言いわけ

「こっち入れば?なんもしないから。」
先輩がこたつぶとんを広げて私を見る。

先輩が横になった位置から90°の角度でうとうとしていた私は戸惑ったふりをして聞く。
「・・・ほんとになんもしない・・・?」
「試してみればいいじゃん、ほら!」
「う...ん」
もぞもぞと先輩の隣に体をいれる。
こんなふうになるのは不本意ながらというように。

 本当のことをいうとさっきからくっつきたかった。
先輩が話すことそっちのけで、そばにいきたいと思っていた。
先輩のことが好きかと聞かれれば、好きだけど、付き合いかと聞かれればそれはちょっとめんどくさいし、そこまで好きってわけじゃない。つまり、男として好きなのか人として好きなのかっていうとこれは人として好きな部類にはいるんだろう。
ただ、寂しかった。そんなとき目の前に広げられた手にただただ受け止めてもらいたかった。先輩を好きかどうかより、誰でもいいからただそばにいてほしいと思ったのだ。

「腕枕はいい?」
「ぁ、いいですよ。」
なんでもないことだ。腕枕なんて。断る理由がない。
首をおこすと先輩の右腕が差し込まれた。ほどよく筋肉がついていておさまりが良かった。
予想以上にいい具合に先輩の腕におさまって、ここは私の場所なんじゃないかと勘違いしたくなった。
さっきより縮まった距離にどきどきした。

「私、いつも思うんですけど、これ、痛くないんですか?」
どきどきをごまかすようにさらりと聞く。“いつも”という言葉を先輩はどう思うだろうか。
「俺は痛くないよ。でも寝る方がさ、首痛くないのかなぁって俺は思ってんだけど。」
「全然大丈夫ですよ。ちょうどいい。」といって顔を先輩の方に向けた。
先輩は肘を曲げて私の頭をなでる。
心地よかった。なんだか涙が出そうになった。でも、先輩を困らせたくないから泣かなかった。
というか、泣いて困らせてみることもできたけど、めんどくさいと思われたくなかったから泣こうとしなかった。
そういうのは彼氏の前ですることだ。そう、間違えてはいけない。

「腕枕すると、こっちの手の置き場所に困るんだよねー。」
左手をひらひらさせて笑いながら言うからなんだか憎めない。その左手で触ろうっていう魂胆が見え見えで私も思わず笑った。
「はい、こっちの手はポケット。」
さすがに女として、付き合ってもない人に体を触られて黙っているわけにはいかないだろう。
腕枕はいいとしても。そのくらいの良識はある、こんな私にも。

先輩がi-phoneを見る。9:15。さっきは9:00に帰ると自分に約束するように言っていたが、なんだか帰るに帰れなくなっている。そして、私は帰ってほしくなかった。
「帰りたくねぇ.・・・。」
素直に口にしてくれるのが嬉しかった。でも、「私も帰ってほしくないです。」とは言えなかった。
男が言うのと女が言うのとではちょっと意味が違ってくるような気がする。
なんとなくだけど、そういうものだと思う。

さっきから黙って聞いていた私が、「私は-」何も言えないです。と言いかけたところに「どっちでもいいって?」と先輩が挑戦的に言う。
「そうじゃなくて、いなくなったら寂しいけど、でも、明日仕事だから帰らなきゃいけないの知ってるし。だから何も言えないです。」と先輩に任せて逃げた。でも、こんなことを言ったら帰りづらくなるのだろう。
 結局そのまま2人は腕枕をしたままごろごろしていた。
そして、ピンサロとソープとおっパブの違いなんていうたわいもない話をした。
「俺、なんでお前にこんな風俗の話してんだ?」…そんなことを言いながらも自分が言った風俗の話をして、「あ、でも今はそんなに行ってなくて!」と弁解する先輩を信用してもいいような気がした。
そんな話をしながらも、ときどき先輩の手が怪しい動きをするからポケットに戻して… そんなくだらない時間が私を満たしてくれた。そして先輩もそんな時間を楽しんでいた。
 
「なんもしないから!」といって隣に誘っておいて、あわよくば触りたいという魂胆があまりにもわかりやすい。
前の飲み会で触ったお尻がよほど気持ちよかったらしく、「もう一回!」と懇願してくる。
そんな先輩をいとおしく思えてくるあたり、私は病気だろうか。

 いつのまにか腕枕が当たり前になり、ぎゅっとされるのも拒否しなくなった。先輩の胸に顔をうずめると安心したし、ここが居場所なんじゃないかとさえ思えた。「窒息死させてやるー」と言いながらきつく抱きしめられれば、私もきつく抱きしめ返した。どれだけ強く抱きしめることができるか。そんなゲームをしているようで言い訳ができた。


