チンタ 残してゆく じゃじゃ馬さんへ
“Ada apa dengan Cinta?”
2002年インドネシア映画
邦題『ビューティフル・デイズ』
1 図書館
「話はちっとも
終わってない」と
初対面の
僕に向かって
君はまったく
譲る気配も
なかったし
僕は僕で
図書館の
ほかの生徒に
後ろ指さされるなんて
癪だった
完璧な
意地の
張り合いだった
新聞部だと
名乗る君なら
詩のコンテストの
優勝者を
取材したいのも
道理だろう
でも
応募なんか
した覚えもない
僕にとっては
“優勝”なんて
言われても
何のことやら
寝耳に水
実感も
喜びも
ありえなかった
それどころか
自分の胸の
奥底を
いきなり裸に
された気がして
とても居心地が
悪かった
わかるだろ
詩を人前に
披露するなんて
僕が好んで
するわけがない
僕の代わりに
応募したのは
自分だと
誇らしげに
白状しに来た
ワルディマンさんを
ほんの一とき
恨みもしたけど
君が図書館に
訪ねてきたころ
正直言って
詩のことは
とっくのとうに
忘れてた
でも
2年連続優勝が
かかってた
君にとっては
僕はさぞかし
つっけんどんで
いけ好かないと
映ったろうね
何たって
君の前にも
先客がいて
2度も読書を
邪魔された
腹いせ半分
僕は君を
かなり邪険に
あしらったから
2 1通目の手紙
君の
1通目の手紙
僕は一生
忘れない
「いったいいつまで
根にもつの?」って
君の声が
聞こえてきそうだ
図書館の
仕返しだとは
わかってたけど
1度言葉を
交わしたぐらいの
ほとんど素性も
知らない相手に
あんなにも
一方的に
感情をぶちまけて
くるとはね
いっそ
あっぱれと
褒めるべきだったかな
もちろん
読んだあの瞬間は
ただ猛烈に
腹が立った
自分勝手な
憶測で
他人を
誹謗中傷するなと
怒りにまかせて
怒鳴り込んだ
あとは
図書館につづく
泥仕合の第2幕
正直に言おうか
不思議だった
さんざん怒鳴って
背を向けてから
歩き歩き考えた
何でこんなに
むきになる?って
今思えば
簡単なこと
差出人が
君だったから
他人が僕を
曲解したり
僕の真意で
ないことで
わざとらしく
あげつらったり
そんなこと
あまりにしょっちゅう
ありすぎて
いちいちまともに
相手になるのも
面倒だった
なのに
あの手紙だけは
僕が君に
面と向かって
あのとき何て
怒鳴ったか
今となっては
一言一句は
覚えてないけど
手紙を読んだ
直後の自分は
今でもはっきり
覚えてる
血という血が
頭に上って
落ち着こうとして
息をして
そしたらもう
心の中で
叫んでた
僕は
君が思ってるような
卑劣な人間
なんかじゃない!
--ランガへ--
あんたの記事なんか
なくたって
新聞はちゃんと
発行できるわ
インタビューひとつ
協力しても
くれないなんて
ずいぶんとまあ
横柄な…と
思っただけ
なんたって
「偉大な詩人どの」
ですからね
プロフィールなりと
新聞に
載せるべきかと
思ったの
なのに肝心の
あんたときたら
もうから
いっぱしの
有名人気取りで
お高くとまって
くれちゃって
それはそうと
あんたのあの詩
まさか盗作じゃあ
ないでしょうね?
確かめるのも
怖くなっちゃう
気がすむまで
せいぜい
気取ってるがいいわ
私の下司の勘ぐりが
まさか的中
してないことを
祈ってます
チンタより
3 AKUと2通目
(1)
AKUを拾い
あろうことか
2通目の
手紙といっしょに
僕の机に
置いたのは君
諦めかけてた
大事な本が
手元に戻った
うれしさを
手紙のおかげで
一瞬忘れた
見覚えのある
サインと筆跡
僕は君の
天敵じゃ
なかったのか?
だけど
手紙の問いかけは
あまりに無垢で
素直だった
なにか企んで
いるんじゃないかと
勘ぐる気持ちも
萎えるほど
(2)
--理性が感情に
負けてしまうと
自分のことを
心もとなく感じる--と
君は書いたね
君に礼を
言いに行った
あの廊下で
その言葉を
僕こそ
思い知らされた
AKUはほんとに
僕の宝だったから
誰が届けて
くれたのであれ
一刻も早く
感謝の気持ちを
伝えたかった
だけどいざ
君の名前を
呼ぼうとして
あれほど
勇気が要ったことは
後にも先にも
覚えがない
僕はさぞかし
ぎこちなかったろ?
勇んで
行ってみたものの
2度も大げんかした僕に
君がどんな
態度をとるか
内心不安で
気後れしてた
君の手紙は
正しかったよ
理性が感情に
負けてしまうと
自分が
心もとなく感じる
悔しいけど
正しかった
(3)
勘のいい君だ
僕がいつも
飽かずにAKUを
読んでたことを
察したからって
驚かない
だけど君は
そもそも
どこでどうやって
僕が失くした
AKUを見つけた?
