旅の一行

流浪というのは大変です。今の世界、旅に生きる人たち(難民ではない)は本当に少数なようですね。国境やら所有権やら、いろいろと面倒が多いせいでしょう。自由なのか不自由なのか良くわかりませんが、旅の生活には憧れます。そんな思いをのせて何となく書いたのがこれです。

 村から北へ、ずーと伸びた道。二頭の馬にひかれて馬車が村へとやってきました。
 ポックリ、ポックリ、ガラガラガラという音に紛れてチャポチャポ、チャポと小さな水音がしています。
 馬車の左右には、六つずつ金魚鉢がぶら下げられ、金魚は淡く黄金色にキラキラと輝いています。
 村外れの目立たないところに馬車は止まりました。馬たちは一行の到着を告げるように、時おりヒヒーンと高らかに鳴いています。しばらくすると、ちらほら村人がキャンプを訪れ始めました。
「この穴のあいた鍋、修繕できるかい?」
「椅子の座り心地が悪いのだが、良い具合にできないかい?」
 村人たちは壊れた道具を持ってきては、修理を頼みます。
 馬車の一行は各地を旅しては、いろいろな道具を修理して生活をしていました。
 修理が終わった道具を受け取った村人たちは嬉しそうに笑います。代金と一緒に「助かったよ」と感謝もします。しかし、村人たちは決して一行に心を許すことはありません。どの家でもお母さんは必ずこう言います。
「よくお聞き。子どもだけで、キャンプの奴らのところへ行ってはいけないよ。さらわれてよそに売られてしまうからね」
 子どもたちは一行のことを恐ろしいと思いながらも、気になります。
 遠巻きにキャンプを覗きコソコソ。
 できるだけ一行に見つからないように近づき、見つかると「人さらい!」と叫びながら逃げる。これが村一番の遊びになる始末です。
 一行は「人さらい!」と言われずとも、自分たちが好かれていないことを知っていました。そして、それを仕方の無いことだと思っています。だって、知らない人が自分たちの馬車に住み着いたら嫌に思うに違いないからです。それでも、子どもたちの遊びや大人たちの疑うような目を見ると、悲しくなったり腹が立ったりします。
 そうした日々が続くうちに、村に来た時には黄金色のキラキラだった金魚たちの色が変わっていました。
 焼けた鉄のようなカッカとした赤。アオミドロに覆われた池のような鬱々とした緑。凍える水底のような青。月の出ない闇夜のように暗い黒。何種類かの色で気味の悪い斑になった金魚。
 いろいろな色に変色した金魚。どれ一つとして綺麗ではありません。全てがどこか嫌な気持ちのする色です。
 その頃になると、村に修理を待つ道具はなくなっていました。旅立つ時が近づいている。そう一行は感じました。
 そんなある日の夕暮れ時。今にも太陽が沈まんとする黄昏。夕日を眺めていた一行の一人が歌い始めた。

 俺たちにゃ帰る街も村も家さえない
 行く先々では嫌われ疎まれ避けられる
 辛くないとは言わないし言えない
 それでも俺たちには家族と馬車がある
 悲しくとも腹立たしくとも歌がある
 俺たちを凹ませようとする全て
 そいつらを歌い飛ばしてろう

 歌につられて別の一人がギターを爪弾き始めます。それにつられて、また一人が手拍子でリズムを刻み始める。さらにつられて踊りだす。つられにつられて一行は楽団になっていました。
 一行はどんどん陽気に楽を奏で、舞う。愉快な気配は村外れから漏れ広がり、村を覆いつくしていきます。すると村人たちが一人また一人と村外れに集まってきました。
 お酒を持ってくる人。食べ物を持ってくる人。楽器を持ってくる人。みんな、楽しそうです。
 気が付くと、一行も村人も関係の無いお祭りになっていました。誰もが歌い踊り食べて飲む。そこには一切の嫌なものはありません。ひたすらに喜びだけがありました。お祭りは終わらない。そう誰もが思いました。しかし、何事にも終わりはくるのです。
 小鳥がさえずり、淡く朝日が射す。夜明けです。
 一行のリーダーが馬車の御者台に立った。
 疲れは見えるが満足気な表情で口を開きました。
「みなさん。我々はこれから村を去ります。今日までお世話になりました。昨晩は本当に楽しかった。ありがとう!」
 リーダーがペコリと頭を下げると、一行はあっという間に旅立つ準備を整えました。
「また、鍋に穴があく頃にきてくれ」
 村の代表がそう言うと一行は笑って頷きました。
 一行の馬車は村から南へ伸びる道を去っていく。ポックリ、ポックリ、ガラガラガラ、チャポチャポ、チャポと進みます。
 陽の光を受けて、金魚は淡く黄金色にキラキラと輝いていました。

旅の一行

旅に生きる者たちは留まり続けることができません。それが自分たちの意志なのか、他者の意志なのか……。
まあ、何にせよ旅は続くのです。
さて、テーマは心のふれあいでしたが……心ふれあってるように読めたでしょうか? 
自分ではふれあってると思っているのですが(結びつきはしなかった)。
それでは、お付き合いありがとうございます。

旅の一行

でっかい油屋の主催する童話賞で箸にも棒にもかからなかったものです。最近、書くものがなかったので出してみました。募集テーマは心のふれあいです。それなのにハートフルストーリーではない。興味がありましたら、どうぞ読んでいってください……もちろんお代は頂きません。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-15

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