まみむ        < 前 >

まみむ < 前 >

「のーぷろぶれむ、気にする必要性はありません。けれどあなたは邪魔なのです、ウザクテウザクテウザクテ堪らない。僕らとは同じ土俵には立ってないからこそのウザさ。あなたはそんな雰囲気を出してくれているのです。いや、雰囲気――――ではなくオーラみたいな、モノなのでしょうね。ふむ。それにしてもウザいですね、あなたも分かってくれるでしょう?僕の気持ち、例え、いくとの奴の気持ちなんか分からなくても人間が羽虫に対する嫌悪感のようなモノくらい、は分かってくれますよね?…………………………あは、そういえば。そういえばそういえばそういえばそういえば。あぁ。あなたはそういえば馬鹿なのでしたね、ふん。……あーくん?」

「あなたは、周りの人間の感情すら――――理解しない、しようとしない」

まいなす■■■日目 閑話休題<have done >

なんだか最近、変な噂がたっている。根も葉もない噂なのか、尾ひれがついた噂なのかは僕には分からないがとりあえず、噂がたっている。

最近といってもほんの二三ヶ月前で、僕が中学に入って一番最初の体育祭が終わった頃だったと思う。そんなことを思い出すと、少しだけノスタルジーな感じになるが、今はそんなことは問題ではなく、どこからその噂がたったかだ。
僕は試しにいくとに聞いてみた。小学生からの付き合いで、何だかんだで一緒のクラスになった。まあ、どうでもいいのだけれど。

<へぇ、そんな噂がたっていたのか。知らなかったよ、えへへ。意外と俺が知らなくて、あーくんが知っている、みたいなこともあるんだね。えへへ>

いくとは笑っている。

<話を逸らすなよ、いくと>

いくとは首を回し、骨を鳴らそうとした。
鳴らなかったけど。

<べっつにー、逸らしてないよ。逸らす必要性のない話題だしね、えへへ。でも、そうだなぁ、多分だけどその噂。たち始めてから二三ヶ月たっても消えないようなら本当なんじゃないかな?>

いくとは黒い目を歪ませ笑う。
口は笑わない。

僕は言った。

<――――もう既に二三ヶ月たってんだよ、その噂>

あっそ、じゃあ本当なんじゃないの……多分さ?
素っ気なくいくとは言いはなった。
目線は僕から離さない。
瞬きもしない。
変化がないから、嘘か分からない。

<てか、あーくん。その噂を気にするなんて、よっっっぽど、この学校が好きなの?>

あ。
確かに。
うん。
そういえば。

<好きな訳ないだろ>

僕は言う。
そういえばこんなキャラだった。
でも、何だか嫌な気分になった。
なぜなのかは、いつものように分からない。
自分で自分の発言を後悔する。
くそ。
後悔したくねぇのに、こんなの後悔する程のもんでもねぇのに。

いくとは言う。
<そうだよね。あーくんがこんな学校好きな訳ないよね>

だから。
と、いくとは笑った。

<こんな、学校が統合しても構わないよね>

なんでこいつは、自分の目線で今言ったのだろうとは、心の下の方で思った。気がする。


――――心?

<えへへ>

笑う。

■■日目 閑話休題( will )

「ねぇ。やめてもらってもいいですか、あーくん」

「何をだよ、優等生」

分かっているくせに。
優等生はそう言った。
僕は頷かない。
確かに、確かに今回僕は、僕らは分かっている。自覚してやっている。後悔せずに行っている。
何も分からないことなんて――――――――ない。

僕は利き足で自分の影を踏みしめる。
優等生の、光を差してない目に負けないように。心が折られないように。

「いい加減、しつこいんスよ。一体、僕らがどんだけ頑張って、どんだけ心すり減らしてると思ってんだよ。…………いくとの奴は違うとしても、ですけど」

優等生は一歩、また一歩と僕に近づく、僕は下がらない。下がれない。

「はんっ。……てめえにすり減らす程の心があるのかよ、優等生」

優等生は笑う。
僕は笑わない。

「つい最近までそんなモノ無かったみたいな奴に言われるとはね…………あは、ウケる」

優等生は笑う。

「ありますよ、あるに決まってるでしょ。僕は人間ですからね、そんな不確定な存在するかも分からない変なモノくらい、誰でも持ってるモノくらい、ありますよ。当たり前じゃん、なめるな愚者」

酷い言い様だ。
語気が強くて、心が折れそうになる。
…………はんっ、折られるつもりはないけど。

てか。

「おい、優等生。口調が乱れてんぞ、馬鹿丁寧なのはどうした。……どう考えてもてめえの性格に合ってねぇぞ。随分前のキャラ作り、今はもう崩れかけてんぞ、あん?」

僕は言う。

ふん、と優等生は言った。

「あっはぁ、キャラ作り?なんですかソレ、知らないんですけど。僕はずっとこんな喋り方ですよ。それに…………てめぇのキャラの方が崩れてるんじゃないですか、あーくん。僕と初めて話したときは、そうですねぇ、もっと、カッコつけた用な感じだったんですけれど。あぁ。もしかして、気付いちゃいました?自分が愚者だって、イギーだって。…………けど、てめぇが愚者なのは今のキャラでも変わりはありませんけど、あっは」

優等生は笑う。
僕は笑わない。

「…………うるせぇな、優等生。はんっ、優等生のくせに馬鹿な奴」

優等生は笑わなかった。

「まぁ、いいですよ。話が長いんですよ。いい加減、話を軌道修正させてもらいます」

僕は影を踏みしめ続ける。

「止めてもらってもいいですか?」
「学校統合を阻止しようとするの」

無駄な足掻きなんで。
優等生は付け加える。
彼の目に相変わらず光は差さない。真っ黒く、底知れない。

「はんっ」

僕は笑わない。

「僕が」

優等生は笑っている。





「――――――好きなやつの好きな場所を守って何が悪い」

僕は笑った。

「それが正義ってもんだろ?優等生」

優等生は笑わなかった。

廊下の窓から夕日が差す。
オレンジの光。
僕らを包み込まない、突き放すような、まるで場違いだと言うような夕日。
ときたま入る、雲の黒い影が僕らを包んだ。
仲間のように、ぬるく包む。
僕はそのぬるさに飲まれないように、見えない影を踏みしめ続けた。
夕焼けチャイムは鳴らない。
そんなものが聞こえる場所ではない。

「やれやれ、憐れですね」

優等生は肩をすくめた。
最初に彼に見えた白い雰囲気は、今の僕には見えない。



「無理なのに、無駄なのに」

優等生は笑わなかった。

まいなす■■■日目 閑話休題< were >

<あ、すいません>
軽く人にぶつかった。
うん?
ちゃんと前もっては向いていたはずなんだけどな、それとも、前は前でも違う場所を見ていたのかな?
とりあえず、お情け程度に僕はぶつかった人に謝った。謝ったというよりは、謝ったフリをしたというべきかもしれないが。

<いえいえ、お構い無く。僕の注意不足なのでした>

少しだけ口調がおかしい。
けれどそんなことは問題でも、気にすることもない。僕は軽く頭を下げ、近くにいたいくとを一瞥する。さあ、移動しようという意味を込めて。廊下を歩こうという意味を込めて。
この次の時間は移動教室で、僕は音楽室へ向かわなければならない。歌をうたう気は毛頭ないが、そこは僕のイメージを崩さないように歌うフリだけする。
なんて、無駄な時間なのだろう。

いくとは僕の視線には反応しなかった。というか僕の視線に気付いてもいない。いくとは僕とぶつかった相手を見続ける。
いつもなら、<えへへ>とでも笑うはずなのに。
僕は相手を初めて見る。背は少し低めで、真面目そう。なんだか、<優等生>というあだ名が当てはまりそうだと思う。知らないけど。どうでもいいのだけど。

<おやぁ?>

優等生は笑う。
張り付いたような笑顔、まるでピエロのようだ。ピエロ、道化師、そのまんまだった。

<これはこれは、いくとの奴じゃないですか。>

優等生は少しだけ顔を歪ませた。
けれどそれは、一瞬のことで彼は直ぐに笑顔に戻した。まるでそれが錯覚だったかのように。

優等生は僕らの手元を見る。
教科書を掴んだ僕らの手。

<あは、次は音楽でしたか。でしたら呼び止めてすいませんでしたね。では>

僕にぶつかったことは忘れ去られたようだった。
そして、優等生は何もなかったかのように僕らとすれ違っていった。
ふう、何だか気味の悪い奴だったな。喋り方が馬鹿丁寧だったから、余計に。
もう一度僕はいくとを一瞥する。

――――――ふうん、真顔もできるんだな。意外。

<あいつ、誰、知り合い?>

僕は簡潔に質問する。長いだけの質問は無意味だ。

べっつにー。
いくとは言う。
笑いながら、だけどもなんだかぎこちない。

<あれは、俺と関係があるんじゃなくて、俺の親とあれの親が関係があるんだよ>

<ふうん>

適当に相槌をうつ。

あれ、と言った。
なんだか仲が悪そうだなと思った。
珍しい。

確かに僕もあいつとは仲良くなれそうにない。少しだけそう思った。
僕に仲良くなれるやつがこれからできるのかどうかは別にして。



あ。
そういえば。

<悪りぃ、いくと。そういえば僕は音楽係でなんか担任から音楽の教員に渡すよう頼まれてたんだ。確か、音楽室に向かう前に係二人で担任のとこ来いって。だから職員室行くわ>


