闇の権力者たちの日本近代史
明治以降の近代史を見つめると歴史の必然性の無い事項が気になっていた。日清日露戦争、満州事変、太平洋戦争、戦後体制下の日本には不条理なことが多い。それは日本国民日本政府の意思によるものとは到底思えない。私は湾岸戦争、同時多発テロ、米国のイラク侵攻から闇の権力者たちの存在を確信した。彼らは戦争屋とも呼ばれているが証拠を残さない。彼らの目線で日本の近代史を読み解いてゆけばその手法が見えてくるのではないかと考えたのである。証拠、資料が無いから憶測するしかないが果たしてどこまで迫れるか。
戦争は闇の権力者たちのシナリオによって引き起こされている。各国は演じている過ぎない。戦争を起こしては兵器を売りつけ、戦費を貸し付ける。その歴史は英仏100年戦争に遡る。旧約聖書の時代とも言われる。最近では株式、金融にまで手を伸ばしている。極めつけはポンド、ドルの発行権である。それは政府ではなく中央銀行である。これで政府をも思うがままに動かしているのだ。
湾岸戦争はキッシンジャーがフセインに『クウェートが石油を掘り続けるとイラクの石油が枯渇するぞ』ともちかけた。『米国は手出ししないか』『ああ、必要なら資金を援助してもよい』ということで始まった。そのとたん米国はイラク軍を攻撃した。はめられたと知ったフセインは米ドルでの決済を拒否する。9.11同時多発テロは米国の自作自演だが、フォードは『フセインはテロリストを匿っている、大量細菌兵器を保有している悪の枢軸』と国連決議を待たずイラクに侵攻した。テロリストも大量細菌兵器も見つからなかった。使われた劣化ウラン兵器は奇形児を生み出し軍需産業に莫大な利益をもたらした。
以上が大方の見方である。では闇の権力者たちとは、それは闇にいて姿を見せない。過去の戦争を見ても当事国に国債を担保に兵器を売りつけ荒稼ぎをしている。株価操作、金融操作は本業である。連中を捕らえて処刑しない限り戦争はこの世からなくならない。しかし、状況証拠だけで、しかも姿を見せぬ相手にどうやって立ち向かうか。連中に立ち向かい、あるいは、反抗した者はことごとく抹殺されている。
闇の権力者たちの日本近代史 目次
闇の権力者たちの日本近代史目次、主要登場人物
序 章
ダバオDavaw
録音チップ
1明治維新
2日清日露戦争
3太平洋戦争
4戦後体制
5日本崩壊への道
塩崎家の夕餉
再びダバオへ
ユキ卒業講演
録画権力者たちの質疑応答
海難救援隊視察
生協、児童養護施設、職業訓練所、視察
第二章 家族崩壊、国栄えて民滅ぶ
柳史訓
検証戦後体制
シャハラザード大学への旅
日本立寄り
スペイン
シャハラザード大学
マリアコンサート
砂漠の朝
泥球試合
荒野の呼び声
第三章 大平、田中局長退職す
田中、大平拉致される国家論、戦争とは
遺伝子鑑定
ゴルゴ13
カナン人定尋問
目的動機
カナンの独白
国家論、坂本―白井貴子
黒幕の主体は
第四章 正義は力なり
米ドル印刷原盤競売
現金輸送車が襲撃される
難民キャンプ建設、増設
政府高官のスキャンダル
炙り出し作戦
慰労会、ゴルゴ13こと東郷平四郎、トモカサこと柴崎啓太
風船気球
慰労会転じて歓迎会
WONTED
第五章 新東京裁判
開廷
起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否
被告人らの遺伝子凍結仮処分申請
民事法廷
手荒な手法
決定的証拠、動機
カナンの証言
判決言渡し
判決文
第六章 椰子の木陰
身重の貴子
虱潰し作戦
二人の黒幕
啓太結婚式
黒幕の詰めろ
殺し屋の警備保障会社
偵察用トモカサ
黒幕起訴
体内爆薬
白人女の価値観
椰子の実落ちる
あとがき
主要登場人物
坂本龍次 自分の人生を求めてフィリピンを流浪する日本人
カルロス スペイン財閥の総帥
マリアカルロス スペイン財閥の一つカルロス家の一人娘
陳 志淵 ホテルスーパーなどを経営する華僑
ユキ ミンダナオ出身のジャパユキ。本名 Jonalyn Macappndang
塩崎真知子 元外交官の未亡人
山田 清美 旧日本陸軍中尉の孫娘
シャハラザード 某国大統領の娘
大平 正義 外務省アジア局長
田中 角英 通産局長
坂本の子供 モニカ(マリア)アナヤ(アンジェリータ) 碧渓(梅雲)
碧谷(許細君) 南海雄(ユキ) 紀和(清美)
ヤサミーン(シャハラザード)ほか
序 章 ダバオDavaw
序 章
ダバオDavaw
坂本龍次はダバオの町を歩いていた。旅に出るとその地を足で歩いてみると案内書、ガイドの説明では感じることのできないのを肌で感じることができる。フィリピンでは珍しくおっとりしたところだ。どこか日本的な雰囲気も漂う。セブ、マニラと違って身の危険を感じることもない。北が山、南が海と地形を頭に入れる。
今日はお祭り日とか、市役所前の広場にはステージも設けられている。やがて歌と踊りが夜もすがらつづくのであろう。民族衣装をまとった少女たちにあった。マレーシアの衣装に似ている。黒を基調にした長袖のジャケットにロングスカート、山岳民族が着る衣装だ。
通りにはドリア並んでいる。果物の王様と呼ばれるだけに味はいいが匂いは強烈、それがいいという日本人もいるが。DAVAW の表記に目を留めるとこれはヴィサヤ語で英語ではDAVAOらしい。フィリピン人のウはオに聞こえるのは俺だけでないなと坂本は思った。
かつてダバウには2万人の日本人が住んでいたそうだ。博物館には財をなした日本人が3階建ての豪邸に住みロールスロイスに乗っている明治か大正の写真が展示されていた。この地は戦場にはならなかったが多くの日本人が亡くなったそうだ。その慰霊碑には線香と花が手向けられていた。日本人が沢山来た、と初老の女が言った。そうか盆だもんな、と坂本は手を合わせた。線香の煙は日本の敗戦、無条件降伏を思い出させる。女は黙々とあたりを掃き清めていた。
火を貸していただけますかと日本人が近寄ってきた。黙ってライターを渡す。どうですかとピースを勧められた。坂本が頂きますと手をのばすと男は火をつける。ダバオは全市禁煙なのだ。一服すると坂本はああ美味い小さく叫んだ。男はライターと一緒に小さなチップを返してきた。その目はこれをと訴えていた。チップには重要な情報が記録されているのであろう。
日本のたばこはうまい。ピース一箱20本で千円とは、1本50円=25ペソ。フィリピン製の30倍だ。男はゆっくり喫煙するとではと立ち上がる。どうもと坂本が会釈する。では、どうもの会話は外国人には理解でいないようだ。掃除をしていた女が灰皿を差し出す。指が熱くなるほど短くなったピースを投げ入れる。孫らしき少年が男の捨てたタバコを拾ってきて灰皿に入れる。二人分の請求か、坂本は(掃除代、線香代込みだぞと)50ペソを奮発する。
トイレでチップをズボンの内ポケットにしまうと坂本はジャパントンネルへ向かう。日本兵が掘った洞窟は直径2m、長さ数百m。戦時中に良く掘ったものだと感心したが、案内の女がこのトンネルはアポ山2945mとsamal island サマール島にも繋がっていますと説明したので驚いた。日本は佐渡の金山採掘技術が脈々と流れているのか。
ダバオはSARA.DUTERTE女市長がゴミのポイ捨ても禁じているので街は日本並に清潔だ。
Further, in the recent years, we have vowed to keep this city SAFE for everyone who comes here to visit, to tour, or to travel. And we have also kept this commitment to keep this city safe, clean and orderly for everyone who lives here.
それはそれで結構だが全市禁煙にすることはなかろう。喫煙場所は限られている。喫煙者には苦痛だ。
ホテルに戻るとフロントの兄ちゃんに女子大生の処女を頼む。手付100成功報酬500の条件、彼女の報酬は?ダバオに連れて行ってやる。部屋の電話が鳴る。2時間ほど眠ったようだ。今からいい女が部屋に行く。わかった。ドアを開けると女子大生が入ってきた。名前はクリスティーン。学生証はUPのものであった。University of Philippinesダヴァオ校。専攻は。経営です、ユキ生協で働きたいです。(ドキ!ユキ生協は坂本の現地妻が経営)処女か。はい。ならVILAT みせろ。(UPは日本の帝大と同様エリートの大学で将来は約束されている。なぜユキ生協に、なぜ売春を、まあいいか)
出かけるからロビーで待てといぶかしげなクリスティーンを部屋から送り出す。部屋の荷物を確認してロビーに降りる。旧日本軍司令部跡に向かう。ホテルのタクシー1日借り切りで3000ペソなら高くはない。Quirino Avennue を通ってダバオ川にかかる BANKEROHAN Bridge を渡る。Mac Arthur Highwayはマカトウールと発音される。マック アーサー、マック ドナルドと坂本が叫ぶとクリスティーンが笑い出した。車は山に向かっている。山があって川があると落ち着く。
旧日本軍司令部跡は恋人たちのスイートスポットになっているようだ。今は四方を見渡せるレストランになっているがダバオ湾から上陸してくる敵を迎え撃つには最適であろう。注文はクリスティーンに任せる。苦学生にとって夢のような料理なのだ。運転手には100ペソやってある。運転手たちの待合になっているちいさな店で食事をしているだろう。
高いですねとメニューをみながら彼女は心配そうに坂本を見つめる。これから激戦が始まるのだからしっかり喰え、あまったら持ち帰りだ。そうですかと勢い良く注文する。激戦の意味わかるか。わかります、この料理おいしい。フィリピン人は今が大事なのだ。後先のことは考えない。色気よりも食い気、この国の高校は4年、大学は20で卒業だ。
このレストランのサービスは何だ。料理と景色。そうだ、この場所のこの空間を提供しているのだ。建物の建築費、人件費もふくんでいますね。もろもろの費用を差し引いた残りが利益だ、君が経営者ならこの値段をどう思うか。リーゾナブルと思います。だろう、使用人として働くなら大学までゆくことはない、所有者もしくは経営者とならなければ意味がない。そのためにユキ生協で経営を勉強したいです、でも資本を蓄えることができるかしら。
資本は君の才覚次第だ、才覚に資本は寄って来る。私は台北で夜鳴きラーメン屋からはじめてビルのオーナーになっている例をみた。高利多売ですか。そうだ粗利60%はある。セブにも売上月100万の食堂があるそうですね、一人50ペソとして粗利30、毎日100人の客で90万、実現可能な数字ですね。私も行ったことがある、小さな食堂だが客は300を下らない。とすると月270万、すごーい。日本の秋葉原で1㎡の場所を借りて商売をはじめた男は東京でビルを所有するまでになった。
どんな商売ですか。家電品販売。資本は。なし。本当に。客がくると注文を取る、他の店から取り寄せて売る。在庫なしで?他人のものを売ってもいいだろう。ディーラーとメーカーの関係かしら。そうわかりのいい娘だ、小売店と問屋との関係も同じだ。小売店と小売店との関係だって同じことですね、具体的には。秋葉原に来る客は商品名型式で探すから後は値段だけ。日本ではメーカーが品質保障しているから、それが可能なのですね、PL製造物責任も興味があります、で、幾らで仕入れて幾らで売るのですか。
質問でその理解度がわかる。彼女は日本の大学生並の理解力はあるなと坂本は思った。家電品、そうだな、テレビの製造原価は幾らと思う、つまり小売店の粗利=販売価格―流通コストー製造原価とした場合だ。彼女はテーブルの上にノートを広げて書き始める。粗利25価格100流通35とすれば原価40でしょうか。いい線だ、日本では小売店の粗利50、製造原価36だから流通コスト14と言われている。もっとも俺が学生時代の話で今は物流が格段に進んでいるだろうが。高利少売でしょうか、回転率が低いから粗利が大きくないと採算が採れない、うーん、わかりません。
当たり前だ、原価は企業の最高機密だ、しかし今言った推定は概ね実態に近い数字だろう。坂本は真剣に考え、わからないとはっきり答える女子大生に好感を持った。よく観ると容姿も悪くない、理知的な顔は白痴美とは宇宙と地の開きがある。何を考えているのですか。あの空に瞬く星は日本でも同じだ、いや、日本が多いかな、冬の星座は神秘的でもある。宇宙はどこまで広いのですか。あの北斗七星までどれくらいかな、1000光年だろう、俺たちは1000年前、源氏物語が書かれた頃の光を見ているのだ。GENNJI TAIL? 世界最古の小説、と男心をくすぐる。しかし、ズボンにしまったチップに対する警戒感を緩めたりはしない。彼女の目的はこのチップであろう。
食後、眼下の夜景を楽しみながら小道を歩く。満月は二人を照らしている。葉月望月なればと坂本はクリスティーンを抱きしめて唇を合わせると首に手を回せて応えてきた。この国で女を口説くのにことばは要らない。手の平をちょんちょんとやればいい。指を握り返してくればOKだ。やってみて気が合えば付き合ってみるスタイルが大切だ。女にだまされるのはスケベ心がみえみえだからだ。日本で余ほどもてなかった男は全財産を巻き上げられることも珍しくない。
ホテルに着くとバスタブに身を沈める。久しぶりに湯につかる。日ごろはシャワーだけ。クリスティーンが浴室に入ってきた。いいですか。いいよ。私きれいですか。妖精のようだ。本当ですか。若い肢体はきれいだ。ベッドに身を横たえると二人は愛撫を交わした。一つになりたい。処女にしては大胆な。坂本が静かに入ってゆくと少し顔をゆがめる。挿入を浅くして濡れるのを待つ。
急いては事を仕損じる、それより未だ妙薬に頼ることはないと自負しているがこちらの能力が心配だ。処女地を開拓するのは大変な労力を要する。ああ感じる、もっと深くと脚を絡めてくる。こちらが気を使っているのに。私は宙に浮いています、とろけそう。フィリピン娘は自由奔放だ。ビサヤの女は男好きといわれる。本当に処女か。
女は坂本の腰を抱いて歓びの声を上げる。女のヴィラは亀頭を執拗に攻めてくる。行きそうだ。キテキテ、カミング。どこへ。天国よ。発射していいか。シュートなあ全部ちょうだい。坂本は果てると息も絶え絶えになる。クリスティーンの鼓動を聞きながら眠りに落ちる。
どれくらい眠ったか、喉の渇きと空腹に目を覚ます。坂本の下腹部に出血が、え?、シーツにも鮮血が。御腹空いたとクリスティーンも起きてきた。処女だったのか。ええ、どうして。女はシーツの鮮血を見ていやだ恥ずかしいと浴室に走る。坂本もチンチンを洗ってワインを開ける。
処女卒業おめでとう、乾杯しよう。ありがとう、ソクソクってこんなにいいものなら早く経験しておくべきだったかな。大学を卒業したらいっぱいできるさ。どうして。ソクソクやってたら勉学に身が入らぬだろう。それはそうですね。持ち帰ったグラタンと鶏肉で祝宴をあげる。彼氏は?いるけど子供生む気がしないの。あなたの子生んでもいい、生みたい。しかし、話が上手過ぎないか、身は許したが心を許すのはもう少し様子を観てからだと坂本は思った。むしろ警戒感を抱いたが気取られる程野暮ではない。
チェックアウトの際枕元に100ペソのチップを置く。そんなに?初夜代だ。いやだあ、恥ずかしい。(出血が、処女が?)洗濯代込みだ。この国で20過ぎの処女は気持ち悪いとされる。よほど持てないと言外に?フロントでおめでとうと言われる。枕元の口止め料は利かなかったか、フィリピン人には秘密はない。
どうでした?えかったけどくたくただ。何回。3回。それはすごい、ご苦労様でした。そうだ、君の報酬と500渡す。要りませんよ、過分のチップは禁じられています。ズボンのポケットのチップを確認する。これは俺と君との契約だ、君は約束を履行した、俺も約束は履行する。しかし。男が出した金を引っ込めるわけにはいかない。恐れ入ります。
セール会計ができました。少し高いな、君は美人だから安くしろその分の半分をやろう。2000ペソ安くします。そうだろう君ならできると思っていた、君たちの取り分だと1000を渡す。やはり受け取れません、バレタラ馘になります。これは商取引の交渉である、客に値切られたと言えば良い。そうですね、もらおうか。もらいなさいよ、あの店のケーキ美味しいわよ。セール、彼女は何人ですか。3人。今度の彼女を大切にしますか。当たり前だ。私5人目に立候補する。私も。もう定員だから。欠員がでたら声掛けてくださいね。憶えておこう。
ダバオ空港は国際線がある。垢抜けた空港だ。ダバオは日本人に向いている。搭乗検査をして搭乗口へと向かおうとすると『あなたは日本のヤクザですか』と空港警察に職務尋問される。違うけど、どうして?若い娘連れの日本人が搭乗するとの通報がありましたので。いいだろう、質問をつづけろ。別室に通される。やはり尾行されているのだ。
この国ではブラックリストと同姓同名という理由で留め置かれる。年齢、人相、身長などは考慮しない。警察の無犯罪証明が出るまで数日間留置所暮らしということも少なくない。役人がその職務を行うに当たって一般人に与える苦痛、不快を気にしないのは日本も同じだがここは酷過ぎる。賄賂か保身かは顔付で判断できるが高圧的態度には弱い。
「君はこの仕事が嫌いなようだな、だがこの仕事を失うと生活できるかな。」いえ、私はこの仕事に誇りを持って職務を忠実に果たしております。「君はヤクザがどういうものか知っているのか。」詳しくは知りません。「ネットあるか、これを 見て研究しろ」とYutubeを示す。こんなに凶暴なのですか。その男凶暴につきを見入る。 「それはドラマだ、本物はこれだ。」警官が集まってくる。「それより君は通報だけで私に質問した、これは違法である。日本の外務省から苦情をマラカニアン入れさせる。これは外交問題になるな」
警官の顔が強張る。私には妻と5人の子供がいます。「この職を失いたくないか。」失いたくありません。「だろうな、で、どう落とし前つける?」オトシマエ、我々は友人であるから話をしただけです。ダバオで困ったことがあったら連絡してください、助けにゆきます。「言葉は易しい、行動を示せ。」この人形ダバウの土産にしてください。どうせ観光伽客からいちゃもんつけて巻き上げたものだろう、「貰っておこう。」
携帯が鳴る。ユキからだ。「ディー今どこ、何してる。」「ダバオ空港警察の取調べを受けている。」「警官に代わって、Jonalynです、うちの旦那に無礼は許しませんよ。」国会議員、わかっております、マム。警官は冷や汗をぬぐっている。
マニラ行きに搭乗するとクリスティーンが耳元でささやく。すごいわ、警官を脅すなんて、あなた本物のヤクザ?かもな。うそ。お前は美人だから売春宿に売り飛ばすと5ミリオンにはなるな。あなたは良い人だからしないわ。どうかな、人は見かけによらぬからな。
ある日本人が売春宿で12歳の少女を買った。処女喪失代50万ペソ当時の為替相場で250万円位だった。しかも少女が妊娠したので月15000ペソの仕送りをしたらしい。生まれた子供はその両親が育てる、なんと若い母親か。少女の人生は激変する。日本人は打ち出の小槌なのだ。その後も次々と日本人を咥え込んでいる。少女も「私精液が好き、名器を持っている」と公言して憚らないから天性の性技を備えているのだろう。
マニラ空港にはカルロスの運転手セヴァスチャンが迎えに来ていた。『セヴァつけられている、小型車のナンバープレートを隠せ、パトカーには警察署へ追い込むよう依頼せよ』と携帯電話で指示してある。ユキは国会審議が長引いてこられないとテクストしてきた。チップを狙っている連中とのカーチェイスを考えると好都合だ。
他方ユキには『2台の車を追跡する不審車を検問して住所氏名顔写真を集めるよう警察に依頼せよ』と指示した。集めたリストは陳、カルロス、ハジ議長に分析を依頼するつもりだ。坂本は早くチップの中身が知りたかった。重要な情報が書き込まれているはずだ。
空港からアヤラ通りに出てモールで買い物をする。クリスティーンに長袖のジャケットと少し派手な衣服を買い与える。運転手が「セール口止め料寄越せ」という。「お前に口止めなど効くはずがない。奥さん孝行したい。」「最初からそう言え、ユキにばれるのは時間の問題だ」「色男は苦労するなあ」「500遣るが変な事したらばらすぞ」「俺奥さん怖い、俺の取り分なくなる」
モール内の食堂で早めの昼飯をとる。「しっかり食っておけ、腹が減っては、戦はできぬ」「ねえセールの彼女何人?」「俺が知る限りでは3人」「でも彼は4人と言ったわ」「あんたが4人目だろう」「どうしてお前は口が軽いのだ、死んでも口を割らないのが男の友情というものだ」。
小型車の運転手がやってきた。黙って親指を立てる。クーヤ飯でも食ってくれと200渡す。点検整備、ガソリン満タンだ。男は車の鍵をテーブルに置く。
地下の駐車場で小型車に乗り換える。カローラの海外生産車だ。NOプレートには女優の水着写真が貼り付けられていた。フィリピン感覚なのだろう。アヤラ通に出ると交通警察が停止を求めてきた。交通警察は陸運局が担当している。無視しろ。とまもなく白バイが追いかけてきた。
セヴァスチャンは車を降りると。「これはセクシーだと叫ぶ」「でも俺がやったんじゃないぜ。」「違反は違反だ。俺たちモールで買い物して食事をした、それが罪なのかい。」野次馬が笑い出す。「欲しかったら自分で剥がせ、白バイに貼り付けたらうけるぜ、」と言い残して車を発進させる。
白バイの追跡も再開される。水着女優の車を白バイが追いかける、フィリピーナも噴出す。「良い感じだ。」「セールといるとこれだから面白い」。白バイの数が増える。カローラは追い詰められてマニラ警察署で御用。
坂本は警察署長の出迎えをうける。「テレビ局が遺跡映像提供に5万ペソ置いてゆきました」「それは安い、少なくとも演出料10万は取ってください、彼の肖像権侵害で訴えると脅しては」「そうします」「バギオ警察には署長から」「了解しました」「本論のほうは?」「3台検問しましたが容疑が見当たらないので釈放しました」「お手数かけます。おーいみんな、署長がポケットマネーで不審車一台に500の特別ボーナスを出してくれるぞ」と警官たちに声をかける。
録音チップ
録音チップ
バギオに着くと塩崎真知子を訪ねる。山田清美も同席させる。チップには闇の権力者たちの会話が録音されていた。『これを書き取って日本語にすれば良いいのですね。でも2,3時間はありそうね』面倒なことを持ち込みましたが。『いいんですよ、お役に立てるか老体に鞭打って頑張りましょう。清美さんと手分けしてできるだけ早く日本文をお見せできるようにしましょう』。何卒、なにとぞ、お願い致しますと坂本は頭を下げた。
録音会話を書き取った英文と日本文を坂本は食い入るように読み耽る。A4にして5枚だが声もかけるのが憚られる。全文を印刷するには数日を要するであろう。塩崎夫人と清美も寝食を忘れて翻訳に取り組んでいる。ユキは公務をおっぽり出してきた。坂本の世話はユキにしかできない。茶を入れ、灰皿を代えるだけだがユキ以外は坂本の部屋に入れない。
クリスチ―ンはセヴァスチャンの案内でバギオを楽しんで帰っていった。「卒業式にはきっと来てね。」「ああ、必ずゆく」。坂本の会話はそれだけであった。「まるで別人みたい。」「日本人はとくにあのセールは一つのことに集中するとあんな風になる」「ユキさんは?アサワ」「国会議員なんでしょ。」「でもその前にアサワなんだ。」ユキはクリスチーンに何も訊かなかったが3000ペソを彼女に与えた。本妻が妾にお手当てを与える感覚か。
【録音会話】
1明治維新
2日清日露戦争
3太平洋戦争
4戦後体制
5日本崩壊への道
印刷された会話は200ページにも及んだ。以下順に紹介していこう。それは次のような会話で始まっていた。
帝王挨拶、開会の辞
今日の勉強会は日本がテーマであったな。日本は我々にとって重要な国である。ここ150年良く尽くしてくれたがあと200年は頑張ってもらいたい。我々の支配体制はほぼ固まったと言えるが、まだ十分ではない。この民族は予想できない行動にでることがある。我々は不測の事態にも迅速にかつ適切に対応できる体制を完成させることが重要だ。諸君の研鑽に大きな期待を寄せるものである。
只今の帝王のお言葉を受けて過去150年の日本支配を振り返り、今後の課題を摘出してゆきたい。具体的戦略戦術は日本担当に一任するが、各担当にも参考になるだろう。今や一国の出来事が世界中に影響を与えるようになってきている。それは我々にとって好都合である反面各国の支配が簡単でなくなるということでもある。各担当は従来以上に連絡を密にして我々の支配体制をより強固なものにしていただきたい。
では日本担当の私が日本支配の概略をレジメにそって2時間ほど説明いたします。質疑応答は説明の後に3時間を予定しております。冒頭、日本文化文明について申し上げます。これを念頭に入れていだだけると私の説明が解り易いと思うのです。
世界の文明を大別しますと西欧文明とイスラム文明、これにラテン、チャイナ、ヒンドゥー、アフリカ、東方正教会、仏教、そして日本が続きます。言い換えますと日本だけが唯一独自の文明をもっているということです。したがって我々は既成概念を一度どかしておいて事実をあるがままに見ないと日本を理解することはできないでしょう。
1明治維新
明治維新はクーデターとも革命ともいえますが、中央政権=江戸幕府を地方政権=50あまりの半独立国(藩)が打ち倒したので私は革命と理解しています。中央政権は絶対的なものではなく地方政権との力関係は最盛時でも8:2であったと報告されております。注目すべきはこの小さな島国が250年間鎖国していたことです。つまりこの国は世界諸国と没交渉でも政治経済が成り立っていたということですな。
1868年新政権は政権樹立を発しますが中央集権の絶対王政が確立するには20年必要でした。その障害は予算でした。政府収入は年貢米から税金に改めましたが公務員の人件費が大きかったのです。当然、行革に取り組みます。旧藩主の財産を没収しますが公務員削減も行います。公務員は武士サムライと呼ばれた身分階級の人間です。
彼らの多くは地位と収入を失って不満を新政府にぶつけます。これが西南戦争となります。我々の日本支配の基礎が固まります。どういうことかと申しますと我々は戦争の必要性を政府に説得したのです。反乱を鎮圧すれば中央政権が確立する。ロシアの南下に脅えていた日本政府は説得に応じます。これで日清日露戦争への布石は整ったといえます。
そもそも反政府の革命はもっと激しい内戦に発展すべきでありました。政府軍の兵力は反政府軍の勢力をはるかに上回っていました。政治力指導力では反政府軍が上回っていましたから実力伯仲、長期戦が予想されました。ところが予期せぬことが起こりました。政府が政権を放棄したのです。我々の理解できない行動でした。ワンサイドとなった戦は短期間で終結します。
これによって我々の売上収益とも大幅減となりました。しかし豚の子は大きく育ててから食えという例えがあります。西南戦争では反乱軍の兵士は死を恐れず果敢に戦いました。これをつぶさに観察した結果『日本民族には優れた指導者の下では死を恐れない習性がある』ことを発見したのです。
優れた指導者とは西郷隆盛です。このような人物を軍のトップに据えれば兵の士気は上がります。(どよめき、神風の声あり)適当な人物が見当たらなかったので天皇陛下に軍服を着せました。その効果は大きく、富国強兵が国是となりました。また軍事費は国家予算の半分を占めるようになりました。
質問、革命で兵力の上回る政府が政権を放棄した理由は?
回答 いい質問です。この民族は我々が理解できない点が多々ありますから、話の区切りごとに質問を受け付けることにしましょう。政府のリーダーは戦が長引くほど英仏の売り上げに貢献することを察知したのですね。下手すれば共倒れ、日本は欧米の食い物になると考えたのです。
質問:彼、徳川慶喜が得たものは?
回答 ありません。最高権力の座と先祖伝来の全財産を失いました。彼にはそれよりも日本を守ることがずっと大切でした。このような思考はこの民族特有のものです。公私を問わず国、家族、他人のために己を犠牲にするのはこの民族の特質であり、我々の政策決定にも大きな要素となっています。
2日清日露戦争
日清戦争(1894-95)
こうして日本は富国強兵を国是に欧米化を進めて行きます。極東の島国が欧米化を推し進めるのは理解しづらいのですが、それは被植民地化への恐怖だけでなく、異文化への憧れも大きな要因とされています。後ほど質疑応答の時間で討議しますが、この民族は我々にとって理解しづらく御しづらい民族です。しかし民族の特質を知ればある意味で支配が容易であるとも言えましょう。
ロシア南下は日本人に恐怖を与えました。世界中で欧米を除いてほとんどの地域が植民地になっていましたからこれは理解できますね。朝鮮半島を防波堤にすべきとの提案に日本政府は乗ってきました。朝鮮半島を配下においてきた清国の利権を荒らすことになりますから両国の衝突は時間の問題です。眠れる獅子と文明開化をひた走る山羊とでは勢いが違います。強兵の成果は存分に発揮されました。
これで日本は台湾を手に入れます。さらに5億テールの賠償金を得ます。戦争の味を憶えたのです。ところが首相の大久保利通は4億テールを清に返還しようとしました。これは見逃せません。彼は日本近代化の元勲であり富国強兵を推進する切れる男でしたが消えてもらいました。
日露戦争(1904-05)
次はロシアです。当時の日本はマイナー、ロシアはメジャー、戦わば日本は雨天コールドに持ち込むしかありませんでした。日本に資金的援助はしてもどこまで善戦するかというのが大方の見方でしたが、予想を裏切って初回に大量得点をします。和平の条件はできました。ポーツマツ条約は外交史に残る成功をおさめますが、日本国民は納得しません。この戦勝収支はトントン、赤字かも知れないと考えたのです。理解し難い国民です。
これで日本は一等国入りを果たします。明治維新からわずか36年です。メジャー入りです。極東の島国がこれだけ短期間で欧米化を推し進めたこと自体驚異であり欧米に少なからぬ脅威を抱かせました。
この島国は生肉を食って野獣の本能に目覚めます。軍国主義へ走り出します。我々のメリットは日本の貢献度が大きくなってゆくと確信できたこと、および、共産主義の拡散を防いだということ、でしょうか。
質問、大久保は何故4億テ―ルを返還しようとしたのか。
答 わかりません。このような民族は見たことがありません。
質問、日本国民はポーツマツ条約に納得しなかったのはなぜか。
答 難しい質問です。良く言えばお調子者、悪く言えば外交音痴。長い鎖国で世界の情勢に疎くなっていたのでしょう。
3太平洋戦争(1941-1945)
3.1満州国建国(1932)
日本が軍国主義に走ることは我々の支配下にいったということです。世界経済の波をもろに被るということです。鎖国時代とは違います。日本は貧困に喘ぐ農民を救済すべく1932年に満州国を建設します。土地を奪って国民を移住させる点で北アメリカと似ております。日本帝国主義は現地人から搾取するヨーロッパのコロニーとは大きく異なります。
日本の領土を拡大してゆくのが基本思想です。これはインフラ整備、教育に現れます。領土も領民も日本と同化させようとします。すでに台湾では既に実施されておりました。
これで日本はロシアの南下、共産主義の南下を防ぐことがでると考えておりました。明治政府樹立から64年で、北は樺太、南は台湾に加え朝鮮、満州を領土としたのですから大成功と申せましょう。ですからここらで一休みとなるのも無理からぬところですが、もう少し頑張ってもらうことにしました。我々は以前この極東の島国にあまり興味を持なかったのですがそこに大きな可能性を見い出したのです。
質問:領土も領民も日本と同化させようとする理由は何か。インフラ整備その他の投資を含めると植民地としてのメリットは半減するではないか。いや持出だろう。
回答:同化の理由はわかりません。我々の理解を超えているのです。ヒントは富という国強兵策か大東亜共栄圏という国論を二分する対立にあると思われます。前者は言葉通りですが、後者は日本を中心とする政治経済連合をアジアに打ち立てようとするものです。
投資も同様です。私の個人的推察では、織田信長(1534-1582)という男が持っていた世界征服の野望がベースにあるようです。これに日本が世界で一番という思想が結び付いたのでしょう。日本が世界を領土にすれば世界が丸く治まる、目出たしと。
質問:なんと傲慢な、いや、お目出度い。
回答:おっしゃるとおりです。この独善の押し付けが世界で通用すると思っているようです。
質問:明治以降の日本は欧米化をひた走ったではないかな。
回答:奈良時代は朝鮮に、平安以降は唐に、遣唐使廃止以降は鎖国へと方針を転換します。極端から極端に走りますが中心に戻ってゆきます。これを話しますと時間がいくらあっても足りません。
あとでじっくり議論しましょう。(面白そうだな)
3.2第一次世界大戦(1914-1918)
1914年から1918年の第一次世界大戦では欧米部門が大きな成果をあげましたが、日本部門にも成果がありました。日本は戦争の蜜を吸ったのです。先ほどのポーツマツ条約の不満を解消するのにも役立ちました。なにより大きいのが次の第二次世界大戦への日本参戦の環境が整ったことです。あとは誘導すればいいのです。
3.3満州事変(1931)
これは日本参戦の第一段階です。同時に米国参戦の布石です。日本を国連から脱退させること、日中戦争拡大させること、が第二段階です。大切なのはドイツの開戦と時期を測ることです。
3.4日本開戦(1941)
これは思ったより簡単でした。経済ブロックと三国同盟の破棄を迫ると真珠湾攻撃に走りました。この民族は攻めには強いが守りが弱いですね。それはともかく米国の第二次世界への参戦が可能になったわけです。米国部門への貢献は大きいですね。
戦線を拡大させて売り上げに貢献してもらうのが次の段階です。日本は4年間よく頑張ってくれました。米国も戦後政治的にも世界のトップに立つことができました。
質問、レイテ沖海戦で大和がレイテ湾突入していたら成果はさらに上がったのではないか。
回答:おっしゃるとおりです。ルーズベルトの要請で北進つまり日本へ帰還させました。マックアーサーを三度逃げ帰らす訳には行かない、日本占領後の任務、対ソ戦の戦略上彼は必要というのです。
質問、原爆投下は日本経営の支障になるとは考えなかったか。
回答 これも難しい質問ですが、米国の希望を認めました。むしろ米国担当に質問されては。
4戦後体制(1945-?)
日本の戦後体制は大人しい日本人を育てることでした。牙を抜き、羊のようにさせることです。それはこの民族の長所を殺いでゆけばいいのです。ひと世代ふた世代で骨抜きにできると考えました。具体策は日本の過去を否定すること、戦犯処刑、憲法改正、が目玉でした
問題なのは天皇の取り扱いでした。確かに明治政府は天皇に絶対権を持たせていますが実権は内閣が握っていました。いわば祭り上げられたもので象徴という決着で十分というのが我々日本担当部の見解でありました。米国から天皇処刑すべしとの強硬論もありましたが、日本国民がこのような体制を受け入れるか否かが重要であると諭しました。天皇陛下万歳は軍のやらせであるであることは、西南戦争での西郷隆盛と比較すれば明らかです。
この民族の根源的意識は家族にあると我々は考えました。この家族をばらばらにして個人主義をこの国に根付かせることこそ重要課題でした。家族、部族、社会、国家への帰属意識ならびに連帯感を打ち壊してゆけばいいのです。若者たちは我々の予想以上に反動的でありました。半世紀で個人主義が定着するとみたのです。
これほどの改革が抵抗なく受け入れた例は世界中でも珍しいでしょう。この民族は長い歴史を持っていますが過去を捨て去ることを躊躇いません。諸行無常との世界観は欧米思想では理解しがたい点です。
質問、天皇陛下万歳と西郷との相違はどこか。
回答 西郷という男に心底惚れるのと押し着せの天皇との相違でしょう。
質問 というと?
回答 現実に感じたものと強制されたものとの相違と言ってもいいでしょう。
質問、過去を捨て去ることに抵抗がないとは具体的に説明さ れたい。
回答 日本史上、四大改革といわれるものに①大化の改新②鎌倉幕府③明治維新④この戦後体制を挙げることができる。この民族は極端から極端へ揺れ動くが特徴です。しかし振動が収まってくると民族固有の位置で安定します。
5日本崩壊への道(1941年~)
一億層玉砕を唱えた日本政府を我々は評価していました。しかし戦死者が600万人を越えた時点で正直、この民族が滅亡するのではないかと少しあわてました。滅亡させるのは簡単ですがこれほど優秀な民族を根絶やしにすることは得策でないと判断しました。したがって都市爆撃なかんずく原爆投下には躊躇いたしました。
我々は戦死者2000万人と踏んでいましたが逆にこれだけの人材を確保するにはと考えたとき、もう十分だと判断しました。この判断は正しかったと自負しております。戦後の復興、経済成長を例にあげるまでもないでしょう。日本の貢献度は英米に匹敵すると言っても過言でないでしょう。
我々の目標はこの民族を去勢して我々の忠実な僕とすることです。家族制度を打ち壊し個人主義を広める戦略は着実に成果を上げてきております。達成まであと少しのところにきております。
質問、最近戦後体制からの脱却などと言われているが。
回答 その点に多少の不安があります。先ほど申し上げましたが、この民族は極端から極端へ走る恐れがあります。いつ豹変するかわからぬから安心できません。ですので、男の生殖機能を低下させ生物的に去勢するのが上策と考えています。
以上で私からの説明を終わります。質疑応答、討論に入る前に一時間ほど休憩を取りたいと思います。そうですね、3時から再開しましょうか。
(闇の帝王拍手)素晴らしい説明だった、私はこれで失礼するが、諸君は大いに議論し大いに研鑽を深めてもらいたい。(一同起立してこれを見送る)
塩崎家の夕餉、再びダバオへ
塩崎家の夕餉
録音はそこで切れていた。質疑応答、討論では具体的内容が聴けたかもしれない。坂本はため息をつく。また、忙しくなるわね。塩崎さんありがとうございました。清美もご苦労だったな、この録音をCDに落としてパソコンからは消してくれ。CDは何枚作りますか。そうだな3枚、一枚はここに、一枚はチップを託してきた彼に、チップは俺が持とう、もう一枚は、当分清美が持っていてくれ。わかりました。主人がいたらお役にたてるのにね。興奮が醒めたら、どうすべきか考えて見ます。
坂本と清美は書斎を出る。坂本は清美の部屋に入るとやにわに清美を抱きついた。小さく震えている坂本を清美はやさしく抱く。“日本民族の去勢“とことなげにいう闇の権力者たち。
大化の改新は律令制でしょ、鎌倉幕府は武家政治、明治政府は絶対中央集権、戦後体制は民主主義でいいかしら。それは少しお眠りなさいと言っているようであった。不安恐怖は男の性欲を掻き立てる。激しく清美を求めた。
どれくらい眠ったであろうか、塩崎真知子が夕食に招いてくれたので起き上がる。『入ってもいーい』と紀和が声をかける。いいよ、入っといで。4歳になった紀和が駆け寄ってくる。坂本が抱き上げると紀和がくすっと笑う。うん?お父さんお母さん、恋人?そうだよ。あのね、恋人の邪魔してはいけないんだって。そうか、ありがとう。お母さん、お父さんを愛してる。ええ愛しているわ。紀和も恋人欲しい。大丈夫、紀和には素敵な恋人が現れますよ。この母娘は宝物なのだ。
『真知子さんこんばんわ』はい、紀和ちゃん今晩は。ユキと真知子がすき焼きを準備してくれた。『紀和ちゃんおとうさんが帰ってきてうれしい』うん、とっても。さあさあ、いただきましょう。いただきます。あのね、ユキおばさんとお父さんとの関係は。夫婦。じゃあ恋人じゃないの。両方よ。恋人夫婦。紀和ちゃん旨い事いうのね。
夫婦は愛情が深まるほど相手に求めるものが多くなるから相手には負担になってゆくのではないか。自然の成り行きであるが恋人気分を持ち続けるなら、控えめの求めとなり相手もできうる限り応じようとするのではないか。
愛の営みは悲しみ苦しみから心身を解放してくれる崇高な宗教的行為でもある。人間の本来の根源的世界へ導いてくれる。そこは悦楽の境地である。これを正面から取り組む作品(チャハレイ夫人の恋人等)は、ただ『いたずらに欲情を刺激する』だけの春画、エロ本の類とは明確に区別されるべきである。
このような団欒を津波のように何のためらいもなく奪い去ってゆく闇の権力者に坂本はあらためて怒りを覚えていた。これからどうなさるの、坂本の心を見透かしたように塩崎真知子が尋ねた。わかりません、公表するのも一つですが、それには裏づけが足りません。大平さん(外務省アジア大西洋局長)柳さんに相談しようかとも考えていますが、、、。
ディー、何のこと?そうだ、この国の国会議員にして影の大統領ユキ姉さんにも見ていただこう。やめてよ!ユキさんいらっしゃいと真知子が書斎に連れてゆく。お母さん、私わかんない。そうね、日本の歴史を知っていないとむずかしいかも、でも録音を聴きながらわかるところだけでも頭に入れて、わからないところは私が解説するわ。
坂本と清美は隣の自宅に帰ると紀和を寝かしつけた。さあ、一発やるか。いやだわ。嫌か。一発だなんて。坂本は湯船につかる。やせた月がのぞいている。清美は27になるが京都大学へ提出する博士論文『日比文化の根源的相違』に追われている中で録音テープ起こし翻訳に数日を費やした、慰労しなくては。
清美がかけ湯をして湯船に近寄ってきた。胸を隠すのだ、上流の女は乳房を隠す、下流の女は下を隠す。私、上流ですか。お前は天照大神の末裔に違いない。彼女は天を照らす太陽神にして伊勢神宮のご神体であらせられる。天皇が伊勢参りをするのは夜伽をするためである。天皇が男系男子であらねばならぬ根拠とされる。わかりましてございます、されどあまり科学的では、左様、明確な根拠がないときは神秘的なものを引き合いに出すものだ。清美は坂本に抱かれて目をとじる。
布団に横たわる清美の乳房から喉に唇を這わせるとかすかなあえぎ声をあげる。その顔は妖艶にして神々しい。顔の表情も大切だな、坂本はいきり立つ男根を静かに突き立てる。清美の顔がゆがむ。それが悦楽に変わってゆく。俺がこうさせているのだと坂本は満足していたが、突然突き上げてくる縦波につづいて大きな横波に襲われた。清美は坂本の首に両腕を巻きつけているのだが坂本は広い宇宙を漂っているのだ。
その頃、ユキは真知子の講義を受けていた。この国では世界史などあまり教えないし、高校すら卒業していないユキには耳新しい言葉が溢れている。真知子の説明の上手さもあるがユキは海綿のように吸収して消化してゆく。坂本さんの心を掴むだけあるわね、あなたは私の自慢の娘よ。お母さん。今やこの国の影の大統領とさえ呼ばれるユキだが、人はユキに感謝しつつも蔭ではジャパユキとののしっているのだ。
この娘はそれを知っていて健気に振舞っている。真知子の愛情はユキの心を包んでくれる。お母さん、ものを知ると見えなかったものが見えてくるのね。そうね。もっともっと知りたい。できますよ、あなたには。
再びダヴァウへ
クリスティーンの卒業式が近づいてきた。坂本がダバオへ向かう日、清美が心配そうに言った。『あなた、その女子大生には気をつけてください、危険な女です。』やはり、そうか(清美の超能力で女の詳しいことがわかったら教えてくれ)。坂本は知っていたのだ、余計なことを言ってしまった、でも彼を守ってみせる、紀和のために人類のためにもと清美は心の中で叫んだ。
坂本は3日前ユキに卒業式で何かしゃべれと命じていた。できない、恥ずかしい。やれ、たかが大学生相手だ。そうか国会に比べたらどうってことないか。ユキ議員の講演として後世まで残るぞ。冷やかさないで。
セール、タラ(出かけるぞ)と運転手のセヴァスチャン。ソクソクだ。誰と。うるさい一時間後に出かける。わかった、一時間後にまた来る。ディー本当にやるの。一発だけな、ヴィラ洗って来い。やはりユキとのソクソクは気兼ねしなくていい。おいしい?とてもおいしいマム。ああ行きそう。まだ早い。だって、もうだめ、きてきて。AVの観過ぎじゃないのか。
フンマンナ(済んだか)。オウオウ、出かけるぞ。塩崎真知子と清美が見送る。お母さん、行ってきます。行ってらっしゃい。清美も負けていない。行ってらっしゃいませ、お気をつけてと切り返す。坂本はああと答えて紀和にキスする。複雑な気持ちから逃げるように車に乗る。
バギオからマニラ空港までは3時間足らず、道路が良くなったものだ。かつては7時間は見ておかねばならなかった。アンヘロス空港からダバオの便はないのか。ない、セール昼飯はどこにする、リトル東京か。日本料理が食いたいといえ。セリナがうまい、友達呼んでいいか。割り勘だぞ。それはないでしょ。
友達はこのカローラを運転してきた男だ。だいたい読めてきたとユキに話しかける。ダバオに連れて行けでしょ。お前もわかるか。セール、ボス(カルロス)から電話だ。そらきた。『彼をダバオに連れていきたい、だって』お前の運転手は舌は何枚か、賃金カットしろ。『やはりな、まあ、いいだろう、役に立つかも。娘(マリア)がお前を待ってるぞ』
ダバオ空港にはホテルの車が来ていた。この前の運転手だ。ユキがセヴァスチャンの携帯で警察署長に電話する。『着きました』『了解です』そうだな、彼の携帯は連中に知られていないだろう。慰霊碑。OK.
