Linker(仮)
ある歴史学者の講談(抜粋)
古代には神が実在していたとされている。
それは文献からも明らかだ。
神が住まう地「天界」についてもその存在はフォルトノ海岸に点在する遺跡として確認がとれている。
ではなぜ現代において神は不在なのか。
口伝として伝わる「天界大戦」それこそが現実に起きたことではないかと考える者も少なくは無いが確証は取れない。
もし真実だとするならばなぜ神を討たなければならなかったのか。
それこそが何よりもの問題だ。
──口伝を真実と考えるならばそこには「天星人」の存在が大きく関わってくる
彼らこそ、この歴史においてのターニングポイントだ。
元素魔法を自在に操り、神の側近として生きた彼ら。
歴史学において彼らを追求することこそ、我々の世界を知る唯一の術だ。
序章-最後の空
先を歩く白衣姿の男は苦渋に満ちた顔をして手にもつ書類を見つめていた。一体そこにはどんな内容が書かれているのだろうか。察するにそれは親友の裏切りの内容が克明に書かれたものなのだろう。書かれた文字を読むだけで今まで知っていた親友の悪鬼とも思える残酷な手口に心打ちのめされているのだ。
──そんな妄想を掻き立てられるような程その男の顔は不義に満ち溢れていた。
なんのことはない。例の件に関してやっと結果が出たのだ。世界の秘密を紐解く鍵について。もとより何も答えがでない方が良いとされてきた事が此処に解を得てしまったのだ。私達は歓喜することはできなかった。世界はこんなにも無情なのかと思えるほど結果は単純明快で僕などは笑いながら泣いていたものだ。人がこの地に生を受けて数万年。それでやっとの思いでたどり着いた答えは「隣人」にこそ聞くべき事であったのだ。
──今更、気づいたところでどうしようもないのだがな。
戦いはもう始まっている、止めようがない。今回の戦いで我々は必ず勝利をもたらすだろう。だがそれこそが過ちだ。手を出してはいけない場所だったのだ。数百年の時間をかけて敬い妬み敵視し始めた人間はなんともおろかで馬鹿な生き物なのだろうか。私達はこれまで発展を遂げてきたが結局一番進歩しなければならないところを疎かにしてしまっていた。
空から轟音が響く。
まさに今、我々は勝利の時をもたらそうとしている、同時にそれは長期的に見れば完全な敗北。滅亡への最初の一歩なのだ。
「──あははっははは・・・」
笑いがこみ上げてくる。轟音は更に大きく。私はそれに感応するように大声で笑う。白衣をきた私の同僚は私を睨むと作戦室へと走っていった。無駄だ。もう間に合わない。まもなく一本の槍が地中から這い出て天をつくのだ。それで世界は終わる。もう引き返すことはできないのだよ。
──我々は気づくのが遅すぎたのだ。
窓から外を除くと空は真っ赤に染まり、遠くに一本の赤い光が見える。
──終わりだ。
僕の記憶は此処で終わった。最後に見た景色は地獄の光景の様でこれからの世界を暗示しているかのようだった。
序章-いつかのおもいで
心地の良い風が私を包み込む。先ほどとは違って気分は晴れやかだ。自宅から少し歩いたところにある公園のベンチに座り晴天の空を見つめながら日光浴に興じていた。先日のお仕事からいろいろと不安が募る毎日だっただけに今日がとても幸福に満ち溢れた日になるようなそんな気がしていた。柔らかな太陽光が私の頬をさらりと撫でる。なんだか眠たくなってきたがもうすぐ「約束の時間」だ。
名残惜しくはあったが私は重い腰を上げて第3管区へ向かって歩き出した。昨日とは違って今日は特別な行事があるらしい。私はあまり詳しくは無いが正式に私達に職位を与える儀式なのだそうだ。集合時間は正午となっていたのだがいつもの癖なのか、こんなに朝早く起きてしまったのだった。
──あんまり早く着いても迷惑かもしれないわね
私は時間を潰すためにある馬鹿のところに顔をだすことにした。理由はもちろん最近の行動について探りを入れるためだ。朝が弱いアイツなら今行ったら捕まえる事できるだろうし。公園から大通りに向けて歩き出す。アイツの家はそんなに遠くなく大通りから脇道に入ってすぐのところだ。まだ寝てたら叩き起こしてやらなくちゃ。自然に足が早くなる。まただ、何か不安になる。なにか重大な事をアイツが隠しているような気がしてならないのだ。
