『 矗 』
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アオバラセドアマダラキセグモは変な蜘蛛だ。
それを飼っている私も、変な女だ。
じわりじわりと近付いていく。
糸に絡まり逃げられない小さな羽虫に、一日一歩ゆっくりゆっくり。
空腹で死にそうになりながら、ゆっくりゆっくり。
恐怖で羽虫の味が良くなるのか、ただ鈍くさいだけなのか。
獲物を狙わない時は無駄に素早い事を考えると、前者なんだろうけど。
「また蜘蛛ちゃん観察?本当悪趣味だよ、お前」
頭を撫でながら、笑う彼。
「うるさいな」
彼の視線が痛いくらい右肩に刺さる。
やっぱり見てるんだ。
矗。
私の肩で育つ珍しい病気。
この病気だと分かった直後、今まで結婚をやんわり避けていた彼が突然プロポーズしてきて。
じわじわ死んでいく私を想ってくれたのか、私と一緒で悪趣味なだけなのか。
前者だと思いたいんだけど。
「……本当変わってるよなぁ。うん、お前は、まったく」
頭を撫でていた手が右肩に伸びる。
愛おしそうに矗を撫でてる。
前者だと思いたいんだけど、たぶん。
『 矗 』