インビジブル

今回はkemuさんの楽曲「インビジブル」を自分なりに解釈してみました

インビジブル・パズルメント

ある日、僕は目が覚めると透明人間になっていた_

こんなことを信じる人なんていやしないだろう、だが実際にあったんだ。そんな僕の話。

僕は普通の中学校に通う中学生だ。成績は中の上。スポーツもできない。コミュ障。休み時間は読書。部活は帰宅部。ようするに全く青春を謳歌できない小心者。特技も取り柄もない。けどまあそんなもん。自分に諦めている。だから変わろうと努力したことはない。そんな僕はどうやら大きな事件に巻き込まれたらしい。

あれはある秋の日だ。夕焼けがまぶしくもなくただぼんやりと佇み、僕はなんの変哲もなかった一日を終え、家路につこうとしていた。僕がこうやってのんびりと生活していけるのもこの町がのどかなおかげだろうとつくづく思う。
通学バッグを片手に歩いていると、黒スーツの男とぶつかった。
「ドンッ」
「あ、す、すいません。」我ながらなんてひどいコミュ障なんだろうか。謝罪の一つもいえないとは。だが様子がおかしい。なぜなら黒スーツの男はぶつかったはずなのにそこにいないからだ。
「あ、あれ、誰かいたはずだよな」だがいないものは仕方がない、きっと疲れていたんだと自分に言い聞かせ、家路を急いだ。


同時刻_黒スーツの男は慌てていた。彼の辞書には「慌てる」という単語は存在しないような風体の男はとにかく焦っていた。一見してサラリーマン、あるいはどこぞかの社長ともみえる彼が実はただの下っ端などとは誰も思わないだろう。
「ない、ない!あの薬品がない!なんてこった_研究成果が俺のせいでパーだよ!」彼が夕暮れの町でそう叫ぶのも無理はない。彼が所属する組織はこの町の暗部といっても過言ではない組織であり、その組織が幾年もの歳月をかけ、多くの科学者を集結させ、ようやく作り上げたとある薬品なのだ。そんなものを紛失した彼に居場所は存在しないだろう。組織に報告か、或は自殺、或は_と考えていた矢先、彼のケータイに着信が入った。
「はい、アルフレッドです_」



その日の夜、僕は体に異変を感じた。手足の感覚がないのだ。否、そもそも手足が存在するのだろうか。そう錯覚するほどだった。見えない何かを動かし、そこにあるものを動かす。まるでサイコキネシスだ。僕がそう感激していたとき、一階から母が呼びかけた。
「煉、早くご飯食べなさい。」
「はいはい、今行くよ。」母の応答にしばし面倒を感じていると、ケータイに着信が入った。僕にかけてくる人なんていない。そもそも電番の交換なんてしたことがないのだ。一体誰だろうか、と恐る恐るとって見ると、静かで落ち着きのある低い声が僕の背筋を凍らせた。
「初めまして、私はモーリスといいます。以後、お見知り置きを。単純に用件のみお話致します。貴方は今現在、お体に異変を感じておりませんか?もしそうであればこちらまでいらしてくださいませんか?明日の黄昏時、貴方がスーツの男とぶつかったところで_」どういうことだ?なぜこの男は体の異変を知っているんだ?そもそもぶつかったことをなぜ知っているんだ?だが、こんなのが単なる布石とは誰も知らないのだろう。僕はなんともいえない思いを胸に、ご飯も食べず、床に着いた。


そして来るこの日の朝、僕は透明人間になっていた_

インビジブル

インビジブル

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-05

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