魔法とサクラ

長瀬 義之(ながせ よしゆき)
得意魔法・黒系統
専用魔法・カオス
魔法使いの中でも上級者に位置するほどの人物。現在は、蛍野沙奈と行動中。

蛍野 沙奈 (ほたるの さな)
廃墟エリアで不良に絡まれていたところを義之に助けられ、行動を共にしてる。魔法使いであるが、魔法は現在使えない。複雑な家庭事情を持つ。

藤宮 莉奈 (ふじみや りな)
得意魔法・回復系統
義之の友人であり、魔法使い。だが、【魔法テロ】以降、行方不明。

四ノ宮 竜二 (しのみや りゅうじ)
得意魔法・炎系統
義之の友人であり、魔法使い。オールマイティの魔法使いだったが【魔法テロ】以降、行方不明。

神羅 雷 (かみら らい)
得意魔法・不明
専用魔法・death-time
元・ホーリーブレスの最高幹部。義之を今の実力まで育てた人物。腕はかなりたつ。ある女の人と出会うまで、殺戮兵器に等しい人物だった。魔法テロ以降、行方不明。

アンジェ・ホーリー
ギルド ホーリーブレスの元マスター。5賢者の一人。一度、サイド・デドリーと戦い重症を負い、魔法テロ以降、行方不明。

アリア・ジュライト
ギルド ホーリーブレスの回復リーダー。回復系統に関しては、右に出るものはいない。莉奈の師匠。魔法テロ以降、行方不明。

サイド・デドリー
専用魔法・サイコキネシス
5賢者よりもさらに上の三大賢者の一人。専用魔法が厄介なため、アンジェ、義之、雷は過去に苦戦を強いられた。エンドポイントを破壊した張本人。魔法テロ以降、他の魔法使いの立場を悪くした。

レン・クム
ギルド ホーリーブレスの元最高幹部。サイドと手を組んでいたので、完全な裏切り者である。サイドについている。魔法テロ以降、目撃されていていない。

サクラ
三大賢者であるが、義之に保護された際にすでに記憶が無かった。だが、エンドポイントを作った人物であったようだ。魔法テロ以降、行方不明。

第二章・元・日本

暗い一室で会議用の長テーブルを囲み、10人の人間が席に着いている。正面と思われる壁には巨大なモニターがありそこには、【魔法強化人間兵器】の文字が投影されている。
「昨日、元・日本での空港で長瀬義之が発見されました」
その言葉の後にモニターに義之の顔が表示された。
別の男が声をあげる。
「やっとか!チィ、手間をかけさせてやがって」
その後、各々が勝手に口を開け喋りだす。
「やっと、見つけましたね。捕獲順位3位」
「すぐに、捕獲するべきでしょう」
「だが、藤宮莉奈、神羅雷、アンジェ・ホーリー、の確保はどうする?」
「それに最重要被験体サクラもです」
「まずは、先に捕まえることに越したことはないでしょう」
「それに追加情報として、同行している者が一名。蛍野沙奈です」
「ならこいつを人質にでもすればいいだろう。奴は、見捨てはしない」
「よし、No.16を出動させろ」
「「「我ら、フォクス・デンベールに光あれ!」」」
全員が拳を振り上げ、叫んだ。


ーーー
謎の組織【フォクス・デンベール】の会議が行われた、1日前。
元・ヨーロッパの街をフードを被り、空港を目指している義之、沙奈。
恐らく、沙奈は大丈夫だろうが、義之は一応サイド・デドリーにより顔が公開されているので、念のためにフードを被っている。逆に空港に着くとフードをとる。こんな慌ただしい場所ではいちいち、他人の顔なんてそうそう見ないものだ。
義之の狙い通り、無事に元・日本行きの飛行機に乗り込むことができた。席に座ると沙奈が声をかけてきた。
「パスポートっていらないですね。初めて知りました」
「昔は必要だったけどね。【魔法テロ】以降、街と呼ばるのが残っている、元・日本、元・ヨーロッパ、元・アメリカの三ヶ国だけでパスポート無しの条約が結ばれたんだよ」
「なるほど‥義之さんがいるとインターネットは入りませんね」
「それは褒めすぎだよ。さすがに機械には敵わない」
その後、二人はとりとめのない話で機内の時間を過ごした。しばらくすると沙奈は喋り疲れたのか眠ってしまった。ちょうど、トイレに行こうかと思って席を立とうと義之が立ち上がったら、沙奈が手を握っていた。義之は驚いたが、沙奈がいてほしいなら、ここにいようと決めた。沙奈の無防備な寝顔を見て、義之はドキッとして慌てて、顔を逸らした。
(こんなにカワイイのに‥何で、俺について来るんだろう‥?)
と、義之が心の中で思ったのを知るのは、本人以外、当然いない。
知らぬ間に義之も寝てしまい、起きたら飛行機に乗り6時間ほど経った頃だった。元・ヨーロッパから元・日本までは約12時間なのでまだ、もう少し寝ようとしたら、不意に右肩あたり、つまり沙奈の席から肩にかかる重みに気づいた。右側を見ると、沙奈が自分の肩に沙奈の頭がもたれかかっていると瞬時に分かった。義之は人生で一番の緊張感とも言えぬ、ドキドキ感に心を支配された。さすがに無防備にもほどがあるのでは?と頭をよぎったが、信頼してくれているのだと思い、期待を裏切らないために頭を切り替えた。手も見ると握られたままだった。義之も少し、握り返した。そしたら、沙奈の顔が安心したようになった。再び、義之は眠りに就いた。
間もなく到着の放送が流れ、そのアナウンスで目を覚ました。それに合わせ、周りの客も起き出した。義之はまだ目覚めない沙奈を起こした。
「沙奈、もうすぐ着くぞ」
少し、揺さぶるが起きないのでさらに強く揺さぶった。そして、ようやく起きた沙奈は寝ぼけながら、自分が義之にもたれかかっていたのと、手を見て驚いた表情をした。
「‥‥私、もしかして‥義之さんにもたれかかってました?」
「そうだよ。ついでに手も握っていた」
「あわわわわ‥どうしよう?迷惑でしたよね?」
「そんなことないよ。逆に役得だったかな‥沙奈のカワイイ寝顔も見れたしね」
義之は口にした途端、自分が言ったことに恥ずかしさを感じた。
沙奈は義之の言葉に驚き、だんだん小声で言葉を発した。
「カワイイ‥そんなこと義之さんに言われたら‥でも‥ゴニョゴニョ‥‥」
義之は後半は全く聞き取れないでいた。
そんな二人の間に妙な空気が流れた。でも‥義之は沙奈の手を離さず、又沙奈も義之の手を離すことは無かった。周りから見れば、恋人同士に見えそうな絵だった。

ーーー
元・日本に着いたのは、夜だった。義之は元・ヨーロッパでは野宿同然であったが、さすがに沙奈にはそんなことできないと考え、元・日本からはちゃんとした宿をとりたいと思っている。リスクを減らすために自分だけなら野宿でもいいと考えていたがさすがに女の子そんなことさせるには気が引けた。
魔法使いの立場が悪いとは言え、結論を言えば魔法使いと一般人を見分けることは現状ではできない。自分は心配性なのかと義之は初めて気づいた。ただ万が一の可能性があるので、常に警戒を怠らない体勢でいようと思った。
可能な限り街中は避けて遠くの宿をとった。
「義之さん、本当に宿とって大丈夫なんですか」
「いいんだよ。俺も野宿は正直疲れてたんだ。それに敵の心配はしなくていい。防御魔法の『絶対防御』を展開してるからね。それに、元・日本は元・ヨーロッパに比べて安全だと聞いたことがある」
「義之さん、『絶対防御』って何ですか?」
沙奈は魔法使いではあるが、【魔法テロ】以降、魔法が使えない部類に含まれる。そのため、魔法使いながら魔法には疎い。使えなくなる前に魔法学院の存在自体を知らないので、どのみち魔法には疎いのかもしれない。
「何て説明したらいいかな‥。そのままの意味で、俺よりも下の魔法使いの攻撃なら全く通さない。同等もしくは以上でもある程度の時間なら足止めはできるけどね。まぁ、あくまでも魔法対策だから、一般人のゴロツキとかは無理だけどね」
義之はわかりやすく説明したつもりだったが、沙奈に一つの不安を残していた。それを恐る恐る聞く、沙奈。
「もし‥一般人が襲ってきたら?」
そんな心配かと、義之は自信げに答える。
「もちろん、その時は俺が退ける。多少は魔法無しの対人戦もできる」
沙奈は口を開けたまま、義之を見ていた。実際、義之は対人戦闘スキルも身につけいる。
「義之さんって何でもできますね。私、いても大丈夫ですよね?」
沙奈は自分が足を引張ていると思い提案するが義之はすぐさま両断した。
「それは無い。いいかい?絶対に一人で行動するな‥絶対に見捨てたりしない」
沙奈は義之の言葉に黙って頷いた。

ーーー

久々の宿での泊まりで義之は露天風呂で羽を伸ばしていた。ご飯も済ませ、沙奈が大浴場に行くと行ったので、自分もついて来たのである。男風呂には義之しかいない。宿泊客は他にもいたが、露店風呂は貸切だった。
「義之さん、男風呂も一人でしょう?」
不意に竹で仕切られた、向こう側つまり、女湯から沙奈の声が聞こえた。
「もってことはそっちも一人か‥」
「そうですよ。義之さん、気になってこと聞いてもいいですか?」
直接は言いづらいのか、といっても声は聞こえるが。かといって、断る理由もないので、快く返事をすると沙奈が質問してきた。
「仲間を探すのも一つの目的なんでしょう?その仲間ってどんな人たちなんですか?」
沙奈の言葉通り、義之は魔法テロ以降、行方不明の仲間を探している。その他にも、目的はあるが。
「どんなか‥まず、俺の同級生の四ノ宮 竜二は悪い奴に見えるけど‥俺よりも遥かに人情が厚いかな」
「義之さんも、十分厚いと思いますけど」
「そうかな?まぁ、その議論は置いといて。他には、藤宮 莉奈。ちょっと事件があって、一年留年しているから、同じクラスだけどね。莉奈は‥そうだな‥優しすぎるんだよ」
「事件ってあんまり、詳しくは聞いてはダメそうなのでやめておきます。他には?」
「他か、俺に魔法の指導をしてくれた、師匠かな。正直言って、この人は強すぎる。多分、俺の知ってる魔法使いで一番強いと思う」
「でも、義之さんってたしかホーリーブレスとかいう、ギルドにいたんですよね?」
「いたよ。あぁ、なるほど、マスターのことか。確かに、マスターのアンジェさんも強いけど、やっぱり雷さんの方が強いかな」
「一度、会ってみたいですね」
そんな話をしていると、結構な時間になりのぼせるといけないので、お互いに上がり、入り口で落ち合うことにした。
男の義之はすぐに入り口に出て、沙奈を待っていた。何か飲もうかと思ったが、沙奈が来てからにしようと思いやめた。
すると義之が出てから、5分ほどで沙奈も出てきた。髪も少し濡れていて、宿専用の浴衣に着替えていた。義之は普段着だ。元々、元・ヨーロッパにいたとはいえ、沙奈は日本人だ。浴衣はとても似合っていた。あまりの美しさに義之は慌てて、目を逸らした。
沙奈は少し首をかしげたが、義之の心は見抜かれはしなかった。
義之は沙奈も来たので、何か飲もうかと誘い、お互い好きなものを一本ずつ購入し飲みながら部屋に戻った。