「これ、いいのかなぁ・・・?」
「ん?」
「付き合ってない人とこれは・・いいのかなぁ?」
私には判断できなかった。何がだめで、どこまでなら良くて、大事にしないといけないことなのか、全部がわからない。一般的にも、自分にとっても。最近特にそうだ。情けないが、ここにいる21歳の大学生はお勉強ができたとしても大事なことがわからないのだ。そして、最近の若者は乱れているらしい、ということは前からなんとなく知っている。そしてそれが自分のことだということに気づいたのは最近だった。

「いや、だめでしょ。」
先輩は当たり前のように言う。
「そっかぁ、だめなのかぁ。」
特に驚かなかった。こういうのは付き合っている恋人同士のすることだ。でも、だめとわかってやめられるわけじゃなかった。居心地の良さに甘えたかった。
時折、先輩の顔が近付く。私は顔を背けて逃げる。首に、頬に、耳に、先輩の唇を感じる。こっから先は私でもわかる。だめなことだ。

「逃げてるの?」
「うん」
「じゃ、やめる・・・」
そう言われて少しがっかりした。やってほしいわけじゃないけど、どこかで期待していたのかもしれない。先輩は私が嫌がることはしない。私は、嫌がることをやめない。嫌がるのは建前でほんとはしてほしいだなんて自分でだって認めたくない。
男は積極的にいったって当たり前で、女は軽くあしらって・・・そういうのができあがってる。私だって、自分からいきたいときもある。でも、そんなことしたら慣れてるとか、変態とか思われるんだろう。なんだか男がうらやましくなった。
 
一瞬、近づいた先輩の唇が私の唇をふさいだ。ちょっとずつちょっとずつガードを緩めていけばなんでもできると思われているのかもしれない。事実だけにしゃくだった。
でも事実だから仕方ないのか。
私は先輩の胸を軽く叩いて怒ったふりをした。キスをしてしまったら、なんだかいいこと悪いことと考えるのがどうでもよくなってきた。

「ちょっと… 先輩!?」それでも私は怒ったふりをする。言うまでもないが、そして認めたくないが内心嬉しかった。
「あ、だめだった?」おどけたように先輩は聞く。
「だめでしょ、これは!」今度は私が当たり前のように言う。
「さっきから、俺らだめなことしてるんだよ。考えたら負けだよ。」

そう言われたらもう何も考えずに、思うがままにしたいと思った。
先輩が時間を気にする。私は帰ってほしくないと思う。それは、先輩を好きだからじゃない、ただ一人になるのが寂しいからだ。それでも、先輩に帰ってほしくないのだ。私は先輩の首筋にキスをした。
先輩がちょっと驚いた顔をして私を見る。
「もう、考えるのやめました!」
私は潔くそう言って首筋を舐め、耳を噛んだ。舌を滑らせ、息を吹きかけた。
先輩の息が徐々に荒くなる。
先輩に帰ってほしくない。一人になりたくない。それだけだった。引きとめるためだった。愛とは違う、ただその場で楽しいだけ。あとでもっと寂しくなるんだろうな、一瞬頭をよぎった。それでもいいと思った。
先輩の手がタイツの中に滑り込んでいく。そこはだめ。先輩の手首を掴んで止める。そして私はキスをした。先輩には何もさせない。首と耳はセーフ。胸とパンツの中はアウト。またそんな風に考えた。
キスをしながらも一瞬ためらう。それでも続ける。考えちゃダメ。
「これ、だめだよね。でもあたしこんなだから。」
否定してくれたらいいのに。自分を大切にしてって言ってくれたらいいのに。
そう思いながらも私は挑発的だった。

「もうお前、何されても文句言えねーぞ。」そう言って急に先輩は私の上に乗った。強い力で腕を掴む。

「でも、先輩はしません。大丈夫だってわかってる。」
私の腕をつかんだ先輩の手の力が緩む。
「お前、人の気も知らねーで。」
「ほら、大丈夫でしょ?」
「そう言われると弱いんだよ。あーもう。」
先輩のそういうところが好きだ。
そして私はとことん性格が悪い。自分で思うから間違いない。
そしてまた挑発するかのように先輩にキスをした。
いいも悪いもないと思った。したいからするんだ。誰にも迷惑かけてない。
何がだめなのかわからない。
でもだめなこと。
それはこれを人に言えないと感じてる自分がよく分かっているのだろう。


「考えたら負け。うん、考えない。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。そして、先輩の首筋に舌を這わせた。
先輩の荒い息が聞こえる。熱くなっているのが伝わる。
「ベッド行く?」先輩が聞く。ベッド・・・それこそ終わりだと思った。
首を振ってまた、耳を舐める。
急に先輩が私をこたつから引きずり出した。足の下に手を入れてお姫様だっこをする。そのままベッドへ。私は抵抗するふりしながらも、運びやすいように足を揃えた。体は正直だ。いつも。意思に反して。歯止めが利かなくなっているのがわかった。