いくとは少しだけ考えてるような表情をした。

丁寧な説明ありがとう、なら俺も暇だからついてくよ。
いくとは言った。
一人がいいのだけれど。
まあ、いいや。

そういえば、なぜこんなことを僕に頼むのだろう。学級委員あたりにでもやらせればいいのに。めんどくせぇ。あいつがまた僕の担任とか副担任になったら最悪だぜ。ふざけんなよ。
あ、てか。もう一人の係のやつだけ行かせれば良くないか?わざわざ二人で行く必要性は全くねぇだろ、くそ。もう一人が誰かは知らねぇけど。
ふむ。

<あーあー、駄目だよあーくん。二人で行くよう言われてるんでしょ?ちゃんと行かなきゃ>

いくとは僕の考えを読んだような喋り方をする。いや、間違いなく読まれたな。

<駄目だよあーくん、そんなことしたらあーくんのキャラが担任にバレるよ?えへへ、もうバレてるか>

あん?
バレてねぇし。
………………はあ、仕方がない、じゃあ行くか職員室。
めんどくせぇ。

まいなす■■■日目 閑話休題< were >2

担任にわざわざ音楽係二人も呼ばれたのはこういう訳だった。
<いや、渡部さんはともかく君だけでは不安でしたのでね。ちゃんと職員室に来てくれないではと思ったのです。けれど来てくれて安心しました。渡部さんだけでも役不足ですからね>

酷い言い様だ。
僕にも、このもう一人の音楽係も。扱いが酷い、それでも教員か馬鹿野郎。はん。
僕は隣にいる頭1個低い女子を見る。目線は下を向いているが、別に怯えてはいなそうだ。それにしても性格の悪さが滲み出ているようだ。関わりたくないな。
…………てか、誰だ?
こんな奴いたか?
半年以上、僕もこのクラスに在籍してはいるもののこんな奴見たことない。確か、渡部と担任は言ったな。えーと、確かうちのクラスには渡部が三人いて。男子に一人いたはずだからか、女子は二人で………。
………………。
分からない、誰だこのおかっぱ頭。

<それでは、これが犀川先生に渡してほしいプリントです>

サイカワ?
そいつも誰だ?

<サイカワセンセイってだれですか>

僕は問う。
担任はただニッコリと笑って答えた。

<嫌だなぁ、ちゃんと先生の名前ぐらい覚えておいてくださいね。犀川先生ってのはあなた方が担当する音楽の先生じゃあないですか。駄目ですよお、忘れちゃ>

<はぁ>

覚えてない。
性別すら分からない、けどまぁいいや。
適当に僕は返事をし、職員室を出て廊下に立つ。とにかくこのプリントをサイカワという奴に渡しゃあいいわけだ。音楽係の人間が。
――――ってことで。

<これ渡しといて、えっと…………>

僕は隣にいた無口なオンナノコに渡した。渡したというよりは押し付けた、別に僕が渡す必要はない。むしろ、サイカワという奴も僕からよりはオンナノコから渡された方が良い、良いに決まってる。

オンナノコは受け取らない。
そして喋らない。少し大きな二つの潤んだ目で僕を見つめる。やれやれ、少しは喋ればいいのに、めんどくせぇなこいつ。
いくとが僕の後ろで<えへへ>と笑う。笑うぐらいならなんとかしてくれ。

せめて名前が分かればある程度は良くなるのに。

<えっと、悪いけど僕はお前の名前が分からない>

オンナノコは下を向いている。何だかしょげたように思える。…………なんでだ。仕方がないだろ。

<だから、僕は君のことをあだ名で呼ぶことにするよ>

<えっ>

職員室に掛かっていた風鈴が彼女の声と同時に揺れた。なんでこんなところにあるのだろう。季節感が全くない。むしろ、片付ける気すらが無いのだろうか。どうでもいいけど。理由なんて知らない。

<君はむーちゃん、無口だからむーちゃんだ>

ぶっほぁっっ。
いくとが吹き出した。色々かかるから止めろよくそったれ。

<えへっ、えへへへへへへへへへへっぁ>

気持ち悪い。
なんで笑ってるんだこいつ。



いくとは笑って、僕は笑わなかった。
風鈴が鳴り、むーちゃんは泣いた。
なんでだ?











僕は何も分からない。

閑話休題、一時修了。

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頭の悪い少年と性格の悪さと妄想被害が足されている少女の青春淡い その ?

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-29

Copyrighted
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