兄と妹の夏季課題
中夏2
大きく真っ赤なりんご飴を食べにくそうに隣で茜は座っていた。大きな鳥居をくぐり、お参りをした後、出店を周り、今は傍の方で俺と茜は座っている。白々と月明かりが辺り一面を照らしていた。
「茜、美味しいか?」
「うん!食べにくいけど、、やっぱお祭りはりんご飴だよね!」
「そうだな~、一口くれないか?」
「えぇー」
茜は、嫌そうな顔をこちらに向ける。
「そう言わずにさ、一口くれよー」
「しょうがないなー。はい、一口ね!」
俺は差し出された、りんご飴を一口パクリと食べた。パリッとした飴にシャキッとしたりんご。この組み合わせは最高なものだと思っている。
「やっぱ、りんご飴は最強だな」
「でしょ!?」
茜は、嬉しそうにりんご飴を食べてる。その横顔を俺は、なんとなく見惚れてしまった。茜の笑顔はほんとに好きだ。嫌なことを忘れるというか、幸せになれる。そんな気がする。俺はここに来て、色んなことが鮮明になっていくような気がした。やはり、夜が深くなっていくとそれなりに人は減っていった。
はじめ来た時に比べればすごく減った方だと思う。ここからでもどこにどんな出店があるか把握できるぐらいにはなっていった。茜はとうにりんご飴を食べ終わり、脚をぶらつかせご機嫌のようだ。俺と茜が座っているところは、月明かりだけが頼りになるぐらいのところで、俺と茜しか座っていなかった。昼間来た時はいつも三人でここに座って話しているのだ。ここはとても落ち着く場所だった。
「結衣姉ちゃん、どうしてるかな~」
「そうだな~、祭りの間はここには近づけないって言ってたしな。今頃、俺の部屋で寝てるんじゃないのか?」
「結衣姉ちゃんともお祭り来たかったな~」
「昼間はいつも三人なんだけどな、夜の神社は三人で来たことないな」
「まぁそれでも、久々お兄ちゃんと二人きりだし、私は満足だよ」
可愛い笑顔をこちらへ向ける。その笑顔にドキッとくる。いつも見ている笑顔だが、なぜか今は余計ドキッとする。
「あぁ、そうだな、ばあちゃん家に来るまでは、家にずっと二人きりだったんだけどな」
ハッとしたような顔で茜はそう言えばそうだったよと、口を開く。しかし、俺も感じてるように、この田舎に来る前と今の俺と茜の関係は明らかに違う。
「ここに、来て何か変わったか?」
俺は茜に聞いた。茜は、口ごもりながら、うーん色々と変わったよと言う。お兄ちゃんは?俺か、、。俺は、、。
「変わったよ」
変わったていうか、気付かされたことの方が多いのかもしれない。
「お兄ちゃんも変わったんだね~。私、背は伸びたかな!?」
「あぁ、伸びたと思うし、可愛くなったよ」
ハッと我にかえる。俺、何言ってんだ。茜は暗がりでも分かるぐらいに顔を真っ赤にしている。
「お、お兄ちゃん。す、素直になり過ぎだよ、、」
「え、あ、ち、違う!ほら、夜だから暗いだろ!?ちょ、可愛く見えただけ!てか、素直になり過ぎって否定はしないのかよ!」
「えぇー、私、可愛んでしょ??嬉しいなぁ~。お兄ちゃんが可愛いって言ってくれたぁー」
茜は、わざとらしく可愛いという単語を繰り返す声に出す。その姿を俺は、さらに可愛いと思ってしまった。
「じょ、冗談に決まってるだろ!?」
身体があつい。今とても恥ずかしい。喉乾いたな。
「いや、なんか喉乾いてきたな!ちょ、飲み物買ってくるわ、何がいい?なんでもいいな!おっけ、買ってくるわ」
俺はその場から、逃げるように出店の方へ走っていった。一旦、落ち着かないと、、。
可愛いなんて、たまに冗談で言ってるじゃないか、、。でも、今のはとても恥ずかしかった、、。なんでだ、本音だからなのか?だとしたら、なおさら恥ずかしい!落ち着こうとしたはずが、余計身体があつくなった。すこし、時間を空けるか、、。それから、十五分ぐらい出店を周り、冷たい飲み物を二つ持って、落ちつかせていった。
「そろそろ、戻るかね」
俺は、落ち着きを取り戻し、茜のところへ戻ろうと引き返す。すれ違いに帰ろうとしている人たちが増えていく。もうそろそろ、俺らも帰った方が良い時間だ。神社に残っている人も俺らを入れて数人になってきた。茜が待っている、場所へ着くのだが茜が居ない。
「あれ?茜ー!どこだー?茜ー?」
返事がない。どこいったんだ、、。俺が遅かったから探しに行ってに入れ違いになったのだろうか。俺は、また出店の方へと引き返す。
「あかねー!どこだー!?おーい!」
歩く人は振り向くが、返事はない。俺はくまなく辺りを見渡して周った。居ない。さっきりんご飴を買った出店で聞いてみたが分からないと手掛かりはない。どこに行ったんだよ。ドクン、ドクンと脈が早まる。不安が込み上げてくる。ふと、家を出る前のばあちゃんの言葉を思い出す。 神隠し
「嘘だろ、、」
俺は手に持っていた飲み物をその場に投げ捨て、走った。茜は家に帰ったんだ、俺が遅かったから怖くなって家に帰ったんだと、それしか考えられない。そうとしか考えたくない。茜、家にいてくれよ。俺は、階段を颯爽とおり、家を目指して走る、止まらずにただひたすら、茜の顔が見たくて走る。行きには三十分かかった道のりを十分程度で帰り着いた。玄関をあけ、真っ先にリビングに向かう。そこには、テレビを見ているばあちゃんの姿があった。
「あら、おかえり。そんなに急いでどうしたの?」
