マヌケな幽霊さん

マヌケな幽霊さん

 まぁ、こんなこともあるもんだ。
 自分の死体を拝めるとはね。手でも合わせておくか。
 昨晩。いつも通り、このホテルに泊まった。仁美と一緒に、だ。仁美はおれに質問をした。いつもと同じ、くだらない質問だ。
「ねぇ、いつになったら奥さんと別れてくれるの?」
 また始まったか。
「だからぁ、あと3年待ってくれってゆってるだろ」
「はぁ?」
きたきた。いつもの「噴火」の合図だ。「そういわれて3年待ったわよ。そしたらまた3年って。3年、3年、3年。わたし何歳になったと思う。33よ。あなたと付き合い始めたのは25の時。私の1番いい年ごろを全部奪っといて、いつまで待てばいいのよ!」
 女はこれだからいやだ。バイオリズムが悪いんだろうな。しばらくすれば、ほとぼりは冷めるだろ。
 ん?右手に持ってるものは?まさか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「もう限界。待てない。あなたを殺して、私も死ぬ。そうすれば、永遠に一緒にいられるんでしょ」
 おいおい。なんだそのベタな展開は。勘弁してくれ。
と、その時だった。仁美はおれに向かって急突進してきた。とっさに振り向いて、逃げようとした。しかし・・・。
ドスン。
何か、強い衝撃を感じた。すると、急に体の力が抜けた。ひざまずき、前に倒れた。不思議と痛みはなかった。しかし、意識はどんどん薄れていく。
そのあと、体がふわっと浮き上がる感じがした。意識ははっきり戻った。自分がいたホテルの部屋全体が見渡せる、天井からの目線になった。
視界に入ったのは、うつぶせに横たわる自分の体。背中にはブスリと包丁が刺さっている。じゅうたんは真っ赤に染まっていた。おれの血だ。
おれは死んだ。
死んだ段階で、意識が途切れるものだと思っていた。が、ちがった。何とも説明しようのない感覚だ。俺は幽霊になったのか。それにしても、見事な殺人現場だ。
くそ。やりやがったな、仁美のやつ。「私も死ぬ」って言っておきながら、逃げやがった。くっそー。
ベッドメイキングに来たおばちゃんが、部屋に入ってきた。腰を抜かして、出て行った。そりゃあ、当然だ。背中に包丁の刺さった死体が転がっているんだから。
そのあと、入ってきたのが、2人組の刑事だ。いかにも頼りなさそうだ。1人は50代のずんぐりしたおっちゃん。もう1人は、もやしみたいにひょろっとした新米の男だ。ほかにも、鑑識の捜査員が続々と入ってきて、指紋やら何やらをかき集めている。おれの死体はほったらかしだ。
「うーん。なかなか難しいですねぇ」
 おい、ひょろっとしたお前。何の捜査もしてないのに、「難しい」とは何だ。まずは人間関係を調べろ。携帯電話の履歴を見れば、仁美がすぐに浮上するだろ。素人のおれでもわかるぞ。腕組みしてる場合じゃないぞ。
「班長、これは密室殺人ですか?」
 待て待て。密室?どこがだ。ドアは開けっ放しだ。わけがわからん。
「うーん、ノッポよ。簡単に決めつけてはいかんぞ。捜査は慎重に。これが鉄則だ」
 本当にバカげている。こいつらに任せていては、仁美が捕まることはない。よし。いいことを思いついたぞ。
 こうやって、こうやって、と。捜査員たちの目を盗んで書いてやった。自分の血で「仁美」って。これで、気づいてくれるかな。
「班長!こんなところに文字があります」
 お。どんくさいと思っていたが、よくぞ気づいてくれた、ノッポよ。
「ほう。『仁美』と書いてあるぞ。これはもしかして・・・」
「もしかすると・・・」

