百本のろうそく 第五本
チョットかえました。
ぼくは、しってる。
電車は急に止まれないことを。
目の前で、トシ君がひかれた。
僕が悪いんだ。僕が・・・・・・・・・。
今でも、あの線路の向こう側にみえる。トシ君が、僕の方を向いて笑ってる・・・。
3年生の時、僕はトシ君といつも一緒に遊んでいた。
トシ君は電車にすごく詳しくて、その日は家の近くの線路に行って電車を観察していた。車輪の動き方や、発車の時の音。全部、トシ君は教えてくれた。
「車もそうだけど、電車は急には止まれないんだ。だから、電車が来てるのに線路に入っちゃだめだよ。」
「ふぅ~ん。・・・ねえねえトシ君、踏み切りの反対側からも見てみようよ!」
「うん。行こう!!」
二人で線路に駆け出した。
ズデッ!!!
「いった~転んじゃった・・・。」
トシ君が転んだ。その時、 カンカンカン・・・ 踏切が鳴り出した。ゆっくりと黒と黄色の棒が降りてくる。
が、トシ君は立ち上がらない。
「トシ君、大丈夫!?立てる!??」
「足が・・・・」
「え・・・?」
「足がはまっちゃった・・・」
カンカンとうるさい音にまぎれて、震えたトシ君の声が聞こえてくる。
気がつけば、電車がもうそこまで迫ってきていた。
線路の溝にトシ君の足は挟まっていて、抜けそうに無い。
僕は恐怖で何も出来なかった。
ふ とトシ君の言葉がよみがえる。
『電車は急には止まれないんだ。』
何度も何度も繰り返される。
「た・・・助けて・・・」
トシ君が言ったとき、電車はもう目の前だった。
『急には止まれないんだ』
キキィィィィィィィィィィイ がたん
ブレーキの音が聞こえた。何かがひかれる音も。
僕は線路の外側にいた。
トシ君をおいて、にげたんだ。
血まみれの線路と、トシ君が見えた。
警察が来て、トシ君の体が線路の脇に移された。
通りかかった人が、ケータイで写真を撮っていた。
しばらくしてトシ君のパパとママが来て、トシ君を見て泣き出した。
急にさむけがして、僕は走って家に帰った。
涙は出てこなくて、僕が見殺しにしたという気持ちだけ強くのこった。
それから毎日、あの線路の向こう側にみえる。トシ君が、僕の方を向いて笑ってる・・・。
いつの間にか僕は、その踏切を使わなくなり、トシ君を忘れていった・・・。
大人になり、久しぶりの里帰りをした。
「懐かしいなぁ。ここらへんは変わって無いな~」
辺りを見ながら、歩いていく。そして、あの踏み切りに差し掛かった。
「あれ?何でこの踏み切りは使わなくなったんだっけ・・・?」
首をかしげたとき、線路の脇にトシ君が立っていた。
「え!?そうだトシ君がひかれて・・・・・・」
トシ君は笑顔で僕に言う。
「久しぶり!!待ってたよ。」
体が動かない。
踏切が鳴った。
電車の音が近づいてくる。
僕は、知ってる。
電車は急に止まれないことを。
トシ君が教えてくれた。
トシ君が僕の顔を見ながら言う。「だめだなあ。はやく線路から出なきゃ危ないよ。僕言ったじゃないか。」
車輪が、目の前にあった。
「う・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
キキィィィィィィィィィィイ がたん
百本のろうそく 第五本