私と彼と彼について
【明日・指先・必要性】
時間よ止まれと祈るのは、いつも決まって三人でいるとき。私と彼と彼。気が付いたらいつでも三人一緒だった。
毎日順番に遊びを決めた。鬼ごっこ、おままごと、図書館。木登り、花冠作り、探偵ごっこ。夕方のメロディが流れるまで遊んで、くたくたになってそれぞれの家に帰っていく。
「じゃーな」「バイバイ」「また明日」
明日の朝にはまた三人で一緒に学校へ行くのに、別れ際はいつも寂しかった。
ずっとそんな毎日が続くと思っていた。それ以外の未来なんて、想像も出来なかった。
私たちの関係が破綻し始めたのは、六年生の夏。
「俺、野球クラブに入ることにした。」
嬉しそうにそう報告したタクの弾む声が、私の胸の辺りを冷たくした。
「火曜日と金曜日以外は毎日練習なんだ。」
すっかり生え変わった並びのいい歯を見せて笑う。何も言えない私の隣で、ヒカルも同じように強張った顔をしていた。
それから、火曜日と金曜日以外は私とヒカリの二人で遊んだ。何をやっても退屈で、きっとヒカルも同じように感じていたのだろう。夕方のメロディよりもずっと早く家に帰るようになった。
タクと遊べる火曜日と金曜日はいつも野球だった。でも、普段クラブで練習しているタクにとって、まともにボールを投げられない私たちと野球をする必要性を感じなくなったのだろう。休みのはずの日にも「クラブの友達との自主練」と言って、私たちとは一緒に遊ばなくなった。
それでも、毎朝一緒に登校していたし、中学も同じのはずだったからほぼ毎日顔を合わせることができた。これ以上三人が離れることがないようにと、このまま時間が止まりますようにと、眠る前に何度もお願いした。
何度もお願いしたのに。
小学校を卒業した三月、ヒカルがお父さんの転勤で遠くへ引っ越して行った。
中学に上がって野球部に入ったタクは毎日朝練の為に私よりもずっと早く家を出るようになった。
私たちはもう、バラバラになってしまった。
同じ学校に通っているのに、タクと話すことはめっきり少なくなった。タクは同じクラスや部活の男子と、私も女子とばかり仲良くするようになった。
中学で吹奏楽部に入った私が、グラウンドでボールを追いかける野球部を横目に帰路に着くとき、聞き慣れた夕方のメロディが鳴る。
夕焼け小焼けをハミングしながら、つま先で石ころを蹴とばした。蹴とばして、追いついて、蹴とばして、追いついて。足の指先だけに集中していれば、忘れていられた。
家の前まで来て、「また明日」と呟いた。笑顔で手を振り合うあの瞬間を大切に思っていたのは私だけだったのかな。夕焼けのオレンジが入りこんで、胸いっぱいに切なさが広がる。
「時間よ、進め。」
切なさに軋んだ胸から吐息交じりに吐き出した。
止まらない時間が私たちを離れ離れにさせたのなら、その時間が戻ることがないのなら、再び私たちが出会える未来まで。
私と彼と彼について