「ダイイングメッセージ!」

 2人は声をピッタリそろえて叫ぶ。タイミングが合ったのがうれしかったのか、2人ともニヤついている。これで、事件が解決に向かう。そう確信しているのだろう。おれが、あとからわざわざ書いた、ダイイングメッセージとは知らずに。
 すぐに、ほかの捜査員がおれの死体のポケットから携帯電話を見つけ、直前の着信履歴に仁美の名前があるのを確認した。これで、犯人を絞り込んでくれた。やれやれだ。
と、油断したその時。口を開いたのは、班長だった。
「ノッポよ。お前もまだ青いなぁ。仏さんは、泣いてるぞ」
「ど、どういうことですか?」
「この血でだなぁ。この男がこの場所に、どうやって字を書くことができると思う?」
「確かに、足の近くに字がありますねぇ。本人の手が届く可能性はゼロです。もし書いたとしたら、動いたところに血の跡が残るはず。それがない。ということは、ダイイングメッセージを書いたのは・・・」
「書いたのは・・・」

「犯人だ!」

 2人はハイタッチをして喜んでいる。これはまずいぞ。事件を混乱させることになってしまった。2人が生き生きした表情で話し始めた。
「携帯電話の履歴によると、仁美という女性とこの男は、不倫関係にあったようです。『いつ奥さんと別れてくれるの?』などのメールがありました。ということは、仁美を犯人にしたいと思う人物は、ただ1人・・・」
「ただ1人・・・」

「奥さんだ!」

 というわけで、うちの妻が第一容疑者になるはめに。夫が不倫相手に殺された上に、妻が犯人扱いされるような、下手なダイイングメッセージを残してしまった。妻には、「ごめんなさい」と何回言っても許してもらえないだろう。
 妻は大丈夫だろうか。
「男の妻が、見つかりました」
 部屋に飛び込んできた捜査員が、班長に報告する。展開が早すぎはしないか。
「おぅ。どこにいた?」
「このホテルのロビーにいました」

 え?

「そうか。初動が早かったからな。よく見つけてくれた」
「はい。包丁を持って、突っ立っていたのですぐにわかりました」

なに?

どうしてこうなったのか、さっぱりわからなかった。妻は任意同行され、殺人容疑で逮捕された。「殺すつもりだったから、ちょうど良かった」と供述しているらしい。
おれは、妻の取調室に飛んでいった。
妻は、以下のように供述した。
最近、夫の行動が怪しい。いつもコソコソ携帯をさわっている。部屋を離れる時も、いつも手放さない。だから、夫が入浴中、携帯電話の履歴を見た。すると、仁美という女と頻繁にやりとりしていることがわかった。その中で「いつ奥さんと別れてくれるの?」「もうすぐ別れるから、もうちょっと待ってくれ」というやりとりを見つけた。自分の中で、すべてが終わった。そして、ホテルで会う約束が分かったので、部屋を割り出して殺そうと思った。家から包丁を持って行った。待っていたら、警察がたくさん集まってきて、何事かと思っていた。夫が殺されたと聞き、ほれ見たことか、と思った。私が犯人です。殺そうと思ってましたから。ちょうど良かったんです。
取り調べをしたノッポは、班長に報告した。
「やはり、夫を殺したということで、精神状態が不安定です。かなり妄想が供述に交じっているとみられます。精神鑑定が必要でしょうか?」
「そうだな。捜査は慎重に。これが鉄則だ」

 妻は結局、犯人として扱われた。でも、どう考えてもおかしい。妻が持っている包丁には、おれの血はついていないはずだ。警察はちゃんと調べてくれるだろうか。
 そんな不安をかき消してくれるように、刑事部屋では、ノッポが班長に質問をぶつけた。
「被疑者の女は包丁を持って、立ってましたよねぇ。あの包丁、血がついてないんですけど、なんか変じゃないですか?」
「変って何が?」
「普通、人を殺す時って、包丁2本も持っていきますかね。1本で十分でしょ。なんで2本も用意して、その1本を使ったんでしょうか?なんだかつじつまが合わないような・・・」
「うーん。不思議なら、お前が聞けよ」
 不機嫌になった班長は席を立ち、たばこ部屋にスタスタと歩いていった。ノッポは署内の、妻が拘留されている独房に向かった。
「1つ聞きたいんだが、あなたはなぜ、2本の包丁を持っていったんですか?」
「2本?私は1本しか持って行ってません」
「いや。だって、あなたのだんなさんの背中に1本。あなたが持っていた1本。ほら、2本でしょ」
「だから、最初から言ってるでしょ。確かに包丁を持ち出したけど、ホテルのロビーに着いたら、警察がたくさん集まってきたって。夫が殺されたと聞き、ほれ見たことか、と思いました。私が犯人です。殺そうと思ってましたから」
「うん。その言葉、確かにこの前聞きました。ということは、あなたが殺したわけではないと?」
「いえ。だからぁ、何回も言わせないでください。あいつを殺そうと思っていましたから、私が犯人でいいんです。もし、殺されてなくても、私が殺してましたから。結果は同じです」
「そ、そういうことじゃなくてね。えーと、それを認めてしまったら、あなたのだんなさんを殺した犯人をほったらかしにすることになるんですよ」
「ほったらかし?いいじゃない。感謝状を送りたいぐらいだわ。よくぞ、殺していただきましたって」
「・・・」
 独房の上から2人のやりとりを見ていたおれは、唖然とした。おれは、2人から殺されようとしていたんだ。
 そのやりとりを、ノッポは班長に報告した。
「どうしたもんですかねぇ」
「うーん」
 また、2人は黙りこくってしまった。
「それなら、真犯人はだれだ?」
 班長がノッポをにらみつける。ノッポは目線をそらし、考える。そして、答えた。
「仁美、です」
 班長は目を大きく見開いて、大声で笑った。
「はっはっはー。ノッポよ、お前もついに疲れがたまりすぎたようだなぁ。仏さんの足元に何て書いてあったのか、忘れたのか?『仁美』だよ『仁美』。仏さんが書いた可能性は消えただろう。まわりに動いた時に付く血痕がない。書くなら、犯人だ。犯人が自分の名前を書くか?寝言は寝てから言え。早く帰って寝ろ」
「で、でもー。1度取り調べた方が・・・班長、捜査は慎重に、が鉄則でしょ」
「生意気いいやがって。まぁ、いいだろう。明日、その仁美様を参考人聴取しろ」
 なんとか真犯人への捜査が進みそうだ。少しホッとした。気がゆるんだせいか、背中に刺さっている包丁が刑事部屋の花瓶に引っかかった。花瓶はそのまま落ちて、割れた。
パリーン!
「おいノッポ。勝手に花瓶が倒れたぞ。一体なんだこれは?」
「仏さんが何かの合図をくれたのかも知れませんね」
 ノッポはおれの方を見て、ニヤリと笑った。目が合った気がした。まさか、見えているわけではないだろう。

