ドアを開けると
ドアを開けると、そこは
ドアを開けると、そこはマンションの屋上だった。眺めが良い。眺めは良いが、それはさておき川端はもう限界だった。ドアを閉め、慌てて引き返す。このマンションは何階建てだろうか。エレベーターホールを見つけて確認する。4階建てだ。12回ほどボタンを連打したが、エレベーターを待つのもまどろっこしく、一段とばしで階段を駆け降りる。外へ出ると幸いにもすぐそばにコンビニがあった。実にコンビニエンスである。自動ドアをくぐり、一目散にトイレへ向かう。そして今度こそ、と祈りながらドアを開けた。
川端の目の前にはソファに座り、漫画を読みふける青年がいた。とりあえずそこはトイレではなかった。青年が漫画から顔をあげ、ジロリと川端を睨みつける。すみません間違えました、と一言あやまり川端はあたりを見渡す。いくつも並んだドアと本棚、本棚、本棚…。本棚含有量の多い空間。ここは漫画喫茶のようだ。ということは幸いにもトイレが近い。必ず同じフロアにあるはずだ。川端は本当に切実に限界を迎えていた。
どうしてこんな迷惑な能力を持って産まれてしまったのだ。ドアを開けると半分の確率で全く別の空間へ繋がってしまうのだ。川端は自分の産まれを呪った。あと、もうすぐ産まれてきそうなアレについても呪った。アレには罪はないが。そんな余裕もなかった。ちなみにアレとは大便のことである。
迷路のような本棚をかいくぐり、トイレの個室前へ辿り着く。本当に今度こそマジに絶対にお願いです、と祈りドアを開けた。
どこかのビルの、オフィスの、多分おそらく、社長室のドアが開いた。多分おそらく偉い人、CEOとか、が大きな椅子に座っていた。良い椅子ですね、川端は思った。だが、今、川端が本当に座りたかったのは便座であった。便器であった。川端は、脱糞をした。CEOの目の前で。新たな快楽に目覚めなかったことだけが救いであった。
不幸な川端であったが、心配には及ばない。その後、彼は彼なりの解決策を見出したのだ。それは、自分では決してドアを開けないこと、である。常に誰かがドアを開けてくれるという、ハメハメハ大王もびっくりの待遇である。そんなことがこの現代でまかり通るのか、と疑問に思うだろうか。まかり通ったりするのだ。
たとえば、どこかの企業の社長室まで不法侵入をした挙句、脱糞をした上で逃走し、捕縛され、超能力だなんだと訳のわからない弁明をすると辿り着ける場所などでは。ただし、あまり自由のある生活ではないが。というか、むしろ自分でドアを開けることは出来ないわけだが、まあ、川端は満足しているらしい。何しろ彼にはいままで自由が過ぎたのだ。
++超能力者++
川端康明(かわばた・やすあき)
ESP:ドアを開けると半分の確率で全く別の空間へ繋がる
ドアを開けると
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