交換日記
この小説を読む前に、心を穏やかにしてやさしい気持ち、人を愛するとか乙女心のようなものを抱きながら読んでください。
私は、古ぼけた部屋の中にいた。何もなくなった、この部屋には1冊のノートだけが取り残された。私は来週アメリカに転勤することになった。
思い出のこの家とも、今日でお別れ・・・。優子は部屋をもう1度見渡した。そして1冊のノートを手にした。中には手紙が1通挟まっていた。
あの時のだ。優子は思った。それは、昔の彼氏と交わした交換日記と、私が彼へあてて書いたラブレターだった。
そっと、ノートを手にとりゆっくりとページを開いた・・・
優子から拓也へ・・・
今日の運動会お疲れ様~。拓也の走ってる姿かっこよかったよ!一生懸命、「拓也ー!がんばっ」って応援してたんだけど気づいてた?
拓也から優子へ・・・
優子の声、ちゃんと聞こえたから~。俺もそれ聞いてがんばれたよ。
あのさぁ、今日言おうと思ってたんだけど実は来週から、転校することになったんだ。親父の都合でさぁ・・・だからもぅ逢えないと思う。
優子から拓也へ・・・
そうなんだ。遠距離恋愛だね!ロマンチックだけど、さみしいよ。ちゃんと手紙送るからね。
そこで、日記は最後の白紙ページを残し終わっていた。
そして、もう一度ノートの表紙を見直した。
このノートと同じように私の恋も色あせてしまった・・・。
あの頃の私は、なんだか拓也に自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしくてどうしても「好き」の一言が言えなかった。
だから、私は拓也が転校した後ラブレターを書いて送った。ずっと、この言葉がなかなか言えなかったけど好きだよっ・・・。って
拓也の返事は、「僕の気持ちは、優子のところに置いてきた・・・」手紙にはそう書いてあった。
あの頃の私は、このメッセージがどういうことを意味しているのか分からなかった。
それからというもの、1回も連絡を取り合ってない。拓也がどこでどんな生活をしているのかも今の私には想像できない。
拓也が最初で最後の恋。それからというもの、彼氏を作らず時間だけが過ぎていった。
あの頃から10年がたち、私は28歳を迎える。20代後半で周りの友達たちも、結婚してあたたかい家庭を築いている。
前までは、恋愛が大切だったのがいつの間にか恋愛<仕事の人生になってしまった。
今も・・・これからももぅ恋愛をすることはないだろう。
優子は庭の向日葵を眺めた。向日葵の種を植えたのは、小学生の頃だな~。
「拓也君!あたし、拓也君のお嫁さんになりたい★」
「大きくなったら、優子ちゃんの子と迎えに行くからね」
そんなことを、思い出し優子は自然と顔がほころんだ。好きも言えないくせによく「お嫁さんになりたい」なんか言えたものだなw
今思ったらバカらしいけど、私にとってはいい思い出・・・
ブーっ・・・突然部屋に玄関のチャイムの音が威勢よく鳴り響いた。
「杉下さーん、お届け物です!ここにサインください。」
「あっはーい。今行きます!」
あわただしく階段を駆け下り、玄関のドアを開けた。
すると、目の前には何か見覚えのある顔・・・「拓也!?」
「おぅ!元気だったか?」
あの優しい、笑顔の彼が目の前にいると思ったら、自然と今までにない笑顔で話しかけていた。
「優子・・・、あのさぁ、まだあの交換日記持ってる?」
「持ってるけど、どうして?」
「いいから~かして?」
「うん」
もぅ一度、リビングに戻りノートを手にした。
「これでいい??」
「あーそうそうw」そういって、おもむろに胸ポケットから鉛筆をだし例の白紙のページを黒く塗りつぶし始めた。
「たっ拓也、何してるの?」
「あっ、これ見てみてー」
そこには、「俺も、好きだよ。愛してる。」
白紙のページには、筆圧で文字がへこんでしまい黒く塗りつぶすことで文字が浮き上がってくるという、なんとも洒落た工夫がしてあった。
「えっ・・・これっ」優子はそのあとに続く言葉が見つからなかった。
「言ったでしょ~、大きくなったら優子を迎えに来るって!
僕と結婚してください。ずっとあの時から今でも愛してる・・・。俺のお嫁さんになってください。
あれから10年、もしまだ俺のこと好きだったら告白するつもりで来た。」
「なんで、私が今でも拓也のことスキって知ってたの?」
「だって、まだ交換日記持ってたじゃん。それってまだ俺のこと忘れられなかったからじゃない?」
優子は、涙が止まらなかった。
「あたしも大好き。よろしくお願いします」
向日葵が、ずっと太陽の方を向いているように、私もずっと拓也だけを見つめていこう。
拓也は、そっと涙をぬぐってくれてやさしく私を抱きしめた。
どこまでも、果てしなく続く青空のもとこの空がいつまでも綺麗でありますように・・・。
私たちの心には、澄み切った青空が広がっていた。
交換日記
忘れかけていた恋をこの交換日記で思いだすように、この小説で今までの自分の甘酸っぱい恋を思い出せる機会になれたらいいです。