お終いに

 こうして長々と色んな事を書いてきたのだが、心配な事がある。
 私には特に秀でた文章力がある訳でもないので、言いたい事が正確に伝わっているのかという問題だ。
 その為、話を終わらせる前に、私の主張を簡単にまとめたものをここに残しておこう。

 俺の人生がこんな無残な事になったのは、一切合財周りが悪い!
 その原因である両親が、俺を非難するなんて許せない、怒ったぞう!
 出て行ってやる!
 縁を切ってやる!
 死んでやる!

 まあ、こんなものである。
 改めて見ても、酷い話だ。
 なんとも見苦しくて、情けなくて、どうしようもない話であり、私の人生に相応しい。

 しかし、これで終わってしまっては、あまりに残念な話になってしまう。
 実を言うと私は、めでたしめでたしで終わるハッピーエンドが好きなのだ。
 だから、ここから何とかしてそういう形で終わらせられるよう、頑張ってみようと思う。
 その為に、まずはこちらをご覧ください。


 ある男Aが、はじめて会った男Bに
「子供が病気で今すぐお金が必要なんです!
 あとで必ず返しますので貸していただけませんでしょうか!」と頼まれた。
 かわいそうに思ったAは快く、Bにお金を渡した。Bは感謝して去っていった。

 そのやりとりを見ていたCが、Aに
「あなただまされましたね。あいつの話は全部嘘ですよ」と言った。

 それを聞いたAは笑顔になった。
「良かった。病気の子供はいなかったんだ…」


 昔からある逸話、というか、ジョークの一つである。
 釈然としない所はあるが、それでも心地よい気持ちになってしまうお話だ。
 これに習って、私のどうしようもない話を締めくくろう。

 つまり、ここまで私が書いてきた事は、全部まとめて嘘だったのである。

 彼から暴力を受けた私は、そんなもの屁とも思っていなかった。
 両親に彼を隔離して欲しいと言ったのは、深刻な話では全然無く、ただの一時的な癇癪でしかなかった。
 私は生まれてこの方、何の問題にも直面せず、まったく苦労の無い人生を謳歌してきたのだ。
 私に友人がいないのは、生まれついての性根が歪んだ最低の人間で、人から好かれる要素を持ち合わせていないからである。
 私の仕事が続かないのは、不真面目で根気というものを持ち合わせていない、甘ったれた人間だからである。
 私が就職しないのは、一生親の金を頼って生きていこうと考えている、心の底から腐った人間だからである。
 私が家を離れたのは、嫌な事を言われたから癇癪を起こして見せただけである。
 縁を切る言うのは全くの戯言で、少し時間を置いてから、何食わぬ顔で元の鞘に戻ろうと考えているのである。
 こんな私が首を括るのは、自業自得の因果応報であり、勧善懲悪の大団円に他ならないのである。

 よかった、彼は加害者などではなく、責任を被せられる両親なんていなかったんだ!
 悪いのは全て私であり、どうしようもないろくでなしの悪人に、正当な裁きが下されたのだ。

 天網恢恢、疎にして漏らさず。
 めでたしめでたし、ハッピーエンド。
 これにてお終い、一巻の終わりです。

 ここまで付き合ってくださった方の人生は、素晴らしいものでありますようにと願っています。
 それではこれにて、さようなら。

お終いに

お終いに

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-24

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