人類の生き証人

その人は、世界で一番物知りでした。本に書いてあることはもちろん、テレビ、新聞についていること、それどころかウェブに書き込まれたささいなことまでみんな知っていて、人が積み上げてきた知識をすべて持っていました。
周囲は彼のことを褒め称えていましたが、彼はおごることはありませんでした。彼にとって一日とは人類が一段高く積み上げた台を隅々まで知るだけのことだからです。貪るように本を読み、ウェブとテレビを丹念にチェックする。就寝して、起きたら眠っていた間に起きた出来事の把握。
彼に尋ねましょう。
彼は人類の歴史をすべて語ってくれます。遠い過去から果てしなく思える今日までを。人類の生き証人。それが彼です。


人類の生ける負債。それが彼です。
彼は人類の歴史をすべて行えない。遠い過去から果てなき今日まで一切を。
彼に問いかよう。
周囲は彼をさげすんでいたが、彼は悪びれなかった。彼にとって一日は人類が一段高く台を積み上げるだけのことだった。その一段に彼は携わっていない。彼は遠くからそれを眺めていた。彼はおごり高ぶっていた。延々と知り尽くすだけ。起きていても、就寝しても出来事は変わらない。
その人は、世界で一番役立たずだった。人が積み上げた物をほんの小さなところまで全て知っていたけれど、彼にそれを持ち上げて積み上げるだけの力はなかった。

人類の生き証人

人類の生き証人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted