の空なんだから」

それから暑い日は毎日野良猫はお花のために水を運んであげました

秋の日

それは夕空が綺麗に

山が紅く染まる日の事でした

野良猫はいつものように友達の隣にいました

『いろんな物が綺麗になったね』

「うん

でも少しずつ寒くもなったね」

『きっといろんな物が色鮮やかなんだろうなぁ』

「うん!

ドングリとか紅葉とかいっぱいあるよ」

『そうなんだね

僕はずっとここにいるから』

「そっか…

ごめんね」

お花はニコニコしながら答えました

『謝らないで

鳥さんや虫さん達が色々教えてくれるんだ』

「そうなんだね

そっかぁ…」

野良猫は何か悩みました

「あっ!

じゃあちょっと待ってて!」

野良猫はそう言って何処かへと駆け出していきました

少し時間が経って野良猫が戻ってきました

野良猫の口にはドングリや木の実をくわえていました

そして体には紅葉がたくさんついていました

「いっぱいとってきたよ!」

野良猫はニコニコしながら言いました

『わぁ!

こんなにいっぱい!』

お花はたいへん喜びました

それを見た野良猫もたいへん喜びました

『僕の宝物にするよ

君は僕の足だね』

「うん!

足かぁ!」

野良猫は誇らしげに言いました

「今日から僕は君の足になるよ」

『いつもありがとう』

それから野良猫は毎日のように色々な形をした葉っぱや木の実をお花に持っていってあげました

冬の日

それは雪がしんしんと降る寒い日でした

野良猫は体に少し雪を乗せながら友達の場所へ向かっていました

着いてみるとそこには全然元気のないお花がブルブルと震えていました

「大丈夫???」

野良猫は心配そうに聞きました

『お水はいっぱいあるんだけど太陽が隠れちゃってずっと寒いんだよ』

お花は全く元気がありません

「じゃあ僕が太陽になってあげる!」

そう言って野良猫はお花を優しく包み込みました

『暖かい…

ありがとうね』

「僕は君の太陽だからね」

『君は太陽よりも暖かいよ』

「良かった!

寒くないかい?」

『ありがとうね』

雪の寒い日は野良猫がお花を暖めながら色々な話をするのでした

春の日〜お別れ〜

桜が舞い

全てが新しく変わりゆく季節の事でした

いつものように野良猫は友達に会いにいきました

「今日もポカポカだね」

『うん…

そうだね…』

何故かお花は元気がありません

野良猫は心配そうに見ています

『あのね…

お話があるんだ…』

お花は少し寂しそうに話しました

「うん…」

野良猫は耳を立てて聞いています

『実はね

少しの間お別れしなきゃいけないんだ…』

野良猫はびっくりした顔をしましたが黙っていました

『大地に帰らなきゃいけないんだ』

「帰るの?」

『うん

だからお別れしなきゃいけないんだ』

「また会える?」

野良猫は小さく答えました

『うん

絶対に会えるよ』

「そっか!

じゃあ寂しくないね!

約束」

『うん!

約束』



『今までありがとう

君は僕の空で

僕の足で

僕の太陽

君は本当に大切な友達だよ』

お花はとても感謝する気持ちで野良猫に伝えました

野良猫は涙を我慢しながら言いました

「また明日くるよ」

少し笑って野良猫は帰っていきました



次の日の事です

野良猫がいつものように友達の場所にいくと

そこには花びらだけが残っていました

「帰っちゃったんだね…」

野良猫はずっと友達がいた場所の隣で泣いていました

野良猫草

ある町の商店街

そこに小さな時計屋さんがありました

時計屋さんには一人のお爺さんがいます

『今日もノラがきてるんじゃな

いつもノラは体がドボドボじゃ

今日は天気が良いからあの場所で日向ぼっこか』

ずっと毎日お爺さんは野良猫をお店のガラス越しに見ていました

『じゃが最近はだいぶ痩せてしまったの』

お爺さんはずっと野良猫を心配していました

そんなある春の日の事です

いつものようにお爺さんは野良猫のいる場所を見てみました

すると野良猫がグッタリとしてるのに気づき

お爺さんは心配して駆け寄っていきました

『ノラ…』

そこにはもう二度と動かない野良猫の姿がありました

お爺さんが野良猫のお墓を作ってあげようと

野良猫を抱き上げた時の事です

そこには小さな小さな何かの花の芽が出ていました

『ノラはこのために毎日毎日来てたのか…』

野良猫はお花とお別れをしてから毎日毎日お水をあげ

寒い日には暖めてあげていたのです

それを知ったお爺さんは野良猫のお墓をその小さな芽の隣に作ってあげました


それから何ヶ月が過ぎた頃

「お母さん!

このお花さんたち凄く綺麗だよ!」

まだ小さな子供が母親とお花を見つけ

立ち止まってみていました

『ほんとね

なんて言うお花なんでしょうね』

「お母さん

ここになんて書いてあるの?」



お花はしっかりとした囲いがされてあり

その下には木の板に『野良猫草』と書かれてありました

そのお花は2本だけ咲いて

なんだか楽しそうに寄り添い

いつまでもずっと綺麗な花をつけていました

野良猫草

野良猫草

日常にひっそりと隠れた友情の物語 誰にも聞こえない小さな声の物語

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 出会い
  2. 春の日
  3. 夏の日
  4. 秋の日
  5. 冬の日
  6. 春の日〜お別れ〜
  7. 野良猫草