またいつか、と猫は言う。(腐注意)

帝国学園中等部を卒業する年の夏の終わり頃。

それは俺と彼の人生の分岐点と言っても過言ではなかった。


******

「…で、お前は結局どうするんだ?」
だらしなく寮のフローリングに寝そべり、不動は応じる。
「えー? どうって?」
そしてそのまま、床に放り出してあったビニール袋からアイスを出し、かじり始める。
「あのなぁ……。もう中三の秋だぞ? お前には緊張感って物がないのか? 進路の話だ、進路!」
「べつにィ? 俺とお前なら何処でも行けるんじゃね?」
「ふざけるな! そんな甘く見てると今に泣くことになるぞ?!」
食べ掛けのアイスを舐め、不動は溜め息をついた。
鋭く大きな瞳を細め、俺を非難する目付きだ。
「ギャーギャーギャーギャー…。お前はいつから俺の監視役になったわけ? うるせぇったら…。」
言われてみればそうだが、しかし、いつも自由勝手にされていて、気にするなという方が酷という物だ。
きっとこの男は、深夜に俺が受験勉強をしていてもお気楽に寝ていられるのだろう。
自由、勝手、気まま、気紛れ。
そんな言葉が似合う、猫のような人間なのだから。


「んで? なんだっけ、進路? 一応決まってっけど。」
急に予想外の答えを返され、俺は目を見開いて固まってしまった。
「……え? 決まってる?」
投げやりにうなずき、不動はアイスの棒を軽く噛んだ。
「うん、気になる高校はあるけど。…鬼道くんはどうなの?」

ぎくり。

顔に出たのだろうか、不動がぽろりと棒を落とした。

「うっわ…鬼道くんサイテー……。」

そうなのだ。今年に入ってからことあるごとに不動を急かしてはいたが、当の俺は先が全く見えていなかったのだ。
せめてもの決断として、つい最近『帝国学園高等部以外に進もう』と決めることは出来たが…。それ以後は。
「はあ…。結局決められずに焦るのは俺か……。」
うなだれる俺を見て不動がにやりとし
たのが、視界の隅に写った。その表情は、何か企んでいるときよりは、俺で遊んぼう思っているときによく見る気がする。
「…なんだ、その顔は。」
不機嫌丸出しで問うと、不動は口を開いた。
「俺が行きたい高校教えてやろうか?」
黙っている俺に、不動はさらに付け足す。
「寂しがりな鬼道くんなら、同じ高校行きたくなるんじゃないかなぁ…なんて?」
「ばっ…! そんなはずないだろ?! おちょくるのもいい加減にしろ!」
「おちょくるぅ? 事実じゃね?」
そう言い、不動は軽い身のこなしで立ち上がる。そのまま俺に歩み寄り、小馬鹿にした笑みを浮かべた。
少々の身の危険を感じ、椅子の上で体を引くが、椅子の背が邪魔をしてあまり体勢に差はない。
「鬼道くん」
甘い声で呼ばれ、背筋がぴきんと凍り付く。
一体、何を考えているのか…。全く予想出来ない。
自由人不動の手が、俺の手をとる。火照った俺の手に反して、不動の手はひんやりとしていて少し心地よい。
自分の手と不動の顔を見比べ、戸惑いを隠せない俺の目の前で、不動は片膝をついた。
「鬼道くん、俺の選んだ高校に来てくんない?」
その王子を気取ったような姿勢で、彼は俺の手の甲にそっと口づけをした。
「色仕掛けには…」
乗らない。
そう言おうとした口が止まる。
不動の視線がまとわりついて、気恥ずかしい。
「なあ、きどーくん?」
生チョコ並みに甘い声で再び呼ばれ、俺は手を振り払い、立ち上がった。
「…か、考えてやってもいい!」



それから五ヶ月が経った。
現在三月頭。俺は、不動の選んだ高校に進むことを決め、そして合格した。
しかし、不動にはもう三ヶ月近く会っていない。帝国学園の寮では部屋が隣の為、高校の話をしたあの日までは、しょっちゅう不動が俺の部屋に遊びに来ていた。それなのに、あの日を境に一度も来なくなっていた。

それと、気になったことがひとつ。

不動が選んだという高校。本当に不動が入りたがっているのか、信じがたかったのだ。
その高校は、俺の心を見透かしたように、帝国学園高等部ではなかった。が、とても不動の過ごしやすい環境とは言い難い。
卒業から大学進学、または就職までしっかりとサポートされているものの、その代償のように校則は他校よりもかっちりしていて、不動のような自由人が行きたがりそうにないタイプの学校だったのだ。


そしてその考えは、当たっていた。



卒業式の次の日。
不動から一通のメールが来た。

【本文】
鬼道くん、
卒業と高校合格おめっとさん。

あんたのことだから、
あの高校なんてカンタンに
合格したんじゃねえの?(笑)



高校の話だけど、

悪いけど俺が気になってるって
言ってた高校は別んとこなんだよね。



鬼道くんに教えた高校は、
俺が悩み性の鬼道くんにあげた
選択肢的なものでさ、

あんたが過ごしやすそうな
高校見つけて、
教えたってだけのことなんだぜ?

で、教えろって
煩く言われる前に言うけど、

俺の選んだ高校はかなーーーり遠い。

どれくらい遠いかって言うと、
海超えちまうくらい遠い。



わかるかもしんないけど、
俺は海外に行く。



海外行って、


自由~~~に過ごしとくわ。


寂しい、とか
行くな、とか

返信してくんじゃねえぞ?


根性の別れじゃねえんだからさ。


またいつか、遊びにいく。

じゃ、また!


***
そうだな、不動。
またいつか。

その『いつか』が巡ってきた頃に、早く言わなかったことについて文句を思い切り言ってやることにしようか。

end

またいつか、と猫は言う。(腐注意)

またいつか、と猫は言う。(腐注意)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-08

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work