 仁美はこの数日間、気が気でなかった。人を殺めてしまった。その罪悪感が日に日に増してきた。食事もろくにのどを通らない。ふと目をつぶると、背中に包丁を刺して横たわるあの人の姿がよみがえる。
 自首すべきか。悩んでいた。このまま一生逃げられるわけがない。携帯電話の着信履歴をたどれば、すぐに私にたどりつくだろう。
 ガタン。
 ベランダで何か変な音が聞こえた。ゴミ箱でもひっくり返ったのか。振り返ると、心臓が止まりそうになった。
「なんで?」
 幽霊なら、後ろが透けて見えるはずだ。どれだけ目をこすっても、そこには、あの人が立っていた。
「びっくりした?入るよ」
ドアを開け、スッと入ってきた。こたつの前に座る。
「な、なんで?なんでよー!」
 私は発狂するしかなかった。
「まぁ、見てよ。背中のこれ」
 彼の背中には、包丁がブスリと刺さっていた。見事としかいいようがない。私の包丁だ。あの日から、台所に立っていない。包丁は新しいのを買ったけど。彼は笑顔で話し始めた。
「びっくりしたよ。いきなりだったからね。まぁ、すんでしまったことは仕方がない。前向きにいこうよ。そもそも悪かったのはおれだ。謝るよ、ごめん」
 私は、あんぐりと口が開いたままだ。
「君が霊感が強いことは前から知ってる。一緒に霊感スポットにデートに行って、見える見えるーって叫んでたの、思い出したんだ。やっぱりおれのこと、気づいてくれてありがとう」
「で、でさぁ。何?」
「あんね、お願いがあるんだ。実はあの事件が起きて、うちの妻が逮捕されたの、知ってる?」
「え、えー!なんで、私があなたを殺したのに、奥さんが逮捕されなきゃいけないのよ」
「いろいろ事情があるんだけど、行き違いがあってね。でも、彼女は何もしていない。それは君が1番知ってるはずだ。要は警察が早とちりしてるんだよ。でだ。自首してほしいんだ」
「なるほどね。あなたの大切な奥さんが、私がやったことで犯人にされちゃ、あなたも死にきれない、ってことね」
「まぁな」
「わかったわ」
 と、その時、インターホンが鳴った。
「すんません。警察の者ですが」
ドアを開ける。ひょろっとした男が1人、立っていた。
「あの、この人が殺されたの、ご存じですか?」
 顔写真を見せられた。
「は、はい。知ってます」
「ちょっと事情が聞きたくて、署まで来ていただけますか」
「あの、今お客さんが来てまして」
「え?だれもいないし、靴もないですけど」「いや、死んだ彼が幽霊になって来てくれてるんです」
「はぁ?」
「で、彼が真犯人として名乗り出てほしいって言うから、今から自首しようかなと思いまして」
 ノッポは首をかしげて、目線を落とす。独り言を始めた。
「やばいなぁ。イカれているなぁ。こんなやつ連れて帰っても、結局起訴できず、裁判になっても責任能力なしで無罪だ。ムダな仕事はよそう」
 ボソボソと聞き取れない声が途切れると、こちらを向いた。
「すみません、包丁だけ見せてもらえますか?」
「どうぞ」
 台所から真新しい包丁を取り出し、見せた。
「どうも」
ノッポはいそいそと署に戻った。

 おれはどうすればいいのか。このままなら、本当に妻が刑務所行きだ。殺そうとしたとしても、殺したのは仁美。どう考えても、おかしい。
 そうだ。捜査を撹乱するしかない。
 夜遅く。ノッポが1人で残る刑事部屋に乗り込んだ。ファイルが山積みになった机で、書類を書いている。後ろから覗き込んでみた。仁美とのやりとりをまとめていた。
 まずは、ファイルを1つ、床に落としてみた。
 ドサッ。
 しかし、集中しているのか、ノッポはピクリともしない。
 次にいすを動かしてみた。
 ギー、ガチャーン!
 静まり返った部屋に響いたが、それでもノッポは気づかない。何というやつだ。
 よし、こうなったら最後の手段だ。
 ホワイトボードの前に立つ。赤のマーカーを持って、書いてやった。
「ノッポちゃんのおばかさーん」
 これにはさすがに驚くだろう。
 ノッポが顔を上げる。鋭い目線をこちらに向ける。そして、言った。
「もういいよ」
 何が何だかわからなくなった。もうやけくそだ。書いてやれ。
「ノッポちゃんのお母さんはデベソでーす」
「もういいよ、って言ったら、もういいよ。幽霊だって、耳ぐらいあるだろう」
 もしかして……。全身の力が抜けた、気がした。体もないのに。
 ノッポには、おれが見えているのだ。
「あんたさぁ、幼稚なんだよ。よ・う・ち」
「いつから見えてた?」
「いつからって、最初からだ」
「最初って」
「あんたが現場に『仁美』って書いている時からだよ」
「えーーーーーー!」
「あんなマヌケなことをするから、捜査が混乱してしまったんだぞ。どう責任を取るんだ?」
「責任ってゆっても、おれ、幽霊だし……」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ、仁美の家にいる時も?」
「当たり前だ。あんた、幽霊のくせしてそわそわして、こたつの中に隠れようとしてたな。そんなことするから、バレるんだよ」
「じゃあ、何もかもお見通し?」
「その通り。花瓶割ったら、自分で片付けろよ」
「わ、悪かった。そこまで分かっているなら、早く妻を釈放して、仁美を逮捕してくれればいいじゃないか」
「その通りだ。じゃあ、あの『仁美』という文字を、どう説明するんだ?」
「あ……」
「『早く犯人を捕まえてもらうために、幽霊が書きました』なんて言って、検察庁が相手にしてくれると思うか。バカ扱いだよ。となると、あの文字がある限り、奥さんは刑務所行きだ」
「ノッポさんよ。それでいいのか?冤罪事件を作ることになるんだぞ」
「その責任はだれにある?」
「……」
「あんたがいらんことをしなかったら。この事件はすんなりと解決していた。こじらせたのは、そう。あんただよ」
 何も言い返せなかった。おれが出すぎたまねをしたから、こんなことになってしまったんだ。おれは頭を抱えて、うなだれた。
「じゃあ、おれはどうすればいいんだ!」

