くしゃみ
また、クシャミをした
また、クシャミをした。
気づくとすし詰めの通勤電車の中だった。風邪が流行っているらしい。鼻をすする。間近の女性が露骨に顔をしかめた。悪いことをしたな、まさかこんなにそばにいるとは思わなかったんだ。
また、クシャミをした。「大丈夫? お大事に」と声をかけられた。清掃のおじさんだ。急に周りの支えがなくなりよろめいた。満員電車とはうって変わって広々とした空間。どうやらここは会社のロビーのようだった。ひとまず受付を通過してエレベーターに乗り込む。「おはよう」と、後から乗り込んできた青年が3階のボタンを押した。エレベーターが上昇をはじめる。「なんだか風邪が流行っているみたいだね」「ええ、そうね…」と応えようとして、またクシャミをした。
危うく指を切り落とすところだった。菜切包丁を片手にあたりを見渡す。どこかの厨房だろうか。「おい、終わったのか?」と年配の男が近づいてくる。高圧的な態度が気に食わなかったので男の顔目がけ、またクシャミをした。
「なんてことしやがるんだ!」と店主らしき男ががなりたてる。それを横目で見ながらわたしは割り箸を割った。目の前にあるのは好物のチャーシュー麺である。少しコショウを降りすぎている気がするが、まあいい。「なんだか風邪、流行ってるみたいね」と隣の女性が囁いた。恋人だろうか。これもまたわたしの好物…おっと、好みの愛くるしい顔立ちをしている。「早く治したいなー」「あら、あなたのはコショウの降り過ぎでしょう」「なるほど」たわいのないやり取りをしながら、風邪が治ることを祈ったが、無駄なようだった。すでに鼻の粘膜が刺激されはじめている。
今度はあなたのもとへお邪魔するかもしれない。そっちは風邪、流行っているだろうか?
また、クシャミをした。
++超能力者++
尾馬 大(おうま・ひろし)
ESP:同じタイミングでクシャミをした人物に憑依する
くしゃみ
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