車が山道を登っていく。セールつけられている。そうか、下りのカーブでサイドブレーキだ。ハンドブレーキな。うるさい。セール了解。
運転手が伏せろと叫ぶ。ユキが坂本を抱える。逆じゃないか。黙って。後続車は追突して横転する。ハンドルを返せなかったようだ。大丈夫か。俺おでこ打った。私尻が痛い。このケツなら心配ない、チンチンで揉んでやる。やだー、馬鹿ね。行け、後は警察にまかせろ。イエスサー。
坂本が慰霊碑に手を合わせタバコを取り出す。『火を貸していただけますか』と日本人が近づいてきた。ライターを渡すと紙切れといっしょに返してきた。無言の問いには答えず立ち去る。紙切れには『つづきです、兄は死にました』と書かれていた。裏にはウェッヴサイトがあった。
彼は消されたか、弟は俺がここに来ることを知っていたのか。坂本は冥福を祈りながらも疑念にとらわれていた。老婆と孫がやっていきた。あの日本人はこのところ毎日きているよ。花と線香、と200ペソを差し出す。この前の日本人は来なくなった。けど彼は顔が似ているね。虫の知らせか、清美の超能力か。
清美にサイトをダウンロードするように携帯メールを打つ。すごい、映像つき、すぐ翻訳します。頼む。ユキ、警察は。なかなか吐かないみたい。そうか、ホテルに帰るか。日本博物館に行きたい。明日の準備はいいのか。大丈夫、いきましょ。それと日本軍跡のレストランで食事したい。やはりドキっとする。
ユキ卒業講演
ユキ卒業講演
この国の卒業式は米国式だ。100年間米国の植民地であったから当然といえば当然である。UPフィリピン大学の学生は超エリートと自他ともに自負し、またそう扱われている。大学のレベルは東大とは比較にならないがエリート意識のほうは東大以上であろう。
元高校女教師は坂本を事務所に招待した。息子二人がUPを卒業したことを自慢した。坂本がお世辞を言うとあの日本人は私の家族に畏敬の念を抱いている、私に英語を習いたいのであろうと言ったらしい。この自惚れはどこからくるのだ、ユキ。わかりません、高校の先生はアンダーテーブル=付け届けで儲けたのでしょう。学校の成績も金次第か。
卒業式が終わるとユキが紹介される。なにしろ影の大統領と呼ばれるほどの大物である。その政治は革命とも評されるほどの実績を残している。政治の膿を出し切り、国民生活を大きく向上させた。今やこの国を実質的に植民地としている外国支配の外堀を埋め、内堀をも埋め始めている。本丸が落ちれば真の独立をうるのだ。その名はこの国の歴史に深く刻まれるであろう。
UPの卒業生も多くが海外に職を求めていた。ここ数年国内に就職する者が増えてきた。かれらを満足させる職場が生まれてきたということであろう。その立役者を迎え、学士たちは興奮していた。スバニン(川の民)の民族衣装に身をまとったユキことJonalyn は歓声と拍手に迎えられる。黒を基調にしているがダバオ民族とも異なる。妙に色っぽいなと坂本は思った。初めて観る姿に惚れ直した気がする。
卒業おめでとうございます。皆さんは栄えあるフィリピン大学の卒業生となりました。しかし、これからもこの国のため、人々のために尽くしていただきたいの。私は高校もまともに出ていないから皆さんのようなエリートに話す資格も知識もありませんが、皆さんに負けないものは年齢と経験ですね。さがない身の上話を聴いてください。
私はある日本人に出会いました。彼は平凡な日本人ですが、物事をはっきり言うのが特徴です。また短気で直情的です。そんな男に何故ほれた、と思うでしょう。あれは19の春でした。(+10と野次がとぶ。)昔のことだから良く憶えていないの、でもさ、付き合うほど良さが見えてくるの、どういうのかな、毎日惚れ直す感じね。(キャー素敵)
彼も私にべたべただから人は私たちを恋人夫婦って呼ぶの。(大拍手)彼はね、自分のことにはずぼらだけど他人のことには一生懸命尽くすの。こうゆうのに女は弱いでしょ。
家族恋人にやさしくできても他人にやさしくできて?日本人は自分のことより相手、他人を思いやるのね。これが第1の発見。この認識がわたしの人生を変えたのです。あれは15の春でした。家族の生活費を稼ぐためにマニラに出ました。職を転々としましたが日本企業に勤めたとき、日本人は仕事を大切にすることに気づきました。これが第2の発見です。仕事は事に仕えること、単なる労働ではありません。
日本訪問中のロシア皇帝が暴漢おそわれたとき、車夫はこれを救いました。ロシア政府は多額の謝礼金を払おうとしましたが車夫はこれを断ります。『客を安全に運ぶのは車夫の仕事。俺がもっと注意していれば客に怪我させなかったのに』と言ったそうです。人力車という仕事でも誇りを持っているのね。
日本人マネージャーの意図を考えて仕事をしました。彼はスケベではありませんでした。私の経験では70%の日本人は紳士です。フィリピンに来ている日本人の70%はスケベです。(そうなんだ)どうしてそのようにやるのかと仕事の段取り、やり方をたずねると彼は丁寧に説明してくれました。そうすると次のステップが楽になるわけですね。そうだよ、何事も一歩先を考えるのだ。これが第3の発見。
半年の契約が終了したとき、彼は別の日本企業を紹介してくれました。そこでもマネージャーがAさんの紹介だけあっていい娘だと大事にしてくれました。なぜかというと仕事の流れを憶えたのです。自分のやっていることは仕事の一部ですが全体を頭に入れると仕事って楽しい面もあると思いだしたの。これも発見かな、4番目の。(なるほど)
ある日、マネージャー、BさんとAさんが食事に誘ってくれました。日本料理はおいしくて全部食べました。日本人は食べ物を残しません。私はAさんとBさんのアパートの掃除をしました。すると100ペソずつお金をくれたのです。いろいろと仕事を教えてもらっているからと私はこれを断りました。じゃあ、月3000ペソでやってくれ、俺も頼むよということになりました。日本人にはチップを求めないこと、これ5番目。
ユキがコップの水をゆっくり飲み終わると大型ディスレーにカラオケが流れる。小倉生まれで玄海育ち 口も荒いが気も荒い ユキがマイクを取って歌いだす。フィリピン人は音楽好きで乗りやすいが画面に食い入る。三船敏郎、高峰秀子の映像は世界に通ずるのであろうか。歌い終わっても学生たちは画面に見入っていたがふと気づいたように拍手が起こる。お粗末でございましたと頭をさげる。なかなかの役者だ。
この歌は日本人に愛されている作品です。映画テレビにもなりました。私が日本へいったのは、ちょうど19の春でした。まとまったお金が必要だったのです。AさんとBさんが1ミリオン用意してくれました。返すあてはありませんといったら、身体で返せていうの。スケベって言い返すと冗談、冗談と笑っていました。二人のハウスキーパーで毎月5000ペソずつもらっていたのよ。餞別だとAさん、俺はボーナスだとBさん、私、うれし泣きしたわ。でもさ、炊事、洗濯、掃除だけで5000ペソを払う日本人の給料って幾ら、私、日本で幾ら稼げるかって考えたものよ。
でね、日本入国審査が大変なの。私は歌手ということでしょ、歌を歌うように求められたの。私地味だったからタレントに見えなかったのかも。でこれを歌ったの。そしたら『さすがプロだ、もう1曲歌ってください』っていうの。私があなたに惚れたのは ちょうど十九の春でした(もっと歌って)画面に英訳の歌詞が流れる。
『私があなたに惚れたのは ちょうど十九の春でした いまさら離縁と言うならば もとの十九にしておくれ
もとの十九にするならば 庭の枯木を見てごらん 枯木に花が咲いたなら 十九にするのもやすけれど
みすて心があるならば 早くお知らせくださいね 年も若くあるうちに思い残すな明日の花
一銭二銭の葉書さえ 千里万里の旅をする 同じ日本に住みながら 会えぬ我が身の切なさよ
主(ぬし)さん主さんと呼んだとて 主さんにゃ立派な方がある いくら主さんと呼んだとて 一生忘れぬ片想い
奥山ずまいのウグイスは 梅の小枝で昼寝して 春が来るよな夢を見て ホケキョホケキョと鳴いていた』
会場は総立ちの拍手鳴り止まず。そしたらね、日本の税関が“ありがとうございました”って言うじゃない。(会場静まる)パスポートに千円札がはさまれていたの。“あなたの歌は銭が取れます。役得させてもらいました”と笑ってたわ。どこかの税関とはえらい違うなと思いました。そうそう、『日本の役人に対する最大の侮辱は金を渡すこと、たとえそれが感謝、厚意であっても』と言われているの。(信じられない。でもユキ議員は嘘言わない。そうだわ。そうよ。会場がざわめく)
無法松はAさんの、19の春はBさんの持ち歌でした。私は聞き覚えで毎日歌っていました。それがこんなかたちで、そう、”芸は身を助ける“ってやつよ。日本のお店でもこればかり歌っていました。そしたら毎日お声がかかったの。歌うたびにご祝儀をいただいたわ、お店の水揚げも上がって私大事にされたのよ。AさんBさんに電話したら喜んでくれた。
ある日二人の取引先の社長さんが、Cさんが私を指名したの。つまり、二人が私をCに紹介してくれたわけ。お店の対応でCさんがすごい人だとわかった。彼は歴史に興味があることがわかったので日本の歴史を勉強した、といっても、時代劇を繰り返し観ただけど。わからないところはお店の人に教えてもらって何度も何度も観ているうちに日本人の考え方がわかってきました。
お金よりも“世のため人のために”というのが基本哲学なのね。これが最大の発見。ホセリサールのような人がたくさんいたの。日本は一度も植民地になっていないのよ、知ってた?(本当?うん聞たことがある。私知らなかったわ。僕も、後で調べてみよう。そうね)
Cさんの話は面白いので図書館で調べてみたら面白いのよ。日本語は大変だったけど、一月で読むことはできるようになった。けど色気がないんだって。男と女と表現の仕方が違うのね。『美味い、もう一丁』と言ったら男みたいだなと笑われたの。日本人ホステスに聞いたら大笑いされてさ、『美味しい、もう一ついいかしら』だって。英語で言えば同じ言葉になるのに日本語の特徴ね。逆に男が言っているのか女かすぐ解る。それと話し手の関係もね。客か、上司か、友達か、家族か、などなど。とにかく日本人の話を良く聴くことね、しゃべらないほうがいい。日本人は話好きだから聞き上手になることが大事ですね。
それからいろいろあったけど長くなるから省略しますが、Cさんの嫁にとAさんから言われたの。でも日本についてもっと知りたいといって断ったの。そしたらBさんからも電話があってハウスキーパー兼ケアギヴァーでいいというの。Cさんはお年だからあっちのほうソクソクはできないと聞いて、Cさんのマンションに住み込みました。でもお店はつづけたのよ。ビザもあるけどもっと日本の勉強がしたかったから。Cさんは日本の冬はつらいとマニラにマンションを買ったので、半年は日本、半年はマニラの生活になったわけ。
マニラの生活は物質的には恵まれていたけど退屈で早く日本に戻りたいと思っていました。そんな時、彼に巡り会ったのね。世のため人のために尽くす男に。彼は金銭的には何の報酬も求めていません。金を目的としないこの日本人に私は引き付けられて行きました。
1800年代の日本にはホセリサールが沢山いたのね。だから日本は植民地になったことがなかったの。彼らは日本のために命を懸けた、フィリピン人はこの国のために命を捧げることができて。私はこの国をそれだけ魅力ある国にしたいの。国は国家と国民が手を取り合って創ってゆくものでしょ。私は皆さん方がこの国を担うようになったとき、国民がこの国のために死んでもいいと思える国にしたいの。
そのためにはフィリピン人のための政治が大切。フィリピン人がこの国で幸せに生活できるようにすることが私の使命と考えています。そのためには彼が必要でした。私は彼が別の女に犯されたのを知って闘争心が燃え上がりました。絶対ものにしてやると心を決めました。そして成功しました。彼が私をものにしたのではありません、私が彼をものにしたのです。彼の思想を精液を吸収して私は成長しました。
この国に命を捧げることは、愛する男に身も心も捧げることと同じくらい素晴らしいことなんだと悟ったわけ。皆さんもホセリサールに続いてください。皆さんはこの国ではエリートです。でも世界レベルでは?またこの国はどうでしょう。東洋一貧しい、いえ世界でも底辺にいます。あと10年でミドルクラスにしたいと思います。トップクラスに持ってゆくのは皆さんです。今日の門出はその出発です。卒業おめでとう。
あら、丁度時間となりました。その後のことはブログにでも掲載しますのでお楽しみに。くだらない身の上話を聴いていただいて感謝します。
もっと聴きたいというため息とともに大きな拍手がつづく。坂本も始めて利く話だった。クリスティーンはどこで聴いているか。では質問がありましたらどうぞ。
質問、この国はあと何年で日本に追いつけますか。
答、 追いつけます、私は500年くらいかなと思ってます。
質問、あなたの政策は彼の理念を具現するものですか。
答、 彼に触発されましたが私の理念です。
質問、あなたは日本の長所を強調しましたが、日本の罪悪、たとえば第二次世界 大戦での犯罪、ラワン材の乱獲をどう思うのですか。
答、 むずかしい質問ね、事実を事実と認めることが大切です。日本軍のレイプ、 虐殺、強奪はなかったとは言えません。しかしそれは米国のプロパダガンダ じゃないかしら。実際に見た人の話には具体性があるんじゃない。私は日本 を知るほど事実は違うんじゃないと思うようになりました。300万人の戦死者 のうち何人が日本軍によって殺されたかと考えてみたら、私は20%以下と思 います。あなたは自分の目でこれを検証してね。
この国はスペインに300年、米国に100年、日本に4年間支配されました。この うちわが国に来て謝罪し、そして賠償した国はどれでしょう?その国は今もわ が国に援助をしています。
それからラワンは悲しい話ですね。日本の商社は反省しています。この国の 共犯者はどうでしょうか。失われた自然を取り返すことはむずかしいでしょ。 美しいこの国を破壊させてはいけません。あなたたちは将来この国を担って ゆくでしょう。だからこれからもこの国を守っていってね。(拍手)
質問、日本には国民的英雄ホセリサールに匹敵する人物が多いと言われました が 何人ぐらいいますか。あなたの好きなタイプは?
答、 100人はいるんじゃない、日本の偉人で検索してみて。私は坂本龍馬が好 きだな。若くして暗殺されたけど女に持てたのよ。そうそう、東京日比谷公園 にホセリサールの銅像があるのよ。(本当知らなかった。彼日本の女をもの にしたそうよ)
質問、今後の政策を聞かせてください。
答、 政策というより夢ですが、ひとつはUW世界大学をつくること、いまひとつは 芸術コンベンションをつくることです。皆さんがこの国を担う頃には世界国家 が樹立されていると思います。
質問、彼をどうやって手に入れたのですか。
答、 それは秘密よ、あなたは私よりも綺麗だからもっといいのが手に入るでしょ う。(うれしい、私頑張る。私も)
録画権力者たちの質疑応答
録画権力者たちの質疑応答
坂本に追突した連中は厳しい取調べを受けていた。この国では手荒い方法もありだ。少しずつ話し始めているようだ、間もなく全部吐くだろう。
清美の録画英訳は坂本を興奮させた。それは睡眠中の坂本に清美が語りかけてきたのだ。夢ならば一語一句まで頭に残るはずはない。映像は受像する能力が自分にないからだと坂本は思った。録音チップを俺に手渡した男は消された。清美はそれを恐れたに違いない。
メール、ウェッブサイトで連絡すれば発信が連中に知られよう。はてどうしたものか、坂本は逡巡していた。外務省の大平局長、柳、に相談するとしても迷惑どころか命まで狙われるだろう。元のサイト(アップロードしているが彼しか見られない)を直接みてもらうか、新たなサイトを立ち上げて公表するか。それも陳とカルロスに話なしてからだな。
【清美のテレパシー送信】
田中、鈴木、橋本、中川と政府高官の粛清は少し神経質過ぎないか。最近でも中川コウキ、中川昭一と間が早すぎる。我々の所在が知られるのが心配だ。欧州部門はそれを恐れる。坂本龍次の情報収集力は脅威だ。国際的視野を持った人間がその情報を分析すれば我々の所在が白日の下に晒されることになる。我々の聖域に立ち入ることは断じて許されまい。
そのへんの加減が難しいが難しいですが、我らが方針は、火種は小さいうちに消せ、です、羊は狼にもライオンにも豹変する可能性を常に持っています。この民族は測り知れないところがあります。憲法改正論は与野党を問わず高まっていることは注目すべきです。集団的自衛権の行使が現実となると危惧されます。むしろ個別的自衛権の行使が問題じゃないか。
日本の技術が軍備に使われると最先端のものになるでしょう。日本が世界を支配する可能性は十分にあります。世界各国の軍備は陳腐化したものになってゆけば各国は日本からの武器輸入に頼ることになる。日本製武器が世界を席捲すれば自動車、家電品の比ではない、日本が武器輸出の割り当てを始めると世界は日本にひざまずく。
そうだ、あの謎の飛行物体だけでも十分脅威だ、しかも製造場所も突き止めていない、失礼、つい興奮して君の話に割り込んでしまった。
いいんですよ、私もそれを言おうとしていたところですから。しかも困ったことに日本は専守防衛を旨として侵略、戦争を好まない、つまり伝家の宝刀抜かずにしかず、の範を示すとこれに追従する国が増える。引いては武器の使用量は激減するでしょう。我々の軍需部門は根底から揺す振られ、ついには廃業を余儀なくされることになりかねない。これはなんとしても阻止せねばならない。
最悪のシナリオとしては日本民族を滅亡させることになる。生殖機能を退化させれば三世代で十分と見ております。すでに一部の日本人について人体実験を行っております。セックスレス、つまり3月以上性交渉をしていない夫婦もしくはこれに順ずるものは500万組に達しました。
米国部門も日本部門に同調する。現在の日本支配は、日米安保条約すなわち軍事、食料自給率の低下が二本柱である。軍事は沖縄、岩国などの米軍基地がある限りいつでも日本を制圧できるが、今の話の日本が武器輸出国になれば基地の価値は半減、いや、なくなる。食料は日本がもともと農耕民族であるからその自給率を100%以上に持ってゆくことは容易である。
してみれば日本を支配するには日本の政治がわれわれの最後の砦となる。政治とは日本国憲法である。憲法を改正しないかぎり、未だに一度も改正されていないが、日本は軍隊を保有できない。我々に幸いなことに憲法改正には2/3以上の賛成を要する、換言すれば1/3の反対でこれを阻止できるのである。米国部門は、“憲法改正は悪である”との認識を65年間日本国民に植え続けてきた日本部門を評価するとともに、それをなお一層推進されるよう声援を送るものである。(拍手)
しかし支那担当の立場から観れば日本の憲法改正は時間の問題でないかな。なぜなら我々が中華思想を煽っているからである。支那の領海をハワイまで広げるように共産党に指導している。尖閣南沙諸島など序の口に過ぎない。
欧州担当も支那に注目している。支那の軍拡はアジアに大きな軍需を産む。それは我々に大きな利益をもたらす。我々とは欧州部門に、か。笑い声。それもあるがまた米国も対支那軍需が増えよう。第2次世界大戦程の需要となろう。
たしかに兵器の性能がハイテクで決まるようになって製造コストは数十倍数百倍になっている。軍拡競争が大きな需要を産む。もはや武器使用は必要ではなくなってきている。誇示するものになってきている。つまり、車のモデルチェンジなみに更新需要が見込める。
面白い見解だが、古くなった兵器は解体、再利用でまた稼ぐのかな、軍拡競争は日本の兵器技術を格段に進歩させるだろう。してみると日本を支配管理が可能であることが前提になる。日本担当の見解は?
ご指摘のとおりです。それだけですか、もう少し詳しくお聞かせねがいたいな。考えるだけで頭が痛くなります。ご苦労されているのは推察しているが他部門も担当も知りたい。
答えは明らかです。日本民族固有の意識を封じ込めればいいのです。その方法となると支那担当の文化革命がうらやましい、ご指導賜りたい。
いやいや文化革命は支那だからできたのです。日本のように民度が高いところでは不可能です。マインドコントロールは難しい。支那担当にできることがあったら協力させていただきますよ。そう言って頂けるだけで気が楽になります。
先程の説明にあったように日本人が一致団結したっときの強さは戦でもビジネスでも他を寄せ付けないものがある。そのときは日本を制御できなくなる。血族、地縁、寄り合い、などを疎遠にしてゆくことが肝要だ。核家族化は成功例だが他人にも無関心になることを継続的に習慣化させるのが有効だ。
そう言えば日本の祭りはその最たるものだ。つまり農耕に根ざしたものだから農業を衰退させるのがいい。日本の食糧自給率は先進国で最低だから日本担当は成功しているといえよう。食料は最大の武器だからな。そうなんだ。
そうすると日本を工業国にして食料自給率を上げさせない、ということかな。私もそう思う、しかし面倒な国だな、日本は。
清美は討論の触りの一部を送信してきたのだろう。映像も観たい。日本担当部門の答弁者が複数ということは、この勉強会は持ち回り、今回は日本部門が開催?日本のどこかでということも。映像はないのか、録音が精一杯だったか。可能性がないこともないな。坂本の頭はいろんな想いが駆け巡る。やはり殺された男の身元から手繰ってゆくしかないか。その弟は無事か。連中も戦争派と金融派との主導権争いを繰り広げているのだ。それにしても稼いだ金をどう使うのだ、この地球をどうしようとするのか。
海難救助隊視察 生協、児童養護施設、職業訓練所、視察
海難救助隊視察
坂本、ユキは、5歳になった南海男は海難救援隊を訪れる。ここでの入隊試験はまず10日間の不眠不休に耐えられるかだ。登竜門をくぐり厳しい救援訓練を経て隊員になれるのだ。10年後には南海男も入隊させたい。それは彼が決めることではあるが坂本は機会あるごとに海援隊=海難救援隊をin print刷り込ませることにしている。
またユキ生協の支店長候補にはここで研修させている。厳しい訓練を肌で感じるだけでも意味はある。研修は隊員の身の回りを世話するだけだが、凛としていて甲斐甲斐しく働く研修生に隊員たちは癒され惹かれていった。研修生は期間中に救援隊の訓練内容、任務を理解する。
ユキ生協の支店は1000を超える。毎月5名の研修生が海難救援隊に派遣される。志を持つ若い男女が惹かれあうのは当然である。将来を誓い合うカップルが生まれる。隊員の士気も上がる。岡本理事長の帝國日本軍並教育はこのユキ生協に根づいていることが知れるのであった。
フィリピン人に欠けるものは自制心である。欲求を抑えることができない。幼児期に躾をしないからだ。10歳になっても欲求が通らないと泣き叫ぶ。折檻すべきときにも泣き止むまで待っている。大人になっても欲しい物には手を出す。それが窃盗罪に当たることは理解していても自制できない。ばれなければ罪に問われまいとの誘惑に勝てないのだ。
植民地支配者にとって都合のいい民族である。規則で罰してゆけばよいのだ。この島から少し北にある日本では自律心が強い、この民族は己の名誉のためには死をも恐れない。欧州諸国は日本を征服することはできるが支配することはできないと判断したのであろう。
この救援隊は金のためだけでは勤まらない。海難から人々を救う使命感がなければ懸命の任務は遂行できない。坂本は初めてこの国で人間の尊さを見た気がした。ユキも共感した。金や色欲だけで真の人間関係が形成されるのではない。それは価値観を共有できるかである。
ユキはこの日本人のために死ぬなら本望と思っていた。日本人は己を知る者のために死ねるもんね。岡本理事長にこの救援隊を吹き込んだのはあんたでしょとユキは坂本に心の中で叫んでいた。(彼は我が人生で最高の収穫かもしれないわね、われながらよくやった、ウフフ。)
校長が夕食に招いてくれた。できるだけ多くの人に会いたいとのユキの希望で指導教官も招かれる。ユキ節が飛び出るとにぎやかになる。話が盛り上がったところで高級ウィスキーが出る。校長の差し入れだ。幹部には安い酒を飲むなと厳命している。極限までの体力精神力がもとめられる任務への健康と国際舞台での社交訓練が目的らしい。
救助できなかった人のことを思うと眠れないな。でも隊員は全力を尽くした。わかってる、だから私の指導力が問題なのだ。自分を責めることはない、君たちは世界のどこに行っても優秀な教官だよ。恐れ入ります、校長。海難から人を救助することは難しい、海難から逃れる、いや、近づかないことが大切だな。
ここ数年、海難事故は少なくなりましたな、天候無視、定員オーバーが無くなったからかな。やはり政治は大切だな。ユキさんがコングレスになってからだ。そうだ。あんた胡麻すり上手いわね、よし、私が校長には新しいボトル差し入れるから全部空けちゃいましょ。
昔ね、トルコの軍艦が日本で座礁転覆したの。日本のバギオは凄いのよ。日本の漁師が荒 れる狂う海に飛び込んでトルコ海兵たちを救ったの。でさ、困ったときは相身互い、俺たちは同じ海の男だって!素晴らしい、いつの話ですか?昔って言ったでしょ、昔の話。ですから何時の?
フィリピン人は思ったことをそのまま口にする。頃合を測ることができない。坂本が助け舟を出して、1890年に紀伊大島沖で遭難したオスマン帝国(現在のトルコ)のフリゲート艦エルトゥールル号の事件を説明する。居並ぶ教官たちの眼に涙が。
ユキは体勢を立て直すと、月日は流れて100余年、米軍のイラク侵攻時のことでありましたと講談を再開。フセイン大統領は48時間後イラク上空を通過する飛行機は国籍を問わず撃墜すると宣言したのであります。
外国人は先を争ってイラクからの脱出を図ります。悲しいかな日本は遠い、飛行機を差し向けるに時間が無い。時は無情に過ぎてゆきます、あと2時間しか無い、間に合わない。ああ、イラク内の数百名の日本人の運命や如何に?
もはやこれまでと覚悟を決めたその時、トルコ航空機が救援にかけ着けてきたのであります。一分一秒を争うときでも日本人は冷静迅速かつ秩序だって搭乗します。飛行機が離陸しても機内は重苦しい空気に包まれます。大韓航空撃墜事件が日本人の脳裏を過ぎるのでありましょう。トルコ航空の乗員とて同じ思いなれど、慌てず騒がず。
早くイラク領を抜けてと神に祈る思いでしょう。トルコ国境までいかばかり、残り5分を切ると冷静な日本人にも焦燥の色が現れます。取り乱したりはしませんが、迫りくる死の恐怖に必死で堪えているのであります。とその時であります、客室に機長が現れたのは。『ようこそトルコ共和国へ』と挨拶したのです。安堵感は拍手にそして歓声に変わります。
大韓航空機撃墜事件(だいかんこうくうきげきついじけん)は、1983年9月1日に大韓航空のボーイング747が、ソビエト連邦の領空を侵犯(航路逸脱の原因については後述) したために、ソ連防空軍[1]の戦闘機により撃墜された事件。乗員乗客合わせて269人全員が死亡した。(http://ja.wikipedia.org/wiki/)
校長も教官たちも立ち上がって拍手。ユキが笑顔で応える。俺手に汗かいちゃったよ。俺もだ。時を超え、国境を越えての友情は心打たれる。話し手もいいよな、実況中継を聴いているようで興奮した。俺は機長の気分になったよ。俺は操縦士。
気を良くしたユキは大風呂敷を広げる。校長、ルソン、レイテにも分校をつくりなさいよ。私はここを守るのが精一杯でありますから。何言ってんのよう、海難はミンダナオだけで起きるわけじゃないのよ。船は日本の海上保安庁から払い下げてもらえばいいわ。学校も寄付金を集めてくるから任せなさい。ユキ、酔っ払ったのか、坂本が心配する。海の男はよー、違った?
