俺の妹はスパイ様? 第一話<俺の妹はスパイ様?>
『おにぃちゃーん。朝ご飯だよぉー。』
なぜ朝から恋愛シュミレーションゲームのような一日の始まりを迎えなきゃいけないんだ。自分の部屋にある冷蔵庫からサイダーを取り出して口に含む。寝起きの朝には目を覚ますのにぴったりだと思ってる。炭酸のあのシュワシュワ感がたまらなく俺は好きだ。
「だからお兄ちゃん朝ご飯って言ってるじゃんっ!ってまたサイダー飲んで……ちゃんと朝ご飯も食べてよねっ!今日は私が作ったんだから。」
「ん、おはよ夏樹。やっぱ俺兄貴として自覚ないね。」
日本全国の長男よ、長男のつらさが今よくわかった。
「ほんとだよ、早く起きてねもう『あの二人』は起きてるから早く起きて朝ご飯にしよ?」
俺にちょっと文句を言い放ってそのあとすぐに笑顔で俺の部屋を出る。俺は一人っ子から兄妹の一番上になって日はまだまだ浅い。というよりか今日が兄として初の朝飯を今、あと数分で迎えようとしているのだ。
地味に長い廊下を歩き地味に長い階段を下りる。下りてすぐ左には脱衣所、その奥には風呂場。その逆、右にはトイレがある。今までこの馬鹿でかい家を一人で使っていたので家のトイレなんてほとんど使わなかったので場所すら覚えていなかった。親父とおふくろは俺の記憶がはっきりしてるときにはすでにいなくなっていた。遺影とかそういうたぐいのものはおいていなかったから死んではいないのだろうが日本にはまずいないであろう。日本にいない理由はいとこのお母さんから聞いた。昔から日本の政治が嫌いだったらしい。まったくどこぞのライトノベルの話だ、と俺は思いつつ今まで育ってきた。ここまで育ててきてくれたのはその情報源でもあるいとこのお母さんの息子、梶原一樹(かじわらいつき)のおかげでもある。いままでこの妹3人が来るまでは毎日家に飯を作りに来てくれた。今でも交代制で来てくれて妹三人を含め一番うまい料理を作ってくれる人でもある。
「おっ!『おにぃちゃーん。朝ご飯できてるよぉー』っておい史郎?って、おいおいおいっ!」
唯一めんどくさいと思うところが現実世界と二次元を混同するところだ。確かに朝の目覚め方は恋愛シュミレーションゲームと同じような感じではあったがこんなことを口走ったら妹三人にいきなり嫌われかねない。
「やっと来た。」
ピンクのフリルがついたエプロン姿の夏樹がフライパン片手にいろんな料理を作っていた。
「おはよぉ~おにーちゃん。今日の私可愛い?」
「ん?おぉ、可愛いと思うよ。」
「やったぁー、ふふっ。」
寝起きにしてはすごい服装だった。OLさんが会社から疲れてとりあえず着替えようとしてそのまま寝たような格好をしていた。なぜ男物のワイシャツを着ているのかは知らないがなぜかとてもかわいく見えてしまうのはなぜだろう。今日の下着はピンクでしたとさ。この下着をちらつかせてる天然妹が愛莉。妹三人の中で一番かわいい。そしてすべてにおいて3姉妹で『小っちゃい』。
「史郎、おはよう。今日こそはちゃんと朝ご飯を食べてから学校に行ってもらいますからね。」
「わかった。でも今日の朝もちゃっかり炭酸飲んじまったけどね。」
この食べ物にやたらきつく言っているのが星七。三姉妹の中で一番名前が難しい。星が七つと書いてせなと読むなんてできるはずがない。最初あったとき俺はセブンスターとかいってからかってたっけな。その責任と言ったらおかしいが呼び捨てにされている。星七でなおかつ食べ物にうるさいということであだ名はセイバー、どっかの雑誌でそんなキャラクターがいたんだよね。髪型もそっくりでしゃべり方も同じというこれまたびっくりな話だ。
今日は三姉妹の高校初登校の日、ということもあって先に『生徒会長様』に顔と名前だけでも通しておかないとと思って一樹には来てもらった。
「そんじゃあ一樹紹介するな。まずこの『小さくて』かわいいのが愛莉な。」
小さい強調するなという声が一票、もっと言ってやれという声が3票(一票はもちろん俺)で今後紹介するときは小さいで行こう。
「あと今料理作ってるかわいいものには目がない癖にツンデレで一番手の焼ける『かわいげのない』のが夏樹な。」
かわいげのないと言ったら頭から湯気が出るくらい怒り始めてしまったのでこれはだめだな。ツンデレで行くとしよう。
「そんでこれがお前の好きなセイバーの三次元版の星七。星が七つと書いて『せな』って読むんだけど読めないからセイバーってあだ名をつけたから。これは決定事項で異論は無しでお願いします。」
一樹はセイバーというキャラクターが好きだから一応報告した。一番最初に名前が覚えてくれそうなのは星七かもしれない。
「えーっと、小さいのが愛莉ちゃんでツンデレっぽいのが夏樹ちゃん、それで見た目が完璧セイバーで騎士の服着させたら確実にセイバーの子が星七ちゃんね。特徴があって俺も覚えやすくて助かるよ。」
