強盗

コンビニに車でお越しの際はエンジンを停止し、施錠をしましょう


「お邪魔します」
「うおっ?何だ?テメエは?」
「昼下がりのコンビニとはいえ、エンジンかけっぱなしは近所迷惑だし、無用心だと思うよ」
「関係ねえだろ、テメエには。コラ何勝手に助手席に座ってんだよ。降りろよこの野郎」
「何してるの?」
「関係ねえって言ってんだろ。その口きけなくしてやるぞ、コラ」
「どうやって?」
「こうやってだよ」
「あらっ?イテッ。イテテテテ。離せ。腕がねじれる」
「急に掴みかかってくるからだよ」
「うるせえ。いいから離せ。警察呼ぶぞ」
「どうも。その警察です」
「はあ?」
「はい、手帳。言っとくけど本物だよ」
「マジで?」
「そう、マジで。何なら問い合わせてもいいよ」
「中学生かと思った」
「ぼく童顔だからね」
「とにかく腕、離してくれよ」
「ああ、そうだね」
「おお、イテ。で、警察が何の用だよ。俺は何も悪い事してねえぞ。て言うか勝手にひとのクルマに乗っていいのかよ」
「ちょっと気になってね」
「質問に答えてくれよ」
「答えているよ。最初の質問にね」
「ちっ。何が気になんのよ」
「何でここに停めたの?」
「はあ?別にいいじゃねえか」
「ここってお店の右側じゃない?ちょっと奥まっていて」
「だから何だよ」
「正面の駐車スペースが空いていたのにわざわざここに停めたの?」
「俺が来た時は空いてなかったんだよ」
「しかも後ろ向き駐車」
「クセだよ、クセ。出る時楽だろ」
「友達はお店の中?」
「はあ?何言ってんだよ」
「ああ、彼女かな?一緒に乗って来たでしょ?」
「見てたのか?」
「ううん、見てない」
「見てないのに何でわかるんだよ。連れがいるって」
「助手席のドリンクホルダーに飲みかけのジュースがある。ペットボトルに水滴がついてる。って事はさっきまで誰かいたって事でしょ?それにサイドポケットに女物のタバコがあった。君のじゃないでしょ?」
「そうだけど」
「ねえ、彼女、何しに店に入ったの?」
「知らねえよ、そんな事。何か買いに来たんだろ。何だよ、これって職質?」
「そう、公務」
「何だそれ。最近じゃコンビニでアイドリングしてたら職質かけんのか」
「だって怪しいんだもん」
「どこが」
「ここに買い物しに来たわけじゃないから」
「何でそんな事言い切れるんだよ」
「こんな隅にクルマを停めたから」
「奥ゆかしいんだよ、俺は。悪いかよ」
「悪くない。けど怪しい。買い物にしても、トイレでも正面の駐車スペースが空いていればそこに停めるのが普通だよ。わざわざ遠くに停める必要ない。だからぼく、思ったんだ」
「何を?」
「ここに停めたかったんでしょ?」
「はあ?」
「ここ、防犯カメラがないよね?大抵のコンビニは正面左右両側にしかついてないし。だからでしょ?」
「意味わかんねえ」
「あ、視線反らした。図星かな」
「うるせえな、違うよ。休憩だよ、休憩。ちょっと休もうと思ってここに停めたんだよ」
「あ、そうか。正面に停めると邪魔になっちゃうって事?」
「そうだよ。俺は奥ゆかしいからな」
「休憩なのに君の飲み物がないんだね」
「は?」
「君の飲み物だよ。リフレッシュには飲み物がいるだろ?」
「それを買ってきてもらってんだよ」
「だったらさっき一緒に買えばよかったのに」
「さっき?」
「ほら、君のお友達がジュースを買ったんでしょ?その時ついでに買うけど、普通」
「あ~もううるせえ。そんな事どうでもいいだろ。用がなきゃ来ちゃいけねえのかよ」
「コンビニは用事があるから行くと思うんだけど」
「俺はコンビニに来ると気持ちが安らぐんだよ」
「Dになっている」
「は?」
「シフトレバーだよ。普通休憩ならパーキングのPにしておくよね?じゃないとクルマが動いちゃう」
「ブレーキ踏んでりゃ動かねえよ」
「休憩なのに?」
「ちっ。何だよ。しつこいな。俺、ただコンビニにいるだけじゃん。何がいけねえのよ」
「最近この近辺でコンビニ強盗が多発していてね」
「何の話しだよ」
「コンビニ強盗の話し」
「俺には関係ねえ」
「それに貴金属店を狙った強盗も三件もおきているんだ。物騒なんだよ」
「そっちはもっと関係ねえ」
「その犯人って言うのがね」
「どっちの」
「コンビニの方」
「まあどっちも関係ねえけど」
「二人組の男女で年は二十から三十前後。君と同じくらいかな。それで一人がレジで金を奪ってもう一人の運転で逃走する手口。車種は白のマークII。君と一緒のクルマだね、偶然にも。君、何か知らない?」
「俺には関係ねえって言ってるじゃん」
「そう?じゃあ運転免許証見せて」
「話しに脈絡ねえぞ」
「あるよ。これって職務質問だもん。クルマ運転してるんだから当然持っているでしょ。見せてよ」
「何で見せなきゃならねえんだよ」
「これ、公務。公務執行妨害適用するよ?」
「それを言うなら勝手にひとのクルマに乗るのはいいのかよ。お巡りだからって」
「良くない」
「ほれ見ろ。こんなの脅しだ。権力の横暴だ。公務なもんか」
「まあまあ。じゃあ免許証は見せなくていいよ」
「あっさりしてんだな、あんた」
「でもエンジンは切ってね」
「うっ」
「どうしたの?早くエンジン切って両手はハンドルの上。ぼくに両手を見せていてね」
「エンジンは切れない。バッテリーがあがっているんだ。エンジン切ったらかからなくなる」
「言い訳としては上出来だね」
「事実だよ」
「そう?目が泳いでいるけど」
「そんなはずねえよ。俺はカナヅチなんだ」
「うまいね」
「どうも」
「今色んな事考えてるでしょ。どうやってこの場をうまく切り抜けるか、妙案が浮かんだ?」
「なんだよ、それ」
「何とかぼくをクルマから出さないとね。それに警察官と一緒にいる事をどうにかして相棒に伝えないと。困ったね」
「ああ、困っているよ。俺をコンビニ強盗と勘違いしている頭のおかしなお巡りに絡まれて」
「ぼくコンビニ強盗扱いはしていないよ」
「そう言っているのと同じじゃねえか。まったく何の証拠があって言っているんだよ。ひとを犯人扱いしやがって。そんな事言ってたらここに停まっているヤツみんな容疑者じゃん」
「そんな事ないよ。だって君の言っている事、ちぐはぐだし、それに」
「それに?」
「何か見た目が悪そうなんだもん。悪人顔だし」
「ひとを見た目で判断すんなよ。俺は生まれつきこの顔だ」
「顔にはそのひとの人生が表れるんだよ?」
「余計なお世話だ」
「じゃあこうしよう。君のお連れさんがちゃんとここに帰って来たらぼくは退散するよ。少し話しは聞かせてもらうけど。それでいいでしょ?」
「勝手にしろよ。もし俺達がコンビニ強盗じゃなかったら土下座してもらうからな」
「うん、いいよ」
「お巡りさんよ」
「何?」
「俺、トイレに行きてえんだよ」
「どうぞ」
「何だよ、降りてくれよ」
「言ったでしょ。君のお連れさんを待つって。このクルマ、エンジン切れないんでしょ?バッテリーがあがってて。盗まれないようにぼくがここにいてあげるから君は用を足しておいでよ」
「ちっ。わかったよ。すぐ戻って来るからな。そこにいろよ。お巡りなんだから妙な事すんなよ」
「大丈夫だよ。むしろそうならないように見張っててあげるから」
「フン」