ーーー

当然部屋には二つの布団が敷かれていた。今、思えば義之と沙奈は恋人同士だと思われている。部屋をとるとき、受付で2部屋とろうとしたが、お金も勿体ないし一緒の部屋でいいと沙奈が提案し、義之も渋々了承した。別に沙奈が嫌なわけではない、ただ単純にそれなりの年の男女が、ましてや恋人でもないのに同じ部屋でいいのかということだけだ。挙げ句の果てに、受付では恋人同士と思われていた。義之は当然、この手のことに経験がないので困惑するだけであった。沙奈も照れて顔をうつむけたままだった。
「えぇーと、沙奈ちょっと離して寝ようか?」
「いいじゃないですか。そのままで、私は別に嫌じゃないですよ。でも、義之さんは困りますか?」
「嫌じゃないけど、正直に言うと‥‥‥いや何でもない」
「何ですかーそれ。教えてくださいよ!」
義之はこの時に初めて思った、沙奈は小悪魔じゃないかと。
ここに来る途中、義之はコンビニで夕刊を買っていた。一応、元・日本の状況を知るべきだと思ったしだいだ。国外の状況は【魔法テロ】を境目に、手に入りにくくなった。どの国も自国復興でそれどころではないのが現状だ。
義之はどうせめぼしいことは無いだろうと思っていたが、ある一つの見出しに目がいたった。それは【第2回・魔法者捕縛作戦】。そう言えば、元・日本は魔法使いのことを【魔法者】というのも珍しくない。記事の内容は、政府直属の軍が決行する魔法者を捕らえるための見出し通りの記事だった。【魔法テロ】後にすぐに【魔法者捕縛作戦】は行われた。これが1回目。たった、2年で使い切った戦力を回復できたのか?そもそも、【魔法者捕縛作戦】と言えば聞こえはいいが、実際は事件に便乗し増えすぎた人口を減らすための政府と魔法者がグルだと言う噂もある。
どちらにせよ、魔法使いは公の存在となり、立場は悪い。政府は何を企んでいるだ?
義之は政府の意図が理解できなかった。
「義之さん?どうしたんですか?難しい顔して?」
いつの間にか新聞に夢中になっていたようだ。義之は、沙奈を見て何もないと言う。
結局この日は義之と沙奈はすぐに寝た。沙奈は義之の布団の中に手を入れ、手を握ったがそれはまた別の話。

ーーー
元・日本エリアに来て、2日目。元・ヨーロッパでの野宿とは違い、布団で寝ると全然居心地が違うと思った義之。
「まずは何をするんですか?」
義之が起きたのを見ると、沙奈は声をかけてきた。早起きだなと、関心していた。
「まずは‥人探しかな?マスターと、俺の知ってる人たち。魔法の研究とかには、マスターの方が詳しいだろうしな‥」
その日は、外に出て街の外へ向かった。魔法テロ以降、街を歩く魔法使いは珍しく、それなら廃墟エリアにいると確信があった。
廃墟エリアに入ってから、20分もせず人間たちの気配を感じた。
「義之さん‥誰かにつけられてますよ」
どうやら、沙奈も感じたようだ、義之は黙って頷いた。
「おい!誰だ⁈」
建物の陰に隠れているであろう人物に質問した。
「さすがは‥長瀬義之。初めまして。私は、【魔法強化人間兵器】No.16。あなたは我らに同行してもらいます」
物陰から出てきた、女は【魔法強化人間兵器】のNo.16と名乗った。義之は体が条件反射でその言葉に驚愕を覚えた。元・ヨーロッパでたまたま、聞いた単語をここで聞くとは思わなかった。
「あんた、【魔法強化人間兵器】って何のことなんだ⁈」
「それを知る必要はありません。ついて来てくれたら、分かりますよ」
「はい、そうですかとやすやすついて行くわけないだろう」
「なら‥力づくでも」
No.16は戦闘態勢、否、魔法戦闘態勢をとった。
「沙奈。奴を倒していく。ここに隠れてろ」
義之は沙奈に建物の陰に入るように促し、No.16を見据えた。
No.16は炎系統「トライアングル」を放った。この魔法は対象者を三角の魔法陣で包囲し内部を高温度にし、焼き尽くす炎系統魔法だ。
それに対し、義之は「絶対防御」を展開させる。三角形の内部には義之の一回りには火がなかった。No.16は魔法では義之には劣るようだ。
「さすがは‥捕縛対象者。ですが、最初に感じた複数の気配には気がつきたましたか?」
No.16の指摘通り、沙奈を目的としていた別の人間たちが襲いかかった。
だが、沙奈を襲いかかった人間たちは、吹き飛ばされた。
「沙奈を人質にして、俺を捕らえる予定だったんだろうが‥。面白くもないない作戦だな」
どうやら、義之は沙奈に何らかの防御魔法を張っていたようだ。
No.16は信じられない表情で立ち尽くしていた。
「バカな‥これは【カウンターシールド】⁉︎なぜ、お前が使える⁉︎」
No.16は【カウンターシールド】を喰らい両手を縛られ地面に転がった。【カウンターシールド】とはシールドに触れた魔法、物理的攻撃を相手そのまま返せる魔法だ。
「『お前が』?言ってる意味が分からないな。まるで、俺以外の誰かの専用魔法を見るような目で‥」
義之は相手が化け物でも見るような目を無視し、冷徹な目で敵の部隊を見下した。
「さて‥俺ならまだしも、沙奈に手を出したな?」
「待て⁉︎これは違う⁉︎そうだ‥お前を捕縛じゃなく、幹部として迎え入れてもらう交渉をしてやろう⁉︎どうだ?そこの女も、一緒にどうだ⁉︎」
No.16のありきたりな、敗北宣言を義之は哀れんだ。
「くだらないな‥燃え散れ」
その瞬間に敵の部隊を囲むように火柱が上がった。No.16が放ったのと同じ魔法で。ただ威力は桁違いだった。
沙奈はこの時こう思った。
(この人ってどこまで強いんだろう?)
義之と沙奈は今の火柱で警察が来るだろうと思い、慌てて立ち去った。

ーーー

フォクス・デンベールの会議室にて、No.16の敗北の通達が入った。
「さすがは長瀬義之。No.16では話になりませんか」
「だが、奴の【カウンターシールド】はどういうことだ⁉︎これを使えるのは、神羅雷とアンジェ・ホーリーだけではなかったのか?」
「奴は元々、ホーリーブレスの人間ですよ」
「なるほど、そこで秘術の魔法を習得しているとなると、彼も最重要被験体に加えるべきでは?」
「まぁ待て。もう少し、奴の実力を見てみたい。次は、No.10。それそろ、暴れたいだろ?出動してこい」
「マジっすか?陛下のお言葉のままに。我らフォクス・デンベールに光あれ!」
No.10はフォクス・デンベールの通過礼である、敬礼を捧げ退室した。
「陛下、もう一人の被験体のアンジェ・ホーリーが元・日本で確認されてます。誰か、向かわせますか?」
「いや、ほうっておけ。所詮奴はただの5賢者にすぎぬ。最弱のな」

ーーー
No.16との戦いの後、とは言っても実際は戦闘にすらならなかったが。義之と沙奈は街を歩いていた。戦いの後だからと言っても、時間は昼過ぎ。
「沙奈、今更だけど大丈夫だったかい?さっきの戦い」
「大丈夫ですよ。義之さんがなにも対策無しで置いて行くとは思いませんでしたから」
「なら‥いいけど」
(一応、人を殺しそうになったのに、平気で見れたな?)
と、心の中で義之は考えた。
街を歩いていると、いろいろな物が目に入る。沙奈はあまり街に来たことがないのか、物珍しいそうに店を見ていた。義之は歩き疲れ、沙奈の入って行った店の前で休憩していた。そこで一つの違和感を覚えた。何かの殺気がしたと、明らかに魔法の何かだと。
(No.16とか言う、仲間か?それとも、味方か?)
そこに一人の女性が歩いて来た。
「久しぶりですね。義之さん」
「マスター⁉︎」
義之の前に現れたのは元・ホーリーブレスのマスターのアンジェ・ホーリーであった。
その後、沙奈も帰ってきて事情を話した。それから、落ち着ける場所で話そうとなり、街の中の小さな喫茶店へと場所を移した。
それぞれ、欲しいものを注文し届いたところで、話を始めた。
「さて‥義之さん。もう回復しておきましたが、先ほど街で【ダークスパイダー】をかけられたのに気づきましたか?」
「いえ、何かを感じましたがまさか魔法とは思いませんでした。さすがは、マスター。ありがとうございます」
「いいですよ。仲間ではないですか。それよりも、今の世界情勢をどこまで知ってますか?」
「それが全く。ただ、No.16とか名乗る輩にはついさっき襲撃されましたが」
「⁉︎あなたのところにも?」
「そうですが‥も、という事はマスターにも敵が?」
「えぇ、その通りです。その襲って来た敵は【フォクス・デンベール】と言われる組織です。奴らは、人工的に魔法者を生み出し、それを強化した兵器を生み出しています。それが」
「【魔法強化人間兵器】ですね?」
アンジェの言葉を義之は繋いだ。
「聞いたことありましたか‥」
「はい、ですが‥一体なんのために?」
「単純な理由です。計画の過程で、魔法者を捕らえて実験をし、魔法使いの兵士を生み出し、世界の覇権を握ろうとしている」
「なるほど、よくある話ですね。ですが、No.16とやらは簡単に倒せましたよ。それほど脅威になるとは考えにくいですが」
「それはNo.16だったからです」
アンジェの引っ掛かりを覚える言い方に、義之は心を引かれた。

