夢想家の独白

夢想家の独白

作者のエッセイのように書きつづられるが、実生活に基づいたものではなく、あくまでフィクションである。

一、闇の中

 暗い。なんて暗いんだろう。闇の中を彷徨うかのようだ。生きていくことは、不安と恐怖に耐え忍ぶだけ。希望の光など、遥か彼方に僅かに光る淡い輝き。皆が目を凝らしてこの光を凝視ながら、明るく微笑んでいる。しかし、飲み込まれそうな程に我らを包み込む、無限の闇を感じていないのか。
 確かに闇は眼では見えない。だから漆黒の暗闇の中では、僅かな光も救済の希望に感じるのだろう。その微かな光に向かえば、必ず明るい天地にたどり着けると信じれば、大いなる希望の光とも言えるのかも知れない。
 ああ、僕にはとても無理なことだ。希望を信じるには、この闇は余りにも巨大で、輝きは余りにも微小過ぎる。
 僕は今日まで生きてきた。懸命に働けば、必ず幸福な生活があると言い聞かされて、苦しくしかも不本意な労働に向かい合って来たのだ。だが、例え順調な時でさえ、いつ頓挫が待っているのかわからない。その不安と恐怖に苛まれない日はなかった。
 何故なら僕の周りには、僕の失敗と挫折を待っている連中ばかりだ。自由競争の建て前の中で、他者を引きずり降ろしてのし上がろうと目論む奴ら。でも彼らも、自身が貶められる不安と恐怖に突き動かされて、それに立ち向かっているだけなのだ。
 そして彼らは、その恐怖から逃れるために強大な権力にすがりたがる。権力とは、他人に不利益な行為を行う正当性を持っているとというところから発する威圧感に他ならない。皆、その威圧感に屈しようとする自分をまともに受け止めないで、それを権力者に対する尊敬とか好感だとか、終いには愛だとかにすり替えて自分を誤魔化す。
 権力を持たずに皆のために尽くしても、感謝こそすれこのような従順さは示すことはない。

夢想家の独白