波の谷間に 命の花が
ふたつ並んで 咲いている
兄弟船は 親父のかたみ
型は古いが しけにはつよい
おれと兄貴はヨ 夢の揺り籠さ
陸(おか)にあがって 酒のむときは
いつもはりあう 恋仇
けれども沖の 漁場に着けば
やけに気の合う 兄弟鴎
力合わせてヨ 網をまきあげる
たったひとりの おふくろさんに
楽な暮らしを させたくて
兄弟船は 真冬の海へ
雪のすだれを くぐって進む
熱いこの血はヨ 親父ゆずりだぜ
兄弟船 作詞 星野哲郎 作曲 船村 徹
ユキはカラオケマイクをテレビに繋ぐ。教官たちは日本の海も知っているようだ。歌詞の意味を知って共感するのかユキといっしょに歌いだす。窓に救援隊員が集っている。こら、お前たち何しておると教官が一喝。今日は特別だ、彼らも半分ずつ交代で入れてやれと校長。
生協、児童養護施設、職業訓練所、視察
ユキは機会あるごとに生協を視察する。いきなり買い物を始めるのだ。ユキに気づくのは買い物が終わった頃だ。支店長は転がるように駆け寄るがユキは無言で立ち去ることもある。無言とは怖いものである。理事長からどんな叱責がくるやら。『真面目にやってくださいね、支店長なんていくらでもいますから』支店長は身をすくめる。
今や1000を超える支店だがユキの不意打ちを食らわなかった店は無い。前理事長にして国会議員のユキも一会員、一主婦としてやってくるから言いたい放題である。態度の悪い店員には聞こえよがしに悪態をつく。『近頃どんな教育してんだい、この店は。こんどの総会では教育を質してやるからね』そうよ、あの娘可愛くない。こっちはぶすだけど気立てがいい。などと近くの買い物客が集まってくる。時には食堂でとなることも。ユキ議員といっしょに食事したとなると自慢できるのだ。
ユキは海中トンネルを理事長に提案した。アイディアは素晴らしいですが果たして実現するでしょうか。生協がやらないなら私がやる。お待ちください、早速理事会に諮ります。思いついたらすぐやるのがユキのスタイルだが、機関決定を図るのは当然と思いながらも苛立つのである。何かするものがないかと思うと坂本に相談する。何をすべきかが言える男ね、私の旦那、種もくれるし考えをくれる。一人笑いをするユキだった。何をしたらいいかが分かれば半分できたようなものだわ。
海中トンネルの予想図を公開する。最近ではCGで立体的に表現できる。設計、施工を公募する。残ったのはシャハラザード大学と外海を結ぶ運河を請け負ったJV企業だ。概算予算5000億円に対し3800億での入札だ。一も二も無い、と喜ぶユキにJVの代表は条件を提示してきた。工期は3年、JVに観覧箇所の業者加えることである。
ユキには理解できないので坂本が通訳する。海中からの魚類海草等の観覧が目玉であるから透明素材の加工技術と経験を持った業者を加えたいというのだ。それは四国の中小企業だが日本の海中公園での実績を誇っていた。山椒は小粒でぴりっと辛いかしら、日本を代表するJVが推薦する会社なら素晴らしい会社でしょう、私たちの夢を海の中に描いてくださいな。
第二章 家族崩壊、国栄えて民滅ぶ 検証戦後体制
第二章 家族崩壊、国栄えて民滅ぶ
坂本は柳史訓と話したくなった。新幹線でバギオに向かう坂本ユキ南海男の家族は平凡な家族に見える。新幹線の快適さは航空客を奪ってゆく。何より時間に正確、少々の悪天候にも影響されない信頼性がフィリピン時間を変えてゆく。文化革命だ。この新幹線もリニアモーターに代わる時代が来るだろう。坂本がそれを見るのは無理だが南海男が成人して見届けてくれるだろう。台湾と国力に比べても夢のまた夢かもしれないが。
柳史訓との対話を聞いて陳、カルロス家族もマニラから乗り込んできた。座席を回転させると円卓が出来る。女たちは飲んで食っておしゃべり、世界共通らしい。『そうか、リニアモーターを子孫に残すあるか、人は子孫に誇れるものを残すこと最高の幸せあるね』『陳よ、近頃詩人になったか、しかし言い得て妙だ』
柳家族の食卓に塩崎家族が集まってきた。柳家の中華料理は北京風だ。こうして美味しい料理をいただけるって幸せね。ほんに真知子、夕食は持ち回りしてはいかかがです。賛成アンジェリータ、中華、スペイン、日本、フィリピン料理が楽しめてよ。でもフィリピン料理は皆様のお口に合いますかしら。合いますよイメルダ、棚田でとれたお米は本当に美味しい。許細君のいうとおりよ。
じゃあ、明日は我が家で夕食を。許細君中華が続くのはどうかしら、明日はスペイン料理にしましょう。じゃあ、阿弥陀で決めましょうと真知子。アミダ?お母さん、これと清美がノートとボールペンを差し出す。ありがとう、柳家、山田家、カルロス家、陳家、塩崎家、ね。下に12345の順番。さあ、いくわよ。柳家は5番。面白そう。山田家4番。カルロス家1番。陳家2番。塩崎家は?3番。どうしてマチコ、やってないのに?モニカ3番しか残ってないでしょ。何よ紀和、口出さないでよ。
モニカ(マリア)アナヤ(アンジェリータ)碧渓(梅雲)碧谷(許細君)南海雄(ユキ)紀和(清美)の順番を決めることになった。何の順番だか分からないが子供は順番をつけたがる。皆さん、食事が終わってからゆっくりやりなさいと柳夫人。はーいと子供たちは席に戻る。でもどうして同じ場所に到達しないのだ。不思議ですなあ。そこが阿弥陀たる所以ある。
食事を楽しみ、会話が弾む。これに勝るものがあろうか。坂本は幸せをかみ締めていた。話はリニアモーターになる。まあ、坂本さんらしいわね。夢ですよ。いえ、我々は坂本さんの夢を追体験させていただいているのです。左様でござるな。一同うなずく。お母さん、ツイタイケンって?黙って聴いていなさいと清美。大人の会話中に子供が口を挟むことは禁じてある。
龍次の夢を追ってゆくと金など無意味に思うよ。そうだな陳、為替変動に一喜一憂するのは馬鹿らしくなった。ものは値段ではなく、使ってみて本当の価値がわかると柳。ヴァイオリンを分身と思うマリアが大きくうなずく。
検証戦後体制
子供たちが寝たのを待って坂本が話し始める。最近の日本で報じられる児童虐待、いじめ、引き篭もりなどについて柳さんのご意見を伺いたいのです。闇の権力者のシナリオとお考えですか、それは十分に考えられますね。柳はゆっくりと語り始める。
日本民族は戦いを好みませんが恐れもしません。連中にとっては御しがたい民族です。一致協力してことにあたるとこれほど成果を上げる民族はいないでしょう。その代表的事例は奈良の大仏建立、元寇蒙古襲来、第一次南極観測が挙げられるでしょう。国、民、国家が一つになる、素晴らしいことですが他国からみると脅威を感じます。
あれだけの鋳造物は現代でも容易ではありません。目的達成のため民一人一人が出来得る事をしました。その過程を楽しんでいるように見えます。南極観測でも同じことがありました。官民国を挙げて小学生までが協力しましたね、私はこれには驚きました。
これは家族の強い絆が根底にあるからでしょう。その延長に社会、国があるのですね、日本は。そうすると日本を弱体化するには家族の絆を断ち切ればいいわけです。個人主義、権利の主張を煽っていけば簡単です。家族労働、家内工業を減らしてゆけば三世代が同居することは難しくなります。民族の伝統を伝えるには三世代同居、もしくは同職は必要です。そう親父が師であり親方であることは理想的です。
大量生産、大量消費がこれに拍車をかけました。安くて良い物とは標準化された画一品です。戦後の要請に答えるものでしたが、日本人の特質である工夫を忘れさせたのです。人々は商品から疎外されます。生産過程を知らなくなります。その極め付けが自動販売機ですな。
昭和30年代までは“いただきます、ご馳走様”という言葉に心が篭っていたのですが。児童虐待、いじめ、引き篭もりなどは以上の事情から派生してきたのでないですか。(なるほど社会現象としては深刻な問題だが、日本の家族、地縁社会の崩壊が根底にあるのか。いじめも陰湿かつ凶暴になってきている。恐喝、脅迫、傷害と思われるもの少なくない。日本民族の特質はことの善悪、他者への思いやりでなかったか)
しばらく沈黙があった。そもそも日本民族を弱体化させる理由は何か、とカルロスが叫ぶ。戦後1945年以降、日本民族を大人しくさせることは連中と欧米の思惑とが一致したのでしょう。連中は日本民族が勤勉に稼いで貢いでくれることを期待したのでしょう。欧米は日本帝国主義の復活を恐れたのでしょう。で、経済的物質的豊かさを飴として与えたのです。
それで日本から交戦権を奪ったのか。でしょう、中国、ロシア、アメリカ合衆国を相手にまともに戦った国は日本ぐらいでしょう。うーむ、それはそうだな。日本を経済大国にしておけば戦争しないある。なるほど。生活が物質的に豊かになれば民、国を思う心を失いしか。
柳さんありがとうございました、お話を伺って自分の考えが間違ってなかったと自信が持てます。お役にたちましたか。それはもう。何かおこまりですか。ええ、実は申し上げるべきか躊躇としているのです。おっしゃってください、私もできるだけのことはしますよ。ええ、でもご迷惑が。坂本先生、あなたのなさることは退屈だった人生に夢を与えてくれます。ここにいる者はみんな心で結ばれているのではないですか。
そうですね、信じあえる友人を得たことは喜びと勇気が持てます。坂本は闇の権力者の会議の録音録画を入手した経過を説明した。緊張した雰囲気が重く圧し掛かってくる。坂本さん、我々は共通の遺伝子をもっているのではないでしょうか、柳が自分に言聞かす様に言った。俗に気が合うと言いますが考え感受性を共有する部分があるのでしょう、私は坂本先生の考えがよくわかります。そして共感できるのです。
うむ、私もだ、とカルロスが叫ぶ。大きな声だすないよ、私考えていた、龍次といると人生楽しい、何故か、今柳先生のお言葉を聴いてこれだと思った。同感でござる、〝ひとは己の体験を簡潔に表した言葉に感動する“。素敵ですね、私は柳さんのお言葉にも、今の山田さんのお言葉にも感動しました。真知子の言葉に女たちもうなづく。(細君、私たちリュウジの上に乗ったのは彼の夢にも乗ったのじゃない。そうね、夢を追う男に女は憧れる。こちらが先かな、あとでゆっくり。ええ。)二人はそっと清美をみやる。
では、清美、皆様に聞いていただこう、そうだ、書き取ったものも見ていただこう。あなた、まず、視聴していただいてからでよろしいのでは、私、恥ずかしい。何が恥ずかしい、和訳は俺にとって貴重なものだ。でも。坂本さん清美さんの言うとおりにして、ご希望があればになさったら。それもそうですね、和文が必要なのは私だけですか。
パソコンを立ち上げて会議の録音を開く。聴き終わるとため息が。これは、と柳は言いかけて言葉がでない。ほかの人間も興奮に包まれている。あなた、飲茶にしましょうか。それはいい。茶は台湾の岩奥で採れたものらしい。興奮した喉に潤いをもたらす。絶品あるな。極上にござる。本当おいしゅうございますわ。もういっぱい。マリアさん、そういう時はもう一服というのよ。
でも同じ意味でしょ。気分が違うの、雰囲気が出るでしょ。茶の雰囲気、なるほどわかる、わかる。
続きはどうしましょう。是非。そう人類の危機に破邪の剣を振るうべし。録画は闇の権力者たちを映し出している。新たな興奮は同席者を包んでゆく。
音声とは迫力が違う。問題はこの録画録音の真偽と連中のあぶり出しでしょうか、柳が口を開く。坂本は見透かされている気がした。突然考えが浮かんだ。それはこうだ。
春画、AVに字幕として録音録画の内容を書き込む。世界中に広まるのに時間はかかるまい。春画に限らない、音楽、絵画なんでもいい。万一ソースを訊かれたとき惚けることができる。やはりその意味でエロイのがいい。同時に闇の権力者の反応も出てこよう。これはいける。この考えを口にするのは後にしようと思った。
これは本物だ、何故ならその日本人は命を懸けてリュウジに託したのだ。カルロス殿、そう思って間違いないと思われるが証拠能力証明力はどうであろうか。ドン山田、心配ない、連中に自白させればいい。なるほど妙案、で連中捕縛は如何致す。それは、連中の所在確かめて連行するある。そのとおり。所在ならびに連衡方法やいかん。これから考えるよろしい、慌てる乞食貰少ない。
酒だ、こういううときは。老酒と点心を用意させましょう。そうしてくれ。柳も興奮に堪えられなくなっている。坂本は考えを口にしてしまった。それは面白いですね、白蛇伝はどうですか、柳が乗ってきた。もっとエロイよろしい。しかし坂本先生はアイディアマンですな。坂本は居並ぶ人間の情報を謎の飛行物体に記憶させガードさせていた。プライバシーの問題があるが、言わずもがなのことだ。そうだ、録画の人物を謎の飛行物体に記憶させ、追跡させよう、坂本は自分の考えに満足していた。
老酒と点心は美味かった。考えるだけで空腹なるか。脳がフル稼働すると酸素を食う、他の臓器も負けずに働くから腹が空くのだ。カルロス医者みたいなこというか。多少の心得はある、それより今度スペインに行かないか、実家のヴァレンシアを中心にして。ついでにシャハラザード大学にも寄りたいわ。それはいい考えだ、アンジェリータ。行きたい、女たちの賛同で決定。坂本先生この件は次回までに各自研究しておくこと、致しましょう、事が大き過ぎて考えがまとまりません。そうしましょうか。
闇の権力者を突き止め捕縛する具体策は思い浮かばない。はてどうしたものかと思案するばかりである。しかしそれぞれ策を練ろうとしていると坂本は思った。ここにいる者が裏切る可能性はあるがそれは脅迫されてのことであろう。信じるのだ。人は他人を信じなければ生きてゆけない。この新たな塩崎家族を壊すな、いや逆に闇の権力者とたちを葬り去ることだ。
子供たちが寝たのを待って坂本が話し始める。最近の日本で報じられる児童虐待、いじめ、引き篭もりなどについて柳さんのご意見を伺いたいのです。闇の権力者のシナリオとお考えですか、それは十分に考えられますね。柳はゆっくりと語り始める。
日本民族は戦いを好みませんが恐れもしません。連中にとっては御しがたい民族です。一致協力してことにあたるとこれほど成果を上げる民族はいないでしょう。その代表的事例は奈良の大仏建立、元寇蒙古襲来、第一次南極観測が挙げられるでしょう。国、民、国家が一つになる、素晴らしいことですが他国からみると脅威を感じます。
あれだけの鋳造物は現代でも容易ではありません。目的達成のため民一人一人が出来得る事をしました。その過程を楽しんでいるように見えます。南極観測でも同じことがありました。官民国を挙げて小学生までが協力しましたね、私はこれには驚きました。
これは家族の強い絆が根底にあるからでしょう。その延長に社会、国があるのですね、日本は。そうすると日本を弱体化するには家族の絆を断ち切ればいいわけです。個人主義、権利の主張を煽っていけば簡単です。家族労働、家内工業を減らしてゆけば三世代が同居することは難しくなります。民族の伝統を伝えるには三世代同居、もしくは同職は必要です。そう親父が師であり親方であることは理想的です。
大量生産、大量消費がこれに拍車をかけました。安くて良い物とは標準化された画一品です。戦後の要請に答えるものでしたが、日本人の特質である工夫を忘れさせたのです。人々は商品から疎外されます。生産過程を知らなくなります。その極め付けが自動販売機ですな。
昭和30年代までは“いただきます、ご馳走様”という言葉に心が篭っていたのですが。児童虐待、いじめ、引き篭もりなどは以上の事情から派生してきたのでないですか。(なるほど社会現象としては深刻な問題だが、日本の家族、地縁社会の崩壊が根底にあるのか。いじめも陰湿かつ凶暴になってきている。恐喝、脅迫、傷害と思われるもの少なくない。日本民族の特質はことの善悪、他者への思いやりでなかったか)
しばらく沈黙があった。そもそも日本民族を弱体化させる理由は何か、とカルロスが叫ぶ。戦後1945年以降、日本民族を大人しくさせることは連中と欧米の思惑とが一致したのでしょう。連中は日本民族が勤勉に稼いで貢いでくれることを期待したのでしょう。欧米は日本帝国主義の復活を恐れたのでしょう。で、経済的物質的豊かさを飴として与えたのです。
それで日本から交戦権を奪ったのか。でしょう、中国、ロシア、アメリカ合衆国を相手にまともに戦った国は日本ぐらいでしょう。うーむ、それはそうだな。日本を経済大国にしておけば戦争しないある。なるほど。生活が物質的に豊かになれば民、国を思う心を失いしか。
柳さんありがとうございました、お話を伺って自分の考えが間違ってなかったと自信が持てます。お役にたちましたか。それはもう。何かおこまりですか。ええ、実は申し上げるべきか躊躇としているのです。おっしゃってください、私もできるだけのことはしますよ。ええ、でもご迷惑が。坂本先生、あなたのなさることは退屈だった人生に夢を与えてくれます。ここにいる者はみんな心で結ばれているのではないですか。
そうですね、信じあえる友人を得たことは喜びと勇気が持てます。坂本は闇の権力者の会議の録音録画を入手した経過を説明した。緊張した雰囲気が重く圧し掛かってくる。坂本さん、我々は共通の遺伝子をもっているのではないでしょうか、柳が自分に言聞かす様に言った。俗に気が合うと言いますが考え感受性を共有する部分があるのでしょう、私は坂本先生の考えがよくわかります。そして共感できるのです。
うむ、私もだ、とカルロスが叫ぶ。大きな声だすないよ、私考えていた、龍次といると人生楽しい、何故か、今柳先生のお言葉を聴いてこれだと思った。同感でござる、〝ひとは己の体験を簡潔に表した言葉に感動する“。素敵ですね、私は柳さんのお言葉にも、今の山田さんのお言葉にも感動しました。真知子の言葉に女たちもうなづく。(細君、私たちリュウジの上に乗ったのは彼の夢にも乗ったのじゃない。そうね、夢を追う男に女は憧れる。こちらが先かな、あとでゆっくり。ええ。)二人はそっと清美をみやる。
では、清美、皆様に聞いていただこう、そうだ、書き取ったものも見ていただこう。あなた、まず、視聴していただいてからでよろしいのでは、私、恥ずかしい。何が恥ずかしい、和訳は俺にとって貴重なものだ。でも。坂本さん清美さんの言うとおりにして、ご希望があればになさったら。それもそうですね、和文が必要なのは私だけですか。
パソコンを立ち上げて会議の録音を開く。聴き終わるとため息が。これは、と柳は言いかけて言葉がでない。ほかの人間も興奮に包まれている。あなた、飲茶にしましょうか。それはいい。茶は台湾の岩奥で採れたものらしい。興奮した喉に潤いをもたらす。絶品あるな。極上にござる。本当おいしゅうございますわ。もういっぱい。マリアさん、そういう時はもう一服というのよ。
でも同じ意味でしょ。気分が違うの、雰囲気が出るでしょ。茶の雰囲気、なるほどわかる、わかる。
続きはどうしましょう。是非。そう人類の危機に破邪の剣を振るうべし。録画は闇の権力者たちを映し出している。新たな興奮は同席者を包んでゆく。
音声とは迫力が違う。問題はこの録画録音の真偽と連中のあぶり出しでしょうか、柳が口を開く。坂本は見透かされている気がした。突然考えが浮かんだ。それはこうだ。
春画、AVに字幕として録音録画の内容を書き込む。世界中に広まるのに時間はかかるまい。春画に限らない、音楽、絵画なんでもいい。万一ソースを訊かれたとき惚けることができる。やはりその意味でエロイのがいい。同時に闇の権力者の反応も出てこよう。これはいける。この考えを口にするのは後にしようと思った。
これは本物だ、何故ならその日本人は命を懸けてリュウジに託したのだ。カルロス殿、そう思って間違いないと思われるが証拠能力証明力はどうであろうか。ドン山田、心配ない、連中に自白させればいい。なるほど妙案、で連中捕縛は如何致す。それは、連中の所在確かめて連行するある。そのとおり。所在ならびに連衡方法やいかん。これから考えるよろしい、慌てる乞食貰少ない。
酒だ、こういううときは。老酒と点心を用意させましょう。そうしてくれ。柳も興奮に堪えられなくなっている。坂本は考えを口にしてしまった。それは面白いですね、白蛇伝はどうですか、柳が乗ってきた。もっとエロイよろしい。しかし坂本先生はアイディアマンですな。坂本は居並ぶ人間の情報を謎の飛行物体に記憶させガードさせていた。プライバシーの問題があるが、言わずもがなのことだ。そうだ、録画の人物を謎の飛行物体に記憶させ、追跡させよう、坂本は自分の考えに満足していた。
老酒と点心は美味かった。考えるだけで空腹なるか。脳がフル稼働すると酸素を食う、他の臓器も負けずに働くから腹が空くのだ。カルロス医者みたいなこというか。多少の心得はある、それより今度スペインに行かないか、実家のヴァレンシアを中心にして。ついでにシャハラザード大学にも寄りたいわ。それはいい考えだ、アンジェリータ。行きたい、女たちの賛同で決定。坂本先生この件は次回までに各自研究しておくこと、致しましょう、事が大き過ぎて考えがまとまりません。そうしましょうか。
闇の権力者を突き止め捕縛する具体策は思い浮かばない。はてどうしたものかと思案するばかりである。しかしそれぞれ策を練ろうとしていると坂本は思った。ここにいる者が裏切る可能性はあるがそれは脅迫されてのことであろう。信じるのだ。人は他人を信じなければ生きてゆけない。この新たな塩崎家族を壊すな、いや逆に闇の権力者とたちを葬り去ることだ。
シャハラザード大学への旅
シャハラザード大学への旅
塩崎家族がドンカルロスの招待でスペインを訪れ、ついでにシャハラザード大学視察を聞いて、セヴァスチャンが俺も連れて行ってくれとせがんだ。お前は留守番だ、しっかりやっておけと一蹴される。セール、日本人はビザなしOKか、どうしてか。俺にきくな。おれも行きたい。リュウジを困らすでないとカルロスに一喝される。
かつては宗主国の人間と直接口を利くことすら許されなかったフィリピン人。お土産を買ってくると宥めるしかなかった。陳、どうして龍次は甘いんだ。彼が日本人であるから。そうか、そうだな。彼は特別甘い。奴は龍次を兄貴と思っているようだ。日本人不思議ある。
日本立寄り
日本組は成田経由マドリッド入りすることにした。坂本はDVを外務省の大平局長に見せること、謎の飛行物体に闇の権力者たちの情報を入力させることが目的だ。ユキ、南海男、山田常男、清美、紀和、今回は塩崎真知子、柳夫妻を加えご一行9名様だ。
三日後成田での再会を約束して、柳夫妻と別れる。常男は山田中尉の戦友浜田を紀和連れで訪ねる。坂本、ユキ、清美は外務省の大平を訪ねると言うと真知子も同行することになった。帝国ホテルにチェクインして霞ヶ関に向かう。
外務省の局長室に通されると『大平さん、お久しぶり』と真知子が挨拶する。『これは塩崎さん、ご無沙汰しております。お元気そうで。その節はお世話になりながら』と大平が恐縮する。大平は故塩崎氏の部下であったらしい。
挨拶が済んだところで坂本はこれをとDVと録音CDを大平の前に置く。パソコンで再生すると『これを私に』と大平。『外務省が(闇の権力に)が一番危ないと思っていますが』と坂本。わかっておりますと大平。
外務省から大田区の町工場に移動する。『この人物全員の行動を謎の飛行物体で監視記録したい』わかりました、トモカサ竜のできは。上々、極秘で、至急に。承知しました。これは手土産と500万円手渡す。すでに十分いただいていますから。これは謝礼と白地小切手を差し出す。そんなにご心配しないでくだせえ、旦那の頼みとあらあ、命懸でやりますよ。ありがとう、何分良しなに。
翌日、清美が川田製作所を訪ねる。新幹線で大阪まで日帰り予定、坂本も付いてゆく。あんた山田さんだよ。おう、清美けーったか。で、職訓はうまくいってるか。それより翔のお礼言わないと。そうだった、翔のやつ、性根を入れなおして朝から夜遅くまで頑張ってる。ほんとだよ山田さんのおかげだよ。親ばかなんだよな、息子が後を継いでくれただけでうれしい。
浩、翔もやってきた。やあ元気。ええ、でも親父さんに追いつくには50年はかかるでしょう。50年で追いついたらほめてやるよ。親父ができて俺ができないことはない。翔、親方に生意気な口きくんでないよ。すいません、おかみさん。でも蛙の子は蛙、親父さんを追い越す日も。浩、お前は本当にいいやつだ。そうだよ、浩さんうちの馬鹿息子しっかり鍛えておくれよ。
昼飯を薦められたが時間がないというと浩が駅まで送ってくれた。それ親父さんの彫ったネームプレート?はい、お守りにしてます。親父さん喜ぶだろうな。そのころ川田製作所にはフィリピンからマンゴーが届いていた。
清美の祖父山田中尉の墓参りをして山田家を訪ねる。おお清美、紀和がお待ちかねだぞと中尉の弟和雄が冷やかす。常男と紀和も先に帰っていた。東京和歌山の日帰りなど無理な話だ、明日の昼には成田に着かないと。すみません我儘言って。
スペイン
翌日、成田で全員が落ち合った。日本人は時間を惜しんで多くのことをしようとする。時を最大限に使う。それが可能なのも日本であろう。成田からヘルシンキまで14時間、マドリッドまで3時間、乗り継ぎ2時間を入れても19時間である。かつての北極回りに比べると世界は狭くなった。やはりJALだと安心できる。
空港にはカルロスが迎えに来ている。陳家族はすでに着ていた。塩崎家族がそろってスペインを旅する。女たちはスペインの情熱をかんじるのか興奮している。カルロスの別荘に逗留する。別荘といっても敷地は5町歩はあろう。館である。スペイン財閥の一翼がこの程度であるからピンの方は計り知れない。
館の中庭で子供たちと鬼ごっこする坂本。その顔は幸せに満ちている。2階のベランダからみつめる塩崎家族。『あの子供のような男といると心が落ち着く』私もある、白金も黄金も珠もなにせむに優れる宝子にしかめやも。どういう意味だ。子供一番という歌ある。素晴しい、書いてくれ。私できないよ日本語。
真知子が書き示す、本当は墨がいいのですけど。シロガネモ コガネモタマモ ナニセムニ と女たちが唱和する。昭和とは心をひとつに合わすことだ。女の幸せは好きなお方の子を育てること。あら産むことじゃなくて。細君、両方ですわ、ねえ清美。そうですね。
一行は観光しながら会話しながらスペインを楽しむ。朝な夕なの散歩も格別。これが本当の幸せかもしれませんな。げに、柳殿。リュウジが必死に守るわけだ。そうある。今の山上億良の歌じゃないですが富は持つものでなく使うものですなあ。スペイン財閥華僑財物なにせむにだ。龍次は金の使い方知っている。サルみたいなフィリピン人にも難民にも。
日本の男スケベというがサンタマリアあるよ。日本人お宗教観は日本に永く住んでいても理解できませんが不思議です。義を見てせざるは勇無きなきなりでござるよ。ふうむ、義務はなくても?それは自分の心に聴いてみて行動を決めるということでしょうか。お母さん神様とは相談しないの。やるときはやるのよ。いやだあ。ユキなに考えてるの、他人が難儀していれば救いに行くのよ、神様に相談してる間が無いでしょ。
そうかあ、電車のホームに落ちた人を救うのに間髪入れる時間はないわね、2歳の女の子を2度轢きしたニュースを観たけどああいう社会はいやね。命の値段、治療費のほうが高くつくから殺してしまえというのね。
今の中国は貧しいのですよ。国は世界2位になっても国民は貧しい、国家が猫糞しているのね。ユキさんもう少し品よくなさったら。だってお母さんフィリピンも一部の金持ちが奢り庶民が飢えているのですよ、私断固粉砕する、許しません。
ユキさん、カルロス陳さんに悪いでしょ。あ、これは失礼しました。でもユキ、貴女は正直な方だ、リュウジが惚れるだけはある。あるある、ユキ政治立派あるよ。そんなあ、恥ずかしい。まあ女学生みたい。冷やかさないで細君。ほんとだわ。ユキは顔を赤める。
シャハラザード大学
シャハラザード大学に向かう運河の船旅は心地よい。両岸には緑が広がり牛馬が草を食んでいる。これが砂漠だったのか。カルロスのテノールが響く。中継地の港に運河建設部長と大学担当部長が出迎えてくれた。港は観光施設だけでなく農耕具の工場、市場もできていた。
完成した展示室で運河建設の歴史を学ぶ。写真、フィルムのほか工事に使われた器具も展示されている。こんな貴重なものを警備もしないで、俺が持ち逃げするぞとカルロス。“お客様、展示品尾持ち出しは禁じられております。元の位置にお返しください”とやさしい女の声。外に持ち出したら?お顔が真っ黒になります。
外ではラクダ少年が子供たちにラクダを教えている。ユキが私もとラクダに跨る。おお、彼女はラクダにのったことがあるのか。いやはじめてだ、彼女の国にはラクダはいない。どうして乗れる、コウノ部長。それはわからない。
南海男も挑戦する。『ラクダとお話しするの、そう、今度は右』とユキが後ろから教える。ああ言っている、父っつあん。うむ、天才じゃ。彼は少年の祖父であり、河野部長の義父でもある。少年は土木技師の道を確実に歩んでいる。
船はシャハラザード大学に向けて出港する。父っつあんは両岸の人に声をかけてゆく。ああ、日本からの客人だ。やがて大学が見えてきた。祝砲が鳴る。Welcome to Shajarazade 天空に文字が。坂本は親指を丸めてOKを示す。ディーなにやってんのとユキ。
一行が下船すると西田所長、シャラザード女王が迎える。天上から音楽が降り注ぐ。すると夜半雨の注意報。馬鹿やりすぎだと坂本は両手で
バッテン罰印。グッドラックの文字を残して謎の飛行物体トモカサ竜が去ってゆく。
西田所長から大学の説明を熱心に聴く.坂本は闇の権力者たちの入力が済んだか気になる。話は弾むが坂本は落ち着かない。天空文字は入力澄み、実用実験のメッセージと思うのだが、子供のようなところがある。
女王陛下の夕食会は豪勢だ。Belly danceベリーダンスで最高に盛り上がる。ふん、セクシーダンスは娼婦がやるもんだよ。ユキさん、はしたない。なにが女王様だい、人の旦那に色目を使うんじゃないよ。ユキはミンダナオダンスを始める。青白い火花が飛び交う。今夜は荒れそうだ。
女の対決見物あるよ。そうだな。どっちに賭ける。ユキに100ドル。よし俺は女王とカルロス。拙者はユキと常男。私は女王と柳。2:2ある、龍次お前は。そのう、利害関係人は議決権がないので棄権。やれやれ色男も楽じゃないあるねえ。
女王も受けてたつ。ユキがシャツとズボンを脱ぎ捨てる。女王のベリダンスも激しさを加える。雷鳴が轟く。大雨注意報が出てましたなと西田所長。世紀の対決を見逃すことになりますよと河野部長。まさに、風雲急を告げておりますな。
突然鳴り響く軍艦マーチ。大日本帝国軍は装備を完了せり。これより闇の帝国に進軍す。おお、と坂本が立ち上がる。皇国の存亡この一戦にあり。再び軍艦マーチ。これはオフレコ、削除。お楽しみのところお邪魔しました。
軍艦マーチは遠ざかって行く。どうした龍次。坂本はにんまり笑う。闇の帝国に進軍といってましたな。いよいよですか。偵察機の発進ですよ。戦闘状態にいるのは。まだまだです、見えない敵とは戦えません。正体を暴きにかかったところです。
ユキは坂本の胸倉を掴んで、あの女とやるんじゃないよと叫ぶ。なんだその格好は。私のダンス観てなかったの。ユキがナイフを振りかざす。ユキ殿落ち着けなされ。離してくだされ常男どのう。あなた皆様に説明したほうがいいのでは。そうだな清美おまえが話せ。謎の飛行物体は闇の権力者たちの姿を記憶してこれからその動向を調べるそうです。あのDVDの画像を取り込んだのか。
するとディーそわそわしていたのは、あら私誤解してましたわ。早く着ろ。ところでムバルク夫妻は。今は亡命しています。イスラム諸国での政変はめずらしくない。これも連中の仕業か。坂本さん、ムバルク夫妻はわが社のヘリで程なく到着されますよ。さすが西田所長。天候急変で河野部長の事務所に避難されていましたが今発たれたそうです。
おう、ムバルク元気か。龍次!抱き合って再会を喜ぶ。苦労しているのか。西田、河野のおかげで不自由なく暮らしている。今日は孫の顔が見られる。まあ、食いながら話を聴いてくれ。坂本は録音録画の話をする。でムバルクの出番も近い。それは面白い、腕が鳴る。
砂漠の娘はもう2歳、歩きしゃべる。母に似ている。で名前は。ヤサミーンだ。名前など何でもいいがないと困る。いい爺だな。おうさ、娘も可愛いが孫はもっと可愛い。子供はすぐに仲良くなる。坂本の背中を滑り台にする。南海男がヤサミーンを肩に乗せて滑らせる。もう一回とせがむ。ヤサミーンの兄弟ですね、そしてお母さんたち、ムバルク夫人の一言がすべてを語っていた。
シャラザードはユキの了解を得た格好で坂本を寝室に誘う。風雨が強まりますなあ。1年ぶりですか二人の再会は、我々もお勤めに帰りましょうか。河野さんはお元気ですから。何をおっしゃるお子さんの数ではとても所長に及びませんよ。娘に坂本さんの子を産ますか。何を言うんです、もう子供が二人いますよと柳の奥さん。
マリアコンサート
翌朝は雨上がりの快晴であった。木々の緑が雨に濡れていた。マリアがコンサートホールで練習していると人々が集まってくる。ヴァイオリンの音は砂漠の朝に広がって行くのだ。特に世界中から来ている学生教授たちは音楽に聴き入る。生の演奏に飢えているのだ。
半時間ぐらいでマリアがヴァイオリンをケースにしまおうとするともう一曲と大学教授らしい男が頼んだ。それではとモンティーのチゃルダッシュを弾く。その迫力技術に大歓声が上がる。是非コンサートをいうことになり土曜の夜と約束する。先生私が伴奏を勤めますと女学生が申し出た。そうですね、貴女のピアノはプロ並だからきっといい演奏会になるでしょう。
伴奏といっても掛け合いの部分ではピアノもはっきりした主張を出してくる。互いの主張を確認しながらの曲作りは真剣勝負である。2時間のステージで20曲近くを演奏する。連日5時間のリハーサルに女子学生は音を上げる。多くの聴衆がこれに見入る。
その甲斐あって本番では涙するものも少なくなかった。とくに哀愁のバラードは本国で国民が独裁政治に苦しむ学生の中には嗚咽を漏らすものすらいた。入場料は無料だがマリアの希望で難民への義捐金として多くの金があつまった。まさに音楽は国境を越える。
砂漠の朝
砂漠の朝
砂漠の昼夜の気温は30度以上の差がある。常夏の民にはない厳しさがある。西田所長のテントは現地妻と二人の子と4人暮らしだが破格である。来客が多いこともあるが砂漠の緑化、給水の功績に対する感謝の念が込められている。砂漠の緑化は寒暖差を少なくしたばかりでなく家畜を増やした。
ラクダが中心のこの地にヤギ羊鶏七面鳥の飼育を始めた。これらの糞が豊かな実りをもたらすことを身をもって教えたのだ。父さんは西田の義父でもある。大学、運河の発案者が坂本であると聞いて100人収容のテントを作る。基礎工事は西田が担当だが塩崎家族招待のためだ。テントの皮、絨毯は部落総出の作業となった。
砂漠の朝は一番鳥の鳴き声で始まる。これも西田の功績である。西田の家畜はラクダよりも美味いと知って住民が求めてくる。西田が気前良く与えるから現地妻と喧嘩になる。その日は塩崎家族の招待である。接待準備に大童。シャラザード家族4名を加えると20名を越す。
河野家族も加わって宴会が始まる。部落全員が集まってきた。テントに入りきらない。真知子が客席をつめるように言った。西田が通訳する。これには長老以下驚く。砂漠の民は極端な男尊女卑である。『日本の女は差配するのか』
宴会が盛り上がるにつれ西田の功績が讃えられる。待ってくれ、大学運河の発案者はここに居られる坂本さんであり、施主はシャラザード女王である、河野部長も俺も請負人に過ぎない。ほう、発案者施主は偉いのか。請負人にとって施主は絶対である。そんなものかと発案者施主を見ている。
ところで最近雨が多いのう。日本人が精を出していますからなと父さん。それはいかん、我々も頑張らねば。日本人を見習うところは多いのでは。子作りか。それも含めて。そうだな砂漠に緑とは思いもしなかったな。だから思いついた発案者すごいと内の婿殿が申しております。確かに。これで坂本の株が跳ね上がる。
突然坂本の携帯が振動する。俺だ。飛行船が上空に近づいています、撃墜しますか。いや捕獲だ。了解!何だ?外に出る。飛行船に蛍光塗料が打ち込まれる。あれを拿捕する。西田が手旗信号を送る。飛行船は静かに着陸する。西田がラクダに飛び乗ると銃を持った若者がつづく。
やがて搭乗者2名が連行されてきた。ボディチェックでめぼしいものを。西田が通訳する。坂本の携帯が振動する。乗員捕獲。IDを上に向けてください、情報入手しました。飛行船の機能は。停止してます。通信は。こちらでバリアを張りました。了解、ご苦労様。トモサカ竜作成者との交信である。
ようこそ、一緒に食事しないか、坂本が声をかける。殺すつもりなら撃墜していたであろうと搭乗員は料理を口にする。河野に尋問を依頼して席に戻る。夜の訪問者があったもので失礼しました。取り調べないのか。後でな、話をつづけよう。
なるほど大物だな。近頃狼が増えた。狼も子作りに頑張っているのだろう、蛇や蜥蜴では家族をやし得ないから人家に近づく、餌を増やしてやるのだな。どうやって。岩山に草木が育つと狼の餌が増える。岩山にと笑いが起こる。まあみていなと気楽である。
そもそも女の裸体で雨が降るのは。そのメカニズムは解明されていないが経験則で明らかですと西田。待ってましたとユキ節。水は天からからもらい水というでしょ、雨は日本語でアマともいうの、天もあまというわ。天の余っているいるところが女の裸体を見て膨張するの、でね雲の足りないところに入ってゆく、わかる。天と雲がしっとり濡れて愛液が垂れる、これが雨です。
すげえ女だ、男の話に口を挟んでくるとは。おや、聞き捨てならないねえ、男男と言うけど男はどこから生まれてくる。それはアラーの神の思し召しだ。ちょいと、ここの男は女を孕ます事もできないのかい。この南海男は私のここから生まれたのだよ。お兄さんはどこからうまれたのだい。いよう大統領、と清美が声援する。軽く手を上げ、答えれない、そう、教えてあげる。男も女もこの子宮から生まれるのよ、憶えておきなさい。女たちが大歓声を上げる。
人前で子宮を晒すとは。兄さんあんたどこから生まれた、男の癖に答えられない?子宮こそ命の源、崇め敬うべきよ。大拍手。そんな、無体な。真理に目を向けないのは卑怯ですと清美が立ち上がる。その顔は天照大神であった。その威厳に人々は圧倒される。
私の夫サカモトは大学の建設を私に命じました。私はそれを実行しました。その褒美はこのヤサミーンです。シャラハザードの顔は聖母になっていた。ヤサミ-ン、お前の父はすごい男だよ。そうだよと女たちはわが子を抱き上げる。母は強し。あの男あんなに子供を生ませたのか。あの女丈夫、国会議員で実質大統領とか。国政改革に大鉈振るっているそうよ。啖呵の切り方かっこういい。わたしゃ胸がすく思いがしたよ。男も子宮から出てきたんだよね。
そうだよ、女を大切にすべきよ。そうそう。
長老話を変えたほうが。そうじゃの、あー、うー、日本人はえー。別の女が叫ぶ。ユキ、ユキ、日本にも姦通罪あるのかい。あるわけないでしょ、姦通てのはね、相手の男がいて成立するの。どうして女だけ処罰されるの。そうだそうだ、おかしい!だいたい姦通される夫は甲斐性がなくてあれが下手糞なのよ。きゃあ素敵、ユキ大統領。
ユキ姉さん、どうやって日本人をものにしたんだい、と老婆。それは、そのう。あれ照れてるよ、この娘。子供がいるから娘じゃないわ。でも知りたい。そう、知りたーい!ユキ。私、口説き落とされたの。嘘、本当のところ教えて。
最初にものにしたのは私よとマリア。次は私と梅雲。ふん、数が多いのは私だよ。アンジェリータと許細君はにやにや。清美ははらはら。と、
帰りましょうとシャハラザードが坂本の手を取る。『姉さん、奥を使いなされ、ベッドもあるよ』と老婆。そうか、やったもの勝ち。
ほら雨脚が近づいてくるよ。豪雨だね。ラクダは大丈夫かい。畜舎にいれたよ。ならいいけど、大荒れになりそうだよ。畜舎は西田が普及させたのだ。数年前まで水害の恐れはなかったが今では治水が需要になってきている。
私横になりたいと真知子。奥は客室だよ、ご案内して。でもふたりに悪いわ。この天候だよ、気にすることはないよ。それより皆さんもっと近づいたら。客人の席には。私たち仲間でしょ、膝を交えて話しましょ。
どうして日本人は他人を思いやるのか。不思議ですな。西田と河野は他人にせっせと尽くすものだからうちの娘はいつも怒っている。でもいい婿殿。それはもうわしが見込んだだけはある。日本人は他人に与えるのが好きな民族かのう。
ねえ、天照大神とは余ってるところを塞ぐということでないかしら。いやだあ、清美さん、それって女が上ということ?それもありますけど女がイニシアティブをとるということじゃないかしら。おお、名言と女たち。日本の女はすごいね。私草原で押さえ込まれて背中が痛かったわ。私も、今度から上になるわ。
やれやれとんだ客じゃのう。しかし女上位もまた味があるかも、ものは試しでやってみるのも。面白いかも。価値はあるかのう。また違った味があるかもしれませんなあ。我々も降雨を実証しようぞ。オウ!猥談は世界共通、人類平和の根幹をなすのかもしれない。
泥球合戦
子供たちが泥球を作っている。一人5個として20人で100個。何がはじまるのか。河野率いる東軍子供隊10人、西田率いる西軍子供隊10人、岩山のふもとで対峙する。放て!おう。どろんこだま合戦。まさに泥試合。東軍優勢。各陣営に少年隊も加わる。西軍は岩山を背に陣形を変える。西軍が盛り返す。さればと東軍は敵の武器補給部隊との分断を図る。
東軍の圧勝かと思われたが西軍補給部隊の少女たちが攻撃に加わる。東軍は挟み撃ちにあう。形勢逆転、西軍の圧勝。河野猛然と抗議。長老たちは女が戦に加わるアタワズと抗議を認める。ユキが黙っていない。女を馬鹿にするから負けるんだよ、戦ってのは総力戦なんだ。そうそう、女たちの声援。ここは主催者の決済を仰ぐのが。そうしよう。
いい戦いだった、西軍の岩山を背にした陣形も、東軍の分断作戦も見応えがあった。勝負は西軍の勝ちだが補給部隊の参戦可否を明確にしていなかった私の責めである。故に引き分けドローとさしていただきたい。左様、戦は勝敗よりも中身でござるよ。人生予期せぬことある、補給部隊の参戦想定外ある。戦は勝たなければならぬ、手段を選ばず、だ。戦の経験が社会の発展を促すこともある。ひとつの事実に対していろんな評価ができるのですね。
あの岩山の山頂制した部落にヤギ100頭。お山の大将合戦だ。ルールは次のとおり。坂本が示す。
1武器は配給の泥球に限る。
2補給部隊の参戦およびこれに対する攻撃も認める。
3被弾した兵は速やかに岩山から離脱する。
4以上のいずれかに反した部落は即負け。
これでいいか。明日の明け方、戦闘開始だ。
さっそく子供たちに西田、河野の指導の下、ソフトボール大の泥球の製作を依頼する。ピアラミッドに積み上げて行く。1010の上に99、そのうえに88と米俵方式だ。100+81+64+49+36+25+16+9+4+1=385の泥球ピラミッド3山。
3部落の申し込みがあった。部落代表の前でカルロス、陳、常男が作戦をプレゼンンテーシオンする。
常男 案 尖兵が山頂に陣を敷き弾薬の補給を待つ。
陳 案 弾薬を多く運んだが勝ち。
カルロス案 各兵弾薬を持参し敵兵を見つけ次第殺して行く。
3部落代表はこれを参考に作戦を練る。各案に近い部落はそれぞれを顧問に招聘する。
西田さん、あの泥球乾けば硬くなって危なくないですか。含水率からして大丈夫でしょう。ならいいですが。今夜もしっとりとお湿りの雨が降ると思いますよ。どうしてですか。女性上位だと豪雨にならないようです。はあ。今夜はこれで行くよう長老に周知徹底を頼みました。さすが雨乞理論の創始者。
雨乞理論は貫徹しているようだ。夜半にお湿りの雨があったが程なく月がでた。シャハラザードは新理論にくすくす笑いながらもう一人子供が欲しいといった。女上位の顔は月の光に濡れて神秘的な美しさを湛えていた。
夜明け前に天上から音楽が流れる。“お山の大将俺一人 あとから来るもの突き落とせ』戦闘準備だ。3部落から三々五々に人々があつまってくる。砂漠の朝は寒い。平地に燃やされる大きな焚き火にあったまる。
坂本が各軍に赤白青の軍旗を渡し競技ルールの徹底を図る。
1あの岩山の麓までは非戦闘地区。
2弾薬の泥球は各軍自由にしてよい。
3被弾した者はその場で戦闘停止し下山すること。
4勝負は1時間後に山頂の旗の色で決する。
各軍整列。白軍、いいか敵を倒してゆけば自ずと勝利はやってくる、その部族の旗を頂に掲げよ、カルロスの檄に若者が答える。青軍、陳も負けずと手筈どおりにやれば必勝、慌てず行くある。おう。赤軍、山田も各自の任務を遂行に徹せ、勝利は諸君の頭上に輝くと訓示。えいえい。
長老の布が下がる。戦闘開始だ。天上から軍艦マーチが降りてくる。坂本が敬礼するとトモカサ竜は真っ赤な煙で宙返りをして上昇してゆく。
なんだ。ほら謎の飛行物体じゃよ。してあのマーチは。日本帝国産。
