そばにいてほしいぼくらは

何の気なしにとった行為だった

何の気なしにとった行為だった。隣家のパーティーに呼ばれ、その余興として彼は壁をすり抜けて見せた。
「ちょっとした特技なんですよ。本当にちょっとした」
そのときに皆が見せた表情を彼は忘れないだろう。驚きと不安をまぜこぜにしたような表情。
翌週のうちに隣は引越しをしてしまった。それからあまり時をおかずして彼の近所の家々は次々と空き家になっていった。
あまり気軽に見せるべきじゃなかったかな、と後悔しながら買い物に行くと今度は商店街が軒並み閉店していた。職業意識に乏しい人たちだ、と思いながら家に帰ると電気が止まっていた。あまりにもひどい。抗議をしようと思って役所に行ったが、役所も案の定、もぬけの殻だった。
無人のホームで電車を待ったが、待てど暮らせど電車はこない。
仕方がないので友人に連絡をとろうと思ったが、誰ひとりとして電話に出るものはいなかった。

そんな夢をみた朝。彼はこれから先、決して壁抜けをすることはないだろうと思った。
我々の間を隔てている壁は、実は我々の距離を最大限に近づける存在でもあるのだ。



++超能力者++
真壁 トオル
ESP:壁をすり抜ける

そばにいてほしいぼくらは

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そばにいてほしいぼくらは

1分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-29

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