アンジェは義之が食いついたと判断し、話を続けた。
「No.10より上の兵士たちは、別格です。それこそ、5賢者をも凌駕する実力でしょう」
「⁉︎5賢者よりも上ですか‥それは厄介ですね。そして、聞きたいことが一つ」
「なんですか?」
「奴らの黒幕は一体誰が?レッドの連中か又は、サイド・デドリーですか?」
「恐らくは、レッドの連中だと思われています。事件以降、サイド・デドリーの行方不明です。ただ必ず生きいる」
「なるほど‥それで俺に何をさしたいですか?まさか、たまたま元・日本で俺に会ったというわけではないでしょう?」
「さすがは、あの雷が信頼を置いた人物。あなたには、決戦に参加してもらいたい。フォクス・デンベールもといい、レッドキラーの奴らを倒すために」
「決戦に参加って言っても、俺は今、【カオス】を使えませんよ。それでは戦力にならないでしょう。それよりも、最高幹部を呼んだ方がいいのでは?」
「‥‥知っての通り、最高幹部は四人いました。ですが、レンは裏切り、ヨル・リーの死亡が確認されています。残りの、クライと雷の行方は不明です。付け加えるなら、藤宮莉奈、四ノ宮竜二、坂井絢香、アリア・ジュライト、サクラも行方不明です」
「やはり、全員行方知れずですか。それと‥‥ヨルさんが?いったい誰に?」
義之にとって彼女はただの顔見知り程度だが、仮にも元・最高幹部であるヨルが死亡とは敵の戦力も侮れないと思った方がいい。
「不明です。しかし、私が遺体を見たとき死因は何か風のようなもので斬られた痕に見えました」
「風ですか‥‥。最高幹部を倒すような相手に俺が勝てるとでも?」
「分かっています。決戦までに【カオス】を使えるようにしといてください。私は残りの、メンバーを揃えます。決戦が近くなったら、連絡します」
「いつ頃になりますか?」
「できれば今年中にと考えています」
「ってことは‥今が2016年の5月だから‥約半年ですか‥。なら専用魔法を引き出しておきます」
「頼みましたよ。義之さん、それでその女の子は?」
「あぁ、この子は‥」
義之が紹介しようとしたら、沙奈は唐突に声を上げた。
「私は蛍野沙奈です」
「蛍野?まさかあなたは蛍野家の?」
「あの、かは知りませんが虫の蛍に、野原の野で蛍野ですけど‥」
「やっぱり!あなたのお義父さんである、蛍野義弘(ほたるの よしひろ)さんに、お世話になったことがあるのよ。それで、義弘さんは?」
「父は数年前に‥」
「そうでしたか‥こんな話をしてはダメですね」
「いえ‥そんな気にしないでください。父とはどのような知り合いで?」
「義弘さんには、魔法研究の手伝いをしてもらってたのです。彼には回復系統魔法に長けていました。私は彼に最高幹部に就いてほしいと頼みましたが、小さな娘がいると言っていたので拒みましたが」
義之は二人の会話に割り込んだ。
「その娘って沙奈のことか?」
「恐らく、そうでしょう」
「お義父さんがそんなこと‥」
大切に育てらていたとはいえ、本当の子供ではないのだ。でも、沙奈のお義父さんはそれほどまでに沙奈を大事にしていた。沙奈は涙を流しながら義之に抱きついた。義之は沙奈の背中をさすりながら、手で背中を軽く叩いた。
その後、沙奈が落ち着きを取り戻したのでアンジェと別れた。

ーーーー
新聞、テレビなどで発表があった【魔法者捕縛作戦】の捕縛任務を担当することになった、勝谷飛龍(かつたに ひりゅう)大佐は軍の駐屯地で寝泊まりしていた。明日、決行される作戦に備え。正直、飛龍大佐はうんざりしていた。彼は第一回目の作戦にも参加していた。その時彼は一般兵として参加していた。だが当時の作戦は村や町を焼き払うという一般人も魔法者も無差別に殺戮しただけだった。政府はこの騒ぎに乗じて世界人口を減らしたかったのである。作戦のおかげ建物は減ったのものの狙い通りの人口まで減らせたと政府は高笑いだった。
「また今回も、ふざけた戦いなんだろ」
飛龍大佐は独り言を言ったつもりだったが部下の篠原直斗(しのはら なおと)少佐には聞こえていた。
「飛龍大佐はただの殺戮だと?」
「当たり前だ。お前も見ただろう?当時の人々の恐怖の目を」
「‥‥‥たしかに、政府は間違っているとは思いますよ。ですが、飛龍大佐あなたの言っていることは理想論だ。そうでもしないと日本はあのまま終わっていた!俺はあの事件で妻も子供も亡くしました!そのおかげ俺は存在してると思うと嫌になります」
このまま二人の会話は途切れた。重苦しい空気のまま明日を迎える。
【第2回魔法者捕縛作戦】が開幕した。

ーーーー
時刻は午前8時。軍のヘリ、戦闘機が空へと飛び立つ。廃墟エリアにいるという魔法者の殲滅という表向きの理由で政府は戸籍を持たない、人間の殺戮を開始した。
(全てが狂ってる。何人の一般市民がいると思ってる⁉︎)
飛龍大佐は内心、政府はただのバカなんだと再び思い出させられた。今、彼は地上で第106部隊の指揮を執っている。傍には篠原少佐も控えている。開始から20分ほど経った頃、一人の部下の男から報告が入った。一人の男が軍の基地の中で暴れているとの。正体は不明。一人の女を連れているとのこと。
「何が目的でしょう?」
「さぁな。わかった、私が行こう。篠原付いて来い」
飛龍大佐は篠原を連れて敵の元へと向かった。
2人が着いた頃には周りの兵士は倒れていた。
(殺していない?何故だ、なにが目的だ?)
「おい!お前何者だ?」
飛龍大佐は男に問いかけた。
「俺は長瀬義之。あんたは軍の偉いさんか?」
「君が、あの長瀬義之‥。俺は勝谷飛龍大佐だ」
この出会いが政府の作戦の本意、そしてその先の目的を知ることになる。
2人が出会った時刻を持って作戦終了の時刻となった。作戦の結果、捕らえた魔法者は47名とのことだった。

ーーーー
「貴様!魔法者か⁉︎」
作戦が終了したのにもかかわらず怒鳴り声をあげているのは篠原直斗だった。
「そうだが‥」
義之は篠原の威圧的な態度にも動じず答えた。魔法者はすでに公の言葉だ。隠すこともない。
「お前ら魔法者のせいで俺の家族は⁉︎殺してやる!」
篠原は義之の態度が気にくわないのか、彼を狙わず沙奈に襲いかかった。大方、先にひ弱な方を捉えようとしたのか。だが、義之は篠原の行動を先読みしていたように防御体制をとったが、それよりも先に隣にいた飛龍大佐が篠原を素手で制圧した。殴りかかろうとした篠原の腕を飛龍大佐が掴みそのまま片手で一回転させた。
「少し黙ってろ」
転げたままの篠原に一言告げ黙らせた。
「すまなかったな。俺は元・日本エリア軍都の葉山部隊の指揮を執っている勝谷飛龍大佐だ」
彼の言う軍都とは元・日本のあちこちに存在する軍の基地を指している。葉山とは地名の名前。葉山は元東京の近郊に位置する街だ。義之はこの時疑問に思った。なぜ都心の中にある軍都が今回の作戦に参加したのか?新聞で見た記憶はよく考えれば不可解だった。今回の作戦には都心の軍都ばかりが出動していた。これでは魔法者に対する防御力が0に近い。ここでようやく義之は閃いた。
軍都がもぬけの殻のうちに何か企んでいるのか?いや違う人が邪魔なんだ。一体何が目的だ?
「勝谷さん、捕らえた魔法者はどうしていますか?いや‥どうなりますか?」
「どうなるも何も捕らえて政府に引き渡す‥いやしかし‥そうか」
義之の質問の意図に気づいたようだ。
「えぇそうです。政府は魔法者に何をしているのか。それが分かればいいんですが」
義之はレッドとは別に何か得体の知れない者が政府の背後にいると思っていた。それが今回の作戦の黒幕。
「勝谷さん。政府の中央エリアまで入れますか?」
「無理だ。誰もあそこには入れない」
「なら、強行突破と言いたいですが‥さすがに最新のシステムで守られた場所は魔法でも難しいですからね」
現在の防衛システムは厳重だ。【魔法テロ】以降、魔法者に対する警備が発達した。魔法者が入れば警報が鳴り、排除システムが作動する。魔法を使ってもまた同じ。とにかく対人ではなく対魔法なのだ。
「今は無駄だろう。政府は対魔法に徹底的に取り組んでいる」
「ここでこう考えるのはどうですか?飛龍大佐、本当は外部の魔法対策ではなく、内部からの抑止力だとしたら?」
飛龍大佐は義之の言いたいことがわかった。
「この作戦の真意は魔法者の殺戮ではなく‥捕獲、実験が目的か⁉︎」
義之は飛龍大佐の言葉に首肯で返した。
(だとしたら‥政府とレッドはグルなのか?いや‥目的は別か?)
一応、義之はレッドの件については黙っていた。これは魔法者の問題だと。
「義之君、君の考えを少し調べてみよう。連絡先を教えてもらえるか?」
「わかりました。俺なりにも調べてみます」
ここで飛龍大佐と義之は別れた。
ーーーー
「ずいぶんと強引な手段でしたね」
沙奈の声に耳を傾けながら義之は街へと向かっていた。
ちなみに【第2回・魔法者捕獲作戦】行われたのは廃墟地帯であった。
「まぁね。今回は配置がおかしすぎるから。どこの軍都の人間でもよかったから接触する必要があった」
ようやく街の形が遠くに見え始めたのでもうすぐ街に着くと二人とも思った頃。不意に後ろから声が聞こえた。
「よぉ‥軍の連中との話は終わりか?」
やはり敵かとため息まじりに義之は声のした方に振り向いた。
「あんたは?軍の犬って感じじゃないな。ってことはNo.とか呼ばれるやつか?」
義之の質問に現れた男は面白そうに目を細めた。
「よく知ってるな。さすがは‥神羅雷直系の弟子といったところか。俺はNo.10」
義之は何度も神羅雷に反応する知名度に驚かせさせられた。一体あの人は何者なのか?
「あっそ‥で、俺に何の用だ?」
「悪いが‥我らフォックス・デンベールについて来てもらうぜ」
「フォックス・デンベール?レッドの隠し名か?」
「おしゃべりは終わりだ。表へでろ、女には手を出さないから安心しろ」
義之は沙奈を下がらせ、カウンターシールドを念のために貼っておいた。
No.10は左手がボタンがいくつかついて機械化していた。その手を出し多くあるボタンの一つを押した。すると、目にも止まらない速さで義之の目の前まで接近していた。間一髪で躱して義之は気づいた。
これはサイド・デドリーが使っていた、高速移動系統魔法⁉︎フォックスのバックにはサイドもいるのか?
義之はトライアングルでNo.10を囲み陣内を火柱で満たした。
「はっ!面白い技を使うな!カオスとやらは使わないのか?それぐらいを使わないと勝てないぞ?黒の化身!」
No.10の言う通り義之は気づいた。No.10は基本系統魔法では勝てない。先ほどのトライアングルを受けても防御系統魔法であっさり相殺した。だが、義之はカオスが使えない。黒の化身の名はすでに死んでいる。そもそも、「黒の化身」なんて異名は魔法使いたちが勝手につけた名前だ。それゆえ、飛龍大佐は義之の強さを知らなかった。
何とか使えるようにならないか?
義之とNo.10の戦いは拮抗している。だが、どうみても義之の防戦一方であった。
No.10のメルトダウンの炎がが義之を直撃した。
「義之さん!」
沙奈は叫び声をあげた。
No.10の炎が残火を残し燃えている。街の外での戦闘でなかったら街の一面は火の海と化しただろう。わざわざ、街外に出るまで待っていたのは騒ぎを起こしたくないからだろう。人はどうなろうと構わないだろうが。裏を返せば、日本政府には知られたくないのだろう。
「これで終わりか?黒の化身?」
廃墟の二階に昇り、炎を見下ろしているNo.10。沙奈は遠くから無事を祈る。
普通の人間なら死んでいる。その炎の中から義之は現れた。無傷とは言えないが戦闘には問題なさそうだ。No.10はさらにやる気が増したようにニヤリと笑った。
「やっぱりあんたは面白い‥フォックスが欲しがる素材なわけだ」
「No.10、一つ聞きたい」
「なんだ?」
「お前のNo.10の数字は戦闘力の序列と考えていいのか?」
「あぁそうだ。俺の実力は10番目。ただ‥俺以外にもNo.10は存在する。つまり俺と同等の力を持つのが他にもいるってことだ」
(これで10番目か‥しかし‥こんなのが他にもいるのか)
義之は焦っていた。彼の実力で10番目とは。こいつを倒せないようでは、No.1などと戦うのは夢のまた夢である。基本系統魔法では守るのが精一杯だ。完全に手詰まりだと義之は焦る。
(どうする‥‥沙奈だけでも逃がすか?いや‥みたところ奴は俺以外に興味を示さない)
義之は魔法学院の時代に雷に言われたことを思い出した。

