フランボワーズの瞳

真っ白なドアをガラガラ、と開けて教壇に立つ。
一人の少女と目が合う。
彼女の真っ直ぐな瞳は私、そして世界をも呑み込んだ。

フランボワーズの瞳

新しい街、新しい学校、新しい教室。
私の胸は期待で高鳴っていた。

と、同時にそれは不安でもあった。

「はじめまして」

私が新しく受け持つことになった2年3組の教室は、

私がこう挨拶をすると、一斉に静まり返った。

生徒達の視線が私の方を向く。

そのとき、私と視線が交わったのは一人の少女であった。

なんて美しい瞳をした子なんだろう…


思わず時を止めてしまいそうになった私は、慌てて自己紹介をする。

「1年間、この2年3組の担任になります。美術教師の辻 凛子(つじ りんこ)です。」

私は黒板に名前を書き、隣に読み仮名を振った。

「これからよろしくね。」


そう言うと、一人の男子生徒が立ち上がった。

「先生のスリーサイズを教えてください!」

一斉に教室中の生徒が笑った。

全く、高校二年生にもなって…。

"彼女"は美しい目を三日月型にして、静かに笑っていた。


「冗談はやめなさい」

軽く笑いながらそう言い放ち、教室を出た。



職員室に戻り、彼女の名前を調べた。

何故彼女の名前を探すのか、理由はわからない。

でも、私の真っ白な頭の中には、彼女しか残っていなかった。

(あった…)

彼女の名前は、「青木 瞳(あおき ひとみ)」というらしい。

なんてぴったりな名前だ…


そう思いながらも、他の生徒の名簿に目を通して行った。

フランボワーズの瞳②

それから数ヶ月後、凛子はすっかり瞳の"瞳"の虜になっていた。

彼女はとても小悪魔的であった。

彼女の純粋さが、逆に官能的な武器となっていた。


その日の放課後、美術室。

「……せい、せん…い!」

「……あっ…」

「先生、きいてます?」

「ごめんなさい、考え事を」

瞳はくすりと笑った。

「先生、私センスがないみたいで……」

彼女は、凛子に自分の絵を見せながら言った。

凛子と瞳の間には、「担任のクラスの生徒」であるということ以外、接点がなかった。
しかし凛子は知らぬ間に、いつも瞳を目で追っていた。

「そんなことないわ、素晴らしい作品よ」

彼女の絵は決して上手いとは言えなかった。
しかし凛子にはとても独創的で美しい絵にみえた。

「そうですか…?」

「ええ」

素直な感想だった。

「先生、良ければもっと私に絵を教えてもらえませんか…?」

瞳は軽く首を傾げた。

なんて可愛いの……
そんなことを思ってしまった私は、慌ててその感情を振りほどく。

「何時?」

「先生の都合が良いときに…」

「わかったわ、明後日の放課後ここに来てね」

「ありがとうございます!」

彼女は自分の絵を胸に抱きながら勢い良く一礼し、にこりと微笑んで美術室を出て行った。

(本当に、あの子には慣れないわ…)

自分でも薄々気付いていた。
でも、いつも抑えていた。
人の恋ほど無意識で無責任なものはない。

(残酷ね…)

私は目を瞑って深呼吸をし、美術室を後にした。

フランボワーズの瞳

読んでくださりありがとうございます:)
この先の凛子の瞳えの感情と、二人の関係は何通りにもなり得るので
ご想像にお任せします:)
機会があれば、続きも書いていきたいと思います。

フランボワーズの瞳

「貴女の瞳は世界を呑み込む」 自分の生徒に恋をしてしまった女教師と女子生徒の同性恋愛小説。 短編にもならない長さです。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-28

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  1. フランボワーズの瞳
  2. フランボワーズの瞳②