怖くて、聞けない。茜は先に帰ってきただろなんて、怖くて聞けなかった。
「いや、なんでもないんだ」
そう言って俺は思い出す。玄関に茜の靴はなかった。俺は自室へ向かう。部屋のドアを開けると、ちょうど服を着替えようとしていた
結衣がいた。
「ちょ、ビックリするじゃない!ノックぐらいしてよ!」
結衣は着ようとしていた服で身体を隠しながら言う。
「それどころじゃないんだ!茜が、、!茜が居なくなったんだ!」
「え、あーちゃんが!?ど、どうゆうことなの?」
「俺が飲み物買いに行ってる間にいなくなったんだよ!ばあちゃんの言ってた神隠しかもしれない、ど、どうしよう」
「しょーちゃん!しっかりして!神隠しなんてことはあり得ないわ!」
どうしたらよいか分からないと俺に結衣は強く声をかける。
「なんで、そんなことが言えるんだよ」
「神隠しってのは幼い子供にしか、出来ないからよ!まだ、純粋な子供の身体ごと持っていく。霊界で純粋な子供の身体は高く売れるのよ。それをこっちでは神隠しって言うのよ。だから、あーちゃんは年齢的に無理なの!」
「それじゃ、茜はまだ神社にいるってことか、、?」
「その可能性の方が高いよ、早く行ってあげて!お祭り中は幽霊は入れないから一緒に探してあげられないけど、家の周りを探してみるから!」
「わかった!ありがとう!」
俺と結衣は急いで、家を出で結衣は近所、俺は神社へと引き返す。はぁはぁ、茜、無事でいてくれよ、、お願いだから。勢い良く階段を駆け上がり、大きな鳥居をくぐる、もう、人は殆どいない状態だった。出店も大半が片付けをしてる。
「おーい!あかねー!」
俺はさっき座っていた、あの場所へと急いだ。やはり、居ない。
「どこだよ、、!」
もしかして、、。三人で遊びに来ていた時のことを思い出す。さっき座っていた場所から少し奥に進むと急な斜面になっていて、人通りも少ないため、落ちたら怪我して登ってこれないだろうから近づかないようにしようと話していたことがあった。俺は、迷わずそこへ向かった。奥に進むにつれて灯りが遠ざかっていく。変わらずあるのは月明かりだけ。
走っていると、木の根っこで足をとられ思いっきり、前に転げた。
「いってぇ、、」
腕から血が出ていた。足も挫いたらしく、ジンジンする。
「無事でいてくれよ、茜、、、絶対に助けるから、、」
痛さを感じつつも考えないようにして、全速力で走る。早く、はやく茜に会いたい。
問題の場所に着いた。見渡すが誰もいない。
「おーい!あかねー!」
返事がない。暗がりの中、辺りをくまなく探す。少しすすむと、滑り落ちたような跡があった。見つけたと同時に駆け寄り、下を見る。木々は押し倒され、下に誰か倒れているのが見えた。俺はとっさに、滑り降り、倒れている人に駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?」
顔は泥だらけであらゆる箇所を擦って血だらけになっている。間違いない、茜だ。
「おい、茜!?あかね!大丈夫か!?」
茜抱き寄せ、揺さぶる。かすかに反応はあった。
「おい!俺だ!お兄ちゃんだ!助けにきたぞ!」
すると、茜は微かに口を開く。
「お、に、おにちゃん、、」
「あぁ、そうだ!助けにきたからな!もう、大丈夫だぞ!」
「お、にいちゃん、、こ、怖かったよ、、」
茜は涙を流しながら俺の服を握る。俺は、茜を強く強く抱き締めた。良かった、本当に良かった。
「心配したじゃないか、、神隠しにあったんじゃないかって思ったよ、、」
「ごめんね、お兄ちゃん、私、落ちちゃった」
いい具合に草木がクッションになり、擦り傷ぐらいで済んでいるようだった。
「私ね、落ちた時、もうダメかと思ったの、こんなところじゃ誰も助けに来てくれないって。でも、お兄ちゃんならって思ったの、私のお兄ちゃん、もしかしたら助けに来てくれるかもって」
俺を抱きしめる茜の力が少し、強くなった。
「お兄ちゃん、ほんとにありがと、、」
茜を強く抱き締めたまま、時間が少しづつ過ぎていく、俺は茜を失いかけた。それはとても怖いことでとても寂しいことでとても嫌なことで、大切な妹を失いたくない気持ち。でも俺は気付いていた。それよりも大切な大好きな茜を失いたくないって気持ちの方が強いってことを。もう、後悔はしたくない。
「なぁ、茜、、変なこと言ってもいいか」
「なに、お兄ちゃん、、」
抱き締めている茜の体温を感じ、想っていることが素直に声に出る。
「茜、俺な、茜の事が、、、大好きだ」
「えっ、、」
「本当の兄妹で、こんな気持ちになるのはおかしい事かもしれないけど、俺はもう、気付いたんだよ、大切な茜を大好きな茜を失いたくないって」
言ってしまった。もう、どう思われても仕方ないって思った。茜も戸惑っているだろう。実の兄に告白されて、、、。
好き、、、、、。
え、、?
「わたしも、お兄ちゃんの事、大好き」
茜は俺の顔を見つめ、続けた。
「わたしも、お兄ちゃんこと大好きなの、、お兄ちゃんといるとドキドキして、兄妹なのにって思っていたけど、それでも心は嘘をつけなくて、、わたし、嬉しい」
見つめ合っていた目を閉じ、静かにお互いの唇を近づける。今までお互いが感じていた事が繋がったかのような、キスは俺にとって一生忘れることの出来ないものだった。
兄と妹の夏季課題