行け!山田常男の声に若者たちは泥球ピラミッドを目指す。山田軍の尖兵は一目散に岩山に、補給部隊はバケツリレーで弾薬を手渡してゆく。
カルロス、岩山の5合目まで共闘してあの補給路を断とう、お前との勝負はそれからだ。それはいい、あの中腹の出っ張り岩を停戦ラインにしよう。西田と河野が通訳する。観衆が笑い出す。連合軍何するものぞ、各自任務遂行あるのみと常男。これまた通訳される。
彼は侍か。彼の父は日本軍の中尉だったそうだ。どれに賭けるか。山田ヤギ3頭。カルロス5頭。陳3頭。おいお前胴元やれ。よしきた、さあどこが勝つか間もなく締め切るよ。捕虜の2人も参加したいと言い出した。だめだ、君たちは武官として観戦記を提出すべし。イエサー。
半時間後には赤旗が山頂に翻るが、赤軍弾薬の補給路断たれて苦戦を強いられる。白軍、青軍の分断作戦は功を奏したが時間との勝負に追われる。山頂だ。山頂だ。青白連合もここまで。
お山の大将俺一人 と天上からの音楽。坂本の携帯にネットを観よとメール着信。西田さんインターネット!大型モニターに山頂の攻防が映し出される。おう、赤勝て、白勝て、青勝て。トモカサ竜からの中継だ。
守るも攻めるも泥球の 仇なす敵を、、、、討てよかし。
赤軍は防戦一方。青軍は物量に任せて包囲網を狭めてゆく。白軍は相手構わず攻めるのみ。三軍入り乱れての乱戦。赤軍の補給部隊は各自2個の泥球をもって山頂に到達。それを友軍に補給。自らは逃げるのみ、だが一人が青軍兵士の泥球を失敬する。友軍に支給するとともに後方から援護射撃。これを契機に赤軍の優位に転じる。
激しい攻防は続いたが終了を告げる花火が打ち上げられる。赤旗は翻っている。赤軍勝利が宣告される。陳が猛然と抗議。カルロスも同調。審判団ならびに長老協議。敵の武器を奪ってはならぬとは決められていない。それは神の教えに背く。賛否両論、
ここは主催者坂本の意見を聞こう。日本には将棋というゲームがあって取った相手の駒を兵として使うことができる。したがって私は兵法として許されると思う。では赤軍勝者と致そう。赤軍に賞状とヤギ100頭の目録が授与される。
おい、武官、感想を述べろ。拿捕された飛行船から捕虜となった二人が前に出る。非常に観堪えのある戦だった、各軍の特徴がよく出ていた。短期戦では赤軍、長期戦では青軍が有利だろう。白軍はいずれにも対応できる本格派だ。次回は私も参加したい。私も同感だ、この戦は序盤は兵力、終盤はスピードの勝負でなかったか、その意味で赤軍の作戦が奏功したと思う。
さすが武官、西田所長二人に将棋を教えてやっては。それそれ、我らも将棋が知りたいと周りから声が上がる。では河野さん後ほど公開将棋といきますか。いつでも。やがて将棋はこの地で普及する。ふたりの捕虜は将棋に熱中する。
戦いすんで日が暮れて 後からくるもの 夜ばかり
トモサカ竜に坂本が手を振る。ディーなんで手を振るの。別に。清美がくすりと笑う。どうして笑うの。子供みたい。でしょう。(本当の意味はとアンジェリータ。ドラゴンは竜、龍次と細君)
荒野の呼び声
塩崎家族一行が帰国の日が近づいてきた。彼らはラクダで付近を回れるようになっていた。もう一週間になる。その夜も楽しい語らいがあった。長老の一人がつぶやく。おい。ああ。なんだかうれしそう。マリア何が。狼よ。あれは仲間を呼ぶ声だ。俺もグランドキャニオンで聞いたことがある。
しかしこうして客人を迎えることは楽しいのう。これも西田のおかげだ。砂漠に雨を降らせ、緑に変えた。それは施主である女王と発案者の坂本さんだ。我々は日本に帰国するつもりであったが、大学、運河、難民キャンプといい勉強をさせてもらってますな。そうですな河野さん。
日本人は分け与えるのが好きなのか。そうだ、どうしてか。人は持てば持つほど多くを求めますけど一人では使い切れないでしょう。分け合ったほうが楽しいではないでしょうか。ほう、そういわれると。真知子の話には含蓄がある。
明日帰るのね。ああ。帰したくない。そうはいかない、お前がフィリピンに来い。え、私とヤサミーンと。いいや、ムバルク夫妻もだ。家を建ててやる、塩崎家族は楽しいぞ。うれしい。それから雨は夜明けまで激しく降りつづく。
その日は朝から送別会となった。隣の部落からもやってくる。サー、俺たちはどうなるのか。そうだ、ちょっとこい。二人の捕虜は顔写真を見せられる。見覚えは。ない。そうか、じゃあ好きにしたらいい。?。帰りたかったら帰れ。俺は西田の下で働きたい。俺は河野の下で。それは彼ら次第だ、雇ってくれと自分で頼め。サンキューサー。
おい、観ろ、狼だ。5匹か。いやもっといるぞ。砂漠の民は目がいい。西田が双眼鏡を持ってくる。坂本さん。ありがとう。岩山に狼の群れ。緑は草か。ほんとだ、草が。なになに。山頂。中腹の岩場にも。おお。坂本が言っていたな。なんと。狼。そうか狼が棲めるように。そうだ。なんだ。今わかった。だから何が。
われわれ砂漠の民は家畜を増やすことを考えた。そうか、俺もわかった。長老たちの話に全員聴き入る。先ず草。先ず水。いやいや先ず裸じゃよ。長老いけますか。女次第。家畜が増えすぎると草を食い尽くす。狼はそれを抑える。左様、へび、サソリをもな。
確かに日本人はよく考えますな。仕事ができるのは多い、仕事をつくるのは少ない。坂本は婿殿が惚れるわけだ。彼は狼にも愛情をもって接するのか。いやすべての生き物だ。共存。じゃな、どうも日本人の根本思想は共存共栄じゃな。紛争の元を潰す。
砂漠が緑になって家畜が増えた、これを狙って狼がやってくる、だが殺そうとはしない。狼も生きて行けるようにと。狼も役に立つ、腹が減ってなければやたらと家畜を襲わない。増えすぎが良くない。わしも多ければ多いほど良いと思っていたのだが。程々ですか。何事も。あれもですか。当たり前じゃ。大雨になるぞ。
日本人は身体は小さいがやることは大きい。強いが威嚇しない。お前西谷投げ飛ばされたな。違う、宙に浮いて落ちた感じだ。同じじゃないか。西田の手を掴んでみろ。若者が立ち上がる。西田が手首を捻ると若者が倒れる。魔術か。西田には合気道の心得があるようだ。
子供たちが泥球を持ってくる。坂本が投げつける振りをする。子供たちも反撃体制をとる。坂本は手を上げる。婿殿、彼は子供のような男だな。そうですな。純粋な男だな。そうだ次回からは坂本杯を用意しよう。それはいい。すべての岩山に狼を。オウと大歓声。
一行が乗船すると見送りの人が手を振る。月の砂漠を 遙々と 坂本が歌いだす。天上からもそれにあわすように音楽が。運河の両岸にも見送りの人が手を振る。船が進む。畑仕事、牧畜の手を休めて手を振る人々。泥んこ合戦のニュースは砂漠中に知れ渡っているようだ。
国家論、戦争とは
話は自ずと闇の権力者になってゆく。そもそも戦争とは国家間の紛争でしょう。しかし、国のためでもある。国民が戦争を主張した例はありますか。坂本の問いに田中が応える。仮に民意に反してでも国の方針を決しなければならないこともある。国益が判断基準ですか。それもあります、例えば異国が侵略してきた場合、民意を問う暇はないでしょう。国全体のことを国民が判断できますか、問題点と選択肢を提示するのが政治でしょう、時には隠密裏に行うことも必要です。
政治の難しいところですな、やはり国家は国民より比較にならない情報、知識、権力を持っていますから国家が国を支配することになるのでしょう。国家を支配しているのは一部の人間でしょう。絶対王政にあっては朕は国家なりとなりますから。一部の人間が国家を利用して私腹を肥やすようになれば国家は搾取機関に落ちぶれます。連中はそこを上手く利用して来たのですね。でしょう。国家は支配の手段か。
国家は国、民に奉仕することは。理想ですが100年先ですな、国民が政治に関して官僚に近い知識判断力を持つことを前提にしてですが。それは不可能に近い。でしょう。戦争になれば国家の必要性が一番認識されるでしょう。それはそうですね、国家の使命は国民の生命財産を守ること、国防は最重要。
坂本さんのように分かっていただけると有難い、問題は権力の中にいると自分が偉くなったような気がするんですな、奢りですよ。国のため、民のために尽くし続けることは難しい。しかし、日本の政治家は比較的実行しているのではないですか。柳さんありがとうございます。口幅ったいようですが、結局、公務員の品性、品格、倫理の問題となります。そうだ、田中、そのとおりだ。
その夜、二人の元高官は坂本と3人で話し込む。日本の国家機密にも触れる点があるからだ。闇の権力は日本政府をも支配している。録画の人物は彼らに間違いないと思われます。大平が切り出した。支配の程度は。重要政策です。米軍基地、日本市場が代表的ですな。田中も静かにうなずく。
彼らの日本支配は明治維新に遡ります。では。ええ、録音、録画の信憑性は高いですな。問題は方法論です。我々には彼らの力に対抗する力がありません。軍備ですか。軍事、政治、経済を含めた準備ですな。どれくらいかかりますか。わかりません、相手の力がわかりませんから。現代史を勉強して連中の手口からその力を推量するしかないなと田中。お前もそう思うか。
見えぬ敵と戦うには家族も含めた犠牲を覚悟しなくてはならない。彼らはどんな思いだったのでしょうと坂本が写真を見せる。勤皇の志士たちが写っている。有名な人物が揃っている。若いなあ。俺たちも気は若い。青春とは。田中の別の側面を見た気がした。昔から田中には檄を飛ばされた。おいおい、銀時計(東大首席卒業)とは違うぞ。
彼らは大学を出ていないが日本を思う熱い情熱があった。俺たちには世界を思う情熱がある。こいつあ参った、田中お前は喧嘩が強い。頭の悪いものは口でカバーするのだ。で、長期的には彼らを研究すること、短期的には彼らの動きを制することでしょうな。
お前、謎の飛行物体の活用を考えているな。人の話を先取りするな。あれあけやりたい放題なのに撃墜されないのは何故だ。すぐ各論に入る。具体的に論じないと物事は解決しない。各論で解決できなければ総論に戻る。またそれか、悪い癖だぞ。なに、正論だ。報告によると連中はパルスの破壊を恐れている、金融取引は死活問題なのだ。
おれの話は終わっていない、大人しく聴け。この二人は学生時代からこうであったろうと坂本は思った。ロスチャイルド、カーネギー、などのユダヤ人は連中の手先だ。あの画像の人物はイスラエルの民が滅ぼし損ねたカナンの末裔だ。彼らの遺伝子が入手できれば搜索は楽になる。
ピレネー山脈で発見された雪男の子孫は世界各地で発見されている、遺伝子情報は有効な手段だ。問題はカナンの遺伝子ですか。そうなんです、連中を見たものはいない、どうやって闇の権力者と認定するか。犯人が自白するはずはない、あぶり出すしかないだろう。どうやって。金融取引と同じだ。紛争解決ニュースを流すのか。それもいい、彼らの商売を荒らしたら外に出てくる。魔穴は暗い。
実は私も闇の黒幕らしきを捉えて自白させようとしたのですが、今言われた認定で行き詰っています。ほう、お二人に見ていただきたいのです。見ましょう。私が見落としている点があるのではと。傍目八目、お役に立てるかも。
ところで坂本さんの夢はなんですか、この国を発展させ、砂漠に緑を、難民キャンプの整備、いずれも大プロジェクト。俺も聞きたかったんだ田中。だろう、聞けばいいんだよ。そうですね、戦争をなくすことですか。これらのプロジェクトはその布石ですか。まあ、そんなとこですが、戦争の根本的原因は人口ですから、これは次の世代にやってもらいますか。北欧のようにゆったり暮らせたらな。
もし、人類が採取だけで食っていくなら地球上に住める人口は1.5億人との数字があります。俺も聞いたことがある。マルサスの人口論でないが、人口は等比級数的に増加する。すると60億を超える世界人口は大問題だな。中国の一人っ子政策も限界に来たようだし。日本の少子高齢も異状かもしれないな。
産児制限がうまく行ったのは英国か。社会が成熟すると少子化が進むのでしょうか。それは言えますが世界人口の爆発的増加には対策が必要でしょう。しかし田中、戦争の原因を人口問題とすっぱり言い切った人間を知らないな。観念的には理解できてもいかに抑制するかとなると。田中でも難しいか。冷やかすな、俺は厚生省じゃないぞ。でもなんだな、こうした世界問題解決に参加することは愉快だ。世界を思う熱き心が必要なんだ。そうか滾る思いか。そうだ。お前、下宿の2階からションベンしたな。何を急に。下宿の娘が見ていたぞ。本当か。降雨量と屋根の面積から十分拡散すると言って。で、上か下か。上は眉をしかめたが下は笑っていた。ならいい。
あのフランス大使の娘はよかったな。ああ、目をつぶると今も浮かんでくる。お前の外務省志望も女か、フランス大使になって求婚とかさ。でもフランス語は上手くなった。お二人にもいろいろ武勇伝が。あのう。何か作りましょうか。おお清美、軽いものでいい。野菜の和え物と日本酒がございますが。冷でいいか、お客様は。冷でお願いします。
それで録画の人物は。間違いないと思われのですが、裏付けが取れていないのです。そうですか、連中の行動範囲、行きそうな場所は。それは近いうちに報告が入るでしょう。どういうルートですか。今は勘弁してください、公務員にも守秘義務がありますから。ゴルゴ13ですか。まあそんなとこです。私も連中の炙り出しには苦労しています。
あの謎の飛行物体に追跡さして揺すって見てはどうだ。だから連中の人定を急いでいる。疑わしきは揺すってみる。通産省は荒っぽいな。それも一理ありますね、ともかくしょっぴいて自白させる。気持ちは解りますが、敵に気づかれる。どうも話が進まない。見えない相手は始末が悪い。まさに暗闇を手探りで歩む感じだ。
忘れない内に、おふた方のご家族を始め保護すべき方の写真を下さい。厄介な事に引摺り込んだものですから、安全のお役になるかと。ははあ、謎の飛行物体に監視させる訳ですな。あれはドラゴン、坂本さんの所有物ではありませんか。おい、田中、言い過ぎだぞ。おっと、これは失礼。 その夜は遅くまで話したが成果はなかった。しかし二人が事務次官のポストも退職金も捨てた気概は坂本にも伝わってきた。国政の中枢にいただけに坂本以上に事態を重く見ているのかも知れない。
遺伝子鑑定 カナン人定尋問
遺伝子鑑定
坂本は闇の黒幕の肉体の一部を採取するようトモカサ制作者柴崎啓太に依頼する。連絡はメールで行う。乱数表を瞬時で翻訳できる。アルプスで発見された5000年前のアイスマンの子孫が特定できる時代だ。問題は鑑定先だ。坂本にはコネがない。田中から千葉県にある放射線医学研究所が提案されている。ここでは遺伝子細胞情報の研究も行われているようだ。この研究所の資産452億、当期利益1.5億、政府出資335億。日本国家の凄さを感じる。
この放医研は科学技術庁の国立研究所であったが今は行政独立法人になっている。と言って正面から鑑定を依頼するわけにはゆくまい。田中の学生時代の同期が所長をしているらしい。空手部の三羽烏と呼ばれたそうだ。
人の遺伝子は30万とも言われたが解読してみると3万ほどとか。遺伝子TAGCの4文字で書かれているから単語の区切りが判読するのに難しい。ともかく単語数3万であることは解った。単語の意味が解ったのはのは数パーセント、単語の組合せつまり文法が解るのはまだまだ先の事のようだ。
で鑑定方法はというと、単純だ。人類の遺伝子単語及びその配列を比較してゆくだけだ。1番から3万番までの単語の配列は人類皆同じとか。単語もほとんど同じらしい。ちなみにネアンデルタール人と現代人を比較すると単語の違いは10箇所以下、万一より多いが、万に三つ位だ。チンパンジーとでは3%、97%は同じ。哺乳類同士だからそんなものらしい。30万年前の現代人はアフリカから北に向かったコーカサスロイド、東に向かったモンゴロイド、そしてアフリカに留まったネグロイドに分類されるが遺伝子の違いは万に一つか二つとか。
この違いが人種に違いを決定しているというから凄い。先住民のジュワ原人、北京原人たちは死滅してしまったのか、それらの遺伝子は現代人に遺伝されていないのか、坂本の興味は尽きない。しかし、今は闇の権力者特定、その手法精度が問題。
カナン人定尋問
ホテルは張りこんでスイートルームにした。捕虜カナンをリラックスさせるためだ。おい、シャワー浴びろ、必要なものがあったら言ってくれ。そうする、ありがとう。そうだ家族に電話していいか。隣の部屋にもあるぞ。ここでいい。今、日本にいる。ああ、元気だよ。心配ない。お土産買って帰るよ。娘は、そうか寝てるか。僕も君を愛している。
カナンはバス室に行く。どうして3000万もの金を払ったのですか。そのために君に来てもらった。私の記憶は不確かです。大丈夫、君は頭がいい。勿論、謎の飛行物体トモカサによるゴルゴの追跡は極秘だ。これだけは誰にも言えない。ベルが鳴る。田中さんと大平さんがこられました。首尾は。上々。それは良かった。お茶にしますか。将来の博士に、恐縮するな。田中、彼女は亭主持ちだ、可能性はない。なに、愛は奪い取るものだ。
これが写真です、もうすぐ来ます。どうやって。ニュースソースは。そうですな。我々の報告書です、一致しますな。勤務先はホワイトハウス、単なる事務員です。なるほど、監視役、情報収集にはうけつけの場所だ。平凡だからわかりにくい。彼らは3年ごとにバチカンを訪れています。総会の場所。多分。録画の場所は近くにあるアジトでしょう。
バチカンが表の顔、裏の顔が闇の権力者。その可能性はありますな。さあ、尋問するか、試合前の気分だ。おい、空手部、手荒な真似はするな。上品で紳士と言われる田中さんがそんなことするか。
カナン、この二人は俺の友達だ。ナイスミーチュウ。日本の印象は如何ですか、と大平がやんわり切り出す。美しい国だ、できれば貴方方のような紳士に招かれたかった。日本では一期一会と言って出会いを大切にしますと田中が切り返す。
カナンさんお国は。USAですが。どこか宗教的雰囲気をお持ちだ。それはどうも。我々は日本人はどこから来て何処へ行こうとしているのか、考えているのですと大平。カナンは質問の意図を探っているようだ。Palestrina の Super flumina Babylonis という美しい曲がありますね。意味はわかりませんが、この旋律は遠い昔の郷愁を抱かせます。遠い昔とは。そう、数千年以上前の記憶かな。
それは旧約聖書の詩篇137です。そうでしたか、我々異教徒には理解できませんが、この旋律は民族の記憶を呼び起こす気がするのです。ほう、シオンから数千キロ離れた極東の国で。
バビロンの流れのほとりに座り
シオンを思って、私たちは泣いた
竪琴は、ほとりの柳の木々に掛けた
わたしたちを捕囚した民が
歌を歌えと言うから
私たちを嘲う民が、楽しもうとして
「歌って聞かせよ、シオンの歌を」
と言うから、
どうして歌うことができようか
主のための歌を、異郷の地で
と言う意味です。
シオンとは。イスラエルのことです。日本人はこの島から出たことはなかった。それは素晴らしい、日本は異国に侵攻されたことがないとか。 イスラエルは南北に分裂しました。南半分・ユダ王国は、紀元前586年に新バビロニア王国のネブカデネザル2世の時代に滅ぼされます。エルサレムの民の多くがバビロンの都へ強制連行されました、と白井貴子。 どうしてそれを。米国に永く住んでいますとキリスト教の影響を無意識のうちに受けるのかもしれません。彼女は大学院の博士課程。ほう。
日本人はユダヤ教(キリスト教)についてよく知りませんので私なりに調べてみました。西欧の政治学には必須と思ったのです。なるほど。先ず、カナンですが、カナンの地、場所、地域を指す場合と人、部族、民を指す場合があるようです。これが現在どうなっているかとなると詳しいことはわかりません。7000年以上前の話だからな。彼女は何を話している。ユダヤ教徒の範囲とカナンの意味だ。
ユダヤ教徒の範囲はチグリス、ユーフラテスを中心に西はエジプト、南はサウジ半島当たりと思われます。結構広いのだな。シバ王国は半島の先っちょにあったらしい。古代文明は大きな川のほとりに栄かえました。すなわち農耕です。ですが当時の技術からして中心部に住むことができたのは一部の人でしょう。その他の人は遊牧を業としたのでしょう。農耕と遊牧という構図か。富める者は川の辺り、貧乏人は砂漠をさすらう。強きは留まり、弱は追いやられる。生命は海中で生まれた、弱きは陸に追いやられた。現在のパレティナ紛争は歴史の再現か。言えてる。俺はカインが麦を供えたとき神が振り返りもしなかった理由が解った気がする。
でカナンの場所は今のイスラエルの辺りと考えられます。ちょおと待って、メソポサタミアから1000キロはあるぞ。移動は徒歩か。だろうな。神さんから貰った新天地まで長旅だったろう。生活保護か、貧乏人は麦を食え、いや、羊を食え、農産物は食ってはならんということか。
次に名前ですが、カナンの民、創世記の12の部族、ノアの子孫を指すのですが、神がイスラエルの民に滅ぼすよう命じた11部族を言うことが多いようです。理由は。わかりません。神の御心、いい加減だな。11の部族は主に東へ逃れましたが、ある部族は逆にイスラエルの民をやっつけたとも言われます。この部族もカナンと呼ばれますからわかりにくいのです。日本にもユダヤがやって来ているそうだな。
日本の祭礼に共通点があるとの指摘もありますが、想像の域をでていません。話を止めてすまないが、イスラエルの民をやっつけた部族は、確かフェニキア商人の先祖じゃないか。ベニスに販路を拡大してヨーロッパを牛耳ったと聞いたことがある。ベニスの商人か。シェークスピアがそれを書いた頃、英国はオランダに管理されるんだったな。大平さん、私も同じことを考えていました。坂本さんも。オランダからオレンジ公爵が英国に婿入りして英王室を乗っ取る。そうです。
ちょっとまった、メソポタミアが7000年前としてキリストが2000年前、日本史的にはどうなんだ、大平。縄文から弥生にかけてかな、自信がない。ともかく日本より進んでいた。みたいだな。ハムラビ法典はビールの掛売を禁じていたらしい。するとキリストの頃は邪馬台国の時代か。私はキリスト教など信じませんが、葡萄園の話は感心しましたね。丸一日働いたものにも夕方からの者にも同額の賃金を払った話ですね、私も通産省に入って雇用の場をいつも考えていました。朝から仕事にありつけたものは夕方日当を受け取って家に帰れる、夕方まで待って仕事に就けなかった者は手ブラで帰るしかない。山谷ブルース、生活保護より雇用の場ですね。
先程の神に滅亡を賜った民族はどうなったのか、リストラじゃなかったか。農耕だけでは雇用を維持できなくなった、ありうるな。首になった者は神を恨んだだろうな、この頃は二次産業も発達していただろうに。人口増には追いつ書けなかった、産児制限は禁じられていたのじゃないか。ユダヤ教では性は自然なもの、快楽を伴わない性は悪とされちます。
快楽を伴わない性は性ではないと言いたいが、脱線するから後日にして、利息が何故生まれるのでしょうね。経済学で言うなら元手の使用料ですな、産業資本も商業資本も利潤を上げるのですから金融資本も分け前を寄越せとなるでしょう。でも価値を付加してないでしょう。労働価値説ではそうですが、元手がなければ利潤は生まれないと言う主張もりかいできますなあ。ユダヤ教も利息は禁じているそうですよ。
そこは分かりませんが、金有姿本は元手が子を生むことを前提に金を貸しますから利息は当然のことでしょう。下手をすれば元も子も失う危険があります、回収費用と考えたらどうでしょう。すると間男は利子を付けて返す。さあ、浅学の私には。冗談はさておき、利息を禁じるということは利息が取られていたことの証ですよね。禁じるとは既に行われて来たものを禁じるのです、予想される行為を禁じるのは社会が相当成熟してからの話でしょう。
金融資本は何故威張るのでしょう。資本の大小じゃないですか、産業資本も十分な内部留保を持っていれば金融資本の世話にならない、むしろ借りてくださいと頼まれるでしょう。なるほど。しかし、中央銀行が現れると規模は比較にならない。どんな大企業も通貨発行権がありませんから。
日銀は毎年3億枚の万札を印刷してるとか、額にして3兆円。古くなったお札の交換もありますが通貨の流通量からしてそんなものでしょう。
日銀券万札の原価は80円位ですか、この印刷物が1万円として通用するのはどうしてですか。通貨の強制通用力ですが、インフレになれば通貨の価値は落ちますよな、つまり取引量に見合った通貨を発行すべきなんですが簡単にはいきません。景気予測。ええ、それに為替相場も絡んできますから。話を脱線させましたね、イスラエルを追われた者の中に金融資本に走ったのでは。
そう、錬金術を考え出したのです。故郷を追われたものは金に執着するのでしょう。見返してやる、今にみていろ。ですな、今坂本さんが言われた印刷物のお札は原価の125倍の交換価値を法律で認めています。使用価値はない。ええ、メモ用紙にもなりません。詐欺ですね。金本位、銀本位からすればそうかも知れません、昔の一圓は金一匁との引換券でした。ドル、ポンドも重さの単位。ええ。
金の引換券は保有量の数百倍数千倍の発行が可能だと気がつくんですな。金を引き出しに来ることはめったにない。そうです、だが通貨はそれ自体では増殖できない、資本に姿を変える。資本は増殖してゆきます。社会の需要に応じて。需要が拡大している限り通貨の需要も増えるのですね。ところが需要が満たされると需要はなくなる。需要を生み出すのは経済の拡大と人口増でしょうか、もっとも購買力のあることが前提でしょうが。
そうなんです、お嬢さん、有効需要は新たな需要を生みます、だが、ネズミ講です。経済が拡大するする限りは。けど効用は逓減してゆくのですね。ところが戦争は大量の武器を使用します。そうか大量生産、大量消費の典型、戦争があるかぎり武器産業は安泰。それだけではありませんよ、武器の購入は政府支出つまり税金ですな。戦争を起こして戦費を当事者国に貸し付ける者がいるということですか、武器を売りつけ金を貸し付ける、ひどい。金本位制に戻したら。
尋問の舞台は整った。あと少しだ。白井貴子を連れてきて良かったと坂本は思った。大平、田中も同じ思いだろう。連中は金融でも荒稼ぎしてますね、儲けたかねを何に使うのでしょう、使い道がなければメモ用紙にもならない。そこが判れば動機も明らかになるでしょう。犯行動機ですね、大量殺人の。
戦争の犠牲者はどれくらいになりますか。第二次大戦の犠牲者が3000万人と言われますから、内戦、紛争を合わせると数億にはなるのじゃないですか。どうも金儲けだけではないようですね。と言いますと。どこか恨み節のところがあるでしょう。なるほど、そうですなあ。
リストラされた恨み?みたいですなあ。執念深い。ユダヤ人虐殺犯を追いかけること幾星霜。アイヒマン。そう日本人が忘れやすいのだ。
ユダヤ教の神様も増えすぎた人間に手を焼いたのだろう。被告人を喋らすには怒らすことだ。打ち合わせの通り進んでいる。過ぎるのだ。何が。快楽を伴うセックスが。まあ。お釈迦様が言われたように欲を捨ててゆくと真の姿が見えてくる。欲望のままに行動するから紛争が怒る。生きとし生けるものを愛しむことができない民族は消えてもらったほうが人類のため地球のためになる。
ノアの洪水?そう、自分とこの神様に見放されるの救いがたいのだろう。分からぬ者は救えぬとお釈迦様も言われた。まあまあ、そう決めつけるな、人肉を憶えた野獣は食欲を満たすだけでなく人を襲うこと自体が快感、快楽を覚えるそうだから。野獣並。殺人鬼。
同時テロ、イラク侵攻、人間のやることではない。人類ではない、異星人だろう。落ち着け、興奮すると血圧が上がるぞ。強制連行され、集団結婚を強いられた点は同情すべきでないか。韓国がベトナムでやったように、中共がモンゴル自治区でやっているように。糾弾するだけでは真相は見えてこないぞ。それはそうだな、失礼した。
少し言わせて貰っていいかな。どうぞ。あなた方は日本人だろう、よく勉強している。しかし、生まれ故郷を追い出された民の心はわかるまい。やった、喋り出した。De la terra da amore ! 懐かしの地よか。そうだ。詩篇137バビロンの川の辺にての意味は説明した。
バビロンはまだいい、生まれ故郷を追われ地の果てまでさすらう生活はわかるか。我々はこの屈辱を語り継いできた。何千年もこれからも。かの豊かな地でぬくぬくと生きることは許されない。なぜ我々だけが流浪の生活を送らなくてはならない。
しばらく沈黙が続いた。わかる気もするが動機としては弱いな、坂本が口を開いた。お前たちの神は何故イスラエルの民を選んだのか。理由はともかくユダヤ教の問題だろう。流浪の民はお前たちだけではあるまい。ロマか、彼らは勇気がない、気概も無い。所詮、非ユダヤはユダヤに膝まづくのだ。俺はやらない、神など信じない。
ユダヤの中でイスラエルはどうなる。われわれの苦しみを味わってもらう。まるで子供だな、我々は過大評価していたか。今まで我々に逆らった者はいない、逆らう前に抹殺してきた。なるほど、では手口を教えてくれ。原則的には薬殺だ。やはりな、どうして話す気になった。君たちの冥土の土産にと。自信を持つことはいいことだ。だが、そううまく行くかな。
どういうことかな。日本人は国のために死ぬことを恐れないが安々殺されることも好まない。私は君が3年後に死ぬよう念じた。残された時間を大切に過ごせ。また君の家族は君故に悲惨な死を遂げるであろう。そんな馬鹿な。信じるからだまされるとあるから信じなくていい。3年後に明らかになる。
白井貴子がスマートフォンを示す。これは。この母娘は風船を持っている。一つにはニトログリセリン、もうひとつには青酸カルシュウムが入っている。これらに衝撃を与えるとどうなるだろうか。それは君次第だ。子は親ゆえに罰せられない、ユダヤ教ではな。日本では累が及ぶのだ、秦の始皇帝ですら9親等までとの括りがあったが、日本はどうかな。
カナンは観念する。では出かけるか。彼らは千葉県の放医研に向かう。遺伝子鑑定を行うためだが、謎の飛行物体トモカサが採取したサンプルを確認するためでもある。それは目標に採血器を打ち込み回収したものだ。このカナンから採血して突き合わせてみるのだ。
千葉県の放医研に向かう。よう中村、鑑定頼む。今回だけだぞ田中、次回からは有料だぞ。晩飯おごるから。この美人も一緒か。ああ。では特急でやるか。どれくらいでできる。金か時間か。時間。ひと月でやってみよう。そんなにかかるのか。3万以上の遺伝子を解読するのだぞ。で精度は。99.99%以上だ。万に一つのミスもない。まあな、最近急速に進歩したからな。坂本は精度が知りたかったのだ。
採血はすぐ済む。見学してゆくか。中村所長の案内で研究所を見学する。これだけの施設を公開しているのかとカナンが驚く。水と安全がただの国ですからと中村所長。一時間ぐらい中を見て回る。いやあすばらしかった。今晩7時帝国ホテルのレストランに来てくれ。豪勢だな。無理を言ってすまない、何分よろしく。
遺伝子鑑定の結果がでるまでカナンに日本各地を見せる。何と美しい国だ。自然も人間も優しい。対立がない。坂本は日本の気候風土、文化がいいようにはカナンに働らいてくれることを祈っていた。
カナンの独白 国家論 黒幕の正体は
目的動機
そもそも闇の権力者の目的動機は何でしょうか、坂本は思いあぐねて大平田中に問いかける。詰碁詰将棋で最終図が浮かべられると帰納してゆけばいいのだが。最終図を描くには目的動機が知りたい。
1金儲け
2復讐、報復
3世界征服
等が考えつきますが、ご専門家のご見解は?金儲けにしては度が過ぎてますね、どれだけ稼げば気が済むのでしょうか。そうですね、6京ドルの金が世の中に流通しているとも言われるが、現実にはそんな金は存在しない、発行不可能だ。田中さん、通貨が債権、請求権としてもそれに見合うだけの商品労務サービスはないでしょう。
確かに6京=6万兆、日本の国家予算の数百倍、いや米ドルだから数千倍か、そんな金があるはずはないよな。すると貨幣といっても数字だけの話ですかね。そうでしょう、弁済能力を超える債権、請求権は無意味でしょう。金をとったのは貯めこんでも使い道がない、“金儲け説”も動機としては弱いですね。
世界征服説もこれだけ主要国を抑えているのだから目的は達している、これもボツ。となると復讐報復説か。先走るな、田中。ホイ、これは失礼しました。これもどんな仕打ちを受けたのか、はっきりしない。しかし、カナンの話からすれば神に見棄てられた復讐というのが理解しやすいですね。確かに毛利も関ヶ原の戦い以降徳川に対する恨みは250年間持ち続けたようですから連中が2000年以上持ち続けることも否定はできないかも知れません。長州の倒幕はそれが根底にあるのかも。恨みは理解しやすい説明ですが今ひとつ説得力にかけますね。
坂本説、人口調整説が浮上してくる。田中。すまん。冷やかさないでくださいよ。そうだとしても産児制限とかスマートなやり方はできないのですかね。現在のところ分からないというのが結論だ。
結局吐かすしかないな。どうしてお前は結論を急ぐ、女にもてないぞ。大平だけには言われたくないな。有史来、連中の正体を見た者はいないのですから多少荒っぽい方法も致し方無いでしょう。それはそうですな。
おっとゴルゴからか、思いは時空を超える。カナンの家族をアップロードしたとのメールだ。庭先で遊ぶ母娘、突然の爆発、飛び散る腕、脚。!と返信する。追伸、近々1名捕獲できそう、爆破は合成、モデルは人形。多謝、必要経費は?必要になったら。気合を入れてやってくれ。入れてる、受領分が不足したら。了解、楽しみだ。
カナンの独白 国家論 黒幕の正体は
カナンの独白
なんと美しい国だ。豊かな自然の中で人々は平和に暮らしている。問題は地震が多いこととこの民族の心が最近荒んでいることだ。3.11の震災にも健気に復興を目指している。ここでは人間と自然は対立するのではないようだ。優しい人々の心を荒ませるのは神の意志に反するのではないかと思うようになってきた。
サカモト、これを妻に送りたい。いいとも、ネットカフェに行こう。白井貴子を伴って3人で小奇麗な店にいる。しかし奥さんにもっと愛を込めた文章が書けないのか。取り敢えずこれを送ってみたい。好きにするがいい、そうだ、話もできるぞ。妻と?勿論、他の女は良くないぞ。
カナンはSKYPEで妻と話す。ワシントンは8時間の時差、うまくつながったようだ。奥さん、ガイドのサカモトです、ご主人は重要な仕事を日本でしています。半年以内に彼をあなたの下にお連れしますから費用として50万ドルご用意ください。彼とは私のカナンですか。そうです。私は貴方を信用することができますか。できます、なぜなら私はたとえ死んでも約束を果たしますから。分かりました、信用します、一緒にいる女の人はどういう人ですか。私の秘書ですからご心配は要りません。そうですか、安心しました。明日使いを寄こしますので小切手をご用意ください、ではご主人とごゆっくりお話ください。小切手を用意します、ご配慮感謝します。カナン、邪魔したな。
白井貴子もネットを楽しんで居る。坂本もユキと話す。ユキさんだけでいいのですか。そうだな、他にも不義理しているからな。昨夜、坂本は貴子を求めた。貴子も拒まなかった。人屋根の下で過ごすのだから当然かもしれない。しかし、日本人の倫理観からは不倫である。カトリックも不倫は厳しく禁じて居る。まあできてしまったから、仕事の相棒とは阿吽の呼吸がいるとか、と下手な口実を考えてみる。
国家論
その夜坂本と貴子は国家について論じた。近代的国家はフランス革命辺りか。近代の民主主義と言うならそうですね。どういうことだ。市民が所有権を得たということです。以前は。すべて国王のもの、つまり領土を始めあらゆる財産を所有していたといえるでしょう。個人の財産はなかったのか。国王は何時でも没収出来ましたからなかったと云えばなかったことになりますね。
国有財産は国家のものだろう。国家は国王の機関ですから国のものとは言えませんでした。朕は国家なり、か。そうです、国土は国王の領土であり、国民は臣民でした。つまり全ては国王のもの。その財産を市民で分配しようというのがフランス革命です。それで受け取った財産権の保障を叫んだのか、神聖にして侵すべからず。所有権の保障が資本主義の根底です、日本でも憲法で保障してますが。中国では土地はすべて国のもの、いつでも立ち退かすことができる。
ええ、不動産登記法、公示制度の歴史は古くありません。そもそも国王が絶対的権力を握ったのはなぜだ。難しい質問ですが端的に言えば武力でしょうか。力は正義なり。そうです、ヤクザと同じでは気恥ずかしいので王権神授説は少しでもと格好をつけたのでしょう。
リバイアサンは王権を契約に求めた点で評価されているが、万人は万人に対して狼なのか。これも日本人には理解しづらいでしょうけど世界の多くの国がそうですね。北欧と日本ぐらいか、他を思いやるのは。でしょうね、勝ち組は驕り負け組は片隅に。
話は変わるが戦争とは政治学的にどうなっている。「戦争とは、敵を強制してわれわれの意志を遂行させるために用いられる暴力行為である」というまずクラウゼヴィッツの戦争論が思い浮かびますが。では最高級の体罰か。体罰は教育目的でなされますが、政治目的達成との観点からすれば戦争は最高の手段でしょうね。要するに言うことを聞け、だな。
戦争目的は領土拡大がほとんどですから儲かるのでしょう。トロイ戦争は例外か。王女奪還が戦争目的はまあ神話の世界でしょう、儲かる意味は戦利品もあります、略奪は兵のボーナスだったでしょう。なるほど。兵の多くは傭兵ですから給料分は働きますが。祖国のために柱になる気はない。御国のために名誉の戦死、日本軍は世界に例を見ないですね、満州事変の勢力は張作霖軍は45万、関東軍は1.5万と言われます、兵の気構えが違いました。戦争は昔から儲かる商売だったようです。美味しい商売。ええ。毛沢東の中国共産党は政権を、蒋介石は実をとって大財閥に、加えて故宮博物館と台湾を得ました。蒋介石の閨閥宋美齢を始め配下の武将もそれぞれに荒稼ぎをしました。
陳伯達の中国四大家族によると、蒋介石、宋子文、孔祥煕、陳果夫立夫兄弟は200億ドルを稼いだそうです。1家族50億ドル、今の金なら数百ドルか。中国の山賊匪賊の親分がこれだけ稼いでますから欧米の将軍クラスは推して知るべし、でしょうか。となると闇の権力者たちは想像できないな。スケールアウトですね、
昔も今も天高く馬肥ゆる秋、いざ出陣か。あれは馬賊の職業です、ただし軍と合流することも多かったから半馬賊半軍人とも。略奪が生業か。日本でも偸盗山賊海賊がいたでしょう、海外まで出稼ぎしたのは倭寇と恐れれていましたわ。元寇だけじゃないのか。倭寇を文字って元寇と呼んだのでしょう。
張作霖、張学良親子は蒋介石の下請けなのに毛沢東と手を打ったのは国を守るためではなかったのか。それぞれが米ソの下請けと仮定しますと張はスポンサーがいなかったから第三勢力になろうとしたのだと思います。項羽と劉邦、の韓信か。そんなところでしょう、蒋介石は張学良に毛沢東の紅軍討伐を命じます、しかも前渡金を出しません、ならばと張学良は西安事件を起こしてお二人だけじゃないよと自分をアピールしたのでしょうね。
坂本はかつてこの問題を話したことを思い出していた。日中戦争は、どういう風に考えたらいいか。蒋介石と毛沢東のとの権力争いですね。ええっ?どういうことだ。蒋介石が優勢でしたね。ああ。劣勢側はどのような策を講ずるでしょう。奇策に出る。そうです、反日運動を展開します。わからないな。盧溝橋事件は中国共産党の謀略との見方が通説です、日本と蒋介石を戦わすと楽でしょう。戦わすように仕向けた?日本を悪者にすれば蒋介石国民党は開戦せざるを得なくなります。指桑罵槐ですね、もっともゾルゲが裏で糸を引いていたでしょうけど。悪者を放置するのは弱腰外交か。漁夫の利を得たのは中国共産党=ソ連ですね。
そういう見方もあるか(坂本は動揺を抑えようと頭を整理する)、専門家は違うな(戦争とはこの様に起こすのか。内戦につけ込む、場合によっては起こさせるのだ)。俺は、政治は女のほうが向いていると思っていた。どうしてですか。天照大神、日野富子、北条政子、イザベル、エリザベス、サッチャー。まあ、でも面白いですわ。男は一度に多くのことを考えることができない、女はできる。故に政治向き。そうだ。
ねえ、私のどこがいいのと貴子は甘い声でささやく。頭がいいから、頭の悪いのは好かん。清美さん、ユキさん、、、。クレオパトラ、西施、楊貴妃らがどれほどの美人だったかは定かで無い、写真を見ないと信用出来ない、が男の心を読み取ることに優れていたことは疑いない、名君と言われた玄宗皇帝を虜にしたほどだからな。セックスが上手だった。それもあるが後宮3千人美女は選り取り見取りだったろう。ではなぜ彼女、彼女たちだったのですか。
彼女たちは男の心を読み取れる、そうだ俺が言いたかったのはそれだ、と思ったに違いない。ありふれたお世辞じゃなく。俺が考えていたことを俺以上に表現する。玄宗皇帝はインド風の旋律で作曲をした。初めて聞く天上の音楽ですね、といったありきたりのお世辞には満足できない。楊貴妃はどういったのですか。こうだ。
いえ、私はこのような曲を聴いたことがあります。ガンジスの辺りで聴く天竺の調べはきっとかような旋律でしょうね。うん、さすがですね。だろう、作曲者の意図を適確にとらえ作曲者以上に上手く評している。ええ頭がいいとは相手の意図がわかる、あ。坂本は貴子を押し倒す。お前は俺の考えをまとめてくれた、楊貴妃は以上に。そんなあ~、あ~ん。
黒幕の正体は
カナン、奥さんからの小切手受け取った。約束通り君の家まで送ろう。こうしてお前とあったのも何かの縁だ、答えられる範囲でいいから質問に答えてくれないか。できるだけご期待に添えるように努力しよう。
君たちの目的はなんだ、金儲けか。俺たち?君の仲間と言えばいいかな、このリストは君の仲間と思っている。君の仲間を紳士的に招待したいのだが難しいようだ。分かった、答えよう。世界制覇、世界国家の樹立だ。金儲けはその手段だ。(お前らに支配される位なら死を選ぶ)
戦争、金融、相場、株式は金儲けの手段なのか。そうだ。では稼いだ金は何に使う。今言った世界国家だ。まだ足りないか。ああ、8割ぐらいは貯まった。一寸考えてくれ、金は請求権であるから請求物がなくなれば履行不能とならないか。そんなことは。ないと断言できるかな、あるいは新しい世界通貨を発行して現行通貨を無効にするのはどうかな。できるわけがない。近々ドルの原盤がオークションにかかるだろう。
馬鹿な。まあそのうち分かるだろう、次に君たちのプロフィール教えて欲しい。それはできない。できないか、なら仕方ない、他に教えてもらえることは。ない。では話は終わりだ、飛行機の手配をしよう。
そんなに簡単にいいのですか、大平さんに相談されては。ご迷惑がかかるだろう。私が話してきます。大平と田中がやってきた。坂本さん水くさいじゃないか。これ以上引っ張ってもと思いまして。で手は。ありません。坂本さんは釈放を約束されたから入管を通じて叩いてみますがよろしいでしょう。それがいい、大平のシマだ。ではお委せします、良しなに。
おい田中、素直過ぎないか。坂本氏。ああ。まあお委せしますといったからいいんじゃないか。我々なりにやってみるか。彼も長いこと大問題を抱えてきたのだ、少しは援護射撃もしてやろう。そうだな。
カナンは成田でパスポート偽造の疑いで取り調べを受ける。これは貴方のパスポートですか。そうですが。発行した役所はどこですか。米国政府。多分そうでしょう、貴方がこれを受け取った窓口は。何故そんな質問をする、国際問題になるぞ。これの真偽を確かめるのが私の任務、答えてください。それに外国為替管理法違反の容疑がかかっています。
第四章 正義は力なり 米ドル印刷原盤競売 風船気球 慰労会転じて歓迎会 WONTED
第四章 正義は力なり
正義は力なり
坂本、白井貴子、大平は田中から夕食に招かれた。これでアメリカの出方次第を見るのか。まあな。アメリカ局は慌てるだろう。つまり米政府ということでしょうか。きついなこのお嬢さん。すみせん学問的興味で。婆さんとふたり暮らしだろ、こんな娘がいたらなあ。誰が婆さんですか、お客様が来られてるからって甘えるものではありませんよ。ホイすみません、悪うございました。
素人なり私も考えたのですが、尖閣、竹島、北朝鮮、南沙諸島となれば沖縄、岩国基地の重要性が増すでしょうから米国は手放さんのでは。迎撃ミサイルをグアム・サイパンからでは間に合わんわな。ああ。横田の戦略的は減ったから返せ、全部がだめならせめて縮小返還をといってもアマリカは応じませんか。小松、三沢、千歳が対ロシアとすればおっしゃるとおりですが。日本制圧には横田が中心になる。アメリカさんはそう考えているようです。
冷戦も終わり中国、北朝鮮を想定すれば沖縄だけいいのでは。日本の軍事力からすれば可能ですが政治的にはどうですかね。よろしいでしょうか、米国は日本の経済的援助だけでなく軍事的援助が必要になってきたのではないでしょうか、したがって憲法改正を迫っているのでありませんか。
日本の軍事力も使えて政治的にもイニシアチブが取れるなら最高の伴侶ですが。難しいところだな、円高ドル安は米国製武器のお買い上げを言ってきているが、日本企業も自前の武器開発が可能になれば、いや可能にしてくれだな、日本製のほうが米国製より優秀ですと言い返している。
なら日本が武器輸出国になったらどうです。通産省としてはそのほうが国益に沿うと思うのだが外務省がね。おいおい。いやあ、日本が最先端の武器を輸出すれば今出まわって武器は陳腐化する、スクラップだ、各国が日本製の武器を分けてくんなましと言ってくるようになれば政治的にも一等国になれる。素晴らしいですわ、やはり正義は力で実現するのですね。そうかな、現職時代は言えなかったがゼロ戦技術は新幹線に受け継がれている。
田中、謎の飛行物体は日本製だと言いたいのか、確かに今までの武器は無力になったが。機械的なことはわからんが匂いだな、用い方の芸が細かい、気配りというか、どことなく日本の匂いがする。ほう。さくら、さくらと歌いながら核兵器の使用まで封じ込める、年の頃なら二八。若い娘に目が行くのは老化の現れだぞ。何を言うか、若くて綺麗なのを好むに年は関係ない。
カナンのパスポートは本物でしょう、どうやって拉致したのでしょうね。100万ドルの小切手、日本で換金されたとすれば外為にひっかかるが何でわざわざ日本で。承知の上のことだろう、いや、調査してくれと言っているようだ。困るのはそちらの方でしょう、か。外為を熟知しているのだろう。昨夜坂本が?とゴルゴ13にメールで聞くと!と返事がかえってきたが、二人の話で少し心配になってきた。御身ご自愛のほどと再びメールを送る。謝、心配御無用と返事があった。
米ドル印刷原盤競売
ヤフーオークションに米ドル印刷原盤がかけられた。100億ドルから競りが始まった。ご丁寧に100ドル札印刷実演ヴィデオのリンクが貼られている。メディアが面白おかしく取り上げる。
仮に本物すればどれくらいの値がつきますか。理論的には無限に発行出来ますから、1兆ドルがついてもおかしくないでしょう。しかし発行権限がないのがやると通貨偽造ではないですか。今は落札価格の話をしています、偽造及び行使は重罪ですがそれをどうやって証明するのですか。
では買ですね。小学生の質問ですね、落札者は印刷すれば偽造になることは承知の上と認定されるでしょう。印刷した時点で通貨偽造ですか。当然でしょう、落札した原盤で印刷した100ドル札と言う馬鹿がいますか。
ということは落札したらすぐ反米国、例えばイランに転売する。それくらいの事は誰でも思いつくでしょう、問題はFBIやCIFの捜査にどう応じるかでしょう、落札者は世界通貨たる米ドルの原盤は骨董的価値がある、まあ、満足感ですな、もちろん印刷などする気はありませんでしたと答えるでしょう。
それでその後イスラムテロ集団に強奪されたとか。少しはましになりましたね、オークションの目的は米ドルの信用失墜とも考えられます。視聴者の興味は政治向きの話より落札価格ですよ。このテレビ局は好きだが、どうもあんたとはやりにくい。
今先生のご指摘された信用失墜は政治問題だけでなく、世界金融に重大な影響を与えるでしょう。そうなんです、米国は躍起になって否定するでしょうね、やはりドル安ですか。常識的にはドル安ですが、一時的にドル不足で高騰するかも知れませんね。
ここで視聴者かのご意見をいくつかご紹介します。まず、東京都のMさん、米国は原盤の所在を明らかにせよ。山口県のNさん、オークションの100ドル札の偽造をどう証明するのか。福岡県のOさん、オークションはオークションだ、中止すべきではない。
ごもっとなご意見ですね、米政府は大変な対応を迫られるでしょう。私もそう思います、米ドルの決済が拒否される恐れが出て来ました。円がドルにとって変わることも。あなたは少し黙っていて、私は経済のことはよくわかりませんが円の発行数からして今すぐにとは考えられませんが、先生の今後の予想は。輸出国は円、ユーロあるいはその他の通貨の抱合せ決済を求めるでしょうね、市場の反応によっては。
競売やり過ぎじゃないか?けっこう楽しんでいる。坂本とゴルゴ13のやり取りである。ゴルゴは自分でも不思議な感じがする。プロの殺し屋として幼い頃から育てられてきたが、これほど楽しい仕事はなかった。毎日が自分は生きていると感じられるのだ。
現金輸送車が襲撃される
米ドルの現金輸送車が襲撃されるとのリークがあった。取材の小型機、ヘリコプターが大挙して砂漠の上を飛ぶ。軍の戦闘機が緊急発進。これ以上輸送車に近づくと迎撃する、これは警告ではない、通告だ。
報道の自由を侵すのか。真実を伝えるのはジャーナリストの使命だ。おい煙を吹いてるぞ。タイヤだ。黒煙は空を覆う。君たちの上空には5機の戦闘機が狙っているぞ。本当だ、ヤバイ退却だ。
突然輸送車のタイヤが発火した。逃げ出す運転手、乗組員。ディーゼルエンジンが爆発する。炎とともにドル紙幣が空に舞う。
臨時ニュースです。たった今、現金輸送車が爆発炎上しました。映像はネバタ州のものですが、少なくとも全米5箇所で同時に襲われた模様です。詳しい情報が入り次第お知らせします。
ニュースは世界中に配信される。取り扱いは国によって様々だが、ほとんだがトップに持ってきていた。
この事件は不可解です、現金強奪が目的ではないのか、爆破はどのように行われたのか、専門家の意見を伺いました。
おっしゃるとおり現金が目的とは考えられませんね、現金の焼却とも考えられます。米ドル印刷原盤競売のニュースと時間的にみじかいですから。仮にドル焼却が目的としてどのような効果がありますか。連邦準備制度理事会はすべて老化劣化紙幣だと言ってますが、取引に見合った紙幣を市場に供給しなくてはなりません。その紙幣は本物かと?そうです、原盤は保管されているのかとのメッセージとも考えられます。
原盤がオークションにかかっていたら。原盤の真偽は判別が難しいですね。原盤を知っているのは限られてますものね。そこが犯人の目的でしょう。と言いますと?新札の信用性、ひいてはドルの信用性ですね。新札のディザインを変えるのは原盤が本物と認めることになりますね。そうなんです、手形小切手、ネットバンキングといった流通紙幣で何処までもカヴァーできるか、できたとしてドルの信用は揺らぎますね。
ありがとうございました、次に爆破の専門家に伺います。今回の爆発はタイヤの発火、ディーゼルオイルが引火爆発と報じられていますが、タイヤの発火原因は何でしょうか。
まず常識的に長距離走行による路面との摩擦が考えられますが、タイヤの側面、地上から5ないし10cmの場所から発火していますね、摩擦熱による発火は考えられません。
発火前に爆発音はなかったとの証言ですね。爆薬でもないと言えます、私はレーザーと考えています。レーザービーム、赤外線ですか。それ以外には考えられません。
でもどうやって。それは私にはわかりません、ただ太陽光線を集中させたことは間違いないと思います。その方法は?わかりません、現場付近にレンズ効果になるようなものは発見されていないでしょう。捜査待ちですか。ですね。
この事件は前代未聞の事件です。目的、方法、など大きな疑問を我々に突きつけています。番組は今後も事件を追って参ります。
そのころ坂本はメールを受信していた。?、!勿論、トモカサの成果である。謎の歩行物体トモカサの仕業に違いないと闇の権力者たちは歯ぎしりしていることであろう。愉快犯とは相手が悔しがるほど愉快なものである。
米ドルは乱高下している。他の通貨もこれにつられる。輸出入が影響を受ける。金融市場然り。現金輸送車は路上に古釘をまかれるは、油をまかれるは、いやがらせが続く。ついに現金輸送を拒否する者まで。連邦準備制度は当分の間、老朽紙幣の回収を見合わせるか苦慮していた。
それにしても謎の飛行物体トモカサの威力は凄い。赤外線写真を分析すると三方向から現金輸送車のタイヤに焦点があてられている。逆方向には3機の飛行物体らしき塊が見える。この熱線は何だ。太陽光線と思われます。この塊が凹レンズの役割を果たすのか。焦点距離から塊の直径80m以上と推定されます。
何故レーダーに映らない。わかりません。焦点温度は。数秒でタイヤが発火する温度です。数秒?捉えようがないな。くそー、トモカサ。ともかく被害防止策を考えてくれ。
連邦準備制度は印刷原盤を示せ、ドルを米政府に貸しつけて国債を担保にとるのはおかしい、ドルの減価を公表しろ、ドル紙幣を印刷するだけで米政府=国民に請求権が発生する根拠は、などのツイット、ブログが世界中から発信される。インターネットは軍事目的で開発され平和目的で利用される数少ない例であろう。しかも統制が効かない。
ともかくドルが本物かどうかとの疑念を抱かすこと、引いては原盤が本物と思わせることが目的でしょう。それなら新札を狙ったほうが効果があるのでは?新札は警戒が厳しいから老朽紙幣を狙っているのでしょう、それでも新札は本物ですかというメッセージにはなりますからね。なるほど、面白いで見方ですけど市場は混乱しますね。既に混乱してますよ。
難民キャンプ建設、増設
シャラザードから難民キャンプの窮状を訴えてきた。わかった、薬品、食料、水を手配しよう。お金の方は。なに現物のほうが手っ取り早い、建物、構築物などは少し時間が掛かるが。どうするの。内緒、観てのお楽しみだ。
世界各地の NGOからの要望を取りまとめる中央 NGOは米政府からの救援物資提供に驚いた。必要とするだけ供給されて来るのだ。しかも必要とする基点場所まで運んでくれる。そこから現地政府が指定場所まで届けてくれる。反政府軍もこの輸送には手を出さない。なんですかね、どうなったのでしょうか。わからない、まあいいじゃないか。横持ですね。だな。おかげでインフラ整備が進んでいるよ。
シャラザード難民キャンプは都市機能を備えたものが新設されてゆく。既存キャンプの増設、改修も急ピッチで進む。難民の中から難民キャンプの基本概念、詳細について意見を聴く。難民は喋ることさえ忘れていた。意見を述べるなどはなかった。
CGを駆使して基礎工事から完成までを大型モニター、小型モニターで見せる。そこはキャンプの中心に建てられた3万人を収容する集会所だ。周辺の集会所にもモニターが設置されている。
シャラザードのメッセージが流される。このキャンプはみなさんが懐かしい生まれ故郷に帰る日までの仮の宿です。その日までともに頑張ってゆきましょう。誰が皆さんをこのような目にあわせたかを考えてください。このキャンプが他の目的に使われる日が来ることを祈りましょう。
キャンプへの関連するものには謎の飛行物体の目が光っていた。これに向けられた兵器には政府軍反政府軍を問わず容赦なく熱線が照射される。その兵器を使用する者は重症を負うものも少なくなかった。その映像は両軍に送られる。それは多額の賠償請求であった。力こそ正義なれ。
広大なキャンプには緑が増えてきた。牛、山羊、鶏が草を喰む。その糞は絶好の肥料となる。家畜を増やしつつ、いかに平等に分配するかを難民たちに問う。自然に決まりが生まれ守られる。これぞ自治である。キャンプが整備されるに連れ、テント生活から一戸建に移ってゆく。社会の基本は家族だ。
莫大なキャンプ建設の費用の多くが米政府から拠出される。つまり闇の権力者たちのポケットマネー。何故素直に応じるのか。理由は簡単である。取引、老朽米紙幣回収への攻撃を中止の代償がその拠出である。しかし救援物資、キャンプ建設費は際限なく要求してくる。忌々しいと出し渋り遅配を始めるとすかさずムチが飛んでくる。
老朽紙幣を回収しても新札が増刷されない理由、米ドル原盤のその後、落札価格予想、米ドルが世界通貨でなくなる日といった記事ブログが掲載されるのだ。
連邦準備制度理事会はついに新刷紙幣を公表する。新たに印刷された紙幣は果たして本物でありましょうやと揶揄する記事が掲載される。テレビ番組が新刷紙幣の番組を組んだ。米ドルの威信をかけて関係者もゲスト出演。デザインは変わっていませんね。勿論です、変える必要もありません。では本物と考えていいですね。そのために我々は出演しています。
皆さん、お手元のドル紙幣をよーく観てください。右が新刷紙幣、左が従来のものです。見た目には同じものに見えますが専門家に鑑定していただきましょう。まったく変わりありません、用紙とインクが新しいだけですね。これで安心して使うことができますか。米国政府が保障します。この広告宣伝が功を奏したのか、新刷紙幣は流通してゆく。だがそれは永くはつづかなかった。
新刷紙幣に変な文字が現れるとの問い合わせ、書き込みが増えだしたのだ。そして急増した。調査を進めるうちにImitation という蛍光文字が浮かび上がることが判明する。暗いところほど鮮明に浮かんでくる。
印刷工程を徹底的に調査したが蛍光文字は用紙の内部にかかれていることしか判明されなかった。こんなことができるのは奴しかいない。新刷紙幣の流通量は数兆枚になる。仮に犯人が逮捕され処罰されても何の意味がある。
『偽物が本物か、本物が偽物か』と米ドルを冷かすメディア、トィッター、ブログ。連邦準備制度已む無く印刷工程上のミス、ジョークと苦しい弁明せざる得なかった。
当分トモカサの言いなりになるしかないな、それが闇の権力者の結論であった。しかしトモカサの攻撃は津波のように第2波、第3波と押し寄せてくるのであった。それは防ぎ用のない、災害であった。攻撃に強い者が防御に回ると脆いものである。
政府高官のスキャンダル
週刊トボケに中国政府高官のスキャンダルが掲載された。この週刊誌はスキャンダル専門でエッチ系では有名だが、記事の信頼性は低い。販売数もそこそこであったが、完売した。創業以来初めてのことである。店頭では次週号の予約が殺到した。
スキャンダル記事は3週連載ものでその末尾に「保存版通読者にオリジナル動画DVDプレゼント」と記載されていたのだ。駅のゴミカゴを探す者、古紙回収業者を当たる者まで現れる。
なんで?スキャンダル写真の女性だ。学生時代の清楚な写真が読者を引き付けるのだ。こんな可愛い娘を弄びやがってと相手の高官を憎悪する。
評判が評判を呼び、週刊トボケは売り切れ御免。中国大使館から外務省に抗議があったが本国へのゼスチャーに過ぎなかった。
オリジナル動画DVDと交換された週刊誌は数倍から数十倍の高値がついて再販される。販売店は同じ物を二度売ったことになる。古物営業法違反であるが警察も野暮なことは言わなかったようだ。しかも週刊トボケは処分を販売店に委せるというのだ。
買うかとのゴルゴにいいねえと返信する坂本。中国政府高官のおもちゃにされた女性たちの写真とヴィデオ。程なくゴルゴ13がホテルにやってきた。写真を観て喜ぶ坂本。1億6800万円の小切手を差し出す。?。色は世界共通。だな。他には。ない、軍部のも入荷次第納品する。よろしく。北朝鮮、米国は。言い値。色仕掛け作戦か。たまには艶っぽいのもいいだろう。
二人はホテルのレストランで食事をとる。今日は俺がとゴルゴ13。坂本は白井貴子を呼ぶ。プロに何だが、狭いところ、高いところの撮影は俺が役に立てるかも。憶えておく。貴子が来た。今日はこちらの奢りだから美味そうなのを注文したらいい。まあ相変わらずね。
ゴルゴはこの男といるとほっとする。仕事しても面白い。非情に徹するのがこの商売だが今までこんな依頼はなかった。充実感と満足感があるのだ。依頼以上の成果を出したいという気になる。
闇の権力者たちの写真と情報を手渡す時どんな顔をするだろう。あと少しだ。自分が提供する材料をどう料理するのか楽しみだ。
田中と大平がやってきた。今日は東郷さんの奢りだ。遠慮無くいただくか、ここのステーキは格別だ。ご馳走になりますと大平が軽く頭を下げる。ゴルゴ13ことデューク東郷が目で笑う。人に奢ることはこんなに気分がいいことか。
東郷さんは国際情報にお詳しいのですねと大平。忍びに過ぎません。我々は上っ面の情報しか持っていませんので今後とも。東郷さんは艶っぽい情報も得意だ。それはそれは。週刊トボケは手に入れるのに苦労したよ。是非回覧してくれ、田中。閲覧料は酒一升。いいとも、商談成立、乾杯といくか。
楽しい食事が済むと東郷は支払いをして帰ってゆく。四人は部屋で写真とヴィデオを鑑賞する。こういうのならいいなあ。懲戒免職だぞ、田中。本望だ。殿方ってみんな。英雄色を好むだ。
コピーさせてもらえますか。近々軍のが入荷しますから一緒にお届けします。楽しみに待ってます。お前も好きだな大平。これは職務上必要なのだ。そうですな。軍は政府を責めたいから日本への非難を強めるでしょう。坂本さん勉強されましたな。指桑罵槐か。ああ、坂本さんがこの写真とヴィデオをどう使うか想像がつく。さすが外務省。
その後なんですが、中国政府と軍部を解体してしまおうと思うんです、情報工作員が欲しい。明石元二郎並。ええ、チベット、ウイグルも独立させたほうがいいと。なるほど人選しておきましょう、軍のヴィデオ入荷までに。今度は大手出版社に売りつけ元を取らねばなりませんので取り扱いに注意していただきたい。言われるまでもありません、ご商売の邪魔になることは致しません。
出版社は著作権料3億に難色を示す。市場は日本だけではありませんよ、ネット販売もありますよ。ですね。では契約させていただきます。国内の販売は100万部を超えたがそれは宣伝にすぎなかった。海外からの注文が殺到しすぐ元を取った。あとはすべて儲けだ。
中国国民は中国政府高官のスキャンダルを噂にきいてはいたがこれ程ひどいのか、こんな連中がこの国を支配しているのかと思いを新たにするのであった。学卒のプー太郎は日本の学生が羨ましい。我々には仕事が無い。この国で生きてゆくには政府の言いなりになるしかない。その政府は蓄財と好色に勤しむ高官で構成されている。
軍の日本批判=政府批判が強まり反日デモが高まるのを待っていたかのように軍司令部のスキャンダル写真が世界に配信される。
明日は美国か北朝鮮、どうせ女郎屋の床に咲く。そんな替え歌がアップされる。高官の醜聞暴露は闇の権力者たちへの牽制球かもしれない。こちらの手法をそっくり真似ているではないか。
軍と政府との対立を煽ってゆけばこの国が崩壊するのは時間の問題だ。蓋の重しを除けば沸騰した蒸気噴出する。軍備費の使途が暴露される。海外からの見積もりを水増しさせリベートして3割を受け取る。交渉、契約の映像が中国全土に流されるとネットで全世界に広まる。
知識人から自由な政党が旗揚げされる。共産党独裁はあっけなく終わりを告げる。大平の送り出した「明石大佐」の諜報活動によるところが大きいが今や国内世論だけではない、世界世論が民主主義を後押しする。ソ連、ルーマニアに続く共産主義の破綻である。資本主義社会主義を経て共産主義に至るとの唯物史観からしてもおかしかったのです、と評論家がのたまう。
次は北朝鮮ですよと予告番組が世界に流される。更に武器産業と金融市場とシリーズ番組予定が紹介される。もはや和平の道はない。殺るか殺られるかだ。闇の権力者たちに動揺が走る。
炙り出し作戦
日本の証券取引委員会は一定数量超える取引についてはその詳細を調査することができると発表した。これは控えめなものであったので世間の注目をあまり浴びなかった。欧米の証券取引が右に倣えするまで忘れられていた程だ。なにしろ、北朝鮮、中国共産党ならびに政府高官のスキャンダルにメディアの関心は向けられていて、その短刀、匕首に気づかなかったのだ。
一年前のことだ。おい、田中、SESCの委員長は空手部の後輩だったな。任期を1年余り残している。国家、世界のために些細な事だ、やらせるのだ、空手部。大平はいつになく強い口調で言ったものだ。「オオカミを捕らえるためにオオカミを使う。彼なら取引のからくりを何でも知っている」といった大統領がいたな。
田中大平は第一線を退いたトレーダーの口説き落としにかかる。料亭の一席でSESCの委員長が頭を下げる。T氏はよくよくのことでしょう、やってみましょうとだけ言った。
株式市場から数人、為替相場から数人の仕手筋トレーダーの動きを監視するのだ。とくに外人買い、外人売といわれる過去の取引履歴から大商いをピックアップして詳細を調べてゆく。大商いは一度の取引が10億円以上、一日100億以上とされた。
株式市場のABCDEのトレーダ各人の取引銘柄、数量、売買額を一覧表にする。さらに5人の一覧表を横睨みできるようにしてこれを日経平均株価に重ねる。
その一覧を見ただけでT氏は商いの概要を言い当てた。狼は強いだけでなく嗅覚が鋭いのだ。円高株安の日本買いからリーマン・ショックの中で個々の銘柄取引を読み解いていく。
為替相場のABFGHのトレーダーについても同様の手法が採られた。ABは為替でもトップトレーダーらしい。彼らは自ら相場をはるが依頼人のために投資するのが主体である。この依頼人を手繰ってゆけば闇の権力者たちにたどり着くと言うのが坂本の意見だ。田中がこれに乗り気で大平も同調、証券取引委員会抱き込みとなったわけである。
元請は米国とスイスの大物トレーダーです、とT氏はため息をつく。それだけでも我々にはありがたいことです。注文主もあらかたの見当はつきますが、詳しいことは時間をかけて調べないとわかりません。それは我我でもできます、貴殿にはその手口を分析していただきたいのです。承知しました。
田中大平証券取引委員会ルートの調査にゴルゴ13の調査を重ね合わせることになった。
坂本のゴルゴ13へのフォローが厳しくなった。こちら身は一つ。二つは妊婦だ。暗号を解読すると、「そんなにこき使うな。身重の妊婦みたいなことを言うな」となる。
あとは彼らに任せて仕上げにかかろう、と坂本は自分に言った。
WONTEDと闇の権力者たちの顔写真を公表するのだ。容疑は戦争仕掛け、金融市場操作、不正蓄財いくらでもある。簡単に殺しはしないぞ。懲役2688年、死ぬ以上の苦しみを味あわせてやる。
慰労会、ゴルゴ13こと東郷平四郎、トモカサこと柴崎啓太
坂本はゴルゴと啓太を慰労することにした。ゴルゴとともに柴崎製作所を訪れる。啓太を拾って料亭へ向かうつもりだった。こちらの予定など気にしないのが下町。
風船気球
ちょっと観てくださいと啓太専用研究室に案内される。風船が浮かんでいる。大小様々。風船は空気より軽いから浮かんでいます。比重だろう。ええ、風体+中身が空気より軽いと浮きますが
熱気球では芸がない。すると太陽。正解、ですが実用化には程遠い段階です。何が問題。色いろあるんですよ。
例えば。例えばですね、
①中を真空にすると安上がりなんですが、気圧でつぶれます。
軽くて丈夫な材料だな。そうなんですが安ければもっといい。美人で気立てが良くて床上手。
②天候ですね、雲、風に弱い。雨ニモマケズ風ニモマケズ。
お天道さまにはかてねえ。雲の上には太陽がある。雲の下にはない。空に太陽がある限り陽は降り 注ぐ。
③速度が遅い。でもそんなに急ぐこともないだろう、雨フル朝には雨のようにおとなしくしている。 晴れた朝には晴れやかに。もしもピアノが弾けたなら。弾けるさ。偏西風、ジェット気流に乗って ゆくのも楽しい。地球はまわる。
でもなんだか勇気が湧いてきますね、お二人と話なしていると。
パワーもらったんじゃねえか、啓太、で何に使うのだ。そこまでいってねえ。目標を持ってやらねえとな。今はどう飛ばすかの段階だ、新製品開発はそんなに甘くねえんだ。なんだと親に向かって意見するのか。
空を飛びたいという思いが飛行機をつくったが旅客機にも戦闘機にもなる。私なら謎の飛行物体の使い道は、医薬品の緊急輸送、犯罪に追跡、河川清掃、老朽人工衛星の回収などなどを考える。なるほどねえ、あっしら貧乏人はすぐ金にならねえかと考えてしまいます。それは経営者として当然のことでしょう。
しかし、軍事目的に使用される恐れもあるな。そこが人間の悲しさだ。創造の喜びにまさるものはない。だろうな、技術屋が羨ましい。僻地、離島などへの小物輸送が啓太の考えらしい。
慰労会転じて歓迎会
そろそろ慰労会の料亭へと出かけようとすると奥さん連中が三人を包囲する。旦那、素通りとは情けないじゃないか、それにこんないい男を紹介しないのかい。そうだよ、私の酒が飲めないの、さびしい。飲み屋の女みたいなこと言うな。何言ってんだい、色香は衰えず肌もピチピチだい。
坂本がゴルゴ13を見る。目でうなづいている。さあ、宴会だよ、皆仕事をしまって顔洗っといで。強制連行だ。おい、ここの女はひつこいし日本酒は腰に来るぞ。わかった。ボディーガードを付けないとな。白井貴子、田中、大平がやってきた。
ええ、我が大田下町協同組合が今日アルは坂本の旦那のお陰でありまして、そのお友達の歓迎会を挙行いたすところであります。綺麗どころはご不満もおありでしょうがパット行きましょう。そちらいい男を紹介しとくれ。
坂本が立ち上がる。こんばんは、皆様には日頃からのご厚情に感謝申し上げます。本日は手土産も持たずに大勢で押しかけましたが今度は必ず、マンゴーとパパイア持ってきておくれ。あんた便秘してんじゃないのかい。なにいってんだよ、肌が綺麗になって男の目が変わるんだよ。マロンガイもお願いします。オタクのご主人ひつこくなるわよ。
でさあ、いい男を。こちらにオワしますは世界世辞経済研究所の主任研究員の先生方です。一番右のいい男。ああ東郷さん、かの名将東郷平八郎元帥は曾祖父さん、東郷青児は伯父さんになられるお方です。
円高株安、下請けいじめだろ、政治の貧困だねえ。酒がまずくなるからよしとくれ。馬鹿こちらの先生から世界情勢の講義受けてんだ、女にわかるまい。田中の話に耳を傾ける。間もなく3年以内に円安になるでしょう、しかしですな、いくら円安になっても買ってくれないと話になりません。売って頂戴と言うものを作った者が勝ち。なるほどねえ。
でも大企業の下請けいじめはいけねえよな。円安だけで景気がよくなるわけではありません、大企業も同じです。中小企業が日本経済を支えてきたのです。これからは大企業が真似できないものを作っていかないといけません。携帯電話のモーターは京都の小さな会社が世界のシェアー60%をもっています。中小企業が共同でやっていけば大企業が頭をさげてきますよ。てえと我々はいい線いってるのだ。大企業が頭を下げてきたら気持いいねえ。
ドルの評判が悪いのはなんです。それはこちらの先生に。印刷技術でないでしょうか、これが100ドル紙幣です。これを買うには今の相場では8000円銀行の手数料3円です。円安ドル高でもあるのです。ドルが100円になると1万円で買うことになります。輸入業者は大変だ。だよな。けど米ドルっての安っぽいじゃねえか。一寸拝ましてください、これが八千円ねえ。
日本のお札は紙、印刷ともに世界最高です。だから偽札が少ない。ええ、 バングラデシュは日本に硬貨の製造を依頼しました。ベトナムのドンは日本の銅銭を使っていた名残とか。よくご存知ですね、日本の鋳造技術は昔から最高でした。今田中先生のお話にもありましたが日本は技術で生きるしか無いと思います。そうだよ、職人は腕だよ。け、きいたふうなくちをきくな、でしゃばらずに先生におつぎしろ。こちらの先生は大学教授みたいだねえ、私しゃインテリに弱いんだよ。
話変えていいですかい、北朝鮮がドンパチ始めたらたまりませんねえ。あれはハッタリですよ。なら安心だ。でも何をしでかすか。あの国はもう持たないでしょう。本当ですか。こんないい男が言うんだから間違いないさ、平さんおひとつどおぞ、お流れくんなまし。吉原じゃねえんだぞ。焼いてんのかい。核は1っ発も100発も同じです。北も米も対等ってことですかい。あるかないか、オールオアナッシングです。ワシントンに核ミサイルをぶち込むといやあアメリカもむげにはできねえ。ええ、北が持ってなかいか確認をとっているのです。
東郷さん大丈夫か。ああ少し酔った。奥さん、いけねえな、こいつ満月には女を襲うんだ。今日は望月だよ。誰を襲うかしら。あたし。よく言うよ。そろそろ御暇するか、車2台呼んでください。私を襲わず帰るのかい、後悔するよ。今度ご主人に内緒で待合で。ラブホテルでしょ。
じゃあ旦那お気をつけて。ご馳走になりました。田中と大平が前の車に乗る。先生また講義してください。ご馳走になりました。それじゃおやすみなさい。車にが走りだすとゴルゴ13はこんなに酔ったのは初めてだと言った。やがてゴルゴは舟を漕ぎ始めた。やはり人の子だったか、殺し屋がこんなに隙を見せてと坂本は思った。
WONTED
遂に闇の権力者たちに逮捕状が出された。発行人は青い地球を守る会になっているが実質坂本龍治だ。勿論逮捕権限はない。しかし、容疑は世界中から受け入れられた。状況証拠からしてうすうす感じていたのであろう。被疑者の居住国からの異議も出なかった。それは世論とトモカサの力である。
被疑者の容疑を措信させる数々の情報が世界中に配信されている。世論を形成するのは情報の質と量である。青い地球を守る会は武器産業の実態を明らかにするよう主要国に命ずる。そんな実体の無い組織の要求に応じるわけはなかった。しかし、各国は自主的にこれを公表した。
その訳は?連邦準備制度の建物に偽札との大きな落書きがなされた。そのインクは米ドル印刷用であった。落書きの下にはドル紙幣が蛍光塗料で描かれていた。それは宵闇とともに不気味に浮かび上がってくる。つづいて、ホワイハウスには武器廃絶、バチカンにはQuo vadis, Domine? 主よ何処に行きたもうと書かれる。この映像はメディア、インターネットで世界を駆け巡る。
南沙諸島を我が物顔に航行する中華人民共和国漁船及び護衛艦はレーダー探知機が作動しなくなる。やがて熱線を浴びて操舵室が煙を吹き上げる。米ドル輸送車襲撃と同じ手口だと船員が海に飛び込む。護衛艦も同様の仕打ちを受ける。その模様がリアルタイムで世界に流されるのだ。リークされていたメディアは半信半疑であったがここぞとばかり取材攻勢をかける。
天上から音楽が海上に流れてくる。
海は広いな大きいな 波が寄せたり返したり
海にお船を浮かべては 行ってみたなよその国
顔写真入りの逮捕状をカナンに見せるとさびしそうに笑ってみせた。
数日後カナンは四国巡礼の旅にあって土佐路を歩いていた。山。田常男が先達である。ただ歩き続けるということがこんなに人を変えるものか。ひたすら歩く。同じ動作を繰り返すと日常でないものが見えてくる。カナンは阿波路で無料の接待に驚く。ほとんどの国では人を見たら敵と思えというのが基本哲学である。不思議な感覚で日本人を見つめる。
巡礼者の温和な表情がカナンの心を溶かしてゆく。御詠歌、御札に接して佛教に興味を抱く。昼間はひたすら歩くが宿坊では日本語を教わる。記憶力がいいのであろう、御詠歌を諳んじてみせる。常男は問われるまま意味を教える。
阿波路最後の札所薬王寺から土佐に向かう道中、品の良い老婆がカナンに声をかける。どちらからおいでなさった。アメリカです。まあまあ遠いところからようおいでなさった。老婆は素麺を接待してくれた。その夜宿坊で常男に尋ねる。どうして日本人は外国人を警戒しないのだ。そういうことは自分の目と耳と心で悟るものじゃよ。
対立のない世界がこの世にあったのか、カナンは世界観が揺すぶられる気がする。ここでは人間と自然も対立しない、人間と佛も対立しない。何故だ。接待とは無償の行為である。何故だ。疑問は観察を強める。観察は新たな疑問を見つける。自問自答する。
人の考え、思想を帰るものが宗教とすれば四国巡礼ほどわかりやすいものはないであろう。ひたすら歩く、非日常に自分を置くことで今まで見なかったことが見えてくる。強制されるのではない。ただ歩くことでその先に何かがあると思えるのだ。
四国路は、足慣らしの阿波路、鍛錬の土佐路、修行の伊予路、悟りの讃岐路とも言われる。もっとも阿波路の焼山寺、太龍寺などはけっこうきつい。土佐路は太平洋を望む砂利を踏んで歩くから足腰が鍛えられる。伊予路は高度も跳ね上がる山の中、正念場である。讃岐路は解脱、悟りを得て極楽に向かうのであろう。
およそ1400kmの全行程を歩きとおしたカナンは感動に満ちていた。ただ歩いただけである。しかしこの満足感はなんだ。常男に言った、私はもう一度回ってみたい。それは良いことじゃ、が、我々はこの巡礼を終えたことを高野山金剛峯寺に報告せねばならない。八十八の御札はそれぞれがお参の証明。何のために。昔からそうなっておる。そういうものですか。うむ、しかる後再び巡礼することも可能である。
二人は淡路島から和歌山に船で渡る。紀伊水道と南海道とはどうちがうのか。海道のほうが大きい。海道とは。潮の道じゃ。水道は水の道。左様、水は川となり海に注ぐ、これ水道なり。されば潮の道は潮路ならむ。げに、されど道は路より大なり。??。
言わば海のハイウェイ、赤道海流は北上して日本海流と名を改め西海道、南海道、東海道と巡る。してその先は。北海道を通過してアラスカに至る。御意。やがて北米沖を南下して赤道に戻る。
地球のドラマならむ。言い得て妙なり、三千年ほど前、ここより舟出して南米はエクアドルに永住した日本人がおる。本当ですか。その子孫は今も健在じゃ。太平洋を横断する海道も存在するのですね。波涛を越え幾万里よ。対話とはかくも楽しいものかとカナンは思った。
海の先を見よ、空と海が一つとなっておろう。げに、空海とは空と海。左様。また彼の名前でもある、では弘法大師とは。最高位の名称よ、その上は玄蔵かの、詳しくは高野山にてきくがよい。
カナンの瞼に太平洋を巡る海流が浮かんでくる。
南洋で子供を生んだくじらはベーリング海を目指す。そこには豊かな海の恵みがある。7000キロの長旅の終点近くで子供がシャチに襲われることも珍しくない。食を求めて旅するは恐竜も同じであったろう。生きるとは食することである。北の海で大きく育った鯨は南の海で子を生むために南下する。子供には冷たい海では生きられないのであろう。
人間の目にはただ海面が広がる太平洋にも命のドラマがあるのだ。海藻がプランクトンを育てる。プランクトンが小魚を育てる。
小魚が大きな魚を育てるのだ。鯨は一度陸で生活したが考えるところがあって再び海に戻ったに違いない。
陸には果てがあるが海には果てがない。世界の海はつながっている。海を巡ると元の位置に戻ってくる。出発点は終着点でもある。四国巡礼の旅も終わりが始まりであるのかもしれない。自分の人生もまた旅なのだ。カナンは悟りの境地に近づいていた。
第五章 新東京裁判
第五章 新東京裁判
闇の権力者たちを裁く裁判所は東京に設置されることになった。関係者の安全という点で東京が一番とされたのだ。第2次世界大戦の戦争犯罪を勝者が敗者を裁いたマニラ裁判、東京裁判への面当てもあった。
これは勝者が敗者を裁く裁判ではない。被害者たる全人類が被告人らの人類に対する罪を罰するものである。その目的はかような犯罪の再発防止である。したがって犯罪の動機解明を旨とすべきである。検察弁護双方とも事実認定に全精力を傾注していただきたい。これが坂本の関係者への指示の全てであった。ただ不当利得は吐き出せろとの意向は関係者にも理解できた。
裁判所は都内の某ホテルの2階部分が借り切られた。1階部分は検察側と裁判官たちに、もう1階部分は弁護側と被告人たちに当てられる。法廷は会議室を改造する。裁判の長期化が予想されるので関係者への配慮である。宿泊と勤務は近いほど効率がいい。また報道機関への配慮でもあった。
次に裁判官、検察官、弁護人の各15名ずつの公募である。全世界から応募があったが、法曹界、有識者、一般から三分の一ずつ選ばれた。書類選考で絞ってゆくが最終選考では口頭諮問に時間がかけられた。これには先ず選考委員会の設置が必要だが、これに大平、田中、白井貴子が中心になったことは言うまでもない。
この新東京裁判の莫大な費用は青い地球を守る会で負担しなければならない。メディアへの放映権だけではなく一般から寄付金を募った。裁判への関心度が知ることができる。そもそも被告人らの人類に対する罪を裁くのであるから全人類が検察官、弁護人、裁判官である。それをここ東京でこの法廷で人類を代表して裁くのだ。開廷まであとひと月と迫っていた。
まず裁判官、検察官、弁護人の各15名が裁判の基本的進め方について協議する。協議のあと裁判官、検察官、弁護人それぞれに分かれて協議する。協議は毎日のように行われた。これで世界中から集った関係者の互いを知ることができた。裁判の基本的進め方については原則として公開される。
もっとも恐れることは関係者へのテロ攻撃である。日本政府、日本の警察は特別扱いするわけにはゆかないからだ。この裁判を積極的に支援するわけにはゆかない。坂本はハジ議長、ムバルク元大統領らの協力を仰ぐ。テロ攻撃情報収集である。ゴルゴ13とその仲間も協力を申し出てくれた。あとは謎の飛行物体トモカサに期待する。
起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否
いよいよ開廷の日となった。傍聴人、報道陣が押しかけたが法廷の収容人数からそれぞれ100名ずつに制限された。抽選で入場を許された者はこの歴史的裁判を固唾を呑んで見守る。
開廷宣言に続いて裁判長から異例の訓示がなされた。本件は人類に対する罪を裁くものであるが、前例のないものである。したがって当裁判所の存在そのものに対する疑問に答えておく。将来世界連邦国家が実現されるならばその法律に基づいて裁かれるべきであるが、現時点では実現されていない。故に人類の常識に基づいて被告人らを裁くものである。
当裁判所は正当な手続きによって全人類の委託を受けたものと自負する。また、裁判官、検察官、弁護人は公正に選ばれたものと認める。もし当法廷に優る裁判所が存在するならば検察官、被告人双方ともこれに控訴できるであろう。
問題は刑の執行である。この裁判を妨害するものを尽く排除する必要がある。妨害はテロのような直接的なものも、政治的圧力も想定される。テロの対策は既に手を打ってあるが田中、大平が自衛隊のコマンド部隊、警視庁の特別警備を裏から手を回してくれた。
政治的圧力に対しては謎の飛行物体トモカサの示威で抑えることにした。
武器の生産、輸送は国、宗教、組織の如何を問わず破壊してゆく。特に生産ソフトパルスへの攻撃は効果的である。ついでにと北朝鮮政府と中国共産党のコンピューターを麻痺させる。
起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否
数百頁に及ぶ起訴状の朗読は、休憩を挟んで夕方までかかった。続いて人定尋問、罪状認否がなされたが終わったのは深夜であった。関係者の疲労は大変なものであった。ただ起訴状の写は被告人全員にも配付され、傍聴席にも大型モニターで公表されたことは前例がなく、裁判所の自信とも受け止められる。そこで初日は閉廷となり、次回公判は翌週と決まる。
翌週、被告人13名の人定尋問は順調に行われたが、それは表の顔である。
うらの顔こそ正体である。被告人が起訴事実を認めるか、裁判所が認定した時点で正体が暴かれることになろう。
続く被告人全員が罪状認否は全員が無罪を主張した。当然であるが坂本には忌々しく思えた。弁護人の主張に先立ち、裁判官が被告人に、何か言いたいことはないかと尋ねたがこれまた何もないと素気無く応える。お前らは天につばを吐くようなものだ、いずれ臍を噛むぞと内心思っているようだ。
弁護人の主張は、起訴事実は状況証拠の寄せ集めで到底公判を維持できるものではないから公訴を棄却すべきであるとのことだ。東京高裁の元検事正が静かに立ち上がった。直接的、決定的証拠を残さなければ犯罪を重ねてもいいと言うことになりますかな。されば被告人らの犯罪はそれだけ計画的であり、悪質であることを物語っていると当職は考えます。
長年凶悪犯罪を扱ってきたのであろう、淡々と弁論を展開する。我々は、被告人らが直接手を下したという証拠はまだない。しかし、実行犯は被告人らの手足となったに過ぎずその犯罪は被告人らの犯罪であると評価されるべきものと思慮する。故に我々は情況証拠を積み上げて被告人らの犯罪を立証してゆく所存である。
犯罪立証
続いて若い検察官が後は任せてくだい下さいと立ち上がる。検察側はこのICチップを証拠として提出します。それはどのような内容ですか。ある日本人が命をかけて手に入れたもので、被告人らと思しき人物の会話が収録されております。命をかけてとは、彼は亡くなった。殺されました。弁護側は?しかるべく。ではこれを当裁判所の証拠として採用します。
検察側は証拠の人物が被告人であることを証明するため、被告人らの本人尋問を申請します。認めます。被告人らはこの録画の中で自分と思われる自分物を指差して下さい。異議あり。異議を認めます。では質問を変えます、この人物は被告人A貴方ではないですか。異議あり。異議を却下します、証人は答えて下さい。私にはわかりません、裁判長。
検察官ジャックはハーグの大学法学部を卒業した若者だ。この人物は被告人B貴方でないですか。Bは答えない。画面を止めて下さい、この人物が被告人Bであることは疑う余地がないでしょう。裁判長、この録画がどのように作成されたを明らかにすべきです。今は録画の人物であるかを確認しているのですとジャック。弁護人の異議を却下します、検察官尋問を続けて下さい。骨相からだけで録画の人物と被告人との同一性は証明出来ます、なんなら法医学的鑑定を申請してもいいが、そうするまでもないでしょう。
ジャックはどうだとばかりに弁護側を見下す。検察側は審理を早めるべく被告人らのスナップ写真を証拠として提出します。弁護側意見は?ありません。しかし被告人らの表情が曇る。写真は家族の顔もあったのだ。ゴルゴ13が撮影した最近の写真なのだ。では証人は否定しなかったので 録画の人物は被告人らであるとの前提で尋問を続けます。この録画の会議はどこで開かれましたか、答えられない?ではいつ開催されました。被告人らの表情は硬い。この場面撮影日時ではありませんか、ジャックの舌は快調である。
この会議は定期的開催されるのですか。ジャックは証人台に立った被告人Bに近寄る。お答えがない、私の英語がおかしいのでしょうか。傍聴席から笑いが起こる。静粛にと裁判長。検察官は証人を揶揄しています、録画といい写真といい、被告人らの人権を侵害している。弁護側は証拠採用において同意したではないか、そもそも被告人らに人権などあるものか、人間の姿をした悪魔である。弁護側の異議を却下しますが検察官は言葉を謹んでください、なお、証人は知っていることは正直に答えて下さい、さもないと偽証罪及び法廷侮辱罪に問われますよ。
ここでジャックはバトンタッチ。検察官サラはリヴィア出身の美人だ。被告人ら収入ならびにその保管を明らかにするため15分間尋問時間を頂きたく。これは貴方の預金通帳ですか、D証人。ではこの電気料金の請求書は貴方宛のものですね、毎月20日自動引落になっており、そしてそのとおりに引き落とされていますね。声良し、姿良し、頭良し、のサラに法廷は圧倒される。
このスイス銀行の預金はどこからもらったものですか。貴方のご職業は、年収は、失礼ですが公務員の所得にしては多すぎません?マフィアの隠し預金すら秘密を守るスイスの銀行が、と誰しもが思った。
サラはD証人に近づく。いつまでも隠し通せるとお思いですか。異議あり。異議を認めます。この預金はどのようにして得たのですか。Dは知らないと答える。思い出せませんか、この2ビリオンはダヴィデ シオンという人物から振込れていますが貴方とどういう関係ですか。そういう人物は知らない。そうですか、彼はこの写真の人物です、彼と談笑している人は貴方ではないですか。Dの身体が震える。
サラは写真を裁判官に示しながら、カードは小出しするのが基本ですがもう一枚のカードも出しておきましょうと冷たく笑う。このカードはダヴィデ シオンが被告人全員に2ビリオンずつ送金していることが書かれています、さらにその日に武器産業連合から30ビリオンが入金されていることも。つまり彼は武器産業からの寄付金を分配する役目の人でしょう。異議あり、誘導尋問です。異議を認めます。彼もこの法廷で証言してもらいましょうか、金の流れは彼とあなた方との歴史を語ってくれますわ。是非その歴史を証拠として裁判所にしていただきたい。金融業との歴史も併せて提出します。
被告人ら闇の権力者たちは有史以来、常に裁く側にいた。被告席に着くなどありえないことである。これは悪夢ではないかと思ったが裁判はかすかな希望も打ち砕いてゆく。そして彼らを恐怖に陥れるのが家族の写真である。家族の生命を脅かすことは彼らの常套手段である。どの国の政府高官も金だけでは動かないが、家族の生命を脅されると弱い。家族のためにやむなく悪事に加担するという麻酔の効果もある。
真似碁は先番黒の打つ手の反対側に白が打ってゆくものだが、それなりに効果的である。何より心理的に黒を不安にさせるのである。唯一真似できない点は天元10の10である。それはどこかと闇の権力者たちは今考えざるを得なくなっている。
被告人らの遺伝子凍結仮処分申請