どうしてあんな
手紙を書いた?
1通目の
手紙の君とは
まるっきり人が
ちがってた
文面こそ
短くて
女の子らしい
口調だけれど
挑発でも
皮肉でも
はったりでもなく
「こんな気持ちに
なったことない?」と
正攻法で
真剣勝負を
挑んできた
じゃじゃ馬の君の
体当たり
そんな気がした
今度は僕が
答える番?
(4)
手紙への答えを
焦るつもりは
全くなかった
じっくりと
考えたかった
君の意図も
答え自体も
それに
君の目を見て
きちんと礼が
言えたから
あの日の僕は
それで充分
満足で
穏やかに
退散しようと
思ってた
でも
呼びとめられて
AKUの詩を
口ずさむ
君を見てたら
答えはあっさり
見つかった
たとえ理性が
感情に負けて
自分が自分を
心もとなく感じても
負けたなら
負けたと
僕は黙って
甘んじる
その感情が
抗いがたい
事実なら
「クウィタンに行こう」と
君を誘ったろ
あれが
口に出せる
精一杯の答えだった
向こう見ずに
体当たりしてきた
君だから
その君を
返事の代わりに
クウィタンという
僕の心の
安住の地に
連れて行って
あげたかった
4 クウィタン
(1)
クウィタンは
お世辞にも
品のいい
街とは言えない
せわしない人波
雑然として
埃っぽい大通り
店主も客も
ぶっきらぼうな
商店街
初めて来たと
いう君は
どこから見ても
頼りなげで
もちろん
女の君が
こんな世界に
縁がないのも
また道理
辺りをうかがう
黒い瞳は
不安げで
互いに居心地が
定まらず
とりたてて
話が弾んだ
わけでもないのに
僕のそばから
離れずに
一生懸命
ついてきたね
信号が
青になったとき
無意識に
君の手を取った
君がどう
思うかなんて
気にもしなかった
華奢で
頼りなげな君が
クウィタンの雑踏に
さらわれてしまいそうで
いたたまれなかった
ためらいがちに
握り返した
君のその手の
温かさで
初めて僕は
我に返った
(2)
君が
僕よりも仲間たちを
優先するという事実
AKUの詩が
ふと口をつく
君になら
まず間違いなく
気に入るはずの
クウィタンを
「約束を忘れてた」
という一言で
君があっさり
離れて行こうと
する事実
そして何より
君を見送る
しかないという
動かぬ事実
僕は意地でも
冷淡だった
残念そうな
素振りを
見せないこと
無関心な
ふりをすること
君の
“親友第一主義”を
こてんぱんに
皮肉ること
あのときの
僕にできる
精一杯の
強がりだった
君が
気を悪く
することも
猛然と僕に
食ってかかる
だろうことも
3度目の泥仕合が
避けられないと
いうことも
悪態をつきながら
想像は
容易にできた
それでも
意地でも
そうしなければ
耐えられなかった
(3)
リンボンは
笑ってた
頑固で強情な
僕の肩を
お節介な
本屋の主人は
何度も何度も
押してくれた
足早に
去って行きながら
背中全体で
僕に抗議してた君
たった1度
恨めしそうに
振り返ったね
息がつまりそうで
苦しかった
クウィタンの
陽射しが
眩しすぎて
苦しかった
君をあのとき
強引に
引き止めておく
口実も
自信もなかった
追いかける
勇気もなかった
遠ざかっていく君を
ただ
見つめてるしか
なかった
5 体育館
クウィタンのことは
僕が悪い
君をああまで
揶揄する権利は
僕にはない
君が相手に
してくれようと
くれまいと
謝るべき非は
僕にある
前の夜
寝つかれなかった
予想どおり
君はやっぱり
仲間たちの
輪の中にいたね
まったく
気乗りしないまま
僕と
しぶしぶ
向き合った君に
できる限り
冷静に真剣に
謝っては
みたけれど
君は目を
合わせようとも
しなかった
明らかに不機嫌で
見るからに
苛立ってた
友達や
他人の視線が
気になって
目の前の
僕のことなんか
上の空も
いいとこだった
それどころか
クウィタンの
仕返しとばかり
言葉じりに
難癖つけて
これ見よがしに
罵った君
最後の啖呵は
「変人!」
だったかな?
今ならわかるよ
じゃじゃ馬さん
あの時の
君にとっては
“理性が感情に
負ける”なんて
ありうべからざる
一大事
だけど僕には
ひどくこたえた
誠意を露骨に
踏みにじられた
口惜しさ
あいもかわらず
君が周りの
人目を気にする
もどかしさ
謝ったんだ
もう借りはない
おあいこだという
開き直り
そして君とは
もうこれまでという
自暴自棄
頭の中で
それらが全部
ごちゃまぜで
言い返す
言葉もなかった
僕は絶句して
君の顔を
睨みつけた
もう2度と
見ることなんか
ないだろう
君の顔を
6 来訪
(1)
玄関の
ベルが鳴って
何気なく開けた
ドアの向こうに
君がいた驚き
いるはずの
ない人
あるはずの
ない光景
僕がどれだけ
呆然としたか
君は知らないだろ
背中に父の
声を聞くまで
君を中に
通すことすら
忘れてた
僕がけがを
したと聞くなり
やって来た
君の直情径行に呆れ
天敵の
懐にさえ
面子も忘れて
飛び込んでくる
無鉄砲な
無垢さに呆れた
ついおととい
体育館で
4度目の
派手なけんかを
僕としたのは
どこの誰?