ーーーー
魔法学院では義之と雷はよく模擬戦をしていた。もちろん魔法の。雷はよく魔法以外での対人戦闘術と魔法を組み合わせ。いわゆる魔法剣士という言葉が当てはまる。それに比べ義之はほとんど魔法でしか戦闘をしていなかった。だが、雷は魔法に対して対人戦闘術で十分に対抗できる方法を知っていた。この方法は魔法という絶対的な強大な力を無力とは言わないが、弱化させるには
もってこいの技術であった。
その技術を義之が教わったのは魔法学院に入学式して1ヶ月ほど経った頃だった。魔法学院の練習室で模擬戦をしていた。
模擬戦のルールは雷は基本系統魔法以外の使用を禁止し、義之は制限が無しだった。勝利条件は試合開始前に防御系統の魔法シールドを自身に展開し、先にそのシールドを破壊すれば勝ちというものだった。
試合が開始し義之は瞬時に雷系統魔法「雷撃」を放った。雷系統魔法は本来、複数の敵と戦う時に使用する魔法だ。雷は「雷撃」を自分の「雷撃」で義之の「雷撃」を吸収しそのまま義之めがけて放った。本当なら、同魔法は相殺されるはずだが、単純に雷の魔法力が上回ったため、吸収されたのだ。
だが、義之もそんなことは分かりきっている。
やはりこの人は強い!
義之は戦闘のたびに思う。
その後も互いに魔法を打ち合い。雷が徐々に劣勢になっているようだ。
(今だ!)
義之は心の中で呟き、雷の懐まで入り込み至近距離で魔法を放ちシールドを破壊し勝利する算段だった。そして義之が炎系統魔法を放とうとするが急に義之の体が回転し床に転がった。そして、義之の魔法でしか破れないはずのシールドが回転後には破られていた。
「勝利ありだな‥」
雷は義之を見下ろし格好で手を伸ばしてきた。それに義之は掴まり起き上がる。
「雷さん‥今のは魔法ですか?」
義之は今のシールド破壊が魔法だと思っていた。雷は義之の質問に不敵に笑い答えた。
「いや‥違うぞ。あれは、俺が編み出した【対魔法術】だ。魔法を全く使わない素手だけの技術だ」
「⁉︎素手だけで魔法を?」
「あぁ、そうだ。だが、公表はしないがな‥。だが‥いつか現実で使う日がくるだろう‥」
「?あの雷さん、どういう意味ですか?」
「いや‥忘れてくれ。つまらん話だ」
ーーーー
(その使う日ってサイドが現れる日のことだったのか?)
義之からみて雷とサイドには過去に何かしらの因縁があるような会話をしていたのを覚えている。もしかすると、雷はサイドが事件を起こすのを予感していたのか。
だが、義之は思考を断ち切りNo.10との戦闘に頭を働かせた。
(あの日、雷さんに教わったことを思い出せ!)
雷が編み出した【対魔法術】はどの魔法にも必ず核があるという話が元になっている。魔法の核とは魔法の一番脆い場所だ。唯一の魔法の弱点でもある。雷はこの核を素手壊すという方法を発見したのだ。この方法で専用魔法以外の魔法は防げると雷は考えていた。こんな方法があるなら既に他のギルドなどが見つけいるだろうが、魔法の核説は雷が唱えていただけであって、正体は突き止めれていたない。ただ、雷曰く「核は相当な実力者でなければ見つけられない」という見解だ。つまりほとんど感で見つけるしかない。
「どうした⁉︎黒の化身?これで終わらせるぞ!」No.10は再び手のボタンを押し、義之に再び高速で迫った。
義之は瞬時に防御シールドを貼り、No.10を自分の目の前で止めた。さらに義之はNo.10四方を防御シールドで囲んだ。
「こんな小細工で!俺を止めれると思うな!」
No.10は義之のシールド内部で自分の炎系統を暴発させた。そしてシールドを破った。しかし、炎を暴発させてならNo.10もダメージを受けたはずだ。だが、No.10はダメージを受けていない。
「なるほど‥自分の周りだけ氷系統の層を貼ったのか‥」
義之の指摘にNo.10は肯定ように鼻を鳴らした。
(今ので、おおまかに核の位置はわかったな‥後は、どうやって当てるかだ)
義之は今の攻撃で核の位置を特定しようとした。魔法の核をするのに炎に触れてしまうが、実際は核の部分は熱くない。雷が言うにはそこはただ視覚的に炎に見えるだけだそうだ。サーモグラフィーなどで見れば温度が下がっている場所はすぐわかると言っていた。
No.10は再び炎の塊を手に生み出し、義之に迫った。そのまま、義之に炎の塊をぶつけようという算段だったのだろう。しかし、義之はそれを見抜き炎の塊にある核を見事に攻撃し炎は消えた。No.10は炎が消えたのを見て驚いたが義之は瞬時続けてNo.10にみぞおちを喰らわせ勝負は決した。

ーーーー
勝負が決すると沙奈は義之の元へ駆け寄った。
「義之さん!大丈夫ですか?」
「あぁ、心配いらない。沙奈は大丈夫か?」
「はい。防御魔法のおかげで」
沙奈は義之に簡単な治療をした。義之が回復系統魔法を使えばことは済むのだが、義之は先の戦闘で魔力を使いすぎたので念のため、魔力を温存しておくことにした。義之の治療が終わり、義之は沙奈に礼をいいNo.10を見た。No.10は義之のみぞおち喰らい、義之の横に仰向けで気絶している。
「うぅぅ‥流石は黒の化身だな‥」
No.10は目覚め、義之を見上げた。どうやら、相当なダメージを受けたらしい、No.10は動けないでいた。
「その名は、昔に死んだ。それよりも、洗いざらい吐いてもらうぞ」
「何が聞きたい?とは言っても、俺はもう長くない。負けた時点でこの手から毒が注入される」
そう言い、No.10は機械化した手を出した。どうやら敗者は消すのがフォックス・デンベールの流儀らしい。
「そんな‥それがフォックスのやり方なんですか⁉︎」
声を上げたのは沙奈だった。負けが死となるが許せないのだろう。
「ふん‥嬢ちゃん。それが、戦いなんだよ‥ゴフッッ!」
沙奈に言葉を返した途端、口から血を吐いたNo.10。
「おい!しっかりしろ!今、救急車を呼んでやる」
義之は119に電話しようとしたが、No.10は手を掴んだ。
「やめろ!今の病院は魔法使いを受け入れない‥もし呼べばお前も、白い目で見られるぞ!」
No.10の言う通り、【魔法テロ】以降の世間は魔法使いにいい印象がない。それは当然、公共機関にも及ぶ。最悪の場合、政府に引き渡される。そうは言っても、義之はほおっておけない。例え敵であろうと。
「なら、あの人なら‥助けてくれるかもしれない!」
義之は閃き、ある人物に電話した。それは、義之の魔法学院時代に知り合った、魔法使いであった。性格には問題があるが‥
正直な話、この人しか魔法使い側で設備があるのを知らない。

ーーーー
義之が電話した相手は山本 五十六(やまもと いそろく)であった。電話するとすぐに、彼の専用魔法で召喚された小学生くらいの女の子の人形を寄越し、No.10を連れて行った。彼の性格を知る義之は相変わらずだなと思った。義之と沙奈はその後を追いかけた。ちなみに義之は魔法テロ直後に仲間に電話をかけたが、五十六を除き誰一人と連絡がつかなかった。いや先日、アンジェとようやく再開できたので今は2人だ。
五十六が寄越した、女の子の人形は元いた廃墟地帯を街の方へ20分ほと進んだところにある3階建ての廃ビルだった。外見はただの廃ビルだが、中はしっかりと生活感が溢れる造りだった。大きさは一般企業のオフィスほどの敷地だろう。
義之は人形に続き、中に入った。人形が3階に上がるので2人ともそれに続く。そして、最上階つまり3階に上りきり、いきなり社長室と書かれた名札がかけられているドアを人形は開けた。
社長室には社長椅子に座る、若い男がいた。彼が山本五十六である。義之が知る彼のことは、幼女好きいわゆるロリコンであること。性格に問題ありとはこの事だ。
「よぉ、義之くん。あの事件、初だな直接の面会は」
とても、ロリコンとは思えない語りで義之を迎えた五十六。
「お久しぶりです。今回の救助ありがとうございます。早速ですが、彼をお願いできますか?」
義之は挨拶もそこそこに、五十六にNo.10の治療を頼んだ。
「おぉ、任せとけ!」
それから、五十六は迅速にNo.10の治療の準備を仲間にし、すぐに2階の医務室に連れて行き、解毒治療を行った。五十六の仲間の回復系統魔法が得意とする者は、すぐに解毒すれば助かるとの見解だったため。義之は五十六と3階で話すことにした。沙奈も一緒に。二人は、座れと促され、取引交渉の場面で使うであろう、椅子に座る。義之と沙奈が隣同士で座り、ちょうど義之の前に五十六が座った。そして、五十六はテーブルに置いてある、湯呑みとポットを操作し簡単に緑茶を淹れた。義之と沙奈の前に湯呑みが置かれ、五十六が一口緑茶を飲むと話が始まった。
「で‥彼は何者だ?」
五十六の言う彼とはNo.10のことだろう。五十六の眼には真剣味があった。義之はなぜわざわざ敵を助けたのか?を、聞きたいのだ。
「彼は‥フォクッス・デンベールにより進められる、【魔法強化人間兵器】のコードネーム【No.10】です」
義之の言葉に五十六は驚きもしない。どうやら、五十六もその程度の話は知っているようだ。
「‥‥で君は、彼が何かしらの情報を持っていると思ったわけか?」
五十六の言葉に義之は頷いた。
「そうか。まぁいい‥俺は戦いには参加しない。だが、サポートはしてやる。お前はこれからどうする?」
「俺は戦いのために、専用魔法を引き出します」
「戦い?」
「えぇ、元ホーリーはメンバーを集め、今年以内にフォクッス・デンベールを討ちます。そのために今マスターがメンバーを探しています」
「あの女がそんな決断を」
五十六はホーリーとレッドの戦いには、過去に一度も参加していない。中立的な立場だった。彼のギルドは【ロリ・ハーレム】。もちろん、五十六がつけた名前だ。意味はそのまま幼女天国。魔法テロの後、メンバーが行方不明になり解散を余儀なくされたが、五十六は再び仲間を揃え結成した。当時はホーリー、レッドに次ぐ実力集団だった。五十六の実力は下ではない。むしろ、上の方だ。アンジェは戦いの協力を頼んだが、彼は参加しなかった。
「そして義之君はいつからオバさん好きになったんだ?」
五十六は沙奈を見て言った。彼の年齢範囲は0歳〜10歳だ。それを越えるとオバさんになるらしい。黙っていた沙奈は反抗した。
「ななななな‥なんですってーーーー!」
沙奈は立ち上がり、五十六を殴った。殴られた五十六は気絶した。
それを見ていた義之は苦笑いを浮かべるしかなかった。
その後、目覚めた五十六に義之はNo.10が回復次第、連絡を欲しいと言いギルド【ロリ・ハーレム】を去った。