あと8分で11時。
先輩の家まで車で1時間かかる。
明日は6:45起き。

潮時だ。

「俺、あと8分何もしないから。」と言って2人でベッドに横になった。
「はい。」と言って先輩を見る。本当に何もしないのだろうか。
「私、先輩のこと、なんか・・うーん・・・人として好きです。今日一日一緒にいて思いました。恋とかじゃなくて、人として、すごく大好きです。」笑顔で言った。
「そんな、笑顔で言われると。いやでも嬉しいな。」と言って本当にうれしそうに笑った。「俺は-わからん!好きになりかけてるかも。」
どう取っていいのか分からなかった。
わからんっていうのは何がわからんなのか。
好きか嫌いかわからないのか、人としてなのか女としてなのか。
聞けなかった。
大事な事こそ、気になることこそ聞けなかった。


先輩は手を出してこなかった。このまま帰ってしまうのかと思うと寂しくなった。
ため息をつき、「考えない。」もう一度そうつぶやくと大事にしているパワーストーンのブレスレットを外した。大事なものを外すとき、それは後ろめたいことをするときだ。
私は先輩の首筋にキスをした。このまま終わりたくなかった。
我慢できなくなった先輩は私にキスをしながら服をまくりあげる。耳に息がかかる。私の息があがり、声にならない声が漏れる。体が熱くなる。何も考えられない。考えたくない。私は先輩に身をゆだねた。背中に手が回りホックが外れた。覚悟を決めた。先輩が服を全部まくりあげて胸を触る。舌が乳首を転がす。だんだん敏感に、そして固くなっていくのがわかった。
「は..ぁ...っ・・んっ・・・」
もっとしてほしい。もう止められなかった。一回こうなるともう冷静ではいられなくなる。
私の声に興奮した先輩が下半身を押し付けてくる。熱い。私に興奮してくれているのかと思うと嬉しかった。
先輩の手が勢いよく下に下がってパンツの中に入ってくる。お尻を掴み、そして前側に伸びる。クリトリスを探しているのがわかった。私は足を閉じて抵抗する。
「ゃあ・・・っ!!」ついに探し当てられたそこは敏感に反応しすぎて声を出さずにはいられなかった。思わず足をぎゅっと閉じた。先輩は手を抜きタイツの上から何度も同じところを触った。擦れて息があがる。恥ずかしい声が出る。頭がぼーっとしてきた。先輩のも固く、熱くなって私に押し付けられていた。
いい具合に湿ってきたな。」
私は恥ずかしくて顔も見れずに首を振った。
「そんな事実否定すんなよ。」
一言一言にどきどきする自分がいる。もうタイツの上からでもわかるほどだった。
もう限界だった。指を入れてほしい。私の欲求は先輩にもわかっていた。

「どうしてほしい?」意地悪だ。
「え、だめ。」
このままやってくれたら、少なくともさっき自分の中で考えたアウトのところは先輩にされただけであって、私は断れなくてやられただけだと自分に言い訳ができる。しかしここで頼んだらそれはもう認めることになってしまう。こんなときまで私はずるい。
「どうしてほしい?」
また、先輩の手が私を弄ぶ。声と息が一緒になって響く。
「だめ、だめ・・・。」
「だめって言ったら全部だめなんだよ。俺らはいけないことしてんだよ。」
それでもベッドの上でつぶやく「だめ・・だめ・・・」
「してほしいの?やめてほしいの?」
もう言い訳はできない。だめなことって初めっからわかってる。
「・・・・・・して。」
「そのかわいいスカート脱いで、タイツ脱いで、どこをどうして欲しいか言ってよ。」
「そ・・んなっ・・先輩・・わかってるくせに。」
「ちゃんと言わないとやらないよ。」
「うそ。先輩だってほんとは触りたいんでしょ?」
「ふーん。そんなこと言っちゃう?俺は言うまで触らないよ。」
そう言って指を入れてすぐ抜いた。期待が快感に変わり、さらなる期待をよんだ。だけど「ね、どうしてほしいの?」
先輩は続けてくれなかった。

せめて部屋を暗くしてほしかった。なんとなく部屋が暗ければこんなことを言ってもまだ許される気がする。
「電気、消そう・・?」
「だめ、顔が見えなくなるでしょ。」
その顔を見られるのが恥ずかしいのに。

その間も先輩の指は止まらない。もう限界だ。覚悟を決めて一気にスカートとタイツとおろした。先輩の視線を感じる。私は恥ずかしすぎて先輩の顔を見ることすらできない。
「触ってください。」消え入るような声で言う。
「どこを?」
ただでさえ消えちゃいたいくらい恥ずかしいのにそれを言ったらなんだかもう人として終わりな様な気がしてためらった。
「だから、あそこ。」
「あそこじゃわかんない。」
あぁ、もう。
「お――こ、さわってください・・・っ」
すぐに指が入ってきた。
「狭・・」先輩が驚いた声で呟く。これで私がこういうことに慣れてないってわかってくれるだろうか。付き合ってないのにこんなことをしている時点でもう遅いのだろうか。

先輩は指を上下にゆっくりと動かす。散々じらされた後に擦られて何が何だかわからなくなってくる。
「はぁっ・・ん・・やぁ・・」
「やなの?」
「ん・・ちがっ・・はっ・・もっとしてほし・・です・・っ・・」
「あっ・・あっ・・はぁっ・・」
「お前声出し過ぎ。隣に聞こえる。」
「やっ・・はぁっ・・だって・・・」
先輩がズボンのベルトを緩めて熱く固くなったものを私の口に近付ける。私は快感に息を乱しながら口に含む。できるだけ唾液をいっぱいにすると気持ちいいって何かで聞いたけど、さっきから喘いでいたせいで口が乾いてしまっている。それよりもまず自分が気持ち良くなりすぎて、うまく舌を使えない。
指が2本になったとき痛みを感じて訴えた。まだ2本入れるには狭い。先輩のなんて到底無理だ。
今度は私が頑張る番だ。先輩を気持ちよくさせてあげたい。
私は先輩の下腹部に顔をうずめ再び、ゆっくり口に含むと舌を動かしながら吸い上げた。それはだんだん大きくなって固くなってくる。何度も上下に顔を動かすと先輩の口から荒い息とともに声が漏れた。「や・・べ・・・うまい。どこで覚えたんだ・・くそっ」嫉妬してくれているようで嬉しかった。
「ピンサロとか行ってるんでしょ?うまいって言ってもそういうのと比べたら・・」
「いや、うまいよ、そういうとこのより・・まぢで。どうなってんだ・・はぁ・・これ。」
ほんとか嘘かわからないけど、こんなことでも誉められれば嬉しい。
「顔、見せて。」
髪をあげられる。一体私はどんな顔をしているのだろう。かわいい顔でこんなことできるものか。恥ずかしいな。
一生懸命吸い上げながら顔を上下に動かした。これでやり方は合っているのか、本当に気持ちいいのか不安だった。
意外と体力をつかうもので、疲れてきたので顔をあげた。
「はぁ・・いきそうだった。」ちょっと赤くなった先輩の顔を見て満足した。
先輩がさっきまで私が舐めていたものをパンツの中にしまう。ベルトを閉める。
お楽しみの時間は終わりだ。先輩は帰らなきゃいけないし、もう引きとめるすべも残っていない。私も服を着た。さぁ、割り切らなきゃ。

2人とも服を整えた後、最後に先輩がベッドに腰掛けて両手を広げた。
そこに飛び込む私は幸せだった。ぎゅっと抱きしめあうと付き合っている2人みたいだった。居心地が良い。ずっとこのままだったらいいのに。

先輩は立ち上がって時計をつける。財布を持つ。i-phoneをポケットに入れる。
帰っちゃう。
止めることはできないし、帰らせなきゃいけないんだ。なんで別れ際ってこんなに寂しいんだろう。一生会えないわけじゃないのに。ただ一人になるのが嫌なのかな。やっぱり。

私は、玄関までの通路を塞ぐ位置に立って先輩の胸に頭をそっとぶつける。25㎝の身長の差は大きい。これをかわいいと思ってくれたらいいな。そんな風に思う。先輩は私を抱きしめてくれる。
「俺、帰らなきゃいけないんだよ。」
わかってるよ。そんなこと。引きとめすぎてもきっとめんどくさいと思われるからそろそろひかなきゃ。
割り切らなきゃ。そう、そういうのは付き合っている人同士がやることなんだから。ね、割り切らなきゃ。寂しいから利用しただけ。再び自分に言い聞かす。
玄関で「じゃあね。」と先輩は言う。
お別れのキスくらいしてくれたっていいのに。
「はい、気をつけて帰ってください。」何事もなかったかのように送り出す。
「どーせコンビニ寄るから。」と自分の食べたもののごみを持って帰ってくれる先輩は一人暮らしをしていただけあるなと感じた。そして、そのコンビニにさえついていきたいと思う私はただの寂しがり屋なのか、恋をしているのか自分にもわからなかった。

言いわけ

言いわけ

付き合ってない人と体の関係になるって悪いことですか? 寂しがり屋の「私」と先輩のリアルなお話です。 女性にだってこんな気持ちがあるんだよ。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-01-24

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