ライフ・スイッチ

私が横断歩道の押しボタンを押すと、私一人が歩くために、
信号の色が変わって、車が止まって、交通が滞って、
誰かが大事な時間に間に合わなくなって、
そうして人生が変わって、或いはそれは壊れてしまって、
知らない誰かが、死んでしまう。
命のスイッチ。

私がリモコンのチャンネルを押せば、番組が変わって、
視聴率が変わって、企画が潰えて、
誰かが路頭に迷ってしまって、
そうして夢も、希望も、なにもかもなくして、
知らないどこかで、死んでしまう。
命のスイッチ。

私が自販機のランプを押すと、飲み物が出てきて、
中の缶が一つ減って、売り上げの差がわかって、
誰かが出荷を断られて、
そうしてどこからも、なにも買い取ってもらえなくなって、
知らないあいだに、死んでしまう。
命のスイッチ。

私が傘の留め具を押せば、骨組みができて、
町の真ん中で華が開いて、目を引いて、
誰かが一瞬、気を取られてしまって、
そうして目の前に危険が迫っているのにも気づかないで、
知らない理由で、死んでしまう。
命のスイッチ。

私が何かを選ぶと、選ばれなかったほかのなにかが、
どこかで悲しみ、
ひそかに泣き、
知らないところで命を終える。
そうして人は生きていく。
命のスイッチ。

私が原稿を留めるホチキスの先端を、
自分の首筋に押し当てて、
ばつん、

ライフ・スイッチ

ライフ・スイッチ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-20

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