ーーーーーー
2016年5月26日 夜
豪華な建物の一室。一人の男は、一枚の紙を見ていた。その紙には【魔法強化人間兵器の取り引きについて】の題名が書かれていた。
「これで目標数か」
そう呟いた男の名前は阿統 氷河(あとう ひょうが)。魔法テロ以降、崩れた日本の政治。魔法テロの前から日本の政治はすでに変ではあったが。その崩れた日本の政治を再び復活させたのは彼であった。それから彼が日本の政権を握っていた。いわば、元・日本の創始者。今の元・日本は以前と変わらず民主主義を抱えている。国民の支持は高い。また飛龍大佐や篠原少佐が所属する軍都の指令権も彼が持つ。軍都とは、魔法テロでほぼ壊滅した自衛隊の後続組織のようなものだ。だが、軍都とは基地の名前にすぎない。人たちのことを「軍隊」「軍人」など呼ばれるが、ほとんどが人も基地も一括りにして軍都と呼ぶ。氷河は軍都に対しあまり権限を使ったことがない。それは彼が善人だということではない。氷河は日本国憲法でも新しく追加された魔法についての禁止事項を犯している。それは魔法に対する干渉禁止だ。だが彼はフォックス・デンベールと「魔法強化人間兵器」の試作体また、完成体を秘密裏に取り引きしている。その理由は後に行われた戦いの発端となる。
ーーーー

No.10との戦いから数日過ぎた頃、山本五十六と別れた義之は専用魔法を引き出すために廃墟地帯で修行をしていた。魔法の修行といっても、集中して魔法を引き出すだけだ。それだけの行動で専用魔法が使えるようになるわけではない。魔法を使い戦闘でもして何かきっかけを掴むのも必要だ。
だが、義之には今相手ができる魔法使いがいない。五十六は決して戦いには強力はしない。それが彼の性格でもあった。沙奈も義之が少しは魔法をレクチャーし使えるようにはなったが戦闘には全く使えない。
「‥‥‥ダメか‥」
何度も地面に座り、集中しているが義之は全く専用魔法を引き出せないでいた。どれだけ雷の協力が必須であったかわかった。
「専用魔法って難しいんですね」
集中が切れた義之を確認し沙奈は話しかけた。
「沙奈も何かの専用魔法が使えると思うけどね」
「私には基本系統魔法の修行が先でしょう?」
そういい微笑む沙奈。そのへんの美人女優とかのあだ名をつけられた普通の女性なんか相手にならないくらい可愛いと義之は思っている。そんな彼女の笑顔に義之は見惚れるしかない。ただ義之にはこの気持ちがどのようなものなのかわかっていない。恋愛というのにただ関心がなく過ごしたので当然であった。
「ごめんな。本当は魔法なんて教えてたくはなかったけど、何が起こるかわからないから。自己防衛程度だけでも使えるようになって欲しかった」
義之はあまり沙奈に魔法を教えたくなかった。理由は単純だ。人を簡単に殺せるし、負傷させることも簡単だ。そして使えるというだけで憎悪の視線も注がれる。それでも何が起こるかはわからない。だから自己防衛程度の魔法を教えた。
「いいんですよ。私も少しは義之さんの力になれるようにしたいですけど‥。わかりませんね、普通に使えるようになったら置いてかれるかも‥」
「沙奈、それは絶対しない」
沙奈は時々、自分がいらない子だと思う傾向があると義之は一緒に過ごしてわかった。沙奈は過去に本当の両親に捨てられた経験がある。その行為からくる思いなのだろう。義之も沙奈の気持ちはわかる。彼も過去に母親に殺されかけた。当時はなぜそんなことを?とも考えたが、今ではサイド・デドリーが口にした言葉で母親に対する考えは揺らいでいる。
「そうでしたね‥義之さんはそんなことはしないって、わかってるんですけど‥。どうしても怖いときがあるんです‥」
「安心していいよ」
義之が沙奈の肩にポンと手をおくと沙奈の暗い表情が消えた。
ふとその時義之の携帯に着信音が入った。ディスプレイを見ると山本五十六と表示されていた。画面をスライドさせ電話にでた。
「はい、義之です」
『修行中のとこすまんな。いや、それともオバさんと戯れ中だったか?』
「山本さん、そんなこと言うと沙奈が怒りますよ‥」
義之は横で見ている沙奈にチラッと視線を向けたが、沙奈は何を言ってるのかわからないとばかりに首をかしげた。
『まあ雑談はこれくらいにして‥。No.10が回復した。話せる状態だがどうする?』
「わかりました。すぐに向かいます」
『了解。待ってるよ』
電話は五十六から切られた。
「もしかして、No.10という方が回復したんですか?」
電話が終わったのを確認して話しかけてきた。
「そうだよ。今から、話をしに行く。じゃ、山本さんのアジトまで戻ろっか」
「はい。でも、大丈夫なんですか?義之さん左腕怪我してますけど‥もしまたNo.10が攻撃してきたら防げないんじゃ」
沙奈の言う通りに義之は先日のNo.10との戦いで左腕を負傷していた。幸い一週間もあれば完治すると沙奈は言っていた。日常生活で支障はないが、戦闘にはあまり芳しくない状態だ。例え左腕を捨ててでも沙奈を守る覚悟は義之にはあった。
「大丈夫だよ。もし、敵がきたら何とかする」
「‥‥」
義之の言葉に沙奈は返事をしなかったが、無視したわけではない。ただ顔を赤くして俯いていた。義之も沙奈がただ無視したのではないとわかると、納得したように顔を逸らした。
ーーーー
先日と同じビルに足を運んだ義之と沙奈は前回と同じく【ロリ・ハーレム】のメンバーに案内され五十六の部屋に通された。前回と同じく五十六は社長椅子に座っていた。その横には、目が覚めたNo.10が拘束され座っていた。どうやら五十六1人で見張っていたようだ。
「おー義之君か。すまないね、修業中のところ」
「いえ、それより今回の治療などを押し付けすいません」
「気にするな。私は戦闘には参加しないが、バックアップ程度ならしてやる。それよりも彼と話したいだろ?」
「はい。正直なところ」
「では、私は席を外そう。沙奈君はどうする?」
五十六が部屋を出て行くところで沙奈に声をかけた。別段、女の子が聞きずらそうな話をする予定はないと沙奈は思っていた。どうしようか、迷っていると義之が口をはさんだ。
「沙奈には悪いけど、席を外してくれるか?」
「はい、山本さんと待ってます」
義之の願いで、沙奈と五十六は退室した。
二人が出るのを確認すると義之は口を開いた。
「さて、では話してもらおうか。フォックス・デンベールについて」
義之の言葉にNo.10は眉をピクリとさせた。
「で?何が聞きたい?」
No.10は素直にも義之の質問に答えるようだ。
「まず‥お前らはレッドの後続組織と考えていいのか?」
「レッド?何のことだ?」
どうやらNo.10はとぼけてるとは思えない反応だ。どうやら、生み出された兵器にはあまり情報なんて教えてもらえないのだろう。
「二つ目、お前らのボスは誰だ?」
「ボスかどうかは知らんが‥俺ら【魔法強化人間兵器】の指揮を執っていたのはワルプス・ワギリって人だ。みんなからは【陛下】って慕われていたが‥本名かどうかは不明だ」
その名前に義之は聞き覚えがあった。ワルプス・ワギリは5賢者の1人だ。
‥ってことはフォックスには5賢者が2人もいるのか⁉︎だが‥本当のマスターはどっちだ?
義之の考えは正しい。アンジェの情報ではフォックスはレッドの後続組織だ。つまり、レッドのマスターである5賢者とそれに協力してるワルプス・ワギリもまた敵となる。ちなみにレッドのマスターは名前は誰も知らない。レッド・キラーのギルド名からとって勝手にレッドと呼称する。全てが謎の人物だ。
「その反応はどうやら、あんたらの世界じゃ有名な人みたいだな」
義之の表情からNo.10は簡単に推測できた。
「あぁ‥どうやら、これは簡単に崩せそうな計画ではなそうだな」
「あんたら正気か⁉︎俺の他にも何人も同等それ以上の敵が多数いるんだぞ!いくら黒の化身でも死ぬぞ!」
「わかってる‥俺一人では勝てない、だが俺の所属するギルドは今年中にフォックスに戦いを仕掛ける。それよりも、あんたどこで黒の化身の名を知った?」
「陛下が言っていた‥。気をつけろよ、お前は捕獲順位3位になっている」
「捕獲順位?」
No.10の単語に義之は聞き返した。
「俺らフォックスには捕獲すべき対象がいるそれの優先順位を捕獲順位と言う。しかし‥俺は5位〜3位までしか知らない。後、サクラという少女は最重要被験体となっている」
その後のNo.10から聞いた捕獲順位は4位にアリア・ジュライト。5位に藤宮莉奈。と判明した。
「最後に一つ‥お前らのアジトはどこだ?」
義之はこれまでとは違い冷ややかな視線をNo.10に向けた。これが分かればいつでもこちらから、奇襲ができる。先日のアンジェとの再会でわかる範囲で調べて欲しいとも頼まれていた。
「‥‥‥」
No.10は喋らない。だが、敵だから喋らないという雰囲気ではなかった。
「喋りたくないか?」
「いくら敵だからと言っても、勝ち目がない戦いなんて勧めない。あんたらは確実に死ぬ」
ただの無駄死にはさせたくないようだ。
「だがな‥これ以上戦力を蓄えさせるわけにはいかない。これは推測だが、捕獲順位の1位か2位は俺が魔法を教わった人だ。あんなに強い人からデータ取ったとなっては、本気で世界破滅でもする気だ。2年前の再来になる‥」
「それをあんたら‥元・ホーリーが倒すってか?」
「‥元か。ただ‥俺は、今でもホーリー・ブレスのメンバーだ」
義之の言葉にNo.10は笑った。馬鹿にしたような笑いではなかった。納得したような笑いだった。
「分かった。教えてやる、俺たちのアジトは‥‥」
その地とは、現・政府の地【新東京】にある阿刀 氷河が住む建物【東殿(とうでん)】の地下であった。


ーーーー
少し時は遡る。
義之とNo.10が部屋で二人で話したいと言われ、部屋出た沙奈。五十六に連れられ2階の【ロリ・ハーレム】のメンバーと顔を合わせていた。元々、オフィスビルだった建物を拠点としていたので2階の内装も、会社のオフィスと変わらないと沙奈は思っていたが、中は畳が敷き詰められた宴会場のような造りだった。その中には50人ほどの魔法使いが座っていた。五十六が入ってきたのを見るとメンバーたちは挨拶をする。隣にいた沙奈は驚いたように肩を震わせた。
「お前ら‥オバサンがビックリするだろう‥」
その様子を見ていた五十六は沙奈を相変わらずオバサン扱いをしていた。それを聞いた他のメンバーは五十六とは正反対の意見だった。
「五十六さん‥なに言ってんすか?こんなに可愛いのにオバサンだなんて」
「やっぱり‥小学生でないとダメですか‥」
「嬢ちゃん、義之の旦那の恋人か?」
五十六の仲間であろう魔法使いが口々に喋る。
「そんな⁉︎私はただ一緒に行動させてもらってるだげで‥恋人なんかではないです!」
沙奈は仲間の一人の言葉を強く否定した。
「おい!お前ら、義之君には俺と一緒に小学生好きになってもらうからな!」
五十六の巻き込みにも等しい宣言で仲間は笑い出した。
「五十六さん‥義之君は立派な大人です。五十六さんみたいに幼女だ!って言って、小学生に近づくのは見たくないです」
違う仲間の言葉で部屋は笑いに包まれた。沙奈はただの小学生好きにしか見えなかったが、仲間の信頼とカリスマ性がある魔法使いなんだと驚いた。
(ただ、なんで自分はあそこまで義之さんとの関係を否定したのだろう?でもでも義之さんは確かにカッコいいし‥。それに自分は足を引っ張ってるだけで‥)
沙奈も義之と同じで自分の恋に気づくことはない。お互いが、気づかなければ誰も気づくないのは当然だ。
その後は、義之の話が終わるまで五十六の仲間の質問攻めにされた。他愛のない、名前や、年齢、趣味、好きなタイプなどであった。その他にも、沙奈のお義父さんに世話になった人も何人かいて改めて感謝されたりした。
沙奈は自分を引き取ってくれた、たとえ義理のお父さんでもあっても親としての精一杯の愛情や幸せを与え続けてくれた義弘に自分も改めて感謝したのだった。

