兄と妹の夏季課題
中夏 1
夏が始まり、この田舎に来て結衣と再開し、兄妹の距離がすこし縮んだようになって早くも、夏休みが折り返し地点までやって来た。
課題も順調に進んでいる。あれからいろんなところへ遊びにいきその度には、三人の中を深めていった。当然、目的は結衣を成仏させることだ。最近の結衣はとても楽しそうで、良い思い出作りになっていったと思っていた。明日、開催される夏祭りも三人で行く予定を立てていたのだが突然、結衣が行けないと言い出したのだ。理由は、幽霊は祭の最中の神社には近づけないらしい。そんな事を前日に聞かされて俺と茜は部屋で明日のことについて話していた。
「お兄ちゃん、どうするのよ?」
「そりゃ、結衣は二人で楽しんできてって言うんだから、二人で行くしかないだろ」
「まぁ、そうなんだけどね」
「そういや、結衣はどこ行ったんだ?」
「知らないよ、、。夕飯の時にはリビングに居たような」
「まぁ、心配することはないな」
夏休みも半分以上一緒に過ごしていると、突然結衣が消えるということはもう、慣れてしまっていた。そもそも、幽霊なのだから消えるのは当たり前なのだろう。しかし、ひょこっと出てくるので、それが自然体になっていた。
「まぁとりあえず、明日の夏祭りは二人で楽しむとしますか。茜は嫌か?」
「ううん、嫌じゃないよ。久々の二人でお祭りなんてワクワクしちゃうよ」
茜は笑顔で明日の夏祭りを本気で楽しみにしているようだった。俺は茜の笑顔に少し、心に来るものがあった。この感じは体験したことあるような、嫌な感じではない何か、その正体を知ることはまだ俺にはなかった。
「本当だな~。二人で祭を回るなんていつぶりなんだろうな」
俺も、正直な楽しみだった。もちろん、お祭りは好きだ。そうゆうので楽しみだってこともあるのだが、茜との距離が縮まった事がやはり、俺には嬉しいものだった。昔の俺らにはそんなことはあり得なかっただろう。心から楽しめるような関係ではなかったのだから。
「うーん、わかんない」
茜は首を傾げる。それほど、昔の記憶なんて、覚えているほど楽しいものではなかったのかもしれない。
「まぁ、楽しもうな」
「うん!」
俺の言葉に、無邪気に返事する茜。仲が良い兄妹ってこんな感じなんだろうなと思う。俺と同じように、妹がいる友人は口を揃えて、生意気だとかうっとしいとか要らないとか、そう思うのが本当の兄弟なんだろうか。確かに、生意気だと思う時はある、でも要らないとは思ったことはない。友人も本気では言ってないのだろうが、今まではそうゆうのが兄妹だと思っていた。でも、ここに来てさらに茜のことが大事だと思えてくる。たった一人の兄妹、兄の俺が守ってやらなくて誰が守るんだ。そうゆう気持ちで接しようと改めて実感した。茜の笑顔には、ほんと癒される。少し、母さんに似てるのかな。でも、母さんとは違った感じ、言葉にするにはまだ難しいな。
「はぁ~。そろそろ、寝るか。眠たくなってきた」
「そうだね、お兄ちゃん。私も、明日に備えて今日はもう、寝るよ」
茜はそうゆうと、立ち上がり俺の部屋から出ようとする。ドアノブに手をかけた茜はこっちを振り向き、お兄ちゃんと呟く。どうしたんだ?聞き返すと、ううん、なんでもない!おやすみなさーい。優しい口調で部屋を出て行った。
「なにか、あったのかな?」
俺は、茜の言動を少し不審に思ったのだが、睡魔に襲われ、あくびをする。電気をけし、ベッドに入る。さっきまで茜が座っていたので少し、温かい。目を閉じると、父さんと母さんの姿が思い浮かんだ。 父さんと母さん、俺らがこんなに仲良くなったこと知ったらビックリするだろうな。結衣の事も話したいけど、またおかしくなったんじゃないかと思われるかな。そうだ、今度三人で写真でも撮りたいな、思い出に一枚。俺らにとっても結衣にとっても最高の夏休みにしたい。
いろいろ考えているうちに、俺は眠りに入った。
