運命

高松は落下していた

高松は落下していた。

なぜ落下しているかというと、断崖から足を滑らせたのだ。断崖は前日の豪雨でひどくぬかるんでいた。高松はある女性に会うためこの断崖へと足を運んだわけだが、その女性とは数日前に知り合ったばかりであった。数年来の友人からの紹介で知り合ったその女性は、航空機事故で亡くした両親が経営していたロッジを継いでいた。そのロッジへ向かう途中で道に迷い、あたりの景色を確認しようと断崖へ近寄った結果…

高松の身体は鈍い音をたてて地面へ着地した。
と、思われた刹那、高松は再び落下をしていた。

なぜ落下しているかというと、乗っていた航空機が計器類の故障を起こしたのだ。高松は知り合いがキャンセルした海外ツアーに代理として参加をしていた。その知り合いは高松の行きつけのロッジのオーナーであり、偶然にも交通事故にあって旅行に行くことができなくなってしまったのだ。その車の運転手は突然落ちてきた窓清掃用のゴンドラを避けて、オーナーをはねてしまったのだという。
オーナーの代わりに高松を乗せた機体は計器の故障によりコントロールを失った。急激な上昇と落下に耐えきれず、やがて走った亀裂が一瞬の間に広がり、高松は機外に放り出され…

高松の身体は鈍い音をたてて地面へ着地した。
と、思われた刹那、高松は再び落下をしていた。

なぜ落下しているかというと、窓の清掃の作業中に事故があったのだ。高松の乗ったゴンドラを支えていたワイヤーは点検不十分のうちにほつれ、そして千切れた。そのビルの持ち主は非常に潔癖な性格で、少しでも窓に汚れがあると何度でも清掃を行った。特にこの日は前日の豪雨のため、汚れがひどくいつもより多くのスタッフを必要とした。結果として高松はその担当に回され…

高松の身体は鈍い音をたてて地面へ着地した。
と、思われた刹那、高松は再び落下をしていた。

なぜ落下しているかというと、高層ビルの屋上からある男に突き落とされたのだ。その男は高松の数年来の友人であり、清掃会社の同期でもあった。高松は自らの乗るゴンドラに取り付けられたワイヤーのほつれを指摘し、その点検担当であった友人が…

まあ、もういいだろう。
結局、過去がどう変わっても自分は落下して死ぬ運命なのだ。
ならばいっそ産まれてこなければ良い、と高松は思う。そうしよう。
自分は、産まれてこなかったのだ。

高松の身体は鈍い音をたてて地面へ着地した。
と、思われた刹那、


上田は落下していた。



++超能力者++
高松/上田(たかまつ/うえだ)
ESP:過去を改ざんする

運命

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2分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-21

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