ーーーー
再び、【ロリ・ハーレム】の社長室。ドアをノックする音がした。
「入るぞ。どうやら終わったようだな」
部屋に入ってきたのは五十六であった。
「はい。すいませんでした、部屋をお借りして」
義之は礼を言うが、五十六は気にするなと言わんばかりに手を振る。
「で?こいつはどうする?」
五十六のいうこいつとは勿論No.10だ。このまま、世話するのか?消すのか?を聞きたいのだろう。
「彼には情報を提供させていただきました。もう、逃しても結構です」
逃すという言葉に五十六は声を張り上げる。
「⁉︎正気か?こいつの言ったことが本当かどうかも分からないぞ!もしこいつが嘘をついて、逃がしたらボスに報告して守りを固められる!そんな簡単に逃がせるのか⁉︎」
義之は五十六の怒鳴りにも全く動じないで言った。
「分かってます‥。ただ、あなたは2年前の事件を覚えてますか?魔法使いがいるというだけで全世界は、必死だった。一般人を殺してまで魔法使いを殺す必要があった。そして魔法者は恨まれ続けている。お前らがいるから人間が殺されるんだって‥。俺は敵だろうと魔法使いは殺させはしない。だからこいつをここまで連れてきた。No.16は沙奈に手を出そうとしたので殺しましたが、こいつは違う。俺だけを狙ってきた。なぁ、あんた俺と戦い戦いたかったんだろ?」
黙っていた、No.10に問いかける。
「ここで、はいと言ったら、俺に得になるんだからそう答えるぞ」
「いや‥お前の眼は嘘を言っていない、あんたは真面目な性格のようだな‥」
「買いかぶりすぎだ」
「どうですか?五十六さん。逃がす気にはなりませんか?」
「お前の考えは分かった。ただ野放しにはしない‥No.10と言ったか?お前は俺のギルドで身を預かる」
五十六の独断でNo.10は【ロリ・ハーレム】で預かる話になった。

ーーーー
五十六がNo.10をギルドに入れると決め、3階にはギルド構成員が集められた。
沙奈は義之の表情を観察しながら隣にいる。
「お前らー!今日から、こいつを俺らのギルドで預かる!」
五十六は部屋全体に聞こえるように声を張り上げた。
他のメンバーはNo.10の正体をある程度知っているので、当然敵である魔法強化人間兵器を預かりたくはないのか、ざわつき始めた。
「みんな!すまない。これは俺が頼んだことなんだ。本来なら俺が預かるべきだが、これから俺らホーリーはフォックスに戦争を仕掛ける準備を始めている。ただ‥俺は専用魔法が使えなくなった‥。それの復活のためにも修行が必要だ。それに集中する間だけでも頼めないか?」
五十六に続き、義之も説得しようとした。
「義之の旦那の頼みなら、任せてください!」
他のメンバーも義之の頼みならと受け入れ始めた。マスターである五十六よりも義之の方が慕われているようだ。
そんなメンバーの反応を見て五十六はうなだれた。
「これだから‥小ちゃい子以外は嫌なんだよー」

ーーーー
2016年9月25日。
No.10を五十六に預けて、時が流れた。
ホーリーはフォックスの決戦に向け、仲間を集めていた。
アンジェから決戦を聞き、義之は専用魔法の復活のために修行をしていた。だが、日課である修行は今日していない。
理由は飛龍大佐が藤宮莉奈を保護したからだ。
義之は【第2回・魔法者捕縛作戦】で知り合い、現在は協力関係として飛龍大佐と連絡を取っていた。
そんな中、飛龍大佐は元・日本の空港で藤宮莉奈を発見したとの報告があった。義之は軍都の力を頼り、仲間の写真や情報を提供し、飛龍大佐に捜索と保護を依頼していた。
その話は昨日であった。今日には義之の指定した場所に連れてくるとの約束だ。
その指定場所は【ロリ・ハーレム】。五十六は戦いには参加しないが、場所の提供などはしてくれる。
「軍都の飛龍大佐って言ったか?信用できるのか?」
今回の再会の場所を提供してれた五十六はいつもの社長椅子に座りながら、義之を見た。
「彼は大丈夫ですよ。それより、彼の部下の方が気になりますが‥」
義之の言う彼の部下とは篠原直斗少佐だ。
以前の態度でもあまり、魔法使いにいい感情はなさそうだ。
最も直斗のような反応が普通である。だが、飛龍は魔法使いには差別意識がない。
「これで‥アンジェに、義之君に、莉奈ちゃん、後‥ホーリーの残党数十名。本当にこんな人数で決戦に挑むのか?」
「現状ではな、それしかないです。それにNo.10の情報を信じるなら‥日本にはNo.5以下しかいないと」
「奴が嘘を言ってるとしたら?お前らはあっという間に返り討ちになるかもしれないぞ!」
義之のNo.10の情報を信じすぎる考えに怒鳴る。
部屋にいる沙奈はそんな五十六の声に恐怖せずに言った。
「五十六さん。彼の目は嘘をついてる人間には見えません」
そんな沙奈の真剣な目に五十六は反論した。
「人間?はっ、奴らはただのサイボーグだ!元は人間かもしれないが、奴らには感情なんてものがあるかっ!」
魔法強化人間兵器の兵士たちは全員が元々人間だ。
そして、元は魔法なんて使えなかった。
人工的に魔法使いにした。本人の意思に関係なく。
No.10は言った。
『俺は魔法テロの後‥変な連中にいきなり連れて行かれ、実験された。正直、地獄のような日々だったと』
この言葉通りなら魔法強化人間兵器になるには相当の覚悟が必要なようだ。
それを平然とやり通すフォックスに沙奈は怒っていた。
五十六の非難の言葉に、沙奈は激怒しそうになったが、義之が沙奈の肩に手を置いたて首を振ったのでそれ以上は言えなかった。
「沙奈、あまり責めないであげて欲しい。沙奈の言いたいこともわかるが、頭に血が上がりすぎだ。五十六さん、沙奈に話してもいいですか?」
「‥‥勝手にしろ。俺は席を外す」
そして、扉を乱暴に締め五十六は出て行った。
義之は沙奈を落ち着かせ話し始めた。
「沙奈、五十六さんは魔法強化人間兵器の最も最初に生み出された一人なんだよ」
「え‥‥?」
義之の口にするの事実に沙奈は信じられない顔をした。
それでも義之は続ける。
「まだ魔法界があった頃から、魔法使いを人工的に作り出す。方法は計画されていた。五十六さんは当時の完成体としホーリーに生み出された。それと、この情報はホーリーの極秘事項だから一応他言無用でね」
義之はそこでいい目を閉じた。
「‥‥そうだったんです‥。でも、誰がそんなことを?ホーリーはそんな実験をしないギルドだと思っていたんですが」
沙奈の疑問に頷く義之。
「この前会った、アンジェさんは現ホーリーのマスター。実験を進めたのはアンジェさんの前の代のマスター。名前は‥」

ーーーー
沙奈が義之から魔法強化人間兵器の話を聞く、数十分前。
莉奈は空港から出発した、軍の車に乗っていた。
莉奈は元・日本に着いた直後に軍都の人間に声をかけられ、捕まると思い魔法を使用して逃亡しようとした。
だが、声をかけてきた男の言葉で接近してきた理由がわかった。
「私は軍都・葉山部隊の隊長を務める勝谷飛龍大佐です。長瀬義之さんの依頼であなたを保護しに来ました。同行していただけますか?」
しかし、それだけの説明で納得できるはずがなかった。嘘を言い、身柄を確保したいのかもしれない。莉奈が疑心暗鬼になると飛龍大佐は続けた
「エンド・ポイントと言えば、警戒は解けると義之さんは言っていましたが‥どうですか?」
エンド・ポイントという言葉は普通の一般人は知るはずがない。魔法界のことを人間が知る余地もない。そして、今はエンド・ポイント自体がないのだ。
つまり、それを知るのは過去に魔法界にいた魔法使いだ。
話を受ける理由は整った。
「わかりました。では、連れて行ってもらえますか」
「直ちに」

そして今、莉奈は車に乗っている。
「警戒しているかもしれませんが、私は魔法使いには差別意識がないので楽にしてください」
車に乗ったとはいえ、まだ警戒はしている莉奈に飛龍大佐は声をかけた。
「いえ、そんなことはないです。ただ、あなたの考えは珍しいなと思いまして」
莉奈のいう考えは、魔法使いに差別意識がないこと。そのような考えを持ち、人間は極少数だ。
「よく言われます。ただ‥私はあの2年前の事件が君ら魔法使い全員の意志ではないと思っている。そもそも、義之君や、莉奈さんあなた方が魔法をただの殺戮に使うとは思えい」
莉奈はこの人が義之に、協力している理由がわかったきます。

そして車は【ロリ・ハーヘム】に到着した。

ーーーー
「全く‥君は面倒な仕事を頼むもんだな」
義之の姿を見るなり、飛龍大佐は皮肉交じりに言いながら車から降りた。
「すいません。でも、助かりました。よく見つけてくれましたね」
義之は飛龍大佐に軍都の情報網を頼りに仲間の捜索を頼んだ。
「義之!」
莉奈は義之の姿を確認し、車を降り、久しぶりの再会なのか勢いのまま義之に抱きついた。隣には沙奈もいる。五十六も。
「莉奈‥久しぶりだね。無事でよかった」
いきなりの抱きつきに驚いたが、義之はしっかりと受け止めた。
長い抱きつきに耐えかねたのか、飛龍大佐は咳払いをし、話を始めた。
「義之君、取り込み中にすまんが、見つけられた仲間は一人しかいなかった」
「いえ、十分です」
「これで貸し1な」
二人のやり取りを見て、五十六は言った。
「飛龍っていったか?あんた?」
急に名前を質問され驚いたのか、少し返事に遅れた飛龍大佐。
「ああ‥そうだが」
「葉山部隊の指揮を執っている大佐。名は勝谷飛龍。軍都に所属してるが、現政府の阿統氷河に最も警戒されている」
「よく知ってるな」
「あんたは魔法使いに悪い印象は持っていない。だが、それは魔法の力で政府を倒したいだけだろ?」
さらに五十六は続ける。
「だから義之君に協力的な態度をとる!後に力を利用するために!違うか⁉︎」
飛龍大佐の協力的な態度の核心をついた質問に飛龍大佐は反抗した。
「最初は魔法使いを利用したら、あとは殺すつもりだった。‥すまない義之君。だが義之君に協力して考えは変わった。彼は自分がいつ殺されるかもわからない状況で、あの女の子、蛍野沙奈を守りながら生きてここまで来た‥。俺にはそんな苦労しながら自分の身を守ることはできない。だが、義之君はやり遂げた。それなら、彼を純粋に信用し協力しようと思う」
「わかった。その言葉を信じてみよう」