「あとこの三人は別にうちの養子になったわけじゃないから。うちの母親の知り合いで親父の元カノさんの子供を預かることになっただけだから名字が『小鳥遊』なったわけじゃないんだ。名字なんだっけ?」
三人は声をそろえて、
「高町姉妹ですどうぞこれからよろしくお願いしますっ!」
高町姉妹にはもう一つの顔がある。ただ俺の妹(仮)になっただけじゃない。俺のかわいい妹たちってわけでもない。いわゆる殺し屋さんだ。どんな汚い仕事でもこなすっていう何とも夢のある仕事だ。アニメとか映画では当たり前のように存在してそうな組織だがこれが現実で起こるとは思ってもいなかった。それで俺の殺し屋の組織の仲間入りをさせられたということで。
「わるいんだけどさ、一樹今日俺学校休むな。この三人にこの街を案内しないといけないんだよ。」
「そんなのいつでもできるだろ……と言いたいところだけど、お前のことだから早く教えてあげたいんだろ?先生には一応言っておくけどお前からも事情言っとけよ。」
了解と言って一樹を俺の家から学校へと送り出す。そして俺は俺の家の隣にあった元空き地。今では建物が建っているがそこに妹三人と入っていく。今では空き地がガチガチな射撃訓練場だ。地下には世界の武器たちが保管されてていつでも練習ができる状況になっている。
「相変わらずすごいところだよなぁーここ……。っていうかだいたいなんで俺が子ロシアの組織に入んなきゃいけないんだよ。」
一番の疑問でもあることだ。ここははっきりさせておきたいところである。やはり三人の中で一番しっかりしてるであろう星七が前に出てきた。
「それはだな史郎。お前が私の『嫁』だからだっ!」
「まっっっっっっったく意味が分かりませんが?」
我こそはという勢いで出てきたのが夏樹だった。それと引き換えにセイバーは顔に影をひそめた。
「それはね、お兄ちゃんが買われたんだよ。組織に。」
「何を。俺の臓器でもほしいのか?」
夏樹の顔からこの分からず屋と言いたそうな雰囲気を感じ取ることができた。
「腕よ。う・で!わかる?あなたの射撃の腕を見込んで組織が買ったの。」
「そんなこと言っても俺は本物の銃を撃ったことがないぞ。腕があるなんでどこで見抜くんだよ。」
「ここでよ。」
即答だった。要するにここで結果を残さないと俺はここであのよい気ということらしい。確かにアニメだとヒステリアモードだの、ゴーグルをつけると集中力が上がるだのミステリーかつシリアスな出来事だってあるくらいだ。でもここは現実世界。二次元世界じゃない。ちゃんと奥行きもあれば厚みもある。人の顔を殴れば顔がはれる。そういうせかいなんだ。だからやったことないことをそれじゃあやってと言われたところでできるはずがない。
「そんなこと言ったってなぁ……」
自信ありそうな顔で愛莉が俺の足元まで歩み寄って語りかける。
「お兄ちゃんができたら三人とも服脱いであげるよ。」
「それだけはやめてください。お願いします。」
「じゃあ脱がれたくなかったらちゃんと的に当ててくれるよね……」
今にでも目から涙という女性の武器、男性の弱点が流れでそうだったので俺は効果抜群の技でもくらったかのように三人の要求に従うことにした。
「じゃあまずこのハンドガンであそこにある的の頭を打ち抜いて。」
今まで猫をかぶってたんじゃないかってくらいの雰囲気の違いに俺は焦った。あのどう考えてもロリ方面を極めているであろう愛莉の顔が一気に変わった。さすが殺し屋といったところか。というか殺される側からするとこんなかわいいやつに殺されるくらいだったら本望じゃないかと思えてきた。
渡されたのはベレッタ社製のM92F 。米軍正式採用のハンドガンだった。言われたとうり俺は銃を構える。そこで普段とは体の動き方が違うことに気付く。銃の扱いをしたことがないにもかかわらずどこをどういじればまっすぐ飛ぶというイメージがどんどんわいてきたのだ。
『パンッ!』
銃声が五回ほどなった。まるでモンスターか何かの方向のようにも聞こえた。
「合格……」
三人ともぽかーんと口を開けていた。合格ということはいい結果だったのだろう。自分でも結果を確認してみる。
「うわぁ……」
結果は5発中5発命中、当てたところは2発頭3発心臓。決して狙ったわけではないのは事実だがこの結果はすごいと俺でもわかる。両方とも致命傷を与えることのできる部位だったのだから。
「じ、じゃあ次はこのライフルっ!こ、これで頭と胸。そんで両足両腕打ち抜いてみて。」
次に渡されたのはヘッケラー&コッホ社製のHK716 。アメリカ陸軍で使用されていることで有名なアサルトライフルだった。
「そんじゃあ行きます……」
『ババンッ!』
今度はさっきの銃声とは比べ物にならないほどの大きさだった。またさっきM92Fを使った時と同じような感覚があった。今度はさっきよりもすごく感じた。銃の構え方、呼吸の整え方。その他もろもろ今まで現場で活躍していたかのように。まるでおもちゃのように扱える感じがした。
