「35億円と指輪」キャンペーン

1.砂となって消えたおにぎり

「ウプッ!」
 俺が噛り付こうとしたおにぎりは、口に入る直前、細かな砂となり全てが霧散した。
 俺はコンビニの外でしばし茫然としたが、ふと我に返り、
「……よく、ある事なんだよな……。この指輪を着けている限りは」
 俺は、左手親指に着けた、紫色に妖しく輝く指輪を見て、いささかげんなりした。

2.俺の置かれた状況(残金34億9999万とんで20円)

 俺、成川一二(なりかわいちに)は普通の高校生。
 ただ一つ普通の人と違う点と言えば、つい最近「35億円と指輪」というキャンペーンに当選してしまったことだ。
 このキャンペーンは世界規模で実施されていて、誰でも応募することが出来る。しかし、その目的は一切不明。後援とされる組織も不明。
 当選した場合、その証となる指輪を嵌めて生活を送る事になる。その為、皆、口に出しては言わないが、「この人は『あのキャンペーンの』当選者だ」という事はすぐ分かる仕組みになっている。
 35億円と考えると、ごく一部の大金持ちを除いた普通の市民にとっては途方もない大金で、当選したら大層幸せなのではないかと思われることもある。
 しかしこれが大きな、大きな、大きな間違いなのだ。
 何故かというと、この35億円、いわくつきで、普通に使用できる代物ではない。
 使った分だけ、何らかのリスクを負う事になるのである。「何らかのリスク」というのは、使用してみるまで分からない。
 例えば俺は、さっきおにぎりを2個、35億円の中から240円を支出して買った。タラコとシャケだ。
 そしたら、ひとまずタラコは美味しく食べる事が出来た。
 しかし、シャケおにぎりの方は、奇妙なことに、噛む直前に細かな砂となり霧散してしまったのだ。どんなテクノロジーがバックグラウンドで働けば、おにぎりが突然消滅するのか。理解に苦しむ。
 しかし、そんな現象が実際に目の前でドンドン起こるのである。

 俺は、このキャンペーンに当選する前、他にも当選したと『思われる』人の体験談を読んでみた。
 それで印象的だったものを一つ挙げると、某国のA氏(仮名)は、当選した瞬間に20億円の豪邸を購入したが、その家に辿り着くのに「50年」かかったというのである。しかもそれは、20億円の豪邸を購入したが、家庭の事情でどんどん豪邸から地理的に離れてしまった為やむなく売却、また豪邸を購入、しかし諸般の事情でまたも辿り着けず売却……を繰り返し、気付けば50年の年月が経っていたというのである。この話の真偽は定かではない。


 

「35億円と指輪」キャンペーン

「35億円と指輪」キャンペーン

俺、成川一二(なりかわいちに)は普通の高校生。ただ一つ普通の人と違う点と言えば、つい最近「35億円と指輪」というキャンペーンに当選してしまったことだ。35億円と考えると、ごく一部の大金持ちを除いた普通の市民にとっては途方もない大金で、当選したら大層幸せなのではないかと思われることもある。しかしこれが大きな、大きな、大きな間違いなのだ。何故かというと、この35億円、いわくつきで、普通に使用できる代物ではない。購入したおにぎりが砂となって消えたり、豪邸に辿り着くまで途方もない年月を費やしたり、とかく妙な事が頻発するのである。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-07

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  1. 1.砂となって消えたおにぎり
  2. 2.俺の置かれた状況(残金34億9999万とんで20円)