ーーーー
今後の話は座りながらと、部屋に通された。
いるのは、義之、五十六、飛龍大佐の3人だった。
沙奈と莉奈は下で待ってもらっている。
「飛龍大佐、東殿の地下に何があるという記録などはありますか?」
義之の質問に飛龍大佐は答えた。
「地下には発電所があるとなっているが‥」
義之もその程度の情報なら知っていたが、政府間の人間なら一般人とは違う事実を教えてもらってると思ったが飛龍大佐も同じだったようだ。
「義之君、No.10の情報を信じてるのか?」
次に声を上げたのは五十六であった。
「無論です。彼の言葉に賭ける価値があると考えています」
「No.10とは、義之君が捕らえた魔法使いか?」
「えぇ」
結局、議論の結果、飛龍大佐は地下に何があるかは分からず終わった。


ーーーー
男3人が会議?をしている最中、沙奈と莉奈は【ロリ・ハーレム】のメンバーと話していた。莉奈は久しぶりの再会ともあり、長々と話していた。
沙奈はその輪から少し離れていた。すると、一人の男が話しかけてきた。
「どうよ?沙奈ちゃん、義之の旦那は?」
「どうって?」
「義之の旦那は、あぁ見えて重い過去を背負ってるんだよ」
「お母さんのことですよね?」
「聞いていたか‥。そうだ、あの人は心の奥で深い傷を負っているが、決してそれを表には出さない」
そして、「ロリ・ハーレム」のメンバーは言った。
「沙奈ちゃん、義之の旦那を頼みます」
「はい」
沙奈は力強く頷いた。

ーーーー
時を同じく。新東京の街、のとある喫茶店にて金髪の若い男が店主と話していた。
「お客さん、探してる人って?」
喫茶店の店長である男と客である金髪の男の二人しか店内にはいなかった。
「かなりのイケメンで、長身の男。歳は俺と同じくらいや」
大雑把な質問に店長の男は頭をかいた。
「もう少し」
店長の言葉を遮るように扉が開き、鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
店長は入ってきた客に声をかけるが、入ってきた客は真っ直ぐに金髪の男に近づき、こう言った。
「お前が、四ノ宮竜二か?」
「‥‥だったら?」
「やっと見つけた。ここで死んでもらう」
突然、店内が爆発し炎上した。
竜二はとっさに店長を抱え、防御魔法をかけ、店を出た。
店の外は街中だ。敵も街中では戦闘しないと思った竜二だが、そんなのは関係ないらしい。
(街中じゃ部が悪い。廃墟地帯まではもうちょいか‥)
竜二は店長を降ろし、真っ先に廃墟地帯を目指し走り出した。
「逃がすか」
客だった男は頭のローブを外した。その正体はかつての最高幹部、レン・クムだった。

ーーーー
廃墟地帯に着き、竜二は辺りを見回した。
「ここなら‥遠慮なくやれそうやな」
来た道から火の玉が飛来し竜二は躱した。
「相変わらず‥甘い男だな。四ノ宮竜二」
「あんたは、レン生きていたのか」
レンの姿を確認し、竜二は驚いた。レンは【魔法テロ】の首謀者、サイド・デドリーと共謀した人物だ。誰もが生きてるとは思っていたが、まさか竜二も自分の目の前には現れるとは思ってなかった。
「2年ぶりの再会すっね」
「随分と成長したようだな。専用魔法も習得してるようで」
「悪いが、あんたと話す気はないんや!死んでもらおうか。ギガファイアー!」
ギガファイアーは炎系統魔法の最高ランク魔法だ。
それに対し、レンは氷系統魔法の氷冷で対抗する。氷冷は氷系統魔法の中でも中級クラスだ。
レンは竜二を舐めきっていた。ただ、それは誤算だった。
竜二の魔法がレンの魔法を焼き尽くし、直撃した。
「クソが!2年前とは威力が違いすぎる!俺の計算ならここまで強くはない!」
レンは竜二を睨みつける。
「お前は俺の師匠の仇だ。あんたを殺せれば満足だ」
「師匠⁉︎あのクソ海女か?雑魚かったよ。あんな奴の弟子なんて俺の専用魔法で消してやる!ラスパーダ!!!」
レンはラスパーダと唱えると、地面から3体のロボットが現れた。体長は3メートルをゆうに超えていた。
「なんや?こいつは?」
「わからないか?お前の師匠とやらを殺した魔法だ!こいつらには、あの長瀬義之のカオスと同等の強さがある!お前に勝ち目はない!」
レンはそう言い残し、この場を去った。
どうやらラスパーダとはオート型のロボットのようだ。
3体が一斉に竜二に襲いかかる、竜二は避けない。
3体のラスパーダが両腕を振り下ろした。
「義之のカオスと同等?あいつのパンチの方がこれの100倍はあんぞ」
竜二はシールドを頭部の上に貼り、3体のパンチを全て受け止めた。
竜二は高速で手刀を繰り出した。
「瞬刀」
たった一振りで3体とも仕留めた。
「レンは逃げたか‥。それより、ちょと疲れたな。あの建物で休むか」
竜二は少し離れた場所に見えた、建物を目指し歩き始めた。
そこは、生来のロリコンがいる建物だった。

ーーーー
義之たちが東殿についての議論を進める中、部屋の扉がノックされた。
「入ってこい」
五十六は扉を開けるのを促した。
入ってきたのは、五十六の仲間だった。
「失礼します。義之さん、たった今、四ノ宮竜二さんがここに来ました」
その報告に義之は訊き返した。
「竜二が⁉︎」

そして、一目散に建物の入り口へと降りた。
2年ぶりに見る、悪友の姿を確認し正面へと立つ。すでに隣には莉奈がいた。
「おー義之か!久しぶりやな」
「お前も、相変わらずだな」

久方ぶりの再会に五十六も喜び、後に五十六の部屋に義之、莉奈、竜二、沙奈、五十六、飛龍大佐がいた。
「竜二君、久々の再会を祝いたいが‥すまない。いろいろと立て込んでてな早速、戦いの準備を頼みたい」
「いいっすよ。五十六さん。それより‥あの阿刀氷河には気おつけたほうがええ」
竜二のどこか意味深な発言に飛龍大佐を除く全員が疑問を浮かべた。
「四ノ宮君、君は奴の何を知っている?」
「俺は魔法テロの後の2年間、ずっと魔法について調べていた。そして元・アメリカで一つの資料を見つけた。それがこれや」
竜二は服の内ポケットからハードカバーほどの薄い冊子を取り出した。
そこには【witch hunting】と確認できた。
「日本語にすると魔女狩りになるわね」
莉奈が冊子に書かれている英語を翻訳した。
「魔女狩りってあの過去にあったていう?」
「俺も最初はそう思ったんや義之。でもな‥ここに書かれてるのはただの魔女狩りとちゃう」
竜二は冊子を取り、一つのページを開けた。
そこには、様々な言語で名前が書かれていた。
その中に見知った名前があった。
阿統氷河と長瀬真由子であった。
「母さん‥」
室内に義之の言葉が虚しく響いた。
ーーーー

竜二の持ってきた冊子を要約すると以下の記されていた。
2000年に魔法強化人間兵器は試作機を完成させた。
名を阿統氷河。しかし彼は政府の施設を脱走し逃亡。その後も行方不明。
阿統氷河の捜索任務に政府・特別機関に所属する長瀬真由子を向かわせる。
その後、阿統氷河の血筋などを調べ関係者を当たることを優先した。
そこで血縁関係者で生存しているのは一人。阿統氷河の実の娘、阿統沙奈。
しかし、阿統氷河は娘を幼い頃に捨てている。
よって、娘の行方は不明。

書いてある情報は以上だった。
魔女狩りとどう繋がるのかは不明ではあったが、興味深い内容だった。

「沙奈ってこの娘か?」
竜二の質問に、五十六は答える。
「いや‥違う。偶々、同名なだけだ」
あまりの衝撃内容に義之は何も言えなかった。実の母がそんな危険な仕事をしていたなんて。
この記録を信じるなら、あの日見た人物が阿統氷河なのか?
ならサイド・デドリーはどんな関係がある?
すると飛龍大佐の携帯が鳴り響いた。
「私だ」
『飛龍大佐!テレビを見てください!政府がとんでもないことをしています!』
電話の相手は篠原だった。
あまりの大声のやりとりに五十六も聞こえ、テレビをつけた。
つけた途端、ニュースの時間でもないのに、ニュースがやっていた。
左上に緊急速報の文字が見えた。
内容は【政府が魔法を実験?大量殺戮⁉︎】と見出しが書かれていた。
「どういうことだ⁉︎篠原!」
『どうやら‥阿統が魔法実験を認めたようで、反逆者は奴の部下によってどんどん殺されています!正直、地獄のような景色です!我々葉山部隊はどうすれば⁉︎』
「私が戻るまで殺される住民を保護しろ」
『了解です!』

「飛龍、街中はどんなだ?」
五十六の問いに飛龍大佐は重く口を開いた。
「部下によると地獄だ、そうだ。私は軍都に戻って指揮を執る」
「俺は阿統氷河に会いに行きます」
義之は無謀な行動に莉奈は猛反対した。
「何を言ってるの!あの敵の情報じゃ一人で戦える相手じゃないわ!」
「わかっている。だから‥マスターに進言する。今が好機だと」
「まぁ‥待て、義之君、飛龍」
出て行こうとする飛龍大佐と、連絡をする義之を止めて五十六は一つの提案をした。
「一般市民には悪いが‥ここは待つんだ。うまく行けば、俺らが救世主になれる」
「山本さん!ただの一般市民が殺されているんですよ!ほっとけって言うですか⁉︎」
五十六のあまりに残酷な提案に沙奈は反抗した。
「沙奈ちゃん、落ち着いて」
莉奈が沙奈の肩に手を置き落ち着かせた。
「山本君、悪いが私は守るの仕事だ。戻るぞ」
「あんたは、仕事をしていてくれ大佐殿」
五十六のたっぷり皮肉が混じった言葉に飛龍大佐は全く気にせず部屋を出て行った。

「五十六さん、一般市民が助けを求めると思ってるんですか?」
「流石は義之君。俺の狙いが読めていたか」
「なんや?義之、俺にわかりやすく説明してくれ」
義之と五十六だけが理解できたであろう、会話に竜二の頭は?でいっぱいだった。
義之が竜二の質問に答えた。
「政府に一般市民が殺されれば、一般市民は反抗するが‥対抗手段がない。なら‥手段は2つだ」
「そうか!魔法使いに頼るか、そのまま政府の言いなりか‥」
竜二の答えに義之は首肯した。
沙奈は納得のいかない表情だった。
「沙奈君、睨まないでほしい‥。だが、約束しよう‥必ず奴らは‥政府の連中は叩き潰すと」
五十六の宣言に義之、莉奈、竜二は驚いた。
「まさか‥あなたも出撃するんですか?」
「何か問題があるのか?莉奈君」
「いえ‥ただ珍しいなと」
それもそうであろう、五十六はこれまで戦いには参加してこなかった。それが今回は参加の意思を示した。
「山本さん‥すいませんでした。あなたの考えに賛成します」
「止めてくれ、オバさんのお礼なんて嫌だーー!」
五十六のどうでもいいこだわりに、一同はため息をついた。

