愛しの都市伝説(11)
十一 伝説詣で・九尾のキツネの巻
「もう、誰も参詣しなくなって、何年になるんだろう。コンコン」
伝説のキツネは、お稲荷さんの本堂の中にいた。本堂と言っても、仏壇程度の大きさで、申訳程度に、鳥居があって、半畳程度の積み石の上に、本堂があった。
以前は、商売の神様かなんかと持ち上げられて、秋祭りにはお神輿も出されたが、今では花さえも供えられていない。昔、供えられた花は腐り、枯れて茶色に変色し、ビル風に煽られると、風とともに去ってしまった。次は、本堂の番かもしれない。伝説のキツネも今、まさに、風化しようとしていた。そこに、中上たちが現れた。
「ここです、ここです」
案内したのは、地元の老人会の久保田だった。
「もう、誰もお参りしないから、場所がわからなくなってしまいましたよ」
確かに、お堂は、ビルとビルの間の通路のような所にあり、そのまま、通り過ぎても気づかないような場所だ。
「まあ、私も、めったにお参りはしませんけど」
久保田は、ばつの悪そうな顔をした。中上たちは改めて、お稲荷さんを見た。確かに、古ぼけていて何の変哲もない。これを伝説と言うのには難しい気がした。だが、他の伝説は、どちらかと言えば、新しく、お稲荷さんはずっと以前から、この場所にあった。その点では、他の伝説に比べて、伝統もあり、由緒もある。このコンコン伝説を除くと、他の四つの伝説では、どうもまがいもののような気がする。もちろん、伝説はうさんくさいものだが、それでも、伝説は事実ではなにしろ、その当時の人々の、肯定にしろ、否定にしろ、思いから生み出されたものであり、真実には間違いない。
「やはり、コンコン伝説ははずせませんよ。それどころか、核となってもらわないといけません」
中上が会長や役員の前で断言する。
「この商店街は、このお稲荷さんとともに大きくなったようなものだ。中上さんが言うように、このコンコン伝説を核として、新たな伝説の街として、盛り上げていこう」
会長の言葉に、役員たちも頷いた。
「さあ、それなら、早速、掃除だ。掃除だ」
久保田が水を巻き、花などを供え、中上たちは、箒で掃き、お堂をきれいに磨いた。
「さあ、お願いしますよ。二礼。二拍手。一礼」
飯田たちは声を合わせて、銀行で両替したばかりの、金ぴかに光る硬貨を賽銭箱に投げ、この商店街が再び賑やかになるよう願った。
「もう、帰ったのかな」
お堂の扉を開け、伝説のキツネが出てきた。
「おっ、きれいになっている」
久しぶりに、お堂や周辺が掃除されていることに、驚くとともに、賽銭箱から、自分と同じ黄金色の五円玉がきらりと光っているのに気づいた。
「なんか、街おこしをやるって言ってたなあ。コンコン」
伝説のキツネは、七つに分かれた尾を振りながら、ちょっと仲間に相談してみるか、と呟くと、ぴょんと跳ねて、夕闇に消えた。
愛しの都市伝説(11)