童話 愚かな探偵のはなし
昔昔、というほど昔ではない少し昔。
頭のきれない探偵が、町の片隅に事務所を構えていました。
その探偵事務所は、たったひとりの探偵が、推理小説ばかり読んですごしていました。
彼は、推理小説を読んでいるある昼間、じぶんが売れる方法を思いつきました。
しかし、それは大きな事件が起こらなければ実行できません。
彼は、辛抱強くときをまちました。
そして、ついに彼のまちのぞんでいた『とき』がきました。
ある有名貴族の奥方様が、なにものかにころされたのです。
探偵は、呼ばれてもいないのに貴族の家にでかけました。
そして、くびをひねって悩んでいる警察官に、偉そうにこう言いはなちました。
『私なら、この事件の犯人がわかる。頭のかたいあなた方とはちがうからな。』
だれだ、部外者はでていきなさい。
警察官はおこって追い出そうとしましたが、探偵はでていきません。
『まあまあ、私の推理をお聴き。』
そう言って、テーブルクロスのしたからちいさな小瓶をとりだしました。
『おっと、これは毒ではないか。』
警察官はあっけにとられています。
たしかに、さっき見たときはなかったはず。
『私はこの毒を、あるひとに見せていただいたことがある。この世界で、この毒のそんざいをしるのは私と彼だけだ。なぜなら、この毒をつくったのは、彼なのだから。』
警察官は、神妙なかおできいています。
彼、とは?
ひとりの新米警察がききました。
探偵は、たからかに言いました。
『かの有名な、ルドルフはかせだよ。しかも、彼は、母親をこの貴族のだれかにころされたと言っていた。私だけに、と教えてくれたのさ。』
ふとった警察官が、探偵のかたに手をやりました。
『もうすこし、はなしを聞かせてもらおうか。』
探偵は鼻がたかくなり、ふんぞりかえって『いいですとも』とこたえました。
警察署にきた探偵に、手錠がはめられました。
『なにをする?!犯人はルドルフだぞ!!』
わめきたてる探偵に、さきほどのふとった警察官がつげました。
『ルドルフとは仲がよくてな。去年なくなったときかされていた。』
『なくなった?!』
探偵はまっさおになってかたまりました。
『彼からきいたが、きみ、ルドルフのおとうとさんだそうじゃないか。母をころされたルドルフに犯行動機があるのならば、きみにもあるんじゃないのか。』
探偵は、いいえ、毒を盛った殺人犯は、けもののようなこえでさけびました。
そう、彼は、みずから殺人事件を起こして、みごとに解決し、その罪を兄にきせようとしていたのです。
すべては、彼のおろかさがまねいた悲劇でした。
そんな愚かな彼は、兄の死をしることもなく、かなわね夢を小説を読みながらふくらませていたのです。
ああ、なんと愚かな人間なのでしょう。
童話 愚かな探偵のはなし
愚かなひとが、愚かな考えで儲けようとし、あわれな終末を迎えたとさ。黒いコメディ童話のお仕舞い。