「それで血相変えて入ってきたの?」
「そうだよ。はい、タバコ」
「サンキュー。でもどうして喫煙スペースってこんな隅にあるのかしら。これじゃ隔離されているみたいで気分悪い」
「じゃあやめればいいじゃん」
「あたしは肺がんで死ぬって決めてんのよ」
「バカだな」
「あんたの方が輪をかけてバカよ」
「しかたねえじゃん」
「このバカ」
「だって急にお巡りが来たんだぜ」
「このマヌケ」
「それがすごぶるサエているヤツでさ 」
「このスカ」
「ソイツがハニーが来るまで待つって言うから。俺、トイレってウソついて急いでハニーのとこまで来たんだ」
「このバカ、マヌケ、スカ、チビ、短足、マザコンの役立たず」
「熱い。ハニー、タバコを投げないでよ」
「やかましい。強盗がクルマ盗まれてどうすんだよ。恥だよ、恥」
「俺だってそう思うよ。けどこういう事情があったんだよ」
「そんなの事情じゃねえわ。あんたははめられたんだよ」
「は?じゃあアイツ、お巡りじゃねえの?」
「あったりめえだ。いきなり他人のクルマに乗り込むお巡りがどこにいるんだよ。頭使えよ、頭を」
「なんて野郎だ。よりによって俺のクルマをパクるなんて」
「いつからあんたのになったのよ。あたしのじゃない。あんたは運転手」
「うっ」
「しかも何よ、コンビニ強盗って」
「うっ」
「そんなチンケで行き当たりばったりの単細胞と一緒にするなんて。当然否定したわよね?」
「うっ」
「あたしは美しき宝石泥棒よ。スマートで知能的で洗礼されているの。むしろ堂々と言ったんでしょ?」
「うっ」
「しかもあのクルマのトランクには頂いた宝石達が乗っていたのよ。億は下らない。あんた、この始末、どうつけるつもりよ」
「うっ」
「何が「うっ」だ。このあんぽんたん」
「痛いよ、ハニー。ライター投げないでよ」
「うるさい。大げさに痛がるな。拾ってよ。カルティエなんだから」
「はい、ハニー」
「サンキュー。あ~ちくしょうめ。ムシャクシャするな~。どうやって帰るのよ。タクシー呼ぶほどあたし持ち合わせない」
「俺なんて財布がない」
「この役立たずめ」
「あ、ハニー。ちょうど同じマークIIが来た。エンジンかけっぱなしでマスクした女が店に入っていったよ。運転席の男はちょろそうだからあれ、もらっちゃおうよ」
「何あれ。サングラスまでしちゃって。あれじゃまるでコンビニ強盗じゃん。ダッセーの。フン。まあいいか。じゃあさっさとパクっちゃってよ」


おわり

強盗

読んでくださりありがとうございました。
私、ほぼ毎日コンビニを利用していますが、車で来る人って結構エンジンかけっぱなしで店に入っていっちゃうんですね。
それでこんな物語を思いつきました。
毒にも薬にもならない作品ですが、ご意見ご感想などございましたらお願いします。

強盗

コンビニに駐車中、突如乗り込んで来た男。 彼は何者だ?

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-28

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