被告人らの遺伝子凍結とはどういうことですか。ここは刑事法廷ですよ。ならば、民事法廷も開廷していただきたい。訴えの利益はなんですか。人類に仇なす輩を容易に判別できる、もって隔離ないしは撲滅に資する。なるほど、一理はあるようなので裁判官全員で民事法廷を前向きで検討する、検察官は話を元に戻してください。
この検察官長島重雄は一般人から選ばれた日本の若者だ。法曹界の人間にはできない発想行動がある。裁判官の訴訟指揮も彼には通じない。この裁判の目的はですねえ、被告人らの罪を裁くだけでいいのですか。獄門さらし首にしたとて被害者の無念が晴れのるでしょうか。最低でも被告人らの全資産を凍結してですね、賠償させる、本当はこっちのほうが大切ですね。
刑もですね、絞首刑とか銃殺とかありきたりのものでは面白くありません。懲役刑にして働かせる、派手な囚人服で町中で働かせるのです。死ぬまで、永遠に被告人らには希望はないと思わせることがいいですねえ。
ご高説はよくわかりましたから検察官は本論に入ってください。あなた分かったあ、資産凍結と終身刑、頭にしっかりとですね、入れておいて下さいよ。えっ本論、何を喋るんだったかな。法廷が爆笑に。休廷となる。
刑事事件で被告人の有罪を立証する責任は検察側にある。疑わしきは被告人の有利に判断するのが原則である。限りなく黒に近いグレーであっても罰することができない。そこがこの事件の特徴である。情況証拠を積み上げても限度がある。やはり自白がいるな、と坂本は思った。
闇の権力者たちは立件起訴されることはないと踏んできたのだ。この起訴は人類史上最初であるが、最後にしたいものである。それには闇の権力者たちの特定が必要だ。被告人らが全員であるとの確証はない。これも被告人の自白に頼るしか無い。
江戸時代の拷問を用いるのは坂本の主義に反する。田中、大平が自白に追い込むべく証拠収集に尽力してくれているが、ゴルゴ13の手荒な手法を期待するしかないか、と溜息をつく。最後の切り札は偵察監視用に新たに開発された謎の飛行物体であろう。
民事法廷
不当利得返還請求事件の審理が始まった。
原告全人類 右代表長島明子 原告代理人長島重雄ほか14名。
被告闇の権力者たち13名 被告代理人 野村勝也ほか14名。
訴えの趣旨
一、被告らは連帯して原告に金9876兆円の一部987600円並びに支払済みまでの年5%の割合による金額を支払え
一、被告らは「全人類に対して多大のご迷惑をおかけしましたことを深く
お詫びも仕上げます」との新聞広告を掲載せよ、
一、訴訟費用は被告らの負担とする
との仮執行宣言付判決を求める。
民事法廷は刑事法廷がそのまま入れ替わった感じだ。検察側が原告代理人に、弁護側が被告代理人に、裁判官は民事も審理する。
原告は訴状記載通り陳述します、以上。被告代理人。原告の代表者は美人というだけでよろしいのでしょうか。いいんじゃないですか、本当はですねミスユニバースのお嬢さんが代表にふさわしいですねえ、ですが、ここは日本の東京、南米から来ていただくのもなんですからうちのカミさんにお願いしたわけなんですねえ。なんでしたら、野村先生の奥様にお願い出来ますか。
いや、うちのはカビが生えてますから、長島先生の奥様で結構です。いやいや、先生の奥様は元モデル、恐れ多くてお願いできませんねえ。次に、請求金額が一寸多いようですが算出方法をお示し願えますか。それはですね、兆の上はなんでしたけ、まあ一応、考えられる数字を並べてみましたが、控えめですねえ、ええ、問題は判決が執行できるかどうかですねえ。
控えめならそういうふうに理解しましょう、訴状にはいっぱい書いてありますが目玉はなんですかな。何と言っても通貨発行権ですねえ、この100ドルと書いてある。印刷物がおよそ1万円になるのですよ、この安っぽい御札が、紙代、印刷代その他で5円もしないでしょう、しかもですね、これを発行している連邦準備制度は政府の機関ではないのですよ、現代版錬金術ですね。そうそう、ロンドン銀行も同じ手口をやっています。それが不当利得になるんですか。
例えばこの米ドルがですね、米政府に100ドル貸し付けられるわけです、5円のものを1万円ですよ、闇金顔負けですね、しかもですね、国債を担保に取りますから金利も付くわけです。米政府が返済するということは税金を納める米国民が払うということですね。
その錬金術と被告人不当利得とどんな関係になりますか。それはですね、おいおい証拠を挙げて証明して行きます、期待して下さい。では楽しみにしています、ええ、被告は次回公判までに準備書面で反論してゆきますので、これで弁論を終わります。
不当利得は、武器売上、証券金融操作、通貨発行、商品相場など多岐にわたる。この裁判も数年を要するであろう。請求が認められること以上に事実を明らかにすることがこの裁判の目的なのだ。国家、会社、などの組織に寄生してうまい汁を吸う連中が闇の権力者たちだ。しかも姿を見せない。こいに対してではなく、寄生虫に対して忠誠を誓うことを求める。パナサイトの分際で許し難い。坂本は新たな闘志を燃やす。
手荒な手法
裁判は訴訟法に則って進められる。時間がかかる。被告人らを自白させるには手荒な手法も必要だ。
1被告人らの周辺から物的証拠を収集する。家宅捜索だ。
2被告人らの家族の安全をちらつかせる。安全は保障の限りでないと脅す。
これらはゴルゴ13こと東郷平八郎の専門分野だ。人を殺め傷つけることは坂本の主義に反することをきっと申し渡す。心得ている、仕上げを御覧じゃ、とゴルゴ13。
すでに被告人らの家庭には家庭教師、メイドが送り込まれている。白井貴子の友人関係から頭脳明晰、美人、教養ある家庭教師、メイドが選ばれた。三月以上一緒にすむと家族らは心を許しだした。それが信頼に変わるのに時間はかからなかった。被告人A宅に妻が出かけたとき二人組の賊が入った。家庭教師アンは子どもたちを庇って賊に立ち向かう。賊の一人が彼女に平手打ちを食わす。彼女は怯まず敢然と立ち向かう。もう一人が彼女を椅子に縛り付ける。メイドと子どもたちは震えるばかりだ。賊は彼らを数珠つなぎにしてから物色にかかる。
被告人Aは妻とネットで話している。被告人らには散歩、家族との交信が認められている。そう、アンがこどもたちを守ってくれたの。よかったな、他に被害は。現金以外は盗まれてないわ、買物から私が帰ったとき犯人らしき男が二人バイクで逃げ去ったのよ。どんな男だ。年金の公務員を名乗って還付金の確認に来たとメイドに告げたそうよ。年金はまだ受給していない。メイドが信じるのも無理ないわ、この監視ヴィデオ観て。服装、言動から公務員と思うでしょ。無理ないな。でしょう。このヴィデオ送ってくれるかな。やってみるわ、で、警察には。隠す理由もないが僕が観てからにしよう。
A はヴィデオをパソコンにダウンロードし、DVDにコピーして他の被告人らに配った。単なる物取りではないな。もう一度被害を確認する必要がある。
あれか。あれが検察側に渡るとまずいことになるぞ。しかし妻にもあれの存在は教えていない。弱ったな、下手に動けばまずいかも知れないな。しかし
別の場所に移して置かないと命取りになりかねない。どうやって。ここは多数決で決めよう、静観するか移動させるか。待て、他に方法はないか。では夕食まで各自で考えて結論を出そう、方法が見つからなければ多数決だ。それしかないな。この点では全員一致だな。仕方あるまい。
ゴルゴ13からは逐一報告があるが、詳細は別ルートだ。二人以外にはわからない会話をしているがいつしか同士の絆が結ばれてゆくようだ。被告人らがあれを移動するなら話は簡単だ。家庭教師アンとメイドの監視がある。それに監視用謎の飛行物体という強力な助っ人がいる。移動しなければ家探しするまでだ。それにしてもダヴァオで命をかけてチップを入手した男は何者か、その弟は今どこでなにをしているのだろう。
ゴルゴ13の情報は田中、大平が分析して検察側証拠に提供される。日本の官僚の分析力は凄い。この分析力は眠っていたのであろう。その理由は分からないが検察側は分析整理された証拠を武器に訴訟を進めてゆく。
Aの妻オハラに動きはなかった。炙りだしにかかる。二人組は今度は弁護士を名乗った、Aの依頼により書斎を整理するという。オハラはAに確認するとパソコンに向かう。一人が男の子を抱き上げて二階に上がる。お庭まで飛ぼうか、と男は笑いながら話しかける。オハラは観念する。も一人が書斎へと案内させる。男は書斎をヴィデオに撮ってから大きなデスクに座るとゆっくりと引き出しを開けてゆく。中の物をデスクに並べて写真を撮ってゆく。
我々は手荒な真似はしたくないがあなた達が協力的でないとそれも止む得ないと考えていると二人組は諭すように言った。オハラ、家庭教師、メイドは逆らえなかった。二人はそうさせる雰囲気を持っていた。夕食後は寝室を捜索する二人。オハラは二人の助手をやらされる。捜索が終わると一人が子供部屋に向かう。残った男はオハラにシャワーを命ずる。彼も当然の如くバスタブに浸かる。オハラを招き入れると膝の上に載せる。男は黙ってオハラの顔を見つめる。やがてオハラは喘ぎ出して男の首に抱きつく。
男はシャワーを浴びてベッドに寝そべる。オハラは魅せられたように男の身体を愛撫する。それは愛の奴隷であった。その様子がヴィデオに撮られていることは知る由もなかった。あくる日はもう一人の男がオハラを抱いた。その愛撫にオハラは何度も叫ぶ。もう勘弁してと叫んで絶えた。
それからは二人の言いなりになる。こころと裏腹に身体が男を求めるのだ。
プロの殺し屋は女を殺す術も心得ておかねばならないようだ。肝心のあれはまだ見つからない。オハラは本当に知らないのか、男たちは打ち合わせながら焦りを見せ始める。撮影したヴィデオを検討する。あの音は。ん?ベッドの中だ。レントゲンか。ああ。二人はベッドをレントゲン写真に撮る。ここか。どうやる。できるだけ判らぬように切り取るしかあるまい。そうするか。
それはマイクロフィルムであった。今時マイクロフィルムか。ともかくコピーだ。似たようなのあるかな。俺はDVDにスキャンして依頼人に送る。それまでに俺は似たようなフィルムを見つけて来る。一人が買物出かけるアンの車に同乗する。女とは一度関係ができるとこうも変わるものか。より強い男の子孫を残そうとする遺伝子の指示なのか、プロの愛戯に狂ったのか。
インターネットの画面にはオハラと子どもたちが楽しげに遊ぶ姿が現れる。
被告人Aは動揺する、我が妻にして我が妻に非ず、我が子にして我が子に非ず。男はオハラの胸に手を入れる。画面を気にしながらも悶えるオハラ。男の手は下腹部をまさぐってゆく。それは利息をつけて返すと言っているようであった。一族の純血を汚すことは許されない、男の子供は抹殺するしかない、とAは思った。場合によってはオハラも。
ダイアナ妃が離婚後恋人をつくることは許されるが、エジブト人の子を生むことは許されなかった。イギリス王室の一員だったものは人としての自由などとっくに失っていたはずだ。
Aは他の被告人らの状況を確認した。ほぼAと同様であった、あれは見つかったと考えなければならないな。男たちを消すことができないのか。謎の飛行物体に阻止されるようだ。くそトモカサ。我々は決断を迫られている。子どもたちは死んでもらうしかあるまい。しかし我々の血は途絶える。人質は殺されるものだ、別の女を探すことになろう。我々が生きていればな。奴は人を殺めることはない。
あれが検察側に渡ると黙秘を続けることは難しくなる。だが黙秘するしか無いのだ、我々には。男が子供を抱き上げて2階から庭に飛ぶかいと言った時の不気味さはAの脳裏に強く残っている。オハラは薬を盛られているのではないか。それは媚薬、我々が獲物に常用しているものか。多分な。
健康診断に医師と看護師がやってきた。毎月の定期健診ではあるがAに不安が走る。日本の医師は親切であるが猜疑心は悪魔に映しだすのだ。血圧が高いようですから降圧剤を出しておきましょうと処方箋を書く。届けられた降圧剤はどこにでもあるものであったが、Aは錠剤を砕いて舐めてみた。自白強要剤の味がする。思い切って医師に疑問をぶつけてみた。
日本政府の厚生省が認可したものですよ、ご心配には及びません、環境が変わってストレスが溜まっているのでしょう、精神科の医師に相談されたらどうですかと笑いながら医師は答えた。しかし、この味は自分たちが目標に常用する自白強要剤の味だ。
Aの奴、少し参っているようだから製薬メーカーに照会してみた、精神及び神経に悪影響を与えた症例はないそうだ。この回答、Aに見せたのか。ああ、転送した。取り調べも尋問も穏やかだが、それがかえって気持ち悪い。僕もそう思う。自信の現れか。そんな気がしてきた。確証を、あれを握ったのだろうか。
決定的証拠、動機
決定的証拠
坂本も決定的証拠が欲しかった。ゴルゴ13が入手したマイクロフィルムは闇の権力者たちの議事録が写されていた。イングランド銀行設立からイラク侵攻までの議決事項が羅列されているが、日時、場所、出席者、審議内容等の記載はなかった。それ以前の議事録もどこかにあろう。
大平さん、自白させるしか無いですか。法律の専門家に訊いてみないとはっきりしたことは言えませんが、傍証に過ぎないでしょう。しかし、大平、奴らがあれほど隠匿しようとするからには余程重要なものだろうが。田中が苛つきながら声を荒げる。法廷というリングで試合しているのだ、判定者は裁判官だ。しかし、リング外のプロレスは面白いぞ。観客を喜ばすのも必要ですかね。坂本さんまで、そうしたいのは山々ですが法廷で一本勝ちを決めたいですね。
リング外、ルール違反でも、相手にダメージを与える点では有効ですわ、証拠がなければ做ればいいのではありませんか。白井貴子の大胆な発言にさすがの田中も驚く。日本人は綺麗に勝とうとするが、まず勝利だ、綺麗汚いは二の次だ、と坂本が言いかけて止める。田中、大平も同じ思いだろうと感じたからである。
白井貴子はアメリカナイズされているのか、国際化されているのか。美しい女が平然と言い放った言葉は男たちに思考を揺るす影響を与えた。朝鮮李王朝の血を引くこの日本女に不気味さを感じたのであった。かつて白井貴子は連中に使われていた。坂本に仇なす事もした。しかし坂本は忘れているようであった。そこがこの男の魅力である。内心はともかく、過去は過去、人は信じなけれ付き合えない、生きて行けないと言うであろう。
どのような弁論も証拠も否定する被告人らに対し、捏造した証拠もむしろ有効かもしれない。被告人らの常用する手法ではないか。しかし見事に一本勝ちしたいのは皆同じなのだ。やはり日本民族である。頭ではルール違反スレスレの危険球も時には必要と考えるのが、実行するとなると美学が働く。
一度ベンチとフロントで協議するか、田中が思いついたように言った。そうだな、大平も貴子の不気味さから逃れるように同調した。四人は翌日検察弁15名と会った。この二つの情報の証拠能力及び証明力について専門家の皆様のご意見を伺いたい、と大平が静かに話す。弁護団も四人がフロントであることを十分認識している。
一つは被告人らの遺伝子鑑定です。もう一つはこの議事録です。被告人らの遺伝子鑑定の結果、彼らの遺伝子が通常人と一箇所だけ異なることが判明しました。この部分です。3万語単語の中の1語、しかもJとTのだけの相違です。次に議事録ですが、これが被告人らによって作成されたことをどのように証明するか、また、証明されたならば証拠能力、証明力はどうか。以上2点、ご教示賜りたい。
団長格の東京高検の元検事正が挨拶する。お話の趣旨は、二つの情報の証拠能力及び証明力についてお尋ねですがかなりの自信をお持ちのようですな、早速検討致しますが質問よろしいですか。どうぞ。
遺伝子のJとTのだけの相違がどのような結果を招来するのですか。
それは現時点では解明されていません。被告人ら13名の遺伝子に相違が
無いこと、つまり共通の遺伝子であることは事実と言えるでしょう。
(気になるカナンの遺伝子は被告人らの遺伝子と共通であったが、カナンは この法廷の被告人ではない今は何も言及されなかった)
議事録が被告人らによって作成されたことを立証することは難しいと思わ れます。他の証拠、つまり自白が要求されるでしょうが、有力な証拠となることは明らかです。
それを伺って安心しました。皆様のお力で自白させることができますよう祈っております。(リング外で自白を強要するなど品の悪いことは口にできない。しかし日本の官僚は目的がはっきりしていればこれを達成してゆく優れた能力を持っている。いい政治家がいい立案をすれば日本が世界をリードすることも可能だ、坂本は大平の応対を観ながらそう思った)
では頂きました情報の証拠能力及び証明力について検討してご期待にお応えしたいと思います。何分良しなに。団長と大平の会話が英訳されると期待に応えるとは、良しなにとはどういう意味かと質問が出る。証拠として有効に使うであり、それを期待しているとの意味ですと白井貴子が説明する。
ならば何故そう言わないのか。どうしてでしょうか私にもわかりませんが日本人にはいいのでしょう。日本文化。多分。私も日本文化について質問があると次々に手が上がる。ええ、皆様には大変な仕事をお願いしまして日夜努力を重ねられていると存じますのでその慰労会を設けたいので今晩是非ご出席賜りたいと田中が申し出る。大平が英訳すると検察団大いに興味を示す。
ご好意はお受けするが、その慰労会の目的はなんですか。連帯感の醸成ですかね、まあ、体験されたらわかるでしょう、日本独特の文化かもしれません。そうだ、後で感想を伺いたいな。
動機
慰労会は築地の料亭で開かれた。検察官15名は車に分乗してできるだけ目立たぬようにホテルから移動した。では皆様の日頃の労をねぎらって、また、ご健康を祈念して乾杯、坂本が音頭を取る。日本に少しは慣れたとはいえ、外国人には物珍しい日本文化のようだ。
酒が出てくると坂本は元検事正に一献。本日はうまい料理をご馳走になり感激ですな。ここのネタがいいでしょう。魚河岸の活きの良さですかね。まあ、もう一杯。いやいや、ご返杯しないと。ああいうことは給仕にさせればいいと思うが、二人のやり取りを観ていた一人がつぶやく。
言われてみるとそうですが、日本人は意義など考えませんが、まあ、言うならば同じ徳利の酒を呑むことで運命を共にしようということかな、大平が英語で答える。そんなものか。仮にこの酒に毒が盛られていたらあんたも私もお陀仏だ、故にだ、作法とすれば自分が先に飲んでから注ぐのだ、田中が話を引き継ぐ。同じ盃を使うのは衛生的に問題ないか。問題ない、酒には殺菌力がある、また、お清めと言って宗教的意味もある。
ほう宗教的意味もあるのか、どのような。そもそも酒は、米のエッセンスである、豊作を感謝して神に捧げるものである。しかしてそのお下がりを人間は頂戴するのである。神とはどのような神か。稲の神様に決まっとる。
稲の神様!他に神がいるのか。古来より日本には八百万の神々がオワシマス、有名なのは、海の神、山の神、土地の神、産土神、商売の神でしょうか、
白井貴子が注釈する。8ミリオン。お産の神、商売の神?
被告人らが闇の権力者たち全員かはさて置き、その動機もはっきりしない。金儲けなら何に使うのか、使わなければ印刷物に過ぎない。やはり恨み、怨恨か、坂本は頃合いを観て誰とはなしに訊いてみた。それはですね、金儲けが趣味なんですね、ええ、人生が何であるかを知らぬ奴は金に生きがいを見つけるのです。日本人は長島重雄の回答に吹き出す。
白井貴子が通訳すると座が湧いた。夢に向かって突き進む、これが人生最高のよろこびですねえ。長島検事はムードメーカーなのだ。お兄さん、お一つどうぞ、サラが酌をする。こんな綺麗どころに注いでもらうと手が震える。ワチキにもお流れくんなまし、サラは花魁に興味があるそうだ。姐さん源氏名は。高尾太夫でありんす。その心意気やよし。指切りして。
高尾太夫の話で盛り上がったところで、サラは怨恨説を展開する。エデンの園はメソポアミアにあったというのだ。農耕を象徴するカインを神が振り返らなかったのは、エデンの園を離れると砂漠では農耕は難しい、牧畜に業を改めよとの警告だというのだ。
するとエデンの東はイランかな、アフガンかな、エデンを追われた人は農耕では食っていけないということね、貴子がこれに同調する。そうなの、二つの川に守られた地を親元と考えると理解しやすいわ。耕作できる地は少ない、仮にあったとしてもそこに定住できる人数には限りがある、多くの人は砂漠に生きるしかないのね、つまり人口を抑制しないと可住人口を超えてしまう。あら、私の言わんとする事を言われてしまった。
ごめんなさい、サラ、私が漠然と考えていたことを貴女が言葉にしてくれた、だからつい、貴女の話を盗ってしまった。いいのよ、私の考えを理解してくれて感謝するわ。私夢中になるタイプなの、じっくり貴女と語りたいわ。
私もよ、今度の日曜、どう。是非、あら慰労会の席で、雰囲気を壊しちゃった。そんなこと無いよ、もっと続けてもらいたいな、長島。
地球上で人類が採取だけで住める人口は1.5億人という数字がある、坂本が水を向ける。サラは坂本に酌をする。今の話興味とても深いですわ、エデンに住むことができるのは限られた人数です、それ以上の人間はエデンを出て砂漠を棲家としなくてはなりません。残る者、出てゆく者をどのように選別するのでしょう。誰にも答えられない質問である。
日本では、中世以降長男が跡を継ぎますね、これは世界的に珍しいと思うのです、砂漠の民は上から順に親元を離れて行きます。何れにしても跡継ぎは一人、その他は親元を離れて独立してゆかねばなりません。そうすると人口は等比級数的に増加してゆくことになります。集団自決が必要かな。多分そうでしょう、でも誰が決めるのでしょうか。
サラ、その質問は難しすぎるわ、仮に神が決めるとしてイスラエルの民に追われた11部族のその後を貴女はどう考えるかはなしてほしいな、と白井貴子が軌道を変える。そうね、怨恨説に話をもどすわ、闇の権力者たちは11部族の一つの末裔と考えています。それは逆にイスラエルを乗っ取り、後の世にフェニキア人と呼ばれた。そうなの、時代が下るとオランダを支配すると英国に手を伸ばす。で、英国の次が米国ね。ええ、カナンと呼ばれてる。
怨恨の内容は神の不公平に対する恨みなのかしら、サラ。それが一番大きでしょうね、貴子。他にもあるの。わからないけど、そんな気がする。弟殺し以上の恨みかな、と大平が助け舟を出す。と思います。愛される者と愛されない者と以上の恨みとはどんなものなのでしょうね、サラ。そこが私も一番知りたいところです、大平さん。
しかしですね、そのカナンですか、それと他の10部族と条件は同じでしょ、つまりですね、その部族は恨むのが好きな、いや、生きがいなんですよ、長嶋重雄が詰まったところをかき回すように言った。そうかもしれません、他の10部族は神に従うことが人類を絶やさないためにやむを得ないと考えたのでしょう。聞き分けの無い奴らなんですよ。これは面白い。
神に見放されただけで人は悪魔になりうるのか、白井貴子は叫びたかったが盛り上がった慰労会の雰囲気をぶち壊すので堪えた。やはり坂本に思いをぶつけるしか無いと思った。しかし、それは坂本も同じであった。決定的証拠と動機はいつも空回りする、坂本も苛立つのである。
カナンの証言
カナンの証言
カナンの四国巡礼も二度目、一番札所霊山寺から落ち着いた気持で歩き始める。ただ歩くということが己を変えてゆくのであろうか。同行の山田常男は付かず離れず漂々と歩みを進める。一人ではない、と思えることが人を温和に柔和にするのであろうか。カナンの自問自答はつづく。
あれは。揚雲雀じゃのう。揚雲雀。菜の花畑の小路を歩く巡礼たちの表情は穏やかである。天国とはかような地ではないか。あの人達には悩み苦しみはないのでしょうか。悩みのない者が巡礼などするものか、と常男が笑う。
極楽とは楽の極みでありましょうや。そうよのう。苦の極みとは。地獄じゃろう。ああこれ。見共でござるか。否、お連れじゃ。少し楽にさせて進ぜよう、これに。そこは曹洞宗の門前であった。坐禅を組みなされ。ひー、ふー、みー、よーと数える。何も考えてはなりませんぞ。目は半眼に、眠ってはいかん。禅道場に喝が飛ぶ。激しく肩を打つ音。カナンは気合を入れられる。余計なことを考えるでない。
一時間の坐禅が長く感じる。半跏でも痺れて立てない。膝の下を揉みなされ。どうしてかような姿勢を取るのでござるか。一番楽ですからなあ。楽ですか。左様、仏様を御覧なされ。足首を両膝に載せるなどできそうもない。いやいや、慣れれば楽ですよ、如何でしたかな。痺れましてござる。どちらから。ルソン島から参りました。某は米国でござる。それはそれは遠いところからようおいでなされた、かけ蕎麦を接待いたしましょう。
おいしゅうござる。食事は黙って食べるものでござるよ。馳走でござった。なんの、ああ、そば汁は白湯を入れて飲み干しなされ。日本の蕎麦は身も心もゆったりさせますなあ。そうですなあ。御坊、何故それがしを呼び止めたのでありまするか。貴殿の悩みはあまりに重そうでのう、気の毒じゃから呼び止めた。私の悩みが解るのか。他人の悩みは解らない。ではなぜ。悩みの中身は判らぬがその人に大き過ぎる、重すぎる悩みは解る。
悩みをなくするにはどうすればよい。誰にも解るはずもない。誰にも。自分で解決するしか無い、何かをしようとするから悩むのです。その何かを諦めれば良いのでしょうか。諦められますかな。ではどうすれば。悩みととことん向き合うのですな。とことん。虚心坦懐に。それは。己を空しくすること、あるがままに見つめる。どのようにして。欲を取り去ってゆく、悩みの本当の姿が見えてこよう。欲を取り去るには。無我になること。いかにして。それがため坐禅を組むのじゃ。
坐禅で無我になれますか。人次第、百人に一人いるかいないか。無我とは。我を無くす、我を忘れる。考えることができなくなる。考えるから分からなくなる。考えてはいけないのですか。されば、遊びに興じる子供、仕事に打ち込んでいる人は考えているかな、芸に打ち込む人は考えているかな。あれこれ考えていると思いますが。初めはな、ある域に達すると思考は止まる、仕事の世界に、芸の世界に身をおくと己の目指すものが見えてくる。はあ。目指すものにひたすら近づいてゆくとき己を忘れる、これ無我の境地なり。
無我になれば悩みはなくなりますか。無くならぬ、が、悩みが見えてくる。それで。慌てるでない、あなたの悩みはあなたが考えているほどに大きいのか、あるいは小さいのか、本当の姿が見えてくれば半ば解決できたに等しい。悩むほどのことはなかったと気づくことですかな、常男が尋ねる。十中八九は、ただ彼の悩みはあまりに重そうでお引き留め致した。
悩みを考えるのではなく見つめるのですな。さよう、みつめるのです、されば真の姿が見えてくるでしょう。有り難き御説法謝し奉りまする。また折あらばお立ち寄りくだされ、拙僧はこれから法要があるゆえおかまいできませんが、もいちど坐禅を組まれよ、何、何時でもどこでも半畳の場所があればできますぞ。
二人は禅寺を辞し次の札所に向かう。朧月じゃな。おぼろづき。菜の花や月は東に日は西に。カラス何故泣くの カラスの勝手でしょ。これお嬢さん、
鶴林寺は遠いかの。連れてったげる。小学生の女の子が二人、先に立つ。鐘が鳴っとるだろ、ここまっすぐじゃ、うちら帰る、さいなら。おおきに。
おおきに、ですか。三歳の童とて導師なり。はあ。この国は人々が優しいのは何故か、考えずに見つめよか、禅問答だな、カナンは自問自答する。確かに坊主の話で気が楽になった。何故か、その何故かが良くない、どうしてか、これも同じか。風呂に入って夕餉にいたそう。はい。
日本の食事は身体にやさしいですね。カナン、食事は黙って食うものじゃ、この食事に係わったすべてのものに感謝して食するものである。心得ました。カナンは質素な食材を料理を味わいながらそして感謝しながら食うことはなかった。我ながら身が締まり健康になったと思う。
食後講話があった。不条理を不条理として受け入れよという内容であった。人は悪にもなる、善にもなるのは何故か、カナンは問う。人の心は善と悪が常に戦っているのです。悪を抑えるには。悪は欲から生じます、欲を抑えるのです。欲は悪ですか。悪ではありませんが悪をかきたて、善を抑えます。いかにして欲を抑えるのですか。欲望に囚われず程々にすることです、食欲は腹八分、性欲、物欲も程々に。
悟りの境地とは、と常男が。あるがままに見つめられるということです。人は嘘をつく、故にだ人なのです。犬、猫は嘘をつきません。可愛い我が子をなくした親は何故自分だけがと嘆き悲しみます、それが人間界です。天界ではありません。嘆き、恨みは一時のこと、そこに救いを見出すことはありません。あるがままに見つめるとき真の姿が見えてくるでしょう。あなたは悟りの境地に近づいておられる。それがしが。巡礼を終える頃には御仏の心に触れるでありましょう。
その頃、ゴルゴ13の炙り出しと謎の飛行物体トモカサの攻撃は激しさを増していた。Aの家が全焼した。火元はガレージ前に置かれた灯油と見られた。
発火原因は不明。メイドは買物に出かけていたオハラと電話で話していて火災に気づくのが遅れたと証言した。メイドは消防署に通報してから避難しているから落ち度は見当たらない。隣人らの目撃証言からガレージから黒煙が上がり建物に燃え移ったことは明らかである。
灯油の納入、家族の買物を考えると放火の疑いが高い。爆薬、発火装置などは見当たらなかった。とすれば太陽光線しか考えられない。Aは歯ぎしりする。他の被告人らも脅しであることはすぐ察した。明日は我が身である。
機密書類は移したほうが良いのではないか。下手に動くと却ってまずい。静観するしか無い。そうだな。全員に徹底してくれ。
紛争、テロを問わず使用する武器に対する熱線の照射は兵の戦闘意欲を削いでゆく。謎の飛行物体は戦闘関係者を恐怖に貶める。それだけ非戦闘員の安全は高まってゆく。戦闘には力の説得が言葉の説得より効果がある。主要国の政府高官のスキャンダルも国民の不信感を募らせる。やはり自分の国も闇の権力者たちに支配されているのかという気になる。
とくにチベット、東トルキスタンでの弾圧には熱線の照射は熱を上げる。非弾圧者への誤射がない。各飛行物体が収集した武器を持った者、弾圧した者の情報は空母型飛行物体のデーターベースに記憶され、そこからランで各飛行物体に情報が配信される。攻撃型飛行物体はその情報を共有できるのだ。
夜明けとともに連邦準備制度の白い建物の上空に巨大な熱気球が現れる。高度を下げ始める。米空軍は対応に苦慮する。メディアが取材する中、落下傘部隊が巨大なカッターナイフで熱気球を切り裂く。その時黒い容器が落下して白い建物を黒く染める。容器は遠隔操作されているのであろう。コールタールのようである。お前たちは黒だと言っているようだ。
陽はすでに昇っている。西側から眩しい反射光が発せられコールタールが発火する。黒煙と炎は天をも焦がす。取材は中継に切り替えられる。全米が全世界がテレビ画面の釘付けとなった。コールタールはおよそ200平米にひろがっています、キャスターが叫ぶ。黒煙が辺りを暗くしてゆく。我々の呼吸も困難な状態です。大げさに咽てみせる。突然あちこちで発光する。何でしょう。線香花火、爆竹音。これは愉快犯ですね。わかりきったことをいう。
現金輸送車襲撃の第2弾でしょうか。これまた見れば解ることを大声で叫ぶ。自分のPRが一義、報道は二の次。スタジオから解説をお伝えします、中継はそのまま続けて下さい、犯人はトモカサでしょうか。手口は似ていますねえ。目的は。新東京裁判での自白を迫っているのでしょう。論理が飛躍しますね。他に考えられますか。
つづくホワイトハウス、天安門への攻撃は指導者の椅子を揺する。闇の権力者たちにすがっていていいのかと不安になってくる。指導者ほど保身に長けている。上品な顔して武器輸出を続けるEUに対しても謎の飛行物体は警告は終わった、今後予告なく攻撃すると宣言した。攻撃とは破壊もあり得る、攻撃目標にはバチカン、バッキンガム宮殿、ベルサイユ宮殿もそして聖地エルサレムも例外ではないと強硬な姿勢を示した。
バチカンは中世まで絶対的存在であった。イギリス国王ヘンリーは離婚を認めぬカソリックを蹴ってポロてスタントを打ち建てる。バチカンからの独立が近世である。欧州諸国もこれに倣う。絶対王政の成長とともにローマ法王の権力は相対的に低下する。
近世とは絶対王政とバチカンとの抗争であると坂本が白井貴子に語る。この茫洋とした男の想像力は貴子を興奮させる。シェークスピアの執筆とこの抗争は時を同じくする。その作品は政治的意図を持って書かれたはずだ。ヤクザの組が分裂、独立するのと基本的に同じだろう。バチカンもハプスブルク家を使ってシマの安定を図る一方、オランダからオレンジ候を送り込んで英王室を乗っ取りますから近世とは絶対王政とバチカンとの抗争といってもおかしくはありませんわ、貴子は彼女も同じ事を言っていたわとコロンビア大学の学友アンヘンリーを思い出していた。
ともかくバチカンは21世紀の今日でもキリスト教の総本山であり強大な権力を持っていることに変わりはない。この人はバチカンが闇の権力者あるいは同じ穴の狢と考えているのだ、この裏付けをアンに頼もうと思った。バチカン攻撃は皇居攻撃に匹敵する、思っていることはできている男女には伝わるものである。坂本は貴子を抱き寄せる。たまらず貴子は考えを語る。
ローマ法王の衣は赤く血に染まるであろう、と謎の飛行物体はふれる。その御触はすぐ現実となった。赤いペンキを吹きつけられた新法王は地に染まったように見えた。赤いペンキが爆薬であれば、これを阻止することはできない。世界に衝撃が走る。トモカサはキリスト教徒ではない。神を恐れない。言ったことは実行する。闇の権力者たちの本丸に火の手が上がるのも時間の問題だ。連中は初めて恐怖を覚えた。
舞台は整った、カナンの出番を待つまでだ、と坂本は思った。山田常男は定期的にカナンの状況を知らせてくる。?。いましばし。土佐路とくに室戸岬の遍路道は海岸の砂利の上を歩くことになる。険しい伊予路に向けて足腰の鍛錬とも言われる。
弘法大師空海が悟りを開いた祠を出ると天空と海面が一つに見える。カナンの目には空と海の境が消えたように見えた。海は世界を巡る、空は地球を包むとつぶやく。常男は気づかぬように先をゆく。伊予路は険しい。高低差が遍路を苦しめる。修行の正念場だ。季節は夏を迎えていた。
首筋から背筋を流れる汗は身も心も浄化させる。「目指すものにひたすら近づいてゆくとき己を忘れる、これ無我の境地なり」カナンは禅僧の言葉を繰り返していた。自分が目指すものは次の札所か。先祖の恨みを捨て去ることか。人はどこから来てどこへ行こうとしているのか。今自分は何をしている。巡礼か。何のため。考えるのではなく感じるのだ。カナンの頭は肉体以上に熱かった。思考は混乱する。
山田常男が緑陰の岩の上に腰掛けていた。カナンが横に腰を下ろした時、一陣の風が通り抜けていった。おう。カナンが発した声は風と共に去って行った。何かがカナンの中を通り抜けた。
検察側証人にカナンが立ったのは、秋の日であった。頭を丸めたカナンは修行僧の雰囲気を湛えていた。これから私が検察官として証人お尋ねすることは証人及びご家族の心を痛める事になると推察しますが、私の役目故ご容赦願いたいと存じます。尋問に立った福永元東京高検検事正は目礼した。証人カナンはゆっくり一礼する。
この議事録は誰によって作成されましたか。
被告人全員と私です。
証人と被告人らとの関係はどういうものですか。
同じ組織の構成員です。
その組織はどういう組織ですか。
それは申し上げられません。
この議事録は議事録の要旨、抄録ですか。
そうです。
議事録の詳細は別にありますか。
あります、
それはどこにありますか。
言えません。
では、この録画はあなた方の会議を撮影したものですか。
そうです。
この会議は定例的に開かれるのですか。
年に一度開かれます。
いつどこで開かれましたか。
忘れました。
この会議の出席者は誰ですか。
被告人全員と私です。
と言うことは、出席者は組織の構成員全員ですか。
それは、わかりません。
どうしてですか、あなたはこの会議に出席していたのでしょう。
答えたくないのです。
質問を変えましょう。被告人全員と貴方以外の出席者は何名ですか。
一名です。
その人の名前と地位を言って下さい。
言えません。
どうして言えないのでしょうか。
異議あり、今の質問は証人を虐待するものです。
意義を却下します。当裁判所も知りたいので証人は答えて下さい。
証人カナンは震えていた。検察官は証人に近づく。静かにカナンの肩に手を置くと言えるようになったら答えて下さい、と諭すようにつぶやく。
次に動機についてお尋ねします。あなた方の組織が人類を憎む理由は
何ですか。
私たちカナン一族は神に憎まれました。
理由は何ですか。
わかりません。
それからどうなりました。
いわれのない差別、虐待を受けました。
それはどのようなものですか。
神に呪わてた民と蔑まれ、虐殺されました。ある者は死体を切り裂かれ、 頭の部分に縄を通されてぶら下げられました。ある者は路上で強姦されました。ある少女は性器に花を差し込まれました。これを観ていた民衆は手を叩いて喜び私たちのふるさとの歌を合唱したのです。
それはあなた達のふるさとカナンの地で行われたのですか。
カナンでも、他の地でも行われました。
神、あなた方の神があなた方を憎み呪った、それが他の民があなた方を虐殺する理由になるのですか。
神はイスラエルの民に我々11部族を滅ぼすように命じたのです。
その理由は。
神の怒りに触れたのでしょう。
その怒りの理由をお尋ねしているのですが。
それはわかりません。
神様の虫の居所が悪かったのですか。
多分、そうでしょう、しかし私には理由はわかりません。
しかし理由のない命令は無効でないでしょうか。
検察官は日本人とお見受けしましたが、神の命令は絶対です。
よくわかりませんね、理由のない、気まぐれな命令に従うのですか。
私には答えられません、どう言ったらいいのかわかりません。
そもそもあなた方の神とは何者ですか。
そのような質問は初めてです。
旧約聖書によるとその神はこの地球を想像し、アダムとイブを創ったそうですね。言わば親ですよね、生みの親がその子を滅ぼすのですか。
どう答えたらいいのか。
子の過ちは親の責任、少なくとも成人するまでは親の責任でしょう。
親子の関係と神と人間の関係を同一に論じられないのでは。
あなた方の神は人間の親以下ですか。過ちを犯した我が子を庇うのが親ではありませんか。私は昔凶悪犯に死刑を求刑しました。罪状は明らかでしたが凶悪犯の親はうちの子に限ってそのような凶悪なことをするはずがないと叫びました。求刑通り死刑判決が下され執行されましたがあの親の叫びは今も耳に残っています。
私を責めないで下さい。私は貴方の質問に答えられないので他の人にお尋ね下さい。ただ、日本の親子は非常に強い絆でむすばれていますね。これが
この民族の根幹であると我々は考えました。
その考えが日本の戦後体制のあり方に影響を与えたのですか。
そうです。親子、家族の絆を断ち切ってゆけばこの民族も崩壊する、少なくとも優秀な民族ではなくなると考えたのです。
他には、どのような考えがありましたか。
他人に対する思いやりですね、これは他民族には見られません。あってもこの民族のように生活のあらゆるところで見られるということはありません。
あなたは思いやりをどのようにして知りましたか。
四国巡礼です。
それはそれは。具体的にお話いただけますか
お接待ですね。それは巡礼者にお茶、うどんそばなどが無償で振舞われます。赤の他人に何故優しくできるのか、私には理解出来ませんでした。接待することで巡礼者のご利益の御裾分けに預かるという宗教的意味だけでは接待できるものではないと思われます。同行者が子供たちに道を尋ねました。その少女たち二人は途中まで我々を案内してくれたのです。我々が目的地の次の札所を発見するとうれしそうに帰って行きました。なぜ少女たちは幸せなのか。他人が幸せになることは自分たちも幸せになると思っているようでした。あの笑顔は私の心を溶かしました。
それは日本の若者が忘れかけていることですね。
我々がそうしたのです。戦後直ちにそれまでの既成概念を否定すること、故人の権利を主張させること、これは奏功してバブル期を堺に思いやりが廃れていったと認識していました。それは誤りでした。それは都会でのことで地方には思いやりが残っていました。それどころかそんな策で民族の心が変えられますかと地方の人々は笑っているようでした。
我々にこの民族の心を弄ぶ権利はあるのかとの疑問が生まれました。その疑問は日毎に成長しました。憎しみ、恨み、復讐がもたらすものは何か。それは一時的満足、麻薬のようなものです。憎しみは憎しみを育てます。さらなる復讐しかこれを抑えることはできません。それも束の間の休息です。
今の貴方の心境は。 今の心境ですか、人は他人を思いやることでこの地上で生き延びてきたのです。他の動物で他を思いやるものを知りません。他を思いやることは大きなよろこび幸福感をもたらします。報酬を求めず他人の喜び幸せを己の幸せと感じることは人の本来の姿でないでしょうか。
これからどのように生きて行きますか。
もう少し日本で修行して世界を巡礼して周りたい。ただひたすら歩いて周りたい。恨み、悩む人に他を思いやることが自分を幸福にすることを説いてまわりたい。世界を一周、二周すれば解脱して悟りが開けるでしょう。
その時のあなたはおいくつになられているでしょう。
一周30年として100歳一寸でしょうか。
貴方の祈願成就とご健勝をお祈りして私の尋問を終わります。
弁護側反対尋問どうぞ。
とくにありません。
では証人は退廷していただいて結構です。当裁判所も証人の祈願成就を
祈ります。本事件審理にご協力頂き感謝します。ご苦労様でした。
第六章 椰子の木陰
第六章 椰子の木陰
身重の貴子
坂本は田中と大平を訪ねる。貴子は坂本の秘書として行動を共にする。真の黒幕を挙げないと完璧とは言えませんがこの裁判でこれだけの成果が上げられるとは思わなかったでしょう。そうですよ、坂本さん、山頂が見えてきたのです、最後のアタックですよ。今回の裁判での最大の功労はカナンの証言ですが四国巡礼であのように変わるものでしょうか。大平さん、私も驚いています。被告人全員に巡礼させたらどうですか。
一定の行動を継続すると心身に変化があらわれることは経験的に知られている、易学では一定の方向に定期的に行くこと、つまりお参りだな、空手の型も同様の効果があると言われている。しかし、真の黒幕の息の根を止めない限り私には安眠がありません。まあ、昨日は良く眠ってましたわ。カナンお陰てよく眠れたが新たな問題が出てきたのだ(人前で余計なこと言うな、貴子との激闘の末とは言えぬだろうが)。
田中の言うことは実践の裏付けがありますよ。ですが巡礼中に真の黒幕に奪還されたら元も子もない。坂本さんのお言葉とも思えませんな、出て来たところをしょっ引いて市中引き回しだ。九仞の功を一簣に虧くとも言いますが田中の言うように山頂にアタックですよ。アタック隊を考えるか。
翌日ゴルゴ13こと東郷に誘われて築地の料亭に出かける。すでに木枯らしが吹いている。日本の四季の移ろいは早いな。ええ。坂本は貴子の肩を抱きながら暖簾をくぐる。部屋に入るなり、山頂にアタックだと東郷に話しかける。ん。大平、田中との話をすると東郷は笑った。録音には真の黒幕の挨拶がありましたな、今はこれを手がかりにするしか無いと思いますよ。何か策でも。 謎の飛行物体に協力を頼んだらどうですか。そうか、真の黒幕の挨拶を記憶させればいいか。私はキリスト教の教会が臭いと観ている。そうかい、俺もそんな気がしていた。
私はバチカンかコロンビア大学の周辺と思うのですが。うん?あくまで感ですけど。貴子も東郷に好感を持っているようだ。女の感は鋭いからそこから始めよう、虱潰しとゆくか。
しかし、よくここまで来ましたな。奴を白日の下に引きずり出せたら死んでもいい。死ぬといった奴が死んだ試しがない。そうかい、まあ気持には偽りはない。それよりおめでたがあったそうで遅まきながらお祝いとお二人をお招きしました。嬉し恥ずかしとはこのことだな。これ以上のおめでたはない。冷やかすなよ。さあ、東郷さんお注ぎします。これはどうも。
でその後、オハラの方は。ああ元気にしている。利息は付いたか。それは成り行き、指値はできない。そらもっともだ。朝寝、朝酒、朝湯とくらあ最高だろうな。俺は物心付いた頃からこの稼業だ、そういうことを考えたこともなかった。東郷さんいい人は、と貴子。いえ、まだ。東郷さんよ、この仕事が片付いたらフィリピンに来ないか、女はよりどりみどり、冬はない、南の楽園だ。身体が訛ってしまう。
いつまでも若い気でいるが肉体は衰える、そうだ、警備会社の顧問はどうだ、プロには役不足だろうが適当に指導してもらえばいい。一度バギオにでも来ていただいたら。それがいい、一見に如かずだ、周りは家族付き合いしてる連中だ。でも俺みたいな人間は。おい東郷、俺の誘いを断るのかい、情けないじゃないか、俺はお前を心の友と思ってきた、お前に殺されるなら本望だと思ってきた、それをなんだい、この野郎。