「簡単だ」
「教えてくれ」
「成仏すればいいんだ」
「成仏?」
「この世にいろいろ未練はあるだろうが、すがっていても前には進まん。死んだ人間は、死んだ人間らしく、仏になるのが1番だ」
「なるほど。ごもっともだ。おれみたいなやつがあちこちにいたら、警察もたまったもんじゃないしな。わかった。ノッポさん。悪かった。未練はあるけど、成仏するよ。ありがとう」
「分かってくれればいいんだ」
「最後に1つだけ、聞かせておくれ」
「何だ」
「なんでそんなに霊感が強いんだ?」
「あぁ、青森出身だ」
「え?青森?」
「勘の悪い幽霊だなぁ。青森の恐山のふもとで生まれ育った。おふくろはイタコだ」
「イ、イタコ?」
「あぁ。あんたはイタコをデベソと言ったんだ。普通なら地獄行きが内定だ」
「ごめんごめん」
 ワッハッハッハッハッ。
 2人が大笑いする声が、刑事部屋に響いた。いつしか、笑い声は1つになっていた。

 2人のやりとりを、影からそっと見守っていた班長が出てきた。
「おつかれさん」
「あぁ、どうも」
「今回の事件も、なかなかだったな」
「だから最初に言ったでしょ。『なかなか難しいですねぇ』って。彼から未練がひしひしと伝わってきてましたから」
「そうか。それはお前にしか分からんからな」
「それと、班長。幽霊が見えた時の合図、変えません?」
「ほう。おれは気に入ってるけどな」
「『これは密室殺人ですか』はないでしょう。今回なんか、ドア開いてましたよ」
「まぁな。じゃ、次のいいやつ考えておいてくれ」
「えぇ。それにしても、母親のデベソと書かれた時にはさすがにカチンときましたけどね」
「仕方がない。それも仕事のうちさ。今日は帰ろう」
「はい」
 
 2人は警視庁の中でもトップシークレットのコンビだ。内部では「幽霊処理班」と称されている。
 最近、死んでも成仏できず、この世をうろうろする幽霊が急増している。医療が発達し、平均寿命がのびた。人生80年の時代と言われて久しい。それは「だれもが80歳まで生きられる」という錯覚を生んだ。しかし、現実はそうではない。病気、事故で若くして亡くなる人も少なくない。彼らは「なんで自分だけ早死にしないといけないんだ」という不満を持ち、この世にすがろうとするのだ。
事件に巻き込まれて命を落とす人もいる。そして、この男のように現場を混乱させるケースが後を絶たない。
 そこで、警視庁は庁内きっての霊感の持ち主であるノッポと、捜査のベテランである班長を組ませた。ノッポは、幽霊の心理カウンセラー的な役割を果たしている。大変なご時勢になったものだ。
 あ、そうそう。言い忘れていたが、奥さんは晴れて無実が証明され、代わりに仁美が逮捕された。現場に残された「仁美」というダイイングメッセージは、ノッポが濡れたタオルで、こっそり拭き取ったらしい。

マヌケな幽霊さん

マヌケな幽霊さん

死んでからこの世にすがることのないよう、今を精いっぱい生きよう。

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-24

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