ふあんのたね
眠ろうとおもって目を閉じても
目の奥の方、頭のまんなかがムズムズしだす。
「どうも。不安の種です。」
ポッと耳元で声がした。
「一体どこのどなたですか?私は寝たいのですが」
「すみません、先ほど木からこちらに落ちてきたものですから。」
「木?木なんてどこにもありませんが」
不安の種はクスクスと笑った。
「おや、お気付きでない。貴方の頭から生えている大きな木ですよ。」
「もしかしてここはもう夢の世界ですか?」
「いいえ、残念ながらまだ現実です。」
頬をつねってみる。
痛かった。
「この木は貴方のもやもやを栄養として育っていきます。」
「もやもや・・・」
「そう。やがて葉が育ち花を咲かせると木は種を残す。それが私です。」
「はぁ。落ちてくるのは勝手ですがどうか眠らせていただきたい。明日も早いので。」
私は不安の種に背を向けるように寝返りをうつと再び目を閉じた。
「あのう…大変申し上げにくいんですがね。ほら、私は種でしょう?地面に降り立ったからには、芽を出したいんですよねぇ」
「でもおたく不安の種でしょう?芽が出ていいもんですかね?」
「問題ありませんとも。きっとね。」
「そうなんですか?」
「まぁ困るのは貴方ですしね。」
「やっぱりそうきますか…」
「降り立った時点で貴方が困るのは目に見えてますがね。ただね、私は悪者ではないんですよ。むしろ貴方の味方だ。」
姿は見えないがきっと胸を張っているんだろう。
「もやもやがしっかり花になり、種になってこうやっておりてきたんです。そのうちまた何かふってきますよ。」
「なにかって?なんですか?」
「なんでしょうかね〜。上手くは言えないんですけど。」
「はぁ。」
「はは。不安の種が言ってることです。あんまり気にする事はないですよ。ではそろそろ芽を出すための水をとってきますよ。ではまた。」
そうして不安の種は私の心にズブズブと身を沈めていった。
ふあんのたね