ーーーー
政府が魔法実験を認めてから数時間後の午後6時過ぎ。
義之は飛龍大佐から惨状について報告を受けていた。電話で。
『といった、状況だ。悪いがしばらくこっちの対応に追われそうだ』
「わかりました。俺たちは、作戦通りに事が進めば、政府に仕掛けます。そうなれば、ニュースにでもなるでしょう。楽しみにしといてください」
『何をする気だ?』
飛龍大佐の不敵に笑う声が聞こえた。
「どうです?協力してくれますか?」
『いいだろう‥私は魔法が使えなくても、戦える能力がある』
「それは楽しみです」

二人の会話が終わり、義之のグッドサインが出ると残りのメンバーも笑った。
「義之君、飛龍の強さを知らんだろう?」
「五十六さんは知ってるんですか?」
「あぁ‥あいつは、【対魔法術】を獲得している」
「あの技術をですか?」
「そうだとも、これで君と俺と飛龍で3人が要となれる。そして、あと一つ部下からの偵察で報告があった。No.1が日本に到着したとのことだ」
「⁉︎‥‥ッッッNo.1ですか‥‥」
頼りないかもしれないが、義之は3人が集まっても、No.1に勝てるとは思っていない。
No.10が他にもいるだけで手いっぱいだ。
「No.1の件は後だ。それより、お前のマスターとは連絡はついたのか?」
「つきました。こちらに合わせるようです」
「そうか‥これで手は揃った。後は一般市民が予想通りに動いてくれるか‥」

案の定、五十六の予想通りに一般市民は魔法者に救援を求めた。
これで政府に乗り込む算段が整った。
ただ一般市民が公式に救援を求めたなら、政府にも漏洩しているだろう。
「さて‥誰が残る?見たところ、ただの雑魚ではないようだが‥」
いつもの社長椅子に座っている五十六は、建物の外にいる敵の軍団を見ながら言った。
政府に漏洩したので政府側も敵を送り込んできたようだ。
「なら俺が残るわ。みんなは、その隙に建物の地下から東殿へ向かってくれ」
「頼めるのか?竜二」
「愚問やな、義之。任せとけ!沙奈ちゃんも守ったるわ」
沙奈は実戦レベルの魔法は使えないので、ロリ・ハーレムに残る予定だ。
義之も竜二に任せるようだ。
「なら‥頼む、竜二君」
五十六の言葉を聞きながら、外に出て行く。
それに合わせ、地下道を通る義之たち。

ーーーー
竜二は建物にいる敵を数えた。
「ザット数えて‥30人か」
「おい!他の仲間はどうした?」
敵の一人が銃を向けならが、言う。
「悪いがあんたらの相手は俺一人で十分や!最初からとばすで!」
竜二の雷魔法が轟く。
ただ銃を持った、兵士では竜二の相手にはならない。
一般兵らしき敵を全て倒すと、政府の車から数人のマントを被った魔法使いが降りてきた。
「あんたが、瞬刀の使い手か?」
「だったら?」
「面白い。実力を見せてもらおう!」
敵の一人が高速移動系統魔法を使い、竜二に迫った。
竜二は反射的に避ける。だが、背後を別の敵に取られた。
背後の敵が放った、氷系統魔法【フリーズ】を直撃した。
【フリーズ】で動きを止められ、正面にいた敵に蹴られ、建物の壁まで吹っ飛ばされた。
「なんだ終わりか?てめぇら、建物に突撃するぞ」
敵全員が車から降りてきた。数は4人だった。
「おい‥誰が終わりだって?【瞬刀】」
竜二が瓦礫の中から、魔法を放った。
一撃で敵の一人を真っ二つになった。豪快に血が飛び出た。
(沙奈ちゃん、見てないな)
竜二は窓を見て、沙奈が見てないのを確認して、再度【瞬刀】を放った。
敵も馬鹿でないので、再度同じ手は通用しなかった。
「やるじゃないか!」
「悪いが‥建物の中には入れるわけには行かない」
「だったら‥守ってみろよ!震えよ‥ゴースト」
どうやら、敵の一人が専用魔法を発動させ、姿が消えた。
「どこに行った?」
「お前ら二人にそいつは、任せる。俺は建物を見る。」
「チィ、便利な専用を持ってやがる」
「どうやら、あんた二人から相手をする必要がありそうやな」
「四ノ宮竜二。その実力と私とではどちらが上だろうな‥」
三人の魔法が衝突する。

ーーーー

【ロリ・ハーレム】の建物の内部でゴーストを使用した、敵が暴れまわっていた。
五十六の部下では、歯が立たない。
敵が沙奈の姿を確認し、目の前まで迫った。
「阿統沙奈‥見つけた」
「私は‥阿統じゃない!蛍野!」
沙奈の訂正の言葉に、敵は笑った。
「いいや‥あんたは、阿統氷河の娘、阿統沙奈だ」
沙奈は敵の言葉に言葉を失った。
「違う‥私は‥‥‥」
「沙奈ちゃん!あんたは、蛍野だろ!」
敵の背後から瞬刀を放った竜二が叫んだ。
「貴様‥二人はどうした?」
「もお‥悪魔の出迎えでもきてるじゃねえか?」
「なるほど‥流石は四ノ宮竜二。No.10クラスでは話にならないか」
「竜二さん‥私は‥誰なんですか?」
沙奈は虚ろな目で竜二を見た。
「沙奈ちゃん!お前は、蛍野沙奈だ!阿統の娘なんかじゃない!今すぐ、敵をぶっ倒してやるから安心しろ!」

竜二は瞬刀を放った。
しかし、【ゴースト】には効かないようだ。
「どしました?当たりませんよ」
敵は竜二のあざわらように宙に浮いている。
「そいつのゴーストには弱点がある!奴の頭だ!そこには攻撃が効く!」
声を発したのは義之が倒した、No.10だった。
「あんたは‥義之と戦った」
「余計な邪魔を!」
「頭な‥これで終わりや」

竜二の瞬刀が、敵の頭を貫いた。
「馬鹿な‥」
敵は死んだ。
「沙奈ちゃん!しっかりしろ!俺が奴に聞いてきてやる!」
竜二は義之の後を追い、東殿を向かうつもりだ。
しかし‥沙奈は予想外の言葉を発した。
「竜二さん‥私も行きます。直接、阿統氷河に聞きます」
「わかった‥絶対に俺から離れるなよ。何かあったら、俺が義之に怒られるから」
「大丈夫です。私の勝手な判断ですから」
「あんたは‥どうする?No.10」
「俺も行こう‥。それと、No.10ではない‥佐竹 麟太郎(さたけ りんたろう)だ」

竜二は佐竹麟太郎、蛍野沙奈と共に東殿を目指し、地下通路へと侵入した。

ーーーー

義之たちは、無事に東殿へと侵入していた。
後は、東殿の地下に通ずる道を発見すればいいだけなのだが、敵も簡単には見つけさせはしないようだ。
東殿内部にはNo.クラスが多数待ち構えていた。
建物内部を捜索していると5人の敵と遭遇した。

「私は、No.8。1番強いのは誰だ?」
「俺様はNo.6。死にたいのは誰だ?」
「拙者はNo.9!見参!」
「僕は‥No.10」
「No.8。推して参る」

敵の自己紹介が終わると、床が抜けた。
その下は、剥き出しの岩で囲まれた、円状の場所だった。
戦うための場所だろう。
そして、敵と義之たちは敵の策略通りに別々になった。
義之の前には、先ほどNo.10とNo.8と名乗った2人がいた。

「2対1か‥どうやら、フォックスには礼儀がないようだな」
「ほざけ‥長瀬義之。貴様はここで死ぬのだからな」
「ここでお前の首は飛ぶ」

3人が動いたのは、ほぼ当時だった。

ーーーー

「あなたは?」
莉奈が落ちた先には最初から何かがいた。
「俺は‥No. 1。最強の魔法強化人間兵器。悪いが、あんたの身柄を拘束させてもらう」
莉奈は驚愕だった。
まさか、一番厄介なのが出てくるとは思いもしなかった。
「なぜ‥私を‥?」
「一番、弱そうで。長瀬義之を思い通りに動かせると思ったからだ」
「舐めないでほしいわね!誰が弱いですって?」
莉奈は言い終わると同時に魔法を放った。
【ニブルファイアー】。莉奈が放てる炎系統最強クラスだ。
だが、No. 1は避けない。
(なぜ避けないの?)
そして、魔法がNo. 1に当たるはずだった。
だが、当たらなかった。魔法がNo. 1の前でかき消された。
「そんな‥」
「その程度か‥?」

次の瞬間、莉奈は意識を失った。


ーーーー

ちがう場所では五十六が既に敵を倒し終えていた。

「悪いな、あんたらとは格が違う」

その背後にはNo.たちの死体が転がっていた。
その決着時間は僅か10秒だった。

「よく覚えとけ、お前らの戦った相手は魔法強化人間兵器の最も初期に造られ当時最強と言われた【death time】の使い手の弟子、山本五十六だ」

ーーーーーー

「おい!黒の化身。こんなものか⁉︎」

「うるせえょ‥‥‥ようやく倒す算段がたった。これで二人まとめて殺せる。カオス‥‥」

義之が唱えた魔法に二人のNo.が驚愕する。

「バカな⁉︎お前はカオスを失ったのではないのか⁉︎」

「その通りだ。あんまり時間かけさせるなよ‥‥」


次の瞬間、義之が消え敵の首を跳ね飛ばした。
使ってから1分後にカオスは強制的に消えた。
義之がカオスを使えるようになった理由。
それは、五十六が開発した特殊な薬だ。
ただ一つだけ問題点がある。
これを使えば、普段の専用魔法使用時よりも10倍以上の魔力を浪費する。
義之の魔力を考えれば、後使える回数は2回が限界だ。
それ以上使えば命の保証は無いと言われた。

「さて、阿統氷河はどこにいるか‥‥」

終わりがなさそうな廊下を見て義之は言った。

義之、五十六は斥候として東殿に乗り込んだが、阿統氷河までの道のりは遠そうだ。
そして、アンジェ、飛龍は別の部隊として戦闘を仕掛ける。

魔法とサクラ

魔法とサクラ

ただの高校生だった。義之、莉奈、竜二はある一人の少女を助け、そこから魔法使いになり、魔法学院「ホーリーブレス」に通っていた。そんな学院生活で現実世界での魔法を禁止していた、エンド・ポイントがたった二人の魔法使い「サイド・デドリー」「レン・クム」によって破壊され、その後現実世界で魔法を行使し人類と二人の魔法使いの戦争が勃発した。この事件は【魔法テロ】と呼ばれ、「魔法界」はなくなり、現実で生きている魔法使いたち。そのうちの一人である長瀬義之は、元・ヨーロッパで助けた蛍野沙奈と行動を共にし、ある日元・日本に行くことを決断する。 しかし、元・日本で暗躍する組織が‥

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted