かげろうの空 ― ほら、また 雲が流れてくよ。
章タイトルが名前になっています。
5章完結です。
しばしおつきあいください。
第一章 一美
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
母の声を背に、あたし、自転車をこぎだす。
いつもの、朝。
・・・の、はずなんだけど。
ここはどこだ。あたし、学校へ向かってて。
見覚えのある街並み。自転車をこぐ足を止める。
でも、どこだろう、ここ。
こういうのもデジャヴっていうんだろうか。
なぁんて、考えたりして。
暑い。
そういえば、ひとっこ一人もいない。変なの。
蝉の声。あれは?うすばかげろう。こっちにやって来る。
今やらなきゃなんない事って
何だろう
大切なものって
何だろう
何を信じていけば
いいんだろう
何を求めていけば
いいんだろう
心の赴くまま
気のすすむように
つきすすんでいっても
いいんだろうか
人を傷つけたり
自分本位になったり
しないだろうか
信じるものが
求めるものが
まだ・・・
まだ
見えないよ
気がつくと、いつもの道を進んでいた。
第二章 悠子
「一美。」
呼び止められて、自転車こぐ足を止める。
やばい。遅刻。
そんな事、心の端っこで考えながら、おもむろに振り向く。
え、と。
「やだ、わすれた?」
あたしの訝しげな顔を見て、彼女、少し残念そうな、でも嬉しそうな顔をする。
「ゆ・う・こ。忘れたぁ?」
そういって、彼女、少し拗ねる。
「えぇ、うそ。全然わからなかった。」
お化粧をして、真赤な口紅をぬって、ヒールと、革のタイトで身を包んだ姿は、もうあたしの知っている彼女じゃ、なかった。
「じゃね。勉強がんばれよ。」
「えっ。」
彼女の声で我にかえった時には、彼女はもう、駅に向かって歩き出していた。
ヒールの音だけを残して。
どうしても気持ちを
抑えきれなくて
今、やらなきゃ
そう思って
信じるものに向かって
求めるものに向かって
つき進んだとしたら
得たものより
失ったものの方が多くて
自分の中に
得たものしか
残らなかったとしても
満足できるだろうか
たとえ
その得たものが
自分にとって
何よりもかえがたいもので
あったとしても
それだけで
生きていけるだろうか
これから・・・
一匹のかげろうが、あたしの横をすりぬけていった。
かげろうの空 ― ほら、また 雲が流れてくよ。
読んでくださって、ありがとうございました。
第3章は郁です。
それではまた、お会いしましょう。