幸の素。

幸の素。

「……ん?」
 なんか、ゆらゆら揺れた気がして目が覚めた。
 まぶしいし、なんだか騒がしい。
 電気もテレビも消し忘れて寝ちゃったんだなーと思いながら腕の下、ゆらゆらの元を見る。
 ごろんと大の字になって寝ているジェットのおなか。
 んー、と頭を掻く。
 まだ頭が半分寝ていてよく思い出せないけど、なんかジェットの背中にもたれてたような気がするんだけど。
 ジェットの背中にほっぺたつけてもたれてたら、あったかくって気持ちよくってジェットの匂いがして、ほんわり幸せな気分になって……きっと、そのまま寝ちゃったんだろう。
 なんかすごく優しいあったかい夢を見ていた気がするけど、思い出せない。
 続きが見たくて、もう一回ジェットのお腹の上に頭を乗せて目を閉じてみる。
 ジェットが息をするたびに、ふうわりふうわりと頭が揺れる。
「……ふふっ」
 なんだか楽しくなってきて、すり、と頬を擦りつけてみた。
「んあー……それくすぐってぇ……」
 いきなり頭をわしわしわしっと撫でられて驚く。
「ジェット、起きてたの?」
 起き上がってジェットの顔を覗き込んでみたけど、目が半分しか開いてない。
「今起きたー……。もう朝か?」
「まだ外そんなに明るくないから、多分まだ早いと思う」
「うーじゃあまだ寝る……お前も寝ろよ」
 ごろんと寝返りを打ちながら僕を胸の中に抱きこんで、そのまままた、すーっと寝てしまう。
「むむーっ!」
 じたばた。
 ちょっともがく。
 いやちょっと待って、そんなに頭をぎゅーって抱きしめられたら、スウェットに顔が埋まって息できないから!
 情熱的に抱きしめてくれてるんだったら嬉しいけど、この状態は多分抱き枕だし。
「――ぷ、ふっ」
 もがきまくって、なんとかジェットの腕から顔を脱出させて、息をつく。
 うん、抱きしめられているのが肩から下なら、顔が埋まったりしないもんね。
 はふ、と息をついて目を開け――息が止まる。
 触れそうな近くに、無防備に寝ているジェットの顔。
 薄く開いた口から聞こえてくる規則正しい寝息。
 呼吸をしたらそれだけでジェットを起こしてしまいそうで、横を向いて、細く静かに息を吐く。
 息を詰めて、そおっとジェットの顔を見てみる。
 日本人とは違う肌の色。
 白い、というか若干ピンクっぽく見える顔。
 高い鼻。
 薄い唇。
 長い睫。
 ゆるく乱れた髪の隙間から見える頬に、薄くじゅうたんの跡。
 ぽこぽこになっていそうなその頬に触れてみたかったけど、しっかり抱きこまれているから手をジェットの顔まで上げられない。
 だから、視線だけで頬に触れる。
 いつもは照れちゃってこんなにじっくり見るなんてできないから、ジェットが寝ている隙に見つめる。
 ずうっと顎から輪郭を辿って上って、目で髪を撫でておりてきて、また唇、鼻、目と上がっていったところで、ジェットの目がぽかっと開いた。
「そんなに見とれちゃうくらい、男前?」
「ジェッ……、また君は! 寝たフリしてたの?」
「そんなにあっつい視線向けられてたら、目も覚めるっての。で、んん? どーした? 眠れねぇの?」
「べ、別にそういう訳じゃ…」
 ホントは心臓ばくばくで、とても眠れそうにはないんだけど。
「き、君のほっぺたに絨毯の跡ついてるからっ、それ見てただけで……」
「お前も」
 むにっとほっぺたを掴まれた。
「顔に線が入ってる。俺の服?」
「え、僕も?」
 慌てて自分の頬を触ってみようとしたけど、ジェットの手が邪魔して触れない。結局僕のほっぺたをむにむに弄っているジェットの手を掴んでしまった。
「もーっ、そんなに引っ張ったらほっぺた伸びちゃうよ」
「伸びた分は俺が喰ってやるよ」
 掴んでいた手を離して、ジェットがほっぺたに噛みついてくる。
「やだもう、なにやってんの」
「赤くなった。へへ、可愛い」
「何言って……」
 この状態で寝ろって言われても絶対無理。
 顔が熱い。
 むにむにとつままれまくってたからだけじゃなくて、多分僕の顔は今真っ赤になってると思うから、恥ずかしくって、ジェットにしがみついて肩口に顔を埋めて隠した。
 ジェットが抱き締めて髪を撫でてくれて、もっとぎゅううっとしがみつく。 
「俺とこうやってたら眠れない?」
「…ばか」
「……部屋行く?」
「行かないっ。ここでこのまま寝るっ」
「また顔に線入るぜ?」
「いいのっ」
 そりゃ、部屋行って…も嬉しいけどさ、ここでこうやってくっついて寝てたら、さっき本当に気持ち良かったし、いい夢見てた気がするから、今日はこのままここで眠りたい。
「ふうん。ま、それもいいか」
 耳元に息がかかる。
 くすりと笑った気配。
 ジェットが、腕枕をするように体勢を変えてくれる。
 額にキスされて、抱きしめられる。
 ゆるゆると背を撫でられると、心臓のばくばくがちょっと治まってきた。
「……ありがと」
「ん」
「腕、痺れない?」
「心配すんな」
 ことんとジェットの胸におでこをくっつけて、目を閉じる。
 ほんわり胸のところがあったかくって、優しい気持ちが充満する。
「なんか、気持ちよく眠れそうになってきた」
「ああ。俺も」
 ふわふわ、ほわん。
 幸せで。こんなにも幸せな気持ちでいられるなんて。
 だんだん呼吸が深く、ゆっくりになってくる。
 黙っていると、ざわざわとした声が遠くから聞こえてくる。
 とろんとまどろみながら、ああ、そういえば電気もテレビもつけっぱなしだったと思い出したけど、もう止めに行くことなんて出来なかったからそのままとろりと睡魔に身を任せる。
 ざわざわの声が遠くなる。
 聞こえるのは、ジェットの寝息。
 もしかしたら、まだ寝てないのかもしれないけど、ゆっくりと規則正しいその息に催眠術をかけられたみたい。
 瞼が重くてもう開かない。
 ふわふわ、ほわほわ……とろん。
 そして僕らは、優しくてあったかい幸せな夢の中に、ゆっくりと入っていった。
 

20140930 HARUKA ITO 星野雪のほのぼの29絵を見て。

幸の素。

昨日、相方絵描きの星野雪が描いた「ほのぼの29」イラストを見て、急に書きたくなったので書いてみました。
イメージまんまなので、画像はそのイラストそのまま流用させてもらいました。
元が雪のイラストなので、なんかいかにも雪が描きそうな内容になりました。
平ゼロ・ほのぼの29。

幸の素。

サイボーグ009二次。 平ゼロ 29 腐向け ほのぼの

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-01

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