あなた寅さんみたいに絡んで失礼でしょ。いいんだ、この俺に本気で接してくれたのは坂本さんだけだ。東郷は涙を浮かべる。そうだ、カーシム大佐の娘がいい、うん。どういうのがタイプだ、東郷。別に。まあ寝首を掻かれないようにやってから気に入ったら一緒に暮らしてみるんだな。でもな、東郷長官の末裔となればそれなりに気を使う。恐れ入ります。おやあ、急に神妙になったな。
そろそろにしますか。何を言うか、飲み明かすぞ、酒持って来い。さあさあ、冷でグッとやってお開きにしましょ。おい、貴子、客の分際で仕切るのか、主に失礼だろうが。申し訳ございませぬ。では客人、夜も更けた事ゆえ
お開きに致そうぞ。何、まだ宵の口だ。
東郷は二人をホテルに送って消えた。酔ってしまった坂本を見ながらこの様にスキだらけになってみたいと貴子にもらした。貴子は東郷に熱いものを感じた。シャワーを浴びながら貴子は電気を消した。その白い裸身は月の光に濡れていた。胎内には新しい命が生まれようとしている。少し目立ちだした下腹部を見つめて明日病院に行こうと思った。
明け方坂本が求めてきた。貴子は優しく坂本を抱くがやんわりと拒む。どうした。フフフ、できたみたい、赤ちゃんが。そうか。坂本はそっと貴子を抱きしめる。女は愛する男よりも生まれてくる子の方が愛しくなる。女から母に変身し始めたのだ。多くの男は父に変身することが下手だが坂本は上手い。これが多くの女の心を捉えるのであろう。
ともかく返って来なさい、近頃のお産はホテル並みの部屋で食事もレストラン並やいうやない、心配あらへん。丈夫な子を生むことです。他のことはそれからのこと。貴子は母の言葉がうれしかった。貴子は父親を心配している。夫以外の子を生むことに難癖を付けるであろう。褒められたことではないが罪悪感はない。けどなマリオさんにはすまなそう顔せなあかんよ。うん。
貴子は実家に帰ることにした。東京駅まで坂本が送ってくれた。生まれそうになったら知らせてくれ。心配しないで仕事の方は田中さんと大平さんと連絡を取りますから。貴子は東郷さんと言いかけてはっとした。フフ、バギオのお母さんもいてはるし。冗談じゃない、清美の知れるところなるではないか、と坂本は思った。清美だけではない、カルロス、マリオに申し開きをしなくてはならない。今は丈夫な子を生むことですと母が言うてます。そやな。言葉遣いも変わってくる。
虱潰し作戦
坂本は柴崎啓太を訪ねる。真の黒幕の音声を謎の飛行物体に記憶させるためだ。音声以外に顔写真でもあれば確実にやっこさんを捉えることができるのですが、ともかく、入力しましょう。どれぐらいでできる。2時間くらいでうかね。問題は傍受されないかです。え?9、9.99%大丈夫です。万一のときは。保険金がおりないか、そんな保険は無いよな。
冗談はさて置き、音響学も格段に進歩してますから声紋だけでなく他の方法も見つかるかも知れません。重くならないかい。大丈夫です、音声だけの送受信はこのままで行けます。でも写真となると情報量が格段に増えないかい。大丈夫でしょう、これを観て下さい。それは新東京裁判の被告人全員とカナンの身体に埋め込まれた送信機からの映像だ。わずか0.1ミリ各の大きさだが額の上部の骨に埋め込んである。レントゲンでは判別できない材質だ。
偵察用トモカサだけで情報収集できるが被告人らの目線で観た映像となるとこのような送信機は有力だ。しかもカメラと電池を内蔵しているから神業だ。トモカサの情報網を利用するから3年間は充電しなくてすむと啓太は言う。将来医療技術を飛躍させるだろう。
え、教会ですかあ。どうして。もってこいですよ、これ。何かな。偵察用、2センチですが空気の浮力利用しますからほとんど電力を使用しません、教会ならソーラ発電も可能です。問題はエアコン、吹き飛ばされたり吸い込まれたりするとお陀仏。じゃあパイプオルガンもヤバイな。まあ気流センサーで近づかないようしてますが掃除機に捕まったら制御できません。
すげえ、すると映像も記憶させることができるわけだ。そのための偵察用ですよ。失礼、顔写真か。骨格だけでも人物を特定出来ますから後ろ姿でも大丈夫です。ほんとかい。鼻の大きさ、目と目の距離だけで8割くらいの精度が出ますよ。肩幅、身長をいれると99%までゆくでしょう。
と言うことは、声の主を発見できればその顔も撮影できるわけだ。当たり前ですよ。仮にその人物がある教会に月に一度は来る、なにやらしゃべるとして偵察機が顔写真を撮影するまでどれくらいかかる。まあ、4、5回、半年ですね。偵察機を増やしたら。馬鹿じゃないから1機で十分ですよ、まあ旦那が言うなら2機にしますが。じゃあ、映像なしでも偵察機を派遣できるな。
いつでもどこでも。
オウ、アヴェ・マリア。光明が見えてきた、南無阿弥陀仏。国際的ですね、アッラーも入れますか。嫌味言わないの、派遣先はバチカンとニューヨークの大学、各2連隊の出動を要請する。では10機ずつ出しましょう。ケチケチするな倍出せ。わかりました。そう来なくちゃ。いっぱい行くか。音声入力がありますから終わったら行きましょう。そうかい。
ディーこれを清美さんに転送するのね。そう書いてあるだろ、急げ、終わったら電話しろ。はいはい。清美大明神の念力で音声から顔形を念写してもらおうという想いだ。やってみましょうって。そうかユキはいい女だ。もうじきミンダナオに帰る。待ってるわダーリン。待っててくれ。
啓太、啓太さん、清美に近づいてくれ。これは偵察用じゃないですよ。なんか写ってないか。何ですか。念写だ。まあ、やってみましょう。感度を上げろ。なんか写ってる。保存しろ。信じられない。念じれば通ずるだ。解析度を上げてみましょう。どうだ。目鼻は付いてるからデーターとしてインプットしましょう。清美ありがとうと叫んだ。千里離りょうと思いは一つだ。何ですか。嫁をもらうと解る。清美可愛や可愛や清美。
二人の黒幕
藁をも掴む思いの音声と念写作戦は奏を功した。偵察用トモカサが音声の主をとらえた。が螺旋階段を移動する人物をはっきりとは撮影できなかった。場所はバチカン近くの小さな教会である。しかし数日後コロンビア大学の近くでも音声の主を捉えたとの情報が入る。真の黒幕が二人では洒落にもならないじゃないか。
白井貴子は電話口で考えた。ええ、予定日は2月10日、順調にそだってる、でその人物コロンビア大学の教会で見つかったの。子供の話と同時に話すな、頭が痛くなる。分かった、それは多分、大学のリヴァーサイドチャーチやわ、映像送ってな。え、大学内に教会があるのか、今からメールで送る。ここ数日間にバチカンからコロンビア大学に移動した人物、この男が黒幕やわ。
そうか、お前、頭ええなあ。これで捜索範囲はかなり狭ばったわね、教会、大学関係者を調べてみます。東郷さんにも当たってもらう。そうして、でね、赤ちゃん男の子みたい、いい。勿論だが、目も髪も黒いな。当然でしょ、あとの事はあとの事と母が言ってます。は母強しか。十月十日で身が一つになるまでは身重で過ごしますから。ともかく、転ばないよう、重いものを持たないように。わかってます。じゃあ大事にな。病気じゃありません。そちらに行かなくてもいいか。あなたは黒幕を捕まえて。うん。貴子ほどの女でも同時に二つの話をする。
ゴルゴ13がやってきた。バチカンとコロンビア大学を移動する人物か。近々映像が手にいるでしょうと啓太が自信の程を示す。なら出入国は当たらなくていいな。プロは考える量、範囲が違うな。そうだ、お二人にこれを。
なんだい。最新のトモカサ。よく見えないな。でしょう、レントゲンにも映らない、送受信機。どう使う。三人だけのホットライン、このケースにのせてUSBに差し込むとパソコンで見ることもできます、ただしこのパスワードが必要ですけど。インターネットを使わずに交信できるのかい。トモカサネットですから今のところお二人だけが使えます、やってみましょう。
一センチ各、厚さ五ミリのトモカサが振動する。そのまま返事して話すこともできますが、耳に当てないと聞こえないでしょう。坂本がケースをパソコンのUSBに差し込む。啓太さんからですの表示。おふくろが飯の用意ができたと言ってます、との音声。パスワードは要らないのか。お二人は特別です。どうして。他のお客さんには識別入力費を頂きます。パソコンに音声で返事して下さい。ごちそうになります。声でも文字でも会話出来ます。画像も。行けますがパソコンに落として下さい。
撮影はどうするのかな。ホームに戻って映写を触れるだけ、あとは写真ヴィデオの感覚で。激写、盗撮もできるわけだ。品の悪いことはやめて下さい、不適当と認めたときは削除します。冗談、でも可能だろ、目標を追いかけるには。追々に教えます、あくまで3人だけの緊急用として使って下さい。
バチカンとコロンビア大学を移動する人物の捜索を依頼するかと東條がつぶやく。もう少し待って下さい、顔写真があったほうがいいでしょう。啓太は最新のトモカサをパソコンに接続する。この人物に間違いないでしょう。精度は。95%以上かな、音声と体つきを照合しましたから。クローズアップと啓太がトモカサに呼びかける。
画面が大きくなる。こいつか。間違いない、とゴルゴ13が言った。坂本の顔を見て、俺の勘だが悪人の顔をみてきたからな。清美と貴子に確認してもらおう。お二人のトモカサに送りますね。パソコンか形態には送れないかな。送れますけど傍受される恐れがありますよ。一時を争う場合だ。では清美さんと貴子さんのメルアドを教えて下さい、待てよ。私のブログを観てもらったほうがいいな。町工場の一人息子を検索するように話してください。
坂本は清美の形態電話を呼ぶ。そうだ、町工場の一人息子、今日の日付を開いて写真を見る。見たら折り返し返事してくれ。貴子にも同じ事を伝える。
相前後して返事があった。この人物です。そうか、この通話記録は消しおくこと、今すぐに。判りました。助かったよ、清美、急いでいるからと電話を切る。貴子もこの男に間違いないと返事してきた。
あとは被告人らに面通しだな。俺は捜索を依頼する。それは東郷さんの仕事だ、金に糸目は付けないと言いたいが近頃物入りなので安く上げてくれないかな。贔屓客に嫌とは言えないが損は出さないようにやるから安心してくれ。何分よしなに。柴崎さんのほうも特別に。わかってますよ、新製品の使い道はいくらでもありますから、まあ試運転ですな。ご好意に感謝いたします。ああ、おふくろが飯だと怒鳴ってます。
島崎夫婦の昼飯に、これが日本の食事だと坂本は思った。旦那のおかけで下町の工場もやって行けます、ちっとは役に立つ仕事してますか。役立つどころか御の字だ、ゴールが見えてきたたよ。しかし、役に立つ仕事ってのはうれしいね、ハリがあって楽しい。のんきなこと言ってんじゃないよ、旦那が仕事くれる前は支払いに追われて息をつく間もなかったじゃないか。そうだけどよ、男の仕事ってのは天職そう生きがいなんだ。有難いことよだよ、お前さん。
柴崎さんのおかけでこちらも助かっている、世の中持ちつ持たれつとはよく言ったもんだ。でもよ、新東京裁判は気持ちよかった、まえの東京裁判はまっかーさーの遺恨試合ってもんだったが、大岡さいばんだね、今度は。で、
黒幕はどうなるんだろねえ。決まってるじゃねえか、市中引き回しの上、獄門晒し首だ、ねえ旦那。俺もそう思うけど裁判所が判断することだから。でもよ、東京空襲では下町がやられた、川に飛び込んでも酸欠でお陀仏、広島以上の人が殺された。
そうだ、理事長一つ約束してくれないか。なんです、改まって。トモカサのことだが今に世界中から注文が来るようになる。坂本は間をおいて柴崎を見つめる。注文を受ける前に相談して欲しいのだ。坂本の真剣な表情に柴崎は固唾を呑む。平和利用とは限らない、悪用されると原爆、水爆の二の舞になる、注文主の身元調査をしてから縁談を進めて貰いたい。それはもう。身元調査は簡単ではない、国家、全人類の運命に係わる、大平さんや田中さんの情報網で調べて貰ったがいい、もっともこの東郷さんに裏をとってもらうことになるが、それと、どこが言ってきても廉売はしないで貰いたい。
どこが言ってきても。大企業、官公庁、政府、外国資本、外国政府が売って下さいと頭を下げてくる。そんなものですか。そんなものだ。大企業が頭を下げてくる、思っただけで楽しくなる。見積もりは開発部長が作成すること。言われなくても。でもなんだな、開発部長も嫁を貰わないといけないな。
そうだよ、所帯持ちと独身じゃ世間の見る目が違う、第一稼ぎが悪いってみられるんだよ。うまいなこれ、飯おかわり。話をそらすんじゃないよ。坂本の携帯が鳴る。山田常男からだ。姪にあっての、父の先妻の子だが、年は。32になるかの。独身か。行かず後家じゃ。器量は、清美とどう。そりゃあ清美だがそんなに見劣りしない。では、すぐ東京まで連れて来てくれ、嫁を探している好青年がいる、ご両親も立派な方だ。あいわかった、これから連れて参る、夕刻には東京に着こうぞ。到着時刻を追って連絡されたし、東京駅でお待ち致す。
相変わらずやることは早いね。坂本は山田中尉、山田常男のことをかい摘んで話す。そんな名家のお嬢さんを。まだあったことはないが俺の感ではいい娘さんだろう、あとは啓太さんが気に入るかだ。でも山田さんも決断が早いね。帝国陸軍中尉の息子だ、早い遅いより良縁かどうかだ。ちげえねえ。お前さん、旦那が仲人なら光栄じゃないか。嫁取りは姑がうるせえんだ、お前がうんといえば話はまとまる。なにかい、啓太がこの年まで一人なのはあたしのせいって言うのかい。お袋、お客様の前だぞ。ホイ、あたしとしたことが。ともかく、この縁談はトントン拍子に進んだ。
坂本はその人物こそ黒幕との確信した。CDに画像を落として大平に会う。田中も駆けつけていた。我々も裏付けをとりましょう、いよいよですね、大平が微笑む。でアタック隊はと田中。東郷さんにお願いしました。手回しがいい。身柄は早く確保したいので。民間はフライングができるからなあ。自白させることができればいいのですが。東京拘置所に拘留して起訴しての話でしょう。その前に一発ぶん殴ってやりたい。坂本さんはお若い。
しかし、二人の黒幕と聞いたときは厄介のことになったと思ったよ。一人の人物は離れた場所に同時に存在し得ないよ、田中。だから厄介と思ったのだ、アリバイ、不在証明の根底が揺らぐ。悪い悪い、でも俺は白井さんと同じ事を考えたよ。純情派はそう冷静になれないのだ。本当に黒幕か、他にいないかとの疑念は消し去ることができません。見ろ、坂本さんも同じだ。しかしこれだけの打撃を受けたら壊滅と言っていいのじゃないか、紛争、戦争、不正取引がなくなれば正解だ。大平、優等生の答えだ。
啓太結婚式
縁は異なもの味なもの、初めてあったその日から当人たちが互いに気に入ったのだ。常男の姪は明美といった。山田中尉の先妻の娘は医学部に進学したが明美を産んで間もなく亡くなった。相手は大学の先輩であったがその両親が軍人の娘を理由に反対した。相手の男は一生独身を通し、医学に専念した。明美が行かず後家になったのはそんな父親を心配しての事だった。明美も医師の資格をとったが父親の世話をするため家にいたのだ。その父親も3年前に他界し、明美は独身のままでいた。父の友人が大学の助手に推薦してくれたのだ。
お父さん子だねえ、でもこんな町工場に来てくれるかしら。当人たちが惚れ合ってたらいうこと無いじゃないか。そうなんだけどさ。嫁と思うな、娘ができたと思え。そうだねえ、あんなに楽しそうな啓太見たことがない。明美は啓太の仕事をすぐ憶えた。医学部にゆくぐらいだから電気、機械、化学の基礎を身に付けるのが早かった。啓太の恋人であり、助手である。
結婚式は神式で近くの神社で執り行われた。父代わりの常男の意向だ。披露宴は組合の会議室、町内の人達が入れ替わり立ち代わりやってきて祝福する。100人がいっぱいのところに次々をやって来るからぎゅうぎゅうだ。なんだな、3日やらないと収まらないな。区長さん言って参列者の日をずらしてもらいましょ。それがいい。町内会の区長さんたちが日割りを決める。
花嫁の顔を見て料理が食えればいいんだ。下町らしい。大平、田中から祝電と祝いの品がが届く。珍しく東郷は連日出席する。警備係と言いながら楽しんでいるようだ。人情に無縁の世界に生きる男だから下町の人情がたまらないのであろう。
新婚旅行は坂本の強い勧めでフィリピンとなった。常夏の島は日本の寒さが嘘のようだ。性にあけっぴろげな新婚さんにうってつけである。身も心も燃え上がる。セブ、ダバオとリゾートホテルを泊まって新婚の蜜を堪能してバギオに向かう、塩崎家での披露宴のためだ。坂本の気の使いようで新婚さんがいかに大事な人物であるかは誰にもわかった。
新婦明美は清美を見つめてひしと抱きあう。山田中尉の孫どうしと言うだけではない強いものが二人を惹きつけるようだ。坂本龍次という男を中心とした縁、祖父を中心とした縁が交わるのであろうか。イメルダが明美を抱きしめる。おばさま。明美は亡き母の感触を感じた。
披露宴は塩崎家族の面々が集まってきた。中でも新婚さんを驚かしたのは坂本の子どもたちだ。ひと目でそれと分かるが国際色豊かなこと。子供は多いほどいいわよ、あなた達は何人創るのとアンジェリータと許細君が新婚の二人を冷やかす。ユキが深く深くと手振りを交えて叫ぶと大歓声。顔を赤らめる新婚さんを気に留めることなく話は盛り上がる。
ゴルゴ13こと東郷平四郎は坂本の誘いに乗ってついてきたが女の色談義に圧倒される。ハジ議長とカーシムは警備と言って参列しない。坂本が簡単に紹介すると二人は祝辞を述べる。カーシムの娘も東郷に興味があるようだ。仲を取り持つ`坂本は忙しい。
新月がいいのよ。満月でしょ。半月ですよ、排卵日ですからね。中年女は恥じらいがない。紹介が終わるのを待ちかねたように談義を再開する。マリア、梅雲、清美が新婚さんを中年女から庇うように取り巻く。この国は女が強いの、なんでも私たちに相談して、私たちは強い友情で結ばれているの。マリアの言葉を清美が日本語にする。暁美は嬉しそうにマリアの手を握る。梅雲、清美が手を重ねる。新同盟ねと梅雲。
さあ、新婚さんの門出を祝して乾杯しましょ、カルロス、音頭を取ってくださいな。シーセニョーラ塩崎、それでは新婚さんのそして生まれてくる二人のお子さんたちの幸多きことを祈って乾杯!カンパーイ。でももうできたのかしら。近頃は早いそうですよ。私たちの頃は式がすんでから初夜でしたけどねえ。でも待てなかったのでしょう。
女とは即物的である。昔からある。惚れた男が馬鹿なのかの。こちらでも色談義が始まる。宵闇が迫ると月が出た。フルムーン。ノウ、Honeymoon。蜜月じゃのう。月の光は明るく辺りを照らす。夜明けまで続く宴を祝福するかのように。東郷とカーシムの娘もそっと抜けだして夜の散策を楽しんでいたようだが。
黒幕の詰めろ
黒幕は詰めろである。あとは追い詰めて守り駒を剥がしてゆけばいい。どちらに追い込むか。白井貴子はアンヘンリーを東郷に紹介した。勿論坂本の了解はとってある。思いつくとそのことしか考えられないのがフィリピン人。関連事項が考えられることが教養だ。
東郷はポトマック川の辺りでアンヘンリーにあった。歩きながら話しましょうか。それが一番いい。明日、私は彼を散歩に誘います、ここを通ってあの木陰のベンチに向かいます。絶好だ。二人はリハーサルをしている。ここで二人組が木陰に引き入れる、君は声を立ててはいけない。二人組は君たちを挟んで車に乗せる。わかりました。
問題は彼がパスポートを所持しているかだが何とかしよう。もし所持していることがわかったら目をこすって合図してくれ、手間が省ける。そうします。質問は。ありません。貴子が君に会えるのを楽しみにしている。私も。
東郷はアンと別れてアジトに向かう。アンの匂いが残っている。こんな気持は初めてだ。自分の親も知らず殺し屋に育成された男にはアンの高貴な美しさがまぶしく見えた。仕事人は自分の感情を殺して生きてきた。東郷は苦笑した。
アンヘンリーはリバーサイド教会の入り口で男とぶつかった。手に持った政治学の本を落す。すみませんとオックスフォードの英語で謝る。男は笑いながらオックスフォードからと尋ねる。ええとアンは恥じらいながら答える。政治学を研究してられるのかな。博士課程の学生です。少し話ができるかな。はい、歩きながらでしたら。
二人は川辺を歩きながら話した。昔オックスフォードを歩いたことがありましてな。そうですか。静かな街でした。ええ。ここに住む人間はどういう階級だろうと思いました。アンはいぶかしそうに男を見る。オックスフォードは日本の皇族を初め世界の王室が留学する貴族階級の都市だ。言葉遣いからしておたうさま、おもうさまである。
お嬢さんどうして政治学を。大学ではShakespeareを勉強しました、この文学は政治的メッセージが込められていると考えたのです。ほう、面白い。ヴェニスの商人は裁判官ポーシャの機知が恋人の命を救ったとの解釈は文学的であり幼稚です。貴女の見解は。契約は無効と判示すべきであるとの意見も法的見解としては見識ですが、何故このような契約をしなければならなかったかという観点からの考察がなされていません。初めて聞く見解ですな。
これは政治学的考察をしなければ作者の真意、意図は理解できないと思いこの大学院で勉強することにしたのです。英国では難しい。ええ、この国は若いだけに発想が自由です。確かに。
何時しかアンは持論の展開に夢中になる。この男が真の黒幕ということを忘れたほどだ。Shakespeareほどの作家が詭弁を弄するはずはありません。ですな。シャーロックのお国の法律でこの契約は有効ですなとの叫びに共感できるのです。胸の肉を代物弁済に。ええ、法学者は当事者の真意を考えていません。契約しなければならなかったのです、契約させねばならなかったのです。英国は契約しなければならなかった、契約させねばなければなかったのは。はっとしてアンは男の顔を見つめる。背筋に冷たいものが流れる。
白井貴子ともに拉致された日のことが頭を過る。恐怖が走る。男が笑った。
ことが上手く行き過ぎるとアンは思ったが持論に夢中になり過ぎた。騙したつもりが騙されていたのだ。貴子と心のなかで叫ぶ。
ほんとうにその時である。もうだめとアンが思ったその時であった。二人組が二人を木陰に引きずり込んだ。有無を言わさずさず車に乗せる。これは劇中劇とアンは思ったが声が出ない。
空港につく。どこへ、東京だ。大人しくしたほうが身のためだ。お嬢さんあなた達の航空券、と手渡しながら、男には凄みのある成田についたらデゥーク東郷の指示に従え、空港警備員、搭乗員がお前を監視している。言い残して二人組は去って行った。男は旅慣れているのか出国手続きを済ますと搭乗ゲートに向かう。離陸してアンは一息ついた。このまま演技を続けるしか無いと自分に言い聞かせた。
日本航空のジャンボは快適な飛行で成田に到着した。13時間のフライトだが日付変更線を超えると一日早くなる。アンは緊張でよく眠れなかった。真の黒幕は腹を据えたのか悠然と眠ったり考えたりしていた。
入国手続を済まして到着ロビーに向かうとデゥーク東郷が二人を迎えた。8人乗りのバンタイプの車には男が監視するように後部座席に二人、一時間で東京に着いた。ホテルに着くと部屋に案内される。男は終始無表情だ。しばらくすると電話がなって展望レストランに来るように言われる。拉致するにしてもこれがサカモトのやり方か。
アンは白井貴子と話して人心地がついた。大役ご苦労様、貴子はまず親友の労をねぎらった。うれしかった。明日にでも大阪に来て。東郷に相談する。
楽しみにしてるから。また連絡する、じゃあね。
展望レストランにはアンがいた、男と話している。男は真の黒幕に気づくと立ち上がって「ようこそ東京へ」と言った。サンドイッチとビールを3人前注文した。東京は。初めてだ、あれが皇居、少し右にGHQがあった。そして東京裁判が行われた。こいつがサカモトか。
この世界一の都会は67年前に破壊しつくされた。空襲で殺された市民は30万人以上と言われる。広島を上回る。日本全土がほぼ破壊された。そして殺した側が殺された側を裁いた。今度は戦争を起こした者が裁かれる。
私に関係あるかな。それを裁くのだ。違法な逮捕、監禁で君を訴える。私を、どこに。坂本は笑った。君がそうさせた。そうかな、私は貴方とこうして話しているだけだが。インターポール捜査官が君を逮捕するだろう。この善良な市民を無実の罪で逮捕する、メディアがよろこぶぞ。
黒幕は自分が不利な状況にあることを認識しなければならなかった、不利なことは認めたくないのは自然なことであるが問題の解決にはならない。名前を教えてくれ、俺は坂本だ。噂に効いている、私はヘンリーウイリアム。まあ、こうしてあったのも何かの因縁だろう。因縁?運命といってもいい、良かったら君の歴史を聞かしてくれないか。歴史、生まれてからか、先祖からの歴史か。どちらかでも。今は話す気にならない。でわその気になったら聞かせてくれと坂本が立ち上がった。アンもつづいて立ち上がった。残されたヘンリーは窓の外に目を遣る。ここは日本の東京なのだ。
坂本はアンを部屋に案内するとキャッシュカードをを渡した。これは便利なものだ。使い方を教えるからまずIpadを買ったらいいだろう。秋葉原に行こう。ホテルのフロントで観光マップを手にいれ東京の概略を説明する。東京、上野、新宿を憶えておけば解りやすい都会だ。若い女が一人で歩いても安全だが裏通りは慣れてからだな。
秋葉原でIpadを買い与える。これが俺の番号だ。貴子の番号もとうろくしておこう。アンは外国人の多いのに驚く。日本製品を買い求めて世界中からやって来る。現金を引き出すにはこうする、ピンNOは人に知られないように。
万一カードをなくしたら銀行に電話して支払いを止めてもらう。3万円を窓口で両替する。両替はなんというのか。砕いて。クダイテ。そう、言ってみな。金種は、5千2枚、2千5枚、千円10枚ピン札で。かしこまりました。
まあきれい、Nippon Bankこの女は。樋口一葉小説家だ。この絵は。源氏物語。オウ、gennji。彼はドクター野口。この男は。福沢諭吉、慶応大学の創始者。政治家はいないの。1ドルが100円と換算すればいい。ドクターが10ドルか。そう、次に日本の物価を覚えるのだ。
原宿でジーインズを選ぶ。東京駅で新幹線の乗り方を教える。これでアンは東京通だ。後は自分で歩け、困ったら貴子にきけ。こんなにしてもらっていいのかしら。君のギャラだ、日本滞在費はそのカードで足りる。私一人で大丈夫、あなた忙しそう、自分の足で歩いてみる。
ああいうのは少し傷めつけたがいい。どの程度。爪を割る、指を折るのが手順だ。目立たぬようにやってくれ。俺の感ではああいうのに限って痛みに弱い。柴崎に付き合ってくれ。ああ。坂本と東郷は啓太を訪ねる。
偵察用トモカサの集めた情報です、選んでくれたたら編集します。これはすごい、と東郷が見入る。東郷さんなら安くしますよ。平和目的、悪用はやめてくれ。これは世界平和のためだろう、俺もこの家業から足を洗うつもりになっている。悪い、盗撮なんかは良くない。品の悪いことはしない。
で新婚の生活は。良い旅行をさせて頂きました。奥さんは。できたみたいです。早射ちマック。出会い頭だったのでしょう。ともかくおめでただ祝杯をあげよう。そんなこと言ってられないでしょ。啓太は冷静だ。東郷この画像解説してくれ。
奴はバチカン近くの教会の神父が表の顔だ。この教会だ。バチカンでは三番目の位置らしい。法王の次か、いや、二番目がいるな。そいつは判らないが実権は奴が握っている。実権を握る奴は表に出ないからな。でニューヨークにアジトを持つようだ、やはりアメリカは人種のるつぼ、目立たないのだろう。で奴と被告人らとは。ああ、年に数回会合している。裏は。アジトは教会の近くのビルだ。東郷はテナント契約のコピーを見せる。さすが。登記簿謄本なども頼む。これだ、こっちは保険契約。失礼しやした。柴崎さんこれを30分ぐらいにまとめてくれ。あいよ。田中、大平を築地に誘う。
坂本の携帯がなる。アンだ。腹減った握り寿司食いたい。わかった、築地の本願寺で待っていろ、半時間でそこにゆく。はい、待ってます。待てよ、何で日本語、坂本は電話を切って東郷にきく。外国語は日本人が考えるほど難しくはない、こういう場合どういうかとやればいいのだ。それはそうだな。へい、お待ち30分版2丁、旦那と東郷さん。いくらだ。いいですよ。ただほど高いものはない。でわ、寿司は旦那の奢り。よし手を打とう。
本願寺でアンを拾って行きつけの割烹へ。田中と大平は既に着ていた。アンは美味いと感激する。その食欲はすさまじい。歩き回って腹が減ったのであろう。アン、どうやって日本語おぼえた。そんなの簡単よ。鰻重食べたい。話したら注文してやる。イギリスからの学生がそんなの簡単と言ってた。どこで。原宿。これくれた。指差し会話英米編。
アン、今日日本に着いたばかり、すごいねえ。田中が驚いて見せるとそんなことないですと返した。すごいねとそんなことないです、これペアね。何がすごいかは分からなくてもそんあことないですと答えるよう教わったらしい。先ほど東郷さんが言ってたとおりだな、坂本がと言うと、大平が、言語は声だけではない、顔の表情、口の動きからも読み取っていますよねと話を引き取る。
その通りです、口の動きを真似ると現地人に近い発音が可能です。アンが大平を増幅させる。発音ができると聴きとるのが容易になります。さすがオックスフォード。いえ、そんなことないです。東郷さんもあんなふうにして。ああ、商売柄、英仏独伊、スペイン、ロシアは喋らなくてはならない。喋らなくてはならないのか、坂本は東郷に酒を注いでやる。東郷は貴子が言っていた以上の男だ。いえ、そんなことないです。これにはアンも一本取られたな。東郷は冗談を言わない男だ。
一本とは柔道ですか。一本勝ちの意味とセットポイントの意味があるが坂本さんがいったのは後のほうだ。では2本取り返すと。1ッポンアドバンテージアーン。田中がアンに手を上げる。鰻重も食べたい。それだけ食うて大丈夫か。だって美味しい。若いって素晴らしい。田中、肩入れするじゃないか。我青春を謳歌せん。うなぎ握ってもらったら。さすが新婚さん。坂本は注文しながら奥さんにも持って帰らないと家に入れてくれないぞ、と啓太に言った。大丈夫です、内のはそんな女ではありません。ご馳走様。
会話とは回話でもある。話が回るから盛り上がるのだ。アンの演技は完璧だった。東郷も話に加わるようになってきた。迫真の演技はありませんがこれは新しい情報ですと坂本が田中大平に言うとご所望なればと東郷。観たい。俺も俺もと。嫌だわ、アンは感がいい。著作権の問題があるかな。そこをなんとか大統領。うむ、近々に届けましょう。さすがデゥーク東郷。鰻がきた。これ鰻重。似たようなものだ。もっと大きいの。明日東郷さんが食わしてくれるだろう。ほんとうれしい。
その夜、アンは坂本を襲った。待て、話せば分かる。私から逃れられると思って、観念しなさい。なんでこうなるのだと坂本は思った。大柄の白人女にあがらえず犯されてしまった。貴子にも同じ事をされたの。ねえ、どっちが良かった。黙して語るべからず。眠り狂四郎だ。
坂本が夜中に空腹を覚えて目を覚ますとアンが笑っていた。ああ夜が怖い。お寿司食べる。しっかり食べて。それから。馬鹿ね。どうやら貴子の入れ知恵か。共有されている。贅沢言わないの、男冥利に尽きるではないか。それはそうだが。格好つけるな、二人をものした、祝杯ものだ。そうだな。そうだ。俺がそんなにもてるわけはない。それが男と女の間というもの。自問自答は果てしない。あるがままに。見る、感じる。そういうこと。 その後明け方まで坂本は再び犯されるが今度は攻勢に転じる。もうだめ赦してとアンが叫んだ気もしたが定かではない。
殺し屋の警備保障会社
殺し屋の警備保障会社
ああいうのは少し傷めつけたがいい。どの程度。爪を割る、指を折るのが手順だ。目立たぬようにやってくれ。俺の感ではああいうのに限って痛みに弱い。後日きいたところでは、ヘンリーは勃起した男根に輪ゴムをハメられ青くなったそうだ。排尿ができないと尿毒症を起こす。泣きを入れて輪ゴムをはずしてもらったが、その請求は300万ドル。
東郷はプロの殺し屋たちに警備会社の設立を提案した。警備会社といっても傭兵を派遣する大規模なものだ。面白い、俺は話に乗ると一人が言った。金儲けの殺しは後味が悪いが世界平和に貢献するなら義勇軍だ。ではこの金を資本金にしよう、お前が管理してくれ。わかった、条件がある。何だ。俺たちも後継者を育成しなくてはと思う。それはいい、賛成だ。ならお前が代表責任者になれ、全てを委せる。俺が?東郷が適任だ。そんなことはない、全員がお前を選んだ。そうかい。心配するな皆思いは同じだ、お前に従う。
責任重大だな。この会社の社員は一騎当千だ、そこらの軍隊など物の数でない。そうだ、我々はプロだ。世界の軍隊が我々にひれ伏す日が来るだろう。
何か新しいことをやるのは楽しいな。まったくだ。こうした機会を与えてくれた東郷に感謝する。なら夕食をご馳走しろ。
守るべき者がいるということが人生の意義だ。この坂本の理念は警備会社の基本理念となった。ゴルゴ13こと東郷は中東の紛争国の軍隊を乗っ取った。それなりの対価を払ったが、国民のための軍隊になろうとぶち上げた。これが利いた。給料の安定的支給と相俟って政府軍反政府軍を掌握した。両軍との交渉にはアンが同行した。リーダーの説得に貢献したのは言うまでもない。は武力を捥がれるとか弱い存在だ。
新政府は公平な選挙によって樹立された。大国の干渉はあったがメディアが世界中に樹立の過程を流したからすぐ手を引いた。復興資金調達は大平の功績が大きかった。世界中から援助を取り付けてくれた。資金運用は田中の手のものだ。治安の維持と一年足らずの急速な復興は世界を驚かしたが、もっとも驚いたのがその国民だ。
この度の革命は国民自らで維持して行かねばならないと教宣活動展開する。まず教育だ。学校の建設は最優先とされた。政治、企業、教育、産業の指導者が日本から招聘された。ボランティアである。だがその勤勉さ、誠実さは国民を動かし勇気づけた。尊敬が生まれる。
殺し屋たちの間でアンと東郷の仲が噂される、どうやってあんないい女をものにした。それは愛だ。愛とは。この女に殺されてもいいと思えることだ。
そんなものか。そんなものだ。セックスの時が最も無防備であることは殺し屋には常識である。俺にもそんな女と巡り会えるか。極めて難しいが可能性は無くはない。格好つけやがって。妬くな。東郷に負けないように頑張ろう。
そうだ、自助努力だ。
アドバイスはあるか。女の見極めだな。殺されてもいい女か。この話を聞いて坂本は愛欲理論に加えるべきだと思った。愛は移ろいやすい。だが変わらぬ愛も無くはない。稀ではあるが時と共に深まる愛もある。
警備会社は両親家族を失った子供が希望してきた。ほとんどが復讐心に燃えている。愛に飢えているのだな。アンはその言葉に涙した。東郷を見直した。自ら母親役を買って出ると同時に母親代わりになりそうな女を数人見つけてきた。彼女らは子供たちだけでなく社員にも好評であった。
これを機に女の雇用は警備会社の全部門に広まった。他人のために命を懸ける男に女は弱い。純愛が芽生える。そして結ばれる。紛争国では外人と結ばれることは稀なことであったが、会社にとってもいい方向に作用した。現地の生の情報は女によってもたらされる。
子供たちは復讐心より世の為人の為に働く喜びを知った。中には復讐心に燃える子供もいたが、いい殺し屋になるとの評価を得た。世の中一つの尺度では測りきれない。殺し屋の生い立ちは親の愛情を知らない孤児が多い。自分たちに重なるものがあろう。厳しいプロの訓練に子供たちはよく耐えた。厳しき中にも愛情を感じるのだ。プロたちも後継者の育成に喜びを感じる反面、殺し屋の厳しさを子供たちに味わいさせたくないとの感情もあった。
警備会社は国家の再建、新しい国づくりも担っているのだ。やがては自分たちが手を引く仕事ではあるが、それなりの満足感があった。殺し屋の過去は権力者、金持ちの使い捨ての道具に過ぎなかった。その卓越した技能は今や平和維持に貢献している。一匹狼の殺し屋をまとめたのは東郷であるが、陰に坂本の存在がある。一匹狼も共通の獲物を狙うときには群れになれる、坂本らしい言葉だ。彼らは話に聞くだけでなく坂本本人に会ってみたいと思った。また謎の飛行物体トモカサの製作者柴崎啓太にも。
偵察用トモカサ
柴崎に付き合ってくれ。ああ。坂本と東郷は啓太を訪ねる。偵察用トモカサの集めた情報です、選んでくれたたら編集します。これはすごい、と東郷が見入る。東郷さんなら安くしますよ。平和目的、悪用はやめてくれ。これは世界平和のためだろう、俺もこの家業から足を洗うつもりになっている。悪い、盗撮なんかは良くない。品の悪いことはしない。
で新婚の生活は。良い旅行をさせて頂きました。奥さんは。できたみたいです。早射ちマック。出会い頭だったのでしょう。ともかくおめでただ祝杯をあげよう。そんなこと言ってられないでしょ。啓太は冷静だ。東郷この画像解説してくれ。
奴はバチカン近くの教会の神父が表の顔だ。この教会だ。バチカンでは三番目の位置らしい。法王の次か、いや、二番目がいるな。そいつは判らないが実権は奴が握っている。実権を握る奴は表に出ないからな。でニューヨークにアジトを持つようだ、やはりアメリカは人種のるつぼ、目立たないのだろう。で奴と被告人らとは。ああ、年に数回会合している。裏は。アジトは教会の近くのビルだ。東郷はテナント契約のコピーを見せる。さすが。登記簿謄本なども頼む。これだ、こっちは保険契約。失礼しやした。柴崎さんこれをDVD30分ぐらいにまとめてくれ。あいよ。田中、大平を築地に誘う。
坂本の携帯がなる。アンだ。腹減った握り寿司食いたい。わかった、築地の本願寺で待っていろ、半時間でそこにゆく。はい、待ってます。待てよ、何でアンは日本語を、坂本は電話を切って東郷にきく。外国語は日本人が考えるほど難しくはない、言葉とはこういう場合どういうかとやればいいのだ。それはそうだな。
へい、お待ち30分版DVD2丁、旦那と東郷さん。いくらだ。いいですよ。ただほど高いものはない。では、寿司は旦那の奢り。よし手を打とう。
本願寺でアンを拾って行きつけの割烹へ。田中と大平は既に着ていた。アンは美味いと感激する。その食欲はすさまじい。歩き回って腹が減ったのであろう。アン、どうやって日本語おぼえた。そんなの簡単よ。鰻重食べたい。話したら注文してやる。イギリスからの学生がそんなの簡単と言ってた。どこで。原宿。これくれた。指差し会話英米編。
アン、今日日本に着いたばかり、すごいねえ。田中が驚いて見せるとアンはそんなことないですと返した。すごいねとそんなことないです、これペアね。何がすごいかは分からなくても「そんなあことないです」と答えるよう教わったらしい。先ほど東郷さんが言ってたとおりだな、坂本がと言うと、大平が、言語は声だけではない、顔の表情、口の動きからも読み取っていますよねと話を引き取る。
その通りです、口の動きを真似ると現地人に近い発音が可能です。アンが大平を増幅させる。発音ができると聴きとるのが容易になります。さすがオックスフォード。いえ、そんなことないです。東郷さんもあんなふうにして。ああ、商売柄、英仏独伊、スペイン、ロシアは喋らなくてはならない。喋らなくてはならないのか、坂本は東郷に酒を注いでやる。東郷は貴子が言っていた以上の男だ。いえ、そんなことないです。これにはアンも一本取られたな。東郷は冗談を言わない男だ。
一本とは柔道ですか。一本勝ちの意味とセットポイントの意味があるが坂本さんがいったのは後のほうだ。では2本取り返すと。1ッポンアドバンテージ、アーン。田中がアンの手を上げる。鰻重も食べたい。それだけ食うて大丈夫か。だって美味しい。若いって素晴らしい。田中、肩入れするじゃないか。我青春を謳歌せんだ。若い娘といると楽しいな。
うなぎ握ってもらったら。さすが新婚さん。坂本はうにの握りを注文しながら「奥さんにも持って帰らないと家に入れてくれないぞ」と啓太に言った。大丈夫です、内のはそんな女ではありません。ご馳走様。技ありだな。
会話とは回話でもある。話が回るから盛り上がるのだ。アンの演技は完璧だった。東郷も話に加わるようになってきた。迫真の演技はありませんがこれは新しい情報ですと坂本が田中大平に言うとご所望なればと東郷。観たい。俺も俺もと。嫌だわ、アンは感がいい。著作権の問題があるかな。そこをなんとか大統領。うむ、近々に届けましょう。さすがデゥーク東郷。鰻がきた。これ鰻重。似たようなものだ。もっと大きいの。明日東郷さんが食わしてくれるだろう。ほんとうれしい。
その夜、アンは坂本を襲った。待て、話せば分かる。私から逃れられると思って、観念しなさい。大柄の白人女には肉体的に抗らえず犯されてしまった。なんでこうなるのだと坂本は思った。貴子にも同じ事をされたの。ねえ、どっちが良かった。黙して語るべからず、眠り狂四郎だ。
男の情欲は視覚によるところが大きいが女はどうか。受胎願望、征服でアンの行動を説明できない。無性に女が欲しくなることがあるがあれか、女だって男が欲しくなることがあると声がしたが誰の声かはわからなかった。愛欲の世界は奥が深い、西田所長の愛欲理論はどうか、彼の理論越えなければならん。
坂本が夜中に空腹を覚えて目を覚ますとアンが笑っていた。ああ夜が怖い。
お寿司食べる。しっかり食べて。それから。馬鹿ね。どうやら貴子の入れ知恵か。共有されている。贅沢言わないの、男冥利に尽きるではないか。それはそうだが。格好つけるな、二人をものした、祝杯ものだ。そうだな。そうだ。俺がそんなにもてるわけはない。それが男と女の間というもの。自答は果てしない。あるがままに。見る、感じる。そういうこと。
その後明け方まで坂本は再び犯されるのだが防戦一方ではなかった。機を見ては攻勢に転じる。守も攻めるも黒金の玉散る刃を受けよかし。もうだめ赦してとアンが叫んだ気もしたが定かではない。発情した女は人種国籍を問わず可愛いが、このたびは大型レスラーに組み伏せられた感は否めない。
黒幕起訴
黒幕の公判をどうするか、これをどう利用するか、坂本は田中と大平と検討していた。白井さんとアンの意見も参考になるのでないか、田中は二人の女が気に入っている。大平も田中と競っているようだ。それはそうだが我々が原案をつくってからだろう。まあな。求刑死刑、判決死刑執行猶予50年財産没収は決まっている。どう執行するか、どう演出するか、の議論だ。
新東京裁判を開廷しメディアに公開する、自白は東郷に任せよう。執行猶予期間の扱いは。大平が言うように巡礼させるか、農村改造―農家に弟子入りさせ改悛させるのも面白い。議論は盛り上がったが今一迫力にかける、何かうならせるものが欲しい。ヘンリーが黒幕との確証も欲しいが今はそう思うしかあるまい。坂本の思いは田中、大平にも伝わった。東郷、貴子、アンも察していることであろう。
坂本はヘンリーの写真を山田清美に送った。折り返し「この男の眼は闇を見つめています。白日のことは見えないのでしょう」と返信してきた。さすが日輪の娘、天照大御神の末裔だ。
被告人ヘンリーウイリアムの裁判が始まった。罪状認否、起訴状の朗読、弁護側の反論は13人の被告のときとほとんど同じであった。被告人本人尋問に立った元東京高検検事正の首席検事は「被告人が人類を憎む理由はなんですか」といきなり切り出した。法廷がどよめく。弁護側も裁判官も顔を見合わす。ややあって「検察官は何を立証しようとしているのですか」と裁判官が質問とする。「起訴状の事実全てです」と検察官が答える。「弁護側は」と裁判官、「しかるべく」と弁護側も苦笑する。
証人尋問は個々の具体的事実について行われるのだが検察官はいきなり動機を問うたのだ。素人じゃあるまいしと裁判官も弁護側も苦笑した。しかしまず動機が明らかになれば事実の解明、理解は容易である。動機は裁判の当事者が一番知りたいところである。この検察官は老獪といえば老獪である。
尋問 被告人はすべての人類を憎んでいるのですか。
答 すべてではない。
尋問 その割合は。
答 我々同朋は互いに愛す、仇なす者を憎む、それ以外は無関心。
割合は、考えたこともないが1、3、6ぐらいであろう。
尋問 すると1割の同胞とはどういう人たちですかな。
答 我らが神に愛される人間だ。
尋問 どのような神ですか。
答 神を語ることは許されない。
尋問 ではあなた方に仇なす者とは。
答 我々の先祖を辱めた者どもだ。
尋問 それが3割、すると残り6割は。
答 10引く4は6だ。
尋問 なるほど、6割は無関係。
答 そうだ。
尋問 起訴状の事実に依れば無関係の人間も巻き添えを食っているようだが。
答 田畑の草刈りをするとき作物以外の草を選別するかな。
尋問 しませんな、じゃが、人を殺めることは復讐になりますかな。
答 それ程の満足感はないが、我々の先祖を辱めた者どもはそれなりの
償いをせねばならない。
尋問 目には目を歯には歯をもって償わなければならない?
