カワイイカタチ
秋桜の花びらは八枚なので、スキ、キライ…と恋占いをしたら絶対にキライ、で完了する。
恋占いをするなら奇数の花びらの花が良い。例えば桜、例えばツバキ…
公園に咲いている秋桜を眺めながらそんな事を考えている僕は、あぁだから大学生になっても恋人の一人も今だに出来ないのだなぁと自己嫌悪に陥る。
「可愛い形だね」
一緒に眺めていた先輩が嬉しそうに言った。
確かに可愛い形をしている。秋桜の花びらがもし七枚だったら、この可愛さは無かったかもしれない。違う形になってしまうからだ。
では桜の花びらが五枚では無く、もし六枚だったら…?桜の持つ儚さは無かったかもしれない。違う形になってしまうからだ。
「眉間にシワ寄ってるよ?」
先輩がクスクスと笑い始めた。
先輩の笑い声は可愛い。いや、声そのものが可愛い。可愛い、と言ってもアニメキャラの様な気持ち悪い可愛いさではなく、心地が良い可愛いさ。ずっと聞いていたいような優しい素敵な声だ。
声には形が無いけれど、その人の性格は、声で大体伝わってくる。優しい人の声はフワフワ優しい形をしている。性格のキツイ人の声は何だがトゲトゲした形をしている。器の大きな人の声は安心する形をしているし、心の狭い人の声は…聞いていてとても嫌な形をしている。
先輩の声にもし形があれば、どんな形だろうか?例えば秋桜の花のような?例えば空に輝く星のような?
…自分の想像力の無さにほとほと嫌気が差すけれど、間違いなく先輩の声は可愛い形をしている。と僕は感じる。一人そんな思いを巡らせている僕を見つめて先輩が呟いた。
「…園田君の鼻はカッコイイ形をしてるね」
そうなんです。なんの取り柄もない僕の顔のパーツの中で、唯一!自慢出来るのが鼻の形なんです。これだけは、父も母も祖父も祖母も曽祖父も曽祖母も褒めてくれました。誰に似たのか、シュッとした良い鼻の形をしてるね、と親戚中も大絶賛です。
嬉しくなった僕は、余りにも有頂天になり目の前の秋桜を引きちぎり恋占いをしそうな勢いにになったけれど、いやいやダメだ…花びらが八枚だからキライで終わってしまう!と自分の心を落ち着かせた。
すると、先輩がポキッ、と秋桜を一本摘んだ。
先輩!もしかして⁈ダメだ!キライで終わってしまう!
花びらを一枚づつちぎりながら、先輩が囁いた。
「キライ、スキ、キライ、スキ、キライ、スキ、キライ…スキ」
カワイイカタチ