秋の葬儀
この小説は連載ではなく、「星空文庫」限定の書き下ろし新作小説です。
「男のトラウマと誤解」
そよ風が心地よく、草木が茂るとある町で一人暗い顔をしている男がいた。年齢は、50代半ばくらいだが、服装は何とも言えない「時代遅れな服装」である。そんな彼だが、それ以上に一歩一歩の重い足取りが確実なものにしていた。……ふと、彼が秋の空を眺めながら5年前を振り返った。
今から、5年前。男の人生は今とは打って変わって、服装も「近代的な服装」としていたが、あの日を境に今のような状態になっていた。あの日、彼は妻と子供の3人で旅行をしていた。そして、何者かにハイジャックされ妻と子供と周りの女と子供のみ殺し、「無差別」とまでは行かなくとも「無差別」に近かった。その後、男たちは労働させられ、そして4年前、ハイジャックの主犯格が捕まり、男らは解放された。しかし、妻や子供を失った男たちは生きている心地がしなかった。それから、町役場で無差別殺人の被害を被った家族は簡単な葬儀をした。秋とは紅葉の季節で気持ちが華やかになったり、初々しい気分にもなる季節。しかし、彼は「あの日」どうして、妻と子供を救えなかったのだろうと自分を責め続けた。無論、彼は全くの無罪だ。しかし、彼の心は「無実」とは断言できなかった。あの日から彼の心の中には「秋」という季節は存在しないと思えてくるようになった。妻や子供に申し訳ないと思いつつも自分の気持ちを落ち着かせるだけで精一杯だった。
十年後、長い歳月が過ぎ、彼も60代半ばになっていた。しかし、十年経っても「無実」とは断言できない状況である。ある日、突然彼を変える出来事があった。十年経ち、自分を「無実」とまでは行かなくても、「裏切りではない」ことを証明するものが家の襖から見つかった。その封筒には彼の名が書いてあり、封筒の裏には妻の名前、そして子供の書いた絵が入っていた。彼は、封筒から手紙を取り出し、ソファーに座りゆっくり読み始めた。
「あなたへ、あの日起こったことはあなたの所為ではありません。あなたは、私と子供を救うため必死に努力してくれました。それに答えられなかった私が悪いのです。今、この手紙を読んでいるころには、私はこの世にはいません。あなたともっともっと過ごしたかった。風の当たる場所であなたと過ごし、育児を楽しみ、愛し合っていたかった。けど、殺人によって私はもういません。もう私の呪いから解放できるのです。あなたは、これからの人生をよりよいものになることを切に願っております。それではお元気で」
書いたのは15年前。送られたのは10年前…。その時俺は何をやっていたのだろう。自分を責め続けながらも、この季節を無かったことにまでしている。妻は、あんなに俺を弁護する言葉を述べ続けていて、俺の人生までよりよりものになろうと願っているというのに、この10年間俺は一体何をしたというのだろう。ただ、くだらない10年間を過ごしただけ…。そう思い、封筒の奥の方にある紙切れを見つけた。
「あなたの10年間は消して無駄ではありません。こうして、今日手紙を見つけてくれたのだから」
俺は涙を流し、妻と子供はいつでも俺を守り続けているのだと。それから、彼は若者に命とは決して無駄ではないことを必死に伝える活動をした。彼の口癖は「この世に無駄な人生などありません。何も無かった人生こそが自分の生きる道を探すのに必要だったからです。人は諦めなければ何でもできます。だって、俺にだってできるのだから」
そう彼はいつも言い続け、それが実を結び今では「人権問題」となって人々に語り継がれている。彼は自分に役目を終えたのか、「あの日から」20年の辛い時や困難な日々に幕を閉じ、静かに息を引き取った。皆さん、命についてもう一度考えてください。きっと、それに気付いた時、あなたはいい人になっているはず。そう信じています。
秋の葬儀
今回は私が挑戦したことのないジャンルがこの小説です。私はこの投稿サイトで「2350」という別ネームで小説を執筆しています。今まで多かったのは「ハーレム系」や「ラブコメ」などといったものが多かったので、それに比べ今回のは初だらけの作品になっています。(アニマス先生から)