帰り道
チャイムが鳴る。私はその瞬間、制止の声を振り切って走り出す。自分が持つ最大のスピード以上の速さでもって、その忌々しい建物を後にする。太陽は照っている。誰に命令されるわけでもなく照っている。大抵の生物にとってその光は生きるための糧であるが、一部の生物にとってその光は鬱陶しいものである。私は走っている。走ることが嫌いなのに、体の内から何か突き動かされるエネルギーによって走らざるを得なくなっている。私は耳にコードを差し込んでいる。コードからは私の好きな音楽と嫌いな音楽が交互に流れ出ている。太陽が照っている。私はのどの渇きを覚えるが、この飢えを潤す液体を売っている店はどこもシャッターを下ろしている。気がつけば皆が立ち止まって、空を見上げている。私は食い入るように足下に断固として存在している地上を見つめながら、まだ走り続けている。耳のコードからは相変わらず、心地いい音楽と居心地の悪くなる音楽が交互に流れでている。太陽は照っている。私は走っている。脇目も振らず、無我夢中で走っている。ふと周りを見ると、皆が考え事をしている。私は何も考えず、無心で走っている。コードからは音楽が流れている。私は黙っている。私は笑わないまま、走っている。太陽が照っている。太陽が照っている。
帰り道