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この日は毎年恒例の夏季行事である夏祭り、ここの地域一帯の人達がひとつの神社を参拝し、厄を祓うというのがあるらしい。俺と茜は結衣に教わった夏祭りに三人で行くつもりだったのだが、幽霊である結衣は祭が開催されている時間帯は神社には近寄れないそうだ。祭は、昼から夜遅くまで行われるらしいのだが、俺らは夕方から行くことにした。少しぐらい、涼しくなってからじゃないときついからだ。ここにきて、少しは夏の暑さには慣れたと実感するのだけど、昼間はさすがに暑いものだ。なので、夕方まで俺と茜は夏の課題やらなんやらを計画通りに進め、時間をつぶしていた。珍しく、今日は朝から結衣の姿を見ていない。でも、また変な時にひょこっと出てくるだろうと慣れていた。そんなこんなで時間はあっとゆう間に過ぎ、結衣は結局、顔を見せぬまま夕方を迎えた。
「気を付けていくんだよ、この祭の日は人混みであふれていて、迷子になることが多いんだから」
「分かったよ、おばあちゃん。気を付けるよ」
「私たちも、あの神社には何回も遊びに行ったことあるし、迷子なんてそうそうならないよー」
靴を履きながら茜は言った。
茜は、楽しみなのか機嫌が良いようだ。
「それと、毎年のように子供が神隠しにあうっていう噂もあるから気をつけるんだよ」
「またまた~」
はじめ俺は、からかっているのかと思った。それからおばあちゃんの表情をみると、半ば冗談ではないようだった。大丈夫だよと言ったものの、やっぱり神社で神隠しっていうのは考えたくはないものだ。三人でよく、遊びに行く神社なのだが、夜になると異様な空間になるというか、そこだけ違う空間に飛ばされたような感覚に陥ることが多々あった。しかし、今日はお祭りだ。人もたくさんいる、少しは心強いものもあった。
「それじゃ、行ってきます!」
「行ってきまーす!」
俺と茜は、おばあちゃんに挨拶をすると家を出た。ここから歩いて、30分ぐらいで着く距離にある神社である。ここから提灯の灯りが点々と見えていた。田舎のお祭りはどうにも雰囲気があって、好きだった。茜は俺の横を離れずに歩いている。神隠しなんて言われたのに、茜はそんなこと聞いてなかったかような感じで、鼻歌まで歌い始めた。
「茜、そんなに楽しみなのか?」
「うん!お兄ちゃんとお祭りなんて楽しみだよ!」
「迷子にはなるなよ?」
「分かってるよー!そんなに心配なら」
そう言って茜は、俺の左腕に抱きつき笑顔で
「これなら、迷子にはならないよー!」
「まぁ、そうだな。しょーがない、人混みではちゃんと掴んでろよ?」
俺はそう返し、空いている手で頭を撫でた。
茜はうん、と元気よく返事をし、一緒に歩く。 側から見たらカップルに見えるのだろか、それともちゃんと兄妹に見えているだろうか、俺と茜はあまり似ていないから前者かもしれない。でも、なんでだろうかそう思われたって別に嫌な気持ちにはならないだろう。そうゆうものだと思いたい。ある程度歩いていると、行き交う人だかりに入った。昼から開催されているので、今帰る人もたくさんいるのだ。基本的に小さい子供たちを連れている親達は昼を選ぶのだろう。なにかと、昼間の方が心配事はすくないからだ。夕方には、昼間の時より人数は減るらしいのだか、それでも混雑している。ほんと、迷子になってしまいそうだ。俺は腕にしっかりとしがみついている茜と一緒に神社へと続く階段を登り始める。この階段は角度はそんなにないのだが、すごく長い。それに階段にも人が密集している、俺と茜はゆっくりと進む人に動きに合わせて階段を登っていくのだ。
「お兄ちゃん、まだかな~」
「あぁ、まだ上に着くまでには時間がかかるだろうな~」
「茜、もう疲れたよ~」
「ここまで来たんだぞ~、引き返すわけにもいかないってか、引き返せられないんだから」
疲れたと駄々をこね出す茜を頑張れと励ましながらも、俺も相当この時点で疲れていた。あまり、人混みは得意ではなかったからなおさらきついのだ。階段に差し掛かって三十分が過ぎた。やっと階段の半分を過ぎた頃だ、俺と茜はここまで待ったのだから思う存分祭りを楽しんでやろうとヤケになりながら頂上を目指した。人混みに紛れながらなんとか階段を登り大きな鳥居が見えた。真っ赤な鳥居は階段を登った達成感を引き立たせ、疲労感を徐々に抑えてくれるようだった。
「お兄ちゃん、やっとついたね」
「そうだな~、この鳥居、昼見るときよりも夜見たほうが迫力あるんだな」
「なんか、おっきくみえるよね!」
「怖いな、なんか」
左腕に抱きついている茜に手をつなぐように言い、俺と茜は手を繋ぎ鳥居をくぐった。隣では、楽しそうな茜が見える。俺はこの手を離したくないと強く思った。
兄と妹の夏季課題