大通りに入った。今日はなぜか人通りが少ないような気がする。空も風も先ほどとは全く変わっていないのになんだか寂しい。左手に脇道が見えてきた。私は不安を押し殺すために拳を握りバカの家へと向かう。
家の前に着いた。多分この管区では立地条件があまりよろしくないと思われる、壁に亀裂が入り日当たりも悪い。とりあえず返事は期待できないが扉を3度ノックする。
──やっぱり返事はないか
念の為にドアノブを回してみるが鍵がかかっているようだ。
──仕方ない、夕方もう一度訪ねてみよう
私は踵を返して路地を歩き出した。第3管区へは2時間程だ、約束の時間までには十分に間に合うだろう。大通りに出ると先ほどとは違っていつもの喧騒を取り戻し始めていた。なんだか安心する。結局バカには会えなかったから余計に不安が増してきていたところだったんだけどこれで少しはマシになった。人混みを避けながら第3管区へ向かう。
──今日は大事な日だ。アイツの事はわすれよう
私はまだ無知なままだった。やっと見つけたこの場所にも私の疑問に答えてはくれるような文献は存在しないようだ。だが、もうそんな必要は無いのかもしれない。今日で私は正式に神の側近として重職に就く事となる。今までのようにただの使いっ走りではなくなるのだ。これでもっと深く調べることが容易になるだろう。
一つため息をして壁にかかっている時計を見る。
──約束は12時だったか
まだ時間はあるようだ。この間に昨日見つけた「術」を完成させよう。バックから古ぼけて題名も読めない青い装丁が施された本を取り出す。「式」は前日に頭に入れておいた。複雑なものではなかったので書き込むのはそれほど難しくは無かった。書庫の中央に歩み机をどかす。壊してしまうわけにはいけない。栞が挟んであるページをめくる。この本によると術の発動は本に書かれている式を見ながら行ったほうが成功率は高いらしい。
──∫≡∮、∑≒⊿、∫㏍
式を組み立てる。だが、未完成のようだ。周囲に変化は怒らなかった。多分、元素の組み立てに必要な物が足りないのだろう。ここからは私のセンスが試される。式を見ると属性付与に対して不備があるように感じる。少し手を加えて式を立てなおして見る。
──∫≡∮、∑≒⊿、∫㏍≒∮√Ⅴδ
右手に反応があるようだ。もう少しだ。
──∫≡∮ωヴ∮∑、∑≒⊿、∫㏍≒∮√Ⅴδ
青い光が私の右手に収束する。成功したようだ。力任せに右手を壁に向かって振りぬいてみる。放たれたのは雷だった。壁に雷の矢が刺さる。
──名付けるなら・・・そうだな・・・「雷弓」
魔力消費はかなりのものだ。それに雷属性であるならば体内にある属性とも相性がいい。クラリとめまいがする。まだ改良が必要なようだ。私は本をバックにしまい時計を見た。まもなく10時になろうとしている。少し仮眠をとって出かけることにしよう。私は壁に向かって歩きもう一つの式を読み込む。こちらの魔法はもうかなり使い慣れてきたようだ。私は遠くの自室へと移動した。
俺が此処にきて数週間が過ぎた。地上で生きていた頃に比べれば此処はまさに天国だ。初めは天界の連中など生きる事から逃げた糞野郎がいる場所とばかり思っていたが、それは俺の間違いだったようだ。まずは俺の引取人である12管区警備隊長のオルト隊長、
第1章-邂逅
光が降り注ぐ木陰で僕は久しぶりに帰ってきた故郷で昼寝をしていた。都市では味わえないこの自然に包まれている感覚がとても愛おしく感じる。自分から母さんに頼み込んで入った兵学校とはいえ、こういう故郷を懐かしむ感覚は未だに消えない。腕で目を覆い更に深い眠りに落ちようとするがそこにやっぱり邪魔が入る。
「ねぇ、なにしてるの」
白いスカート姿の女の子が僕の足元に立っていた。長い髪が風にそよぎ、光にあたって煌めいている。それだけ見ればどこかの令嬢に見えるのだがそんな上品な娘じゃない事を僕は知っている。上半身は男物の厚手のジャケット、腰には薬草や山菜を取るためのナイフを常に装備している。スカートを履いていなければ男に見えるだろう。
「ヴァニラ・・・」
体を起こして樹の幹に体をあずけるようにして座り直す。ヴァニラも同じように木に寄りかかって座る。これが僕の数年前までの日常だった。
「帰ってきたかと思えばすぐここに来るのね」
Linker(仮)