「……合格。」
この試験のようなものが始まって口を出してこなかった星七が急に口を出してきた。さすがに三姉妹の中で一番しっかりしてそうに見えるだけある。(さっきの『嫁』だとかはどこから仕入れてきたのかは全くの謎だが。)
「じゃあ最後の試験。ゲームとかで見たことあるでしょ?」
すごい笑顔で言ってきた。確かにゲームで見たことのある形をしたものが出てきた。そのライフルにはスコープがついていてすごくかっこよく見えた。
「俺がそれを使うのか?」
「当たり前じゃないか史郎。これはなスナイパーライフルっていうんだけどわかるか?史郎。」
「わかるよそれは。一樹がやってるゲームであったからな。」
「それだったら話は早いな。要するにこいつを使ってあの人殺してきて。」
……ん?殺すだって。
「ちなみにあいつは牢屋から脱獄してきた、正確には私たちが脱獄させた犯人なんだけどね。だから殺しても問題はないからっていうか殺さないとほかの人が殺されるかもね。」
やっぱり星七は長女なのかもしれない。愛莉と夏樹はおろおろしていた。やっぱり俺みたいなド素人が人を殺めるのにすこし抵抗でもあるのだろうか。
「まぁ、脱獄者でなおかつ死刑囚ときた。だから死ぬ時が早まったと思えばいいし、それが嫌ならゲームだと思いなよ。FPSとかで簡単に人殺せるでしょ?そんなイメージでやってみて史郎。」
これをやらないと俺はこの組織に殺される運命にある身だ。答えは一つに決まってる。
「わかったよ。なんだっけ?撃つ時の支持とかしてくれる人いるんだろ?風の計算とかその他もろもろの。」
星七が驚いた顔でこっちを見ている。
「……よく知ってるな史郎。その辺は愛莉の得意分野なんだ、だから愛莉から指示を受けてくれ史郎。愛莉もいいよね。」
コクリとうなずく愛莉。
「……よしっ!これでオッケーだよお兄ちゃん。あとは自分のタイミングで撃っていいからね。でも一般人がいる時に撃ったらその一般人さんも殺さないといけないから気を付けてね。」
だからなぜそんな物騒なことをあのロリ笑顔で言えるのかが俺には全く理解ができない。
「じゃあやりますよー……」
こんどはまるで野球中継とかであるウルトラスーパースローモーションで撮った映像のようにゆっくりと動いているように見えた。あぁ、今ポケットから煙草を出してジッポで火をつけたな。気持ちよさそうにすってんなー……今から殺されるとは知らずに……
『バスンッ!』
ものすごい反動が自分に跳ね返ってくる。しかし体はその反動を簡単に受け流していた。やっぱり変だ。この世の中にも不思議なことが起こるもんだな……
撃った瞬間死刑囚の頭が爆発し鮮血が飛び散った。近くにいた白い猫が真っ赤に染まっていた。その猫が座っていたコンクリートブロックの壁は頭があったであろう部分が赤い絵の具で塗られたように、まるで落書きのような模様を出していた。
「やればできるじゃないか史郎。このスナイパーライフルはだな、ワルサー社製のWA2000っていうセミオートマチックスナイパーライフルなんだけどわかる?」
「そりゃあこの独特な形。スナイパーライフルにしては短い銃身、それに生産数が少ないんだ。ド素人でもちょっと銃が好きな奴にとっては覚えやすいやつだからね。」
「だったらこのスナイパーライフルあげるよ。私は使わないから、史郎にプレゼントッ!」
俺よりの夏樹と愛莉が羨ましがっているように感じた。まぁ俺がそういう目によわいっていうの知っててやってるならマジで切れるが、
「星七さぁ、悪いんだけどそのスナイパーライフルは愛莉か夏樹に譲ってやってよ。俺はまだへっぽこだし、そもそもそんなライフルを持ち歩くなんてまだ無理だ。そもそも今回だって愛莉がいたから当てられたようなもんでしょ?ね、愛莉。」
愛莉の顔が真っ赤に染まっていた。きっとその前から赤くはなっていたのだろうけど夏樹より赤くなっていた。その代わり夏樹の顔が冷めていたが……
「そうか?だったらこっちのスナイパーライフルはどうだ?SVDこれは私のお古になっちゃうけど、」
「だからね星七……そういうのは愛莉か夏樹にゆづってって言ってるじゃん。今度俺は一人でまともに撃てるようになったら何か譲ってくれるとうれしいな。それまではここにある銃で練習するから。」
「わかった。でも今の発言で私たちの組織に入るって解釈でいいかな?」
……肝心なことを忘れてた。高校生というとてもいろんなものをやったりしたがる時期にこういうものを見せられたものだから夢中になってしまった。
「……しょうがない。入るよ。」
この三姉妹を俺が引き取ったことを一生後悔することになると俺はここで思った。そして肝に銘じた。絶対に俺は死なない。死んではいけないと。
俺の妹はスパイ様? 第一話<俺の妹はスパイ様?>