もう少し・・・

もう少し・・・

「もう少し頑張れ」と言われたことありますか?

もう少しってなんですか・・・

 「もう少し頑張れ」先生は名前を呼ばれて教壇にテスト用紙を受け取りに来た私に一言そう言った。

「もう少し頑張れ」私にはこの言葉が持つ妙な曖昧さが気に入らずにいつも私の心に不快感を与えたのです。

「もう少し」それはあとどれくらい頑張ればいいのか、私はただそれを具体的に教えて欲しかったのだ。

 70点のテスト用紙を受け取った私は俯いた状態で歩いて自分の席に腰を下ろした。

「田中、藤原」と先生の他の生徒を呼ぶ声を聞きながら、私は自分のテスト用紙をクシャっと皺になるくらい両手で握ってそれを呆然と眺めていた。

「渡辺」と先生が最後の生徒の名前を呼ぶ、「渡辺、よくできたな。これからも頑張れよ。」とクラスでトップの点数だった渡辺君を先生は褒め称えた。

クラスの生徒達が渡辺君に拍手を送る。渡辺君はそれを恥ずかしそうに頭を傾げて右手で頭を掻いていた。

渡辺君は先生が私に言う「もう少し頑張れ」という もう少し を頑張った人なのだろうか。

それが知りたくて私は渡辺君に聞いてみた。勉強の時間、勉強の方法しかし聞いてみると私と大差などありはしなかったのだ。

私はますます「もう少し頑張れ」の もう少し がわからなくなっていった。

 結局、私は先生からテスト用紙を受け取るたびに「もう少し頑張れ」と言われ続け高校の卒業式を迎えた。

壇上には成績優秀者として、渡辺君が表彰されている。私はその姿を眺めながら「もう少し頑張れ」の もう少し の意味をまだ考えていた。

 

 社会人になった私は今度は上司から「もう少し頑張れ」と言われ続けている。そして家に帰ると頭を抱えながら独り言で「もう少しってなんなんだよ!」と少し声を荒げて叫び悩んでいる。

もう少し・・・

もう少し・・・

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-27

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