答 そうだ。死には死だ。
尋問 私は生きとし生けるものを殺生してはならないと教えられてきたが。
答 仏教徒なかんずく日本人はそのように考えると聞いている。
自分が生きるために他を殺すのは当然のことである。人を殺すことに抵抗があるのは最初だけだ。
尋問 満足感はなくとも殺さないと気が済まない?
答 そういうことだ。
尋問 人を殺すのも二人目からはどうということもないのですかな。
答 貴方は人を殺したことがないようだが幸せな人間だ。貴方だけでなく日本民族もだ。地上から消え去った民族と現存する民族とはどちらが
多いか考えたことがおありかな。
尋問 幸い私は人を殺めた事がない。民族が生き延びるには他民族を
滅ぼすことは自然の摂理とお考えかな。
答 それ以外に方法があろうか。すでに滅び去った民族は現存する民族の数倍 だ。他人を、他民族を殺すことなく生きている民族はおめでたい。
ミクロネシアの島国ならともかく、国家が他民族を支配しようとするのは当た
り前であろう。
尋問 では次に儲けた金の使い道を教えていただきたい。
答 それは答えられない。
尋問 買いたいものがあるから金を稼ぐのでは。
答 貧乏人の発想だ。
尋問 あなたたちが荒稼ぎした金は1京ドルを超えるとみていますがどこに
保管していますか。
答 世界中のしかるべきところだ。
尋問 米ドルの他には。
答 証券、貴金属が主だ。
尋問 日本ではどれくらい稼ぎましたか。
答 それなりに。
尋問 その分の確定申告はしていますか。
答 我々は日本に限らず申告はしない。
尋問 それは脱税ですから東京国税局が査察するでしょう。
答 心配ご無用。日本国政府は我々の配下にある。
尋問 それはそれは。では配下にない政府は。
答 未開地、イスラムのいくつか。
尋問 10か国以上ですか。
答 ご想像に任せる。あと数十年で全世界が我々にひれ伏す。
尋問 私は齢80を超えているがそれを見るまでは死ねませんな。
実現の可能性は。
答 期待していただいて結構、あなたを祝賀式に招待しましょう。
尋問 それは光栄ですな、少し疲れましたので私の尋問を終わります。
面白い話を聞かせていただき感謝します。
弁護側の反対尋問にいる前にサラが関連質問に立つ。
尋問 今あなた方の先祖を辱めた者どもとはイスラエルの民ですか。
答 そうだ。
尋問 あなた方の先祖はカナンを初めとする11の部族のいずれかですか。
答 そうだ。
尋問 イスラエルの民に11の部族を滅ぼすように命じた神と
あなた方の神とは同じですか。
答 神について語ることは許されない。
尋問 あなた方の神は何と呼ばれていますか。
答 偉大なる神だ。
尋問 ヤーエではありませんか。
答 無言。
尋問 ではエホバですか。
答 無言。
訊問 ではイスラエルの民に11の部族を滅ぼすように命じた神と
あなた方の神とは同じと考えていいですか。
答 無言。
訊問 答がないようですので尋問を終わります。
裁判官 弁護側反対尋問をどうぞ。
弁護側 ありません。
続いて長嶋重雄が尋問する。
訊問 人間とは人と人との間、つまり人は一人では生きられないのでは ないでしょ うか。今を去る数万年前アフリカでは多くの人たちが猛獣の餌 食 になっ た。そこで人々は共同で猛獣に立ち向かったのでしょう。
助け合うから人間でないでしょうか。同じ人の類でありながら他人を殺すの は畜生であって人間ではありません。人でなしです。
答 この地上に住めるのは1.5億ぐらいだ。それまでは助け合ってゆく。
人類は増えすぎたのでないかな。ネズミは集団自殺をする。
訊問 集団自殺は誰が命じるのですか。
答 我々だ。
訊問 それは不遜でないでしょうか。天は人の上に人をつくらず、
人は生まれながらにして平等でないでしょうか。
答 支配する者と支配される者がいる。
訊問 それは何で決まるのですか。
答 神に選ばれた者がそうでない者を支配するのだ。
訊問 その神は依怙贔屓をするのですか。
答 神に選ばれなかった者たちは存在する価値がないのだ。
訊問 どのような基準で選別するのですか。
答 神の御心だ。
訊問 じゃあ客観的でない、気まぐれなんだ、選別結果は運不運。
答 無言。
訊問 日本民族はどうですか。
答 一番御し難いと思ったがここ数十年の経過を見ると素直なことが
わかったので5000万人ぐらいは残してもいいと考えている。
訊問 数十年の経過はどうでしたか。
答 国のため、人のために死んでゆく民族は少ない。我々はこの点を
研究したが、その原因は家族制度にあると判断した。家族、一族、
地縁、地方、国と社会が拡大してゆく。されば家の制度を破壊すれば
この民族は弱体化する。
訊問 憲法第24条ですね、婚姻は両性の合意にのみ基づく。
答 個人主義を普及させると権利意識が強くなる。この民族の控え目で
他を思いやる文化を破壊すればいいのだ。
訊問 つまりですね、この民族の長所を削いでゆくということでしょうか。
答 そのとおり。日本兵は世界一と聞いている。国のため家族のためには
死をも恐れない、家、国の概念を希薄にしてゆけばいいのだ。さらに
言えば過去を簡単に捨て去る特質を助長すればいい。
訊問 過去を悪いものだったと思い込ませる。
答 そうだ、歴史を勉強させないようにすれば簡単だ。
訊問 なかなかの博識ですね。日本国政府はどうですか。
答 優秀だ。我々の意向に沿った政治をしている。
訊問 国民は、いや技術は一流、政治は三流ということでしょうか。
答 そういう質問には答えられない。
長嶋検察官の訊問というか質疑応答に続いて英国歴史家が尋問する。
訊問 オレンジ公ことウイリアムについてお尋ねします。
彼はどのようにして英王室を乗っ取りましたか。
答 乗っ取りとは人聞きが悪いが、イングランド王にUKの王に
してやると持ち掛けたら乗ってきた。
これは貸付ですから理解できますが、イングランド銀行が銀行券を
印刷して王室に貸し付ける、その担保に国債を取る、この錬金術を
解説していただきたい。
答 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland、
つまりイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの長に
なれる となれば飛びついてきた。権力には目がくらむのだろう。
訊問 印刷物が通貨になり利息を生むカラクリが知りたいのですが。
答 通貨発行権を中央銀行たるイングランド銀行に与えた当然の結果だ。
訊問 当時は金本位制だったでしょう。
答 金と言っても見せ金だ。銀行で保管するほうが安全だ。なるべく引出さな
いように持っていけば法定通貨つまり印刷物で十分になる。
訊問 兌換紙幣から法定紙幣に持ってゆくわけですね。そこを詳しく。
答 欲に目がくらむと後先を考えないのはどこも同じだ。
マゼランがセブ島を支配する時、部族の酋長に島の王にしてやると
持ち掛けたらキリスト教に改宗した。
訊問 なるほど、王になれば莫大な富を得ることができる、借金は税収で
支払えばいいということですか。
答 国や国民のことを考える君主などいない、
例外が日本の天皇、ブータンの国王と聞いている。
訊問 よくわかります。近代民主主義はフランス革命に始まると思いますか。
答 国王の財産を市民が分配するとことが民主主義ならそう言えるだろう。
訊問 それが民主主権となるとどうですかな。
答 その国家が我々の意のままに動いてくれれば体制には拘らない。
訊問 民主主義は共産主義につながるでしょう。
答 民主主義は衆愚政治である。民衆が利口にならない限り心配はない。
訊問 現時点では米国つまり連邦準備制度を抑えておけば十分と。
答 そうだ。
訊問 次に核兵器についてお尋ねします。最近核廃絶に方向を変えたのは。
答 核の破壊力が想像以上に大きかったのと、
保有国の支配が難しくなるからだ。
訊問 原爆投下は米兵の犠牲を少なくさせるためと説明されているが、
核実験は核の威力を試すものか。
答 それもあるが環境への影響もある。
人口調整には精子の減退が安上がりだ。中国の産児制限は限界があるよ うだから別の方法を検討している。日本では家族制度の崩壊、
男の中性化、セックスレスに成功したと報告を受けている。
訊問 米国民は米兵の犠牲を少なくするためとの幼稚な説明を信じるのか。
答 米国民には説明がわかりやすいのがいい。検察官は英国出身かな。
尋問 なるほど見識だ、米国民を単純な思考をするように洗脳したのか、
あるいは教育効果か。
答 そういうことだ。
訊問 明快な答えだ。次の質問だが拡散防止は難しいのではないか。
答 保有国の人口を減少さればいい。
訊問 男の中性化、無精化ですかな、
答 そう、有効な方法だ。折を見て強力な方法をとるかも検討している。
訊問 その方法は、答えられないでしょうな。
答 そのうちわかるだろう。
訊問 最終的人口は。
答 先ほど1.5億と言ったが現状からして10億にして様子をみることに
なるだろう。日本では20年後には0.5億になるだろう。
訊問 核兵器は人口抑制の手段として開発された。
答 そう、我々の世界連邦は10億位を想定している。進捗状況は良くないから
強行手段も選択肢に入れるよう指示した。
訊問 人口は等比級数的に増加するから重要な問題と認識しているが、
あなた方に決定権があるとは思えない。
全人類で協議して決めることでは ないかな。
答 人類にも生存する価値がある者とそうでない者とがある。
訊問 先ほどの長嶋検察官の尋問にもあったが、決定権の根拠を
示してもらいたい。神の意思では答にならない。
答 神について語ることは許されない。
訊問 被告人は質問に答えようとしない。法廷侮辱だ。尋問を終わります。
裁判官 弁護側反対尋問をどうぞ。
弁護人 被告人は神について語りたくないのでしょうな。
ほかの点ではまっとうな答弁であったと思います。ここで被告人の
思うところを語っていただくのも向学のためになると思われます。
裁判官 被告人、思うところを自由に述べてください。
被告人 自由に述べろと言われるとかえって話辛いが、好意に応えよう。
辱めを受けた者はこれを忘れない。辱めた者を許すことはできない。
そもそも諍いは食糧不足から生じる。食糧不足は人口増から生じる。
故に人口を調整しなくてはならない。
裁判官 被告人顔色が悪いようですが大丈夫ですか。
被告人 ええ、少し寒気と吐き気がしますので。できれば次の機会に
詳しく述べたいと思います。
裁判官 検察、弁護人いいですか。では、次回に。これにて閉廷と致します。
体内爆薬
ヘンリーウイリアムは法廷から帰るとすぐホテルのベッドに横たわった。
日本に連行される前に暴行を受けたことがあった。数人のアジア系外国人に
殴るけるの暴行を受けた際、「お前の体内には強力な爆薬が埋め込まれた。
我々はこれを何時でも爆発させることができる」と告げられたのだ。
さらに騒音で気が狂いそうになった。低音は振動を伴うものだ。耳から頭の芯まで響いてくる。長時間の振動騒音は拷問である。表向きは聖職者である彼も静寂と瞑想を好む。
その恐感が法廷で突然彼をおそってきた。坐骨に縫合手術の跡がある。彼
は半信半疑ながら死の恐怖を初めて味わったのだ。異民族を虫けらのように殺戮してきた男も我が身となると話は別らしい。加えて家族、愛人、その子供の映像を見せられて顔が引きつる。宙に浮く風船を持ったわが子が何時でも爆殺されると通告されたのだ。被告人Aと同じ手口だ。恐怖は肉体的痛みと精神的痛みの両方から生じる。それらの強さによっていずれかを感じる個人差があるが彼は強靭な精神を持っているから肉体的痛みをより感じたのであろうか。
判決まで半年はある。カナンはヘンリーウイリアムを伴って四国巡礼にでる。カナンは三度目の巡礼で遍路姿も板についてきた。かつて山田常男が先達してくれたように今は自分が先達となって四国路を歩く。二人はほとんど口を利かなかった。カナンはヘンリーが最初の巡礼の自分と重なる。今の自分は山田常男に重なる。
二人は東京を発って箱根、熱海、伊勢、熊野と旅をして四国やって来たのだ。どこへ行くとヘンリー。日本各地。何のために。この民族を知るため。知ってどうなる。己を知ることになる。これが二人の会話らしい会話であった。行程はほとんどが徒歩であった。
ヘンリーにはただ歩くだけの巡礼の旅はたいくつであった。求道者のようなカナンに話しかけることが憚られる。聞きとめた言葉をスマートフォンで検索する。日本の自然は美しい。しかしアルプスの風景も美しいからさほど心を捉えなかった。日本人の文化、人生観に興味を持つようになってゆく。西洋文明を受け入れながらも日本文化はかっちり守っている。日本人の多くが仏教徒と聞いているが仏教文明ではない。この島国は他の文明、文化に影響されない独自なものではないか。
他者は、人間であれ自然であれ自己に敵対する者である、しかしこの民族は共存を最高と考えるのか。自問自答を続けていると巡礼の旅も退屈ではなくなってきた。阿波路から土佐路に入ると徒歩の旅が堪える。太平洋の大海原が広がる。平地の路でも砂利路だ。こうして巡礼者の身体がつくられてゆく。身体が変わってくると心も変わってくる。ヘンリーはゆったりした気分になる自分を感じていた。
彼の先祖が無視され蔑まれる屈辱が彼とその一族は他人、他民族への憎悪となり復讐心を滾らせてきたのだが、かつて経験したことのないこの気分は何だとヘンリーは思う。
伊予路は修行の路だ。険しい路を喘ぎながら登るとき思考は停止する。次の休憩地にたどり着くことだけを考える。他のことを考える余裕はない。無念無想とは一つのことを考え詰めることであろう。何も考えないことは凡人には不可能である。一点に集中することで他のことが意識から消えてゆくのかもしれない。
ヘンリーは石鎚山脈から平地に下りると人間世界に戻った気になった。そして地図を見つめて広島に行きたいとカナンに言った。カナンが広島行きの バスを探していると初老の夫婦が自家用車に乗せてくれた。どうして我々を乗せるのだとヘンリーはカナンに尋ねる。彼らも巡礼から故郷の広島に帰るところだから同乗を勧めたのだ。ふーん。巡礼者というだけで連帯感を持つ民族のようですね、このような無償の接待は仏の功徳を得ることになるとの信仰心もあるでしょうが、詳しいことはわかりません。そうカナンは言いながらもごく自然に同乗する。
瀬戸の海はエーゲ海を思い起こさせるがより優しく柔らかいとヘンリーは思った。この民族の優しいのはこの自然が育むのか。広島はどちらへ。夫人が聞く。原爆ドームに。じゃあ、近くまでご一緒に行きましょう。恐れ入りますとカナンが礼を言う。二人が車を降りるとお気をつけてと夫婦が手を振る。お世話になりましたとカナンが頭を下げる。
ドーム近くの惨状写真を見てヘンリーは思った。日本人は原爆を投下したアメリカを何故恨まないのだ。ヘンリーには理解できない。敗者への思いやりなど世界の常識にはない。やはり独特の文化文明をもった民族なのだ、この民族は。目には目を歯には歯をもって償わなければそうさせてやる、といった復讐の精神はないのか。
あんたどちらからきんさった、と老婆が声をかけてきた。愛媛から。お国は。米国です。お連れさんは。バチカン市国です。なんや坊さんの感じやな。そんなものです。原爆は人類に対する罪じゃ、罰が当たって地獄に落ちる。ナチスも日本も原爆を開発していたでしょう、とヘンリーが切り返す。使うたかどうかじゃ。老婆の迫力にたじろぐ。
木原さん、いぬるよ。介護士らしき男が近づいてくる。こん人たちと話しよたんよ。それはどうもと挨拶する若者。この民族は見知らぬ外国人に気安く声を掛ける。えらい熱心に写真看よった。関心がおありなんだ、携帯電話お持ちですか、Youtube 見てください。カナンが若者に携帯を差し出す。この合唱、僕も歌っています、これです。木原孝一作詞、清水脩作曲の男声合唱曲「黙示」だ。極東の島国でこのような曲が書かれ歌われるのか、ヘンリーは世界観が変わる気がした。
繰り返しません、過ちをとはなんだ。被爆は彼らの過失なのか。わからない、測り知れない民族だ。人々は恨みつらみを言わない、静かに平和を祈るだけだ。原爆投下がソ連の南下を牽制するためであったことを知らないのか。
核兵器は人類を間引くのに有効な道具だが自然環境をも破壊するので、彼はその使用を禁じた。他民族を滅亡させ我が民族だけがこの地球に住むことが最終目的である。彼はふとある話を思いだした。
ある懇談中日本の家族が話題になった。ヘンリーの注意を引いたのは次の。二点であった。一つは日本担当が鴎外の作品を照会したものだ。なに、娘が父の身代わりになるのか、と叫んでしまった。子は親故に罰せられないとの教義に反する。故に腹立たしい。許せない。妻も子も夫の所有物である。子の為親の為自分の命を差し出すなどあるまじき。神風特攻隊もその延長線かなと米国担当。考えられますね。
もう一つは累の話だ。当時、処罰は一族に累が及びました。そんな馬鹿な加えて五人組、つまり向こう三軒両隣の近所の住民も合わせて処刑されました。なんと恐ろしい支配だ。かの秦の始皇帝でも九親等までであったと中国担当が口を挟む。この制度は一八世紀初頭に確立し150年以上を定着していました。当時のGovernor は徳川家であったな。ええ、この国治安の良さは世界一でしょう。だろうな、だが民は汲々としていたであろう。いえ、この民族は秩序を重んじますからかような制度も民に受け入れられたと思われます。家族の絆がこの民族の強さかな。御意。なるほど、それで君はこの国の家族制度を壊して個人主義に持ってゆくのだな。ご賢察のとおりです。
カナンはヘンリーの思いを知ってか知らずか、遍路の旅に戻る。善通寺の善通とは弘法大師の父の名前です。以前のヘンリーならそんなことはどうでも良いと撥ね付けていたであろう。独伊は敵であるが人間である、日は敵であり非人間であるとのプロパダガンダも虚しく聞こえる。この民族は理解し難い。人を殺すことをためらうのはなぜだ。生き物を愛おしむのはなぜだ。
処刑といえども人を殺すことを憎む。残虐な行為は 逆効果になることが多いと聞いたことがある。敗者に対する思いやりは奇妙である。異教徒の敵兵を手厚く葬るなど理解の限界を超える。ローマの剣闘士は倒れた相手に とどめを刺す。首狩り族は敵の首を腰にぶら下げる。戦果の誇示である。これが世界の主流である。自問自答はつづく。
白人女の価値観 椰子の実落ちる
白人女の価値観
田中の家では大平、坂本、東郷、アンが二人の足取りを追っていた。携帯から発する僅かな電波で位置がわかる。時代も進んだものだ、この旅でヘンリーも変わるだろうと田中が口を開く。これは俺の提案だ、と大平がむきになる。そうだったな。全員が笑い声をあげる。
「この男の眼は闇を見つめています。白日のことは見えないのでしょう」と山田清美の言葉を伝えると大平が感心したように言った。闇を見つめるか、山田さんの眼は清らかで澄んでいる。だからさヘンリーには旅をさせて日の光を浴びさせればいいれるいいんだ。いえるな。ああいう娘を愛人にできたら幸せだな。田中は白井さんがお気に入りでなかったか。菖蒲も良し杜若も良しだ。
アンは大平の居候をして東郷を連れ歩いている。坂本が東郷に押し付けた感じだ。明日フィリピンに帰りますと坂本が言った。アンの面倒を見てくれとの通告である。東郷が黙って肯く。既に義兄弟の中である。その夜はアンにホテルで組み伏せられて坂本は喘いだ。勘弁してくれ、身が持たないと叫びそうになった。
あくる日、アンと東郷が成田まで送ってくれた。エゲレス女はすごいなあ。東郷はにやにや笑う。搭乗ゲートに向かう坂本は強烈なアンの接吻を浴びせられる。身から出た錆か。後はよろしくと東條に目で訴える。搭乗も目で答える。三角関係はしっくりと行っている。何のわだかまりもない。同時に二人の男を愛しても気にしないのが白人女か。純粋にセックスを享楽しているのか。そのことに戸惑いはない。価値観の相違といってしまえばそれまでである。文化の相違かも。純粋ということは概していいことだ。
JALがマニラに到着するとユキが出迎えてくれる。やはりこの女といると落ち着く。何が欲しい。果物ジュース。セールどこへ行くか。運転手のセヴァスチャンがドアを開ける。SM,果物ジュース。OKサー。SMは日本のスーパーとデパートとのアイの子だ。マンゴー最高だな。塩崎のお母さんが食事作ってくれるって、今晩は全員集合。全員。陳一家、カルロス家、山田家の全員。久しぶりだなあ。
一風呂浴びて疲れをとると坂本は裸でまどろんだ。ユキがブコジュースを運んできた。椰子の実はココナツより若いのはブコと呼ばれるが違いはわからない。女が強壮効果あるとこれを男に飲ますのはそれなりの意図がある。お前ジュース出ているか。え、何、スケベ、早すぎるわ。どれどれ看てやろう。だめよ。濡れてるじゃないか。髪が濡れてるのよ。洗い髪は色気がある。ユキを引き寄せると覆いかぶさってくる。何笑っているの。好きにして。それって女のセリフよ。お前が一番美味い。本当。世界一。嬉しい。
真知子から電話だ。皆さんお揃いよ。すぐ行きます、お母さん。もうだめ許して。何言ってんの、パーティ始まるわよ、さあ支度して。シャワーで汗を流しながら激戦の跡を見やる。満足か。満足、疲れた。さもありなむ。
塩崎家に全員集合だ。坂本さん、お帰りなさい、さあ乾杯しましょ、柳さん。僭越ながらご指名によりまして、坂本さんの帰国祝いと皆様のご健闘を祈念して、乾杯!カンパーイ。お母さんの料理美味しい、でも何を健闘するの。互いに全力を出し切り健闘を讃え合う、和合の心じゃござらんか、のう塩崎殿。
山田さん、私に訊かないでください、で、ユキさん終わったの。終わりました。何が終わったのかしら、細君。そりゃあれでしょう、アンジェりータ。でしょうね。坂本さん少しやせましたね。そりゃ日本の女は情が細かい。カルロス、あなた経験したの。いや、そう聞いている。アンジェリータの訊問にたじろぐ。
陳さん、あなたは。いや、右に同じ。国際交流なさらなかった。未だ。なさってないのですね(細君さん、それぐらいで許してあげては)(そうですね、清美さん)くくくと三人の女が笑う。三人だけのテレパシーだ。
あの痩せ方は白人女に犯されたのでしょうな、柳さん。その可能性が高いでしょうな、山田殿。坂本さんは女難の相があればなり。げに。そのような難儀なら遭ってみたいよ。俺もだ、陳。各々方、夜ごと白人女に抑え込まれると恐怖でござるよ。フォウル負けか。それはひどいぞカルロス。わるい、わるい。今度男連合軍で世界各地に研修に出ますか。それは何より、柳さんを団長に。異議なし。企画立案はカルロス適任ある。賛成、適任。
一方、女連盟も負けていないようだ。これにシャラザード、白井貴子、アンヘンリーが加わるとどうなるであろうか。父よ、泳ぎを観てください。おお、南海男上手くなったか。はい、少しは。南海男の泳ぎはみごとであった。拍手と歓声。子供たちが南海男に続く。見よう見まねで水を切る。龍治の嬉しそうな顔。彼は私たちの男である前に子供たちの父親ですね。
ママ、その前に私の夫よ、とマリアが語気を強める。そうだったわね。梅雲が笑う。あなた達ももっと子供を生みなさい。はい、媽媽。清美お前も頑張るのだよとイメルダ。そうすると坂本さんの食事が大切ですわね。お母さんスケベ。なんですかユキさん、大切なことでしょ。すみません。そうね、滋養栄養のあるレシピをみんなで考えましょう。
椰子の実落ちる
謎の飛行物体は増産につぐ増産で兵器の廃絶への功を奏しているが未だ道半ばである。人を憎み合うように持ってゆく闇の権力者たちを無力化すれば紛争はなくなると坂本は信じている。そう信じて今日までやって来た。しかし近頃疲れる。60後半になると身体機能が急激に衰える。
ユキはそうした坂本の気持ちを敏感に感じ取る。ディー若者並ね。お前のポッキーがいいからだ。それ程でもないけどディートのセックスは幸せよ。光栄だな。他の女とやってもいいけど程々にね。やってない、やるのはお前だけだ。ならいいけど。お前ほどいい女はいない。本当。女ざかりのユキに初老の男はすまなく思うことがある。労わられるようになると年を感じる。
南洋の島で数奇な運命を辿る自分に不思議な感慨を坂本は抱いた。晩年のゴーギャンの心境がわかる気がした。年をとって成した子は可愛い。その母親はいい女ばかりである。これほどの幸せがあろうか。この平穏な時間を大切にしたい。闇の権力者ヘンリーウイリアムの裁判が気になるが東京に出向く気にならない。
許細君、龍治ギラギラが無くなったわね。貴女もそう思う、アンゼリータ。マリアと寝室をともにすることが減ったわ。梅雲も同じよ。清美にも相談しようか。彼女は身重よ、ここは私に任せて。どうするの。それは秘密。
許細君と梅雲は坂本に秘薬を飲ませ、食事療法に乗り出す。医食同源と新鮮な野菜、肉を食させる。4千年伝統を持つ気功按摩を施す。意が氣を領びき氣が形を領びく太極拳を坂本に勧める。坂本には十年の心得はあったが許細君に気圧される。格の違いだ。小柄な梅雲にも軽くあしらわれる。
数年前にはモロイスレム戦線の兵士に太極拳を教えたことを思い出して坂本は奮起する。母娘の意は氣を領びき氣が形を領びく。その氣が坂本を元気づける。元気とは元の氣すなわち生まれ持った氣だ。病気とは氣を病むことだ。
八段錦、24式だけで生気が漲ってくる。そんな坂本に親子は微笑む。老いとは肉体的精神的鍛えが少ないからだ、反射神経は鈍くなるのは致し方ないが筋肉と精神は日々の鍛え方だ。太極拳気功師の指導を受ける。いずれも大家だが気持ちを和ますものがある。氣には内気と外気が内気を鍛えることから始めましょう。坂本は数週間で見違えるようになった。
アンジェリータ、私の料理試食してみますか。それは是非。細君はカルロスと陳がマニラに出かけた日の夕食にアンジェリータとマリアを招いた。折よくユキも清美も不在だ。(まあ美味しいですわ、それにその気になってきますわ。良かったですわ、貴女に試食していただいて。この酒には媚薬が。いえ本来的に含まれているのでしょう。)
坂本は黙々と食事と酒を堪能した。その顔は満足仕切っている。突然マリアが部屋に戻ると席を立った。すぐヴァイオリンの音が聞こえてきた。気になる一節を繰り返しているのだろう。坂本は黙って席を立つ。マリアの部屋に入るなりパンティーを脱がす。つづけろ俺が伴奏してやる。
まあ。え、まさかあれ。間違いないですわ。媽媽、横笛吹いてもいいかしら。いいわよ。梅雲はヴァイオリンが止むのを待って静かに歌口を中てる。程なく坂本がやってきて梅雲の伴奏を始める。つづけて梅雲も。みたいですわ。すごい。私たちはお茶にしましょうか。ええ、でも恥ずかしくて私顔が赤くなりますわ。いいじゃないですか、貴女も明け方にはピアノを御弾きになりますか。いやですわ細君。なら私は琵琶を弾きますわ。それは、、。
翌日紅茶を飲む二人。どうでしたか、遅めのメインディッシュ。最高。ようございました。魂が天空に駆け上って肉体は天上に浮かぶのでございますよ。それは、それは、貴女も達人の境地に立たれたのですよ。でしょうか。
ママ、ちょっとピアノで伴奏して、マリアが叫ぶ。私の伴奏でいいのかしら。まあ。媽媽琴の合いの手いれてくださいな。いいわよ、私の梅雲。坂本は昼寝から目を覚ます。音楽は人を幸福にする。ある旋律が浮かんできた。
坂本はそれをマリアのヴァイオリンで奏でる。ピアノがついてゆく。3拍子4拍子5拍子と激しくリズムが変化する。リュウジ素晴らしい音楽だわ。何というのかしら。そうだな、南方の風かな。私に弾かせて。梅雲が琵琶を許細君が筝を持ってきた。
ホールに場所を変える。四重奏が始まる。5拍子は2と3、もっと固く、坂本の指示が飛ぶ。次の4拍子は狂暴な嵐だ。嵐が去って序奏が再現される。梅雲、琵琶を笛に持ち替えてくれ。曲が終わると拍手が起こった。素晴らしい指揮だわ。
作曲の考えを言っただけだ。これ程の奏者に指揮など要るか。作曲者の意図以上の演奏だ、天上の音楽だ。では頭から通してみましょうか。待ってくれ録画するから。開演の時間となりました、みなさまお席に御着き下さい。坂本がアナウンスしながらヴィデオをセットする。
何時しか塩崎家族、近所の人もやって来ていた。ヴァイオリンのやや悲しげな3拍子の序奏から4拍子へ、突然激しい5拍子と4拍子、そして3拍子が再現されて曲が終わる。しばらくして拍手と歓声が起こる。作曲者の坂本も前に引き出される。
この曲は南洋的だが東洋的でもある、西洋的なところもあるが、そうだな赤道海流の音楽だ。いつの間にかカルロスの講釈が始まる。それ言えてるな、赤道海流は北上して黒潮と名を変えるあるよ、やがて南下して再び赤道を巡るあると陳がつづく。ママ、今度の音楽会に取り上げたい。そうねマリア、譜面を起こしておきましょ、著作権があるから。
マリアは音楽ソフトを使って譜面を起こす。驚く速さだ。この曲私にくれるかしら龍治。だめだ、この曲は年月日にバギオで作曲されヴァイオリン;マリア、ピアノ;アンジェリータ、琵琶及び笛;陳梅雲、筝;許細君によって同日初演された。と入れろ。わかったわ、その下に作曲者のサインして。
楽の後には苦がある。楽しきことは短くて苦しきことも多かりき。坂本はユキの訊問と執拗な攻勢を受ける。守勢の坂本の息子は鍛錬の功あってユキを何度も失神させる。その時坂本は大きな椰子の実が落る音を聞いた。お母さん大丈夫、南海男が心配する。お父さん死んだの。それは夢か現か、坂本の意識が遠のいてゆく。
ユキは慌てて坂本を揺する。南海男、陳さん呼んできて。南海男が飛び出すとユキは衣服を身に着け坂本をみつめる。その顔はうっすらと笑みを湛えているが息はしていない。脈もない。坂本の体を拭いてパンツをはかす。
坂本が死んだと聞いて陳家族が駆けつける。塩崎家族もやってくる。これ腹情死ある。腹上死でしょ。ユキさん、程々にしないと。それよりお母さんリュウジを助けて。陳さん活をいれてください。承知。
許細君がみぞおちを一突き。梅雲が背後から気を入れる。もう何も出ないと坂本が息を吹き返す。あなたとユキが抱き着く。ユキさんの罪状明白ある。事故ですよ、ユキさんに過失はありません。今の一言で十分、すべての精を搾り取ったからあるよ。でも男が精を発射ことは自然なことですわ。そうよ、それだけユキさんのあれは名器なのよ。
しかし死んでは御終いある。だから活の入れ方を学べばいいのよとマリア。先ずみぞおちを押します、こんな感じ、次に背後ら活を入れますと梅雲。それならできそうね、龍治もう一度死んでみて。
坂本は臨死を体験した。そこで南海男が椰子の実に撃たれたはひょっとすると自分だったのかも知れないと思った。南海男の声に道を引き返したのだ。以後、死はそれ程恐ろしくなくなったが子供たちの顔を見るとまだまだ死ねないと思うのであった。
武器廃絶はトモカサにまかせるとして闇の権力者ヘンリーウイリアムの処分をどうするか。清美に二人目の子が生まれる。白井貴子が子連れで帰ってくるという。マリアと梅雲も身ごもったという。自分が蒔いた種だが坂本の悩みは尽きない。課題山積である。その時一陣の風が吹き抜けた。椰子の葉がそよいでいた。
―闇の権力者たちの日本近代史 完―
闇の権力者たちの日本近代史
支配とは少数が多数、集団を治めることである。自分の意思、命令、行動に他を服従させることと言っても良い。その意味では支配者は一人が理想である。支配される集団が大きくなってくると一人で何もかもとはいかなくなるので支配者の代理人、下請けが必要となってくる。これらの支配集団にも序列ができる。
そもそも人類は集団行動を採ることで生き延びてきた。そうでなければとっくに絶滅していただろう。集団の意思は優れた指導者によってなされていたことは想像に難くない。指導者は集団からその就任を要請されたであろう。野球の弱いチームが名監督を求めるようなものである。指導者の良し悪しは取分け狩猟生活では集団の死活問題である。指導者も集団のために尽力するから両者の利害は一致していた。指導者は感謝され尊敬された。
指導者の報酬が感謝と尊敬のうちは良かったが、やがて指導者は自分の地位が他人を支配できることに気づく。感謝するなら物寄越せ、女を寄越せとなっても不思議ではない。支配者の代理人下請けも右に倣えする。持てば持つほど欲しくなる、どうしてそうなるのか。
権力の根拠は支配能力カリスマ性から支配者という地位に移行してゆく。その地位に就けば無能者でも権力を持つ。支配権力の魔力というべきか。無能者バカ殿の地位を正当化するには、そこで王権神授説が提唱される。困った時の神頼み、神様を引っ張り出す。神仏ならぬ生身の人間である、物欲、色欲、権力欲に付かれるのを如何ともし難い。人は富や名声を失って自由になるとはかのセネカの言葉であるが欲と自由は永遠のテーマであるようだ。
日本民族の指導者は欧米諸国その他と比較すれば上品であった。指導者の地位に留まるか支配者に変身するかは品性の問題である。前者は集団のために尽くすのに対し後者は搾れるだけ搾る。不思議なものである。同じ人類でありながら、この差はなんだ。人類が定住始めると指導者と支配者が分離する。宗教から政治が分離したのもこの頃であろう。現代では政教分離と言って政治から宗教を分離させろと言っている。国、県、市町村といった大きな集団、社会を宗教で治めることは不可能である。集団には政治指導者が求められるが支配者では困る。集団の構成員である国民は指導者が支配者に変身しうることを認識せねばならない。選挙の時だけ主権者とおだてられているようでは情けない。
現在の日本の支配者は日本国政府である。国会は最高機関と憲法では定められているが実権は政府にある。だがこの政府を支配する闇の権力者が本当の意味での支配者である。その正体は不明であるが日本の戦後体制のシナリオを描き演出している。日本の農業、教育を荒廃させたのは誰か、日教組であると言うのはあまりに皮相的である。米軍基地は監視塔である。
闇の権力者は米国、中国をして日本を脅している。一方でTPPTrans-Pacific Partnership環太平洋戦略的経済連携協定に引きずり込み、一方では尖閣諸島から沖縄に侵攻させようとしている。日本なぞ何時でも支配できますよ言っているのである。支配欲は一国を支配するとやがて隣国諸国をと止まるところを知らない。もし世界を支配したならどのような世の中にするのか見解を示せと言いたいのだが闇の権力者は姿を見せない。黒幕の後ろからただひれ伏せと言うであろう。だからやっかいなのである。
2013.9.25 フィリピン マクタン島にて 佐々木三郎