遭難

カオリは船内の部屋でコインをじっと見つめていた

カオリは船内の部屋でコインをじっと見つめていた。《ニコルは、私のことを愛しているかしら?》そう問いかけてコインをトスしようとしたが、やめた。そして《ニコルは私の部屋へ来るかしら?》と問い直し、コインをトスする。オモテが出た。答えはYESだ。
「カオリ」ニコルが部屋へやってきた。そして続けてこう言った。「食糧が、尽きそうだ」
カオリとニコルの二人を乗せた船は、風のない海の中であてもなくさまよっていた。二人は遭難していた。
「そう」カオリは深刻な表情でうなづく。いよいよ、この時が来たのだ。カオリはコインを握りしめた。助かる方法が、一つだけある。

カオリには不思議な力があった。問いかけをして、コイントスをするとその答えが必ず現実のものとなる。オモテが出ればYES、裏が出ればNOだ。《わたしたち、助かるかしら?》と問いかけてコインをトスすれば50%の確率で助かるのだ。危険な賭けではあったが、もっとも助かる確率の高い方法でもあった。
「ニコル、家に帰りたい?」カオリはニコルに向かって訊ねた。「もちろんだとも。家で待つ妻と子どもたちのためにも」カオリの決心を鈍らせる問題がもう一つ。ニコルには家族が、妻子があった。ニコルと二人で生活をしていられるのは、遭難をしている今だけなのだ。できることならいつまでもこうしていたい。しかし、恐ろしい餓えがもうそこまで迫って来ている。もはや迷っている猶予はない。
その夜、決意をした顔でカオリはベッドを抜け出した。《わたしたち、助かるかしら?》そうコインに問いかける。そして重力発生装置の電源を切ると、船外服をまとって“船”の外へ飛び出した。そのまま海へ、星の海へとコインをトスする。
「ニコル、ごめんね」カオリの視線は、オモテとウラを交互に見せながら果てなき宇宙へ旅立ったコインを追いかける。やがてコインは消えた。
「助かる」という答えにも「助からない」という答えにも到達しないまま、二人の旅は続くだろう。永遠に。



++超能力者++
片平カオリ(カタヒラ・カオリ)
ESP:コイントスの答え通りに現実が決定する

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遭難

2分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

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更新日
登録日
2014-10-07

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