意地っ張りじゃ
僕に負けない
その誰かさんが
今 目の前に
ポツンと
立ってる
それを
信じろって?
「僕とけんか
できなくて
寂しくなって
来たんだろ」と
からかわずには
いられなかった
通りで不良に
絡まれたと
とっさに答えた
作り話に
見るからに君は
疑わしげで
不様なけがの
ほんとの理由を
問いつめられる
より先に
話をそらして
しまいたかった
いや
そうじゃない
君が
来てくれた
嬉しさを
勘づかれるのが
気恥ずかしくて
からかわずには
いられなかった
(2)
我が家の
小さな台所に
女性が立つのは
いつ以来だろう
君が料理に
慣れてないのは
ものの一目で
わかったけど
誰かと料理を
する楽しさを
あのとき初めて
味わった
野菜を切る
危なっかしい
君の手つきも
玉ねぎに
泣き笑いする顔も
愛おしかった
「お母さんは?」と
君は訊いたね
僕はとっさに
はぐらかした
いつか君に
話すときなど
来るんだろうかと
心のどこかで
思いながら
(3)
父のことを
よく思わない連中の
嫌がらせなんか
しょっちゅうだった
学校でも
家でも
でもまさか
君にまで
巻き添えを
食わせるなんて
思い出すと
今でも
胃の腑が裏返る
父の不屈の信念は
息子の僕にも
誇らしい
だから連中に
どんな仕打ちを
されたって
弱気になんか
ただの1度も
なった覚えは
ないけれど
さすがに
あの日
あのときだけは
我が家の運命が
恨めしかった
来てくれた
君の好意に
あんなひどい
お返ししか
できなくて
すまなさで
一杯だった
とにかく君に
けががなくて
良かった
神様に
感謝したかった
僕の腕の中で
大丈夫と
小さく気丈に
頷いた君
それだけが
救いだった
7 ブルース・カフェ
(1)
君と
一つテーブルに座り
いつもの
ラマの歌を聞く
ごくありふれた
ことにも思え
あるはずのない
ことにも思えた
あの日の君は
ほんとにくるくる
表情を変えた
自分のことを
どうしてラマに
話したのかと
ふざけて僕を
叩いて怒り
歌が上手いと
ラマが褒めると
謙遜しながら
はにかんで
ステージに
呼ばれたときに
至っては
僕の腕を
つねりながら
照れて
むくれて
途方に暮れた
君のあの日の
百面相は
となりで見ていて
楽しかった
他人の視線を
気にしない
君らしい
喜怒哀楽を
見た気がしたから
嬉しかった
(2)
君の口から
身に覚えのある
言葉がこぼれて
絶句した
想像しても
いなかった
いつの間に君は
僕の詩を
憶えていたのか
歌う気に
どうしてあのとき
なったのか
でも
何より
迷いのない
その声音を聞けば
君が今まで
どれだけ
何度も
口ずさんでは
諳んじたか
自惚れる
つもりもないけど
察しはつくよ
自分の詩なのに
自分の詩では
ないような
そんな不思議な
ひとときだった
応募もしてない
コンテストに
優勝なんか
ありえないと
初めて出逢った
図書館で
大げんかした
僕たちの
始まりだった
あの詩を今
ここで聞く
刺々しくて
すさんだ
僕の詩の文句を
のびやかな
君の声が撫で
慈しむように
包んでくれた
驚いて
気恥ずかしくて
嬉しかった
(3)
見ず知らずの
女の人に
タクシーを
譲った僕を
声をたてて
君は笑った
そして
家まで
歩いて帰ると
無茶な気まぐれを
言い出した
でも君が
言わなかったら
きっと僕から
そう仕向けてた
お手伝いさんが
要るか要らないか
帰る道々
大激論
もちろん互いに
譲らなかった
雨上がりの
木の下に
君を呼んで
幹を蹴った
蹴らなくたって
成り行きなんか
火を見るよりも
明らかだけど
でも
ふざけてみたかった
気がねなく
わだかまりもなく
ふざけてみたかった
案の定
君はむくれて
体当たりを
食らわせて
そして
笑い転げた
案の定
家の前まで
着いたとき
僕の家族の
ことを訊いたね
いつかはと
思ってたから
冷静に話す
いいチャンス
だったから
君があんなに
遠慮がちに
口ごもることなんか
なかったのに
それどころか
僕を気づかい
途中で話を
さえぎった君
自分が迂闊な
ことを訊いたと
眉をよせて
謝った君
心配いらないよ
気を悪く
するぐらいなら
最初から
答えやしない
(4)
別れ際に
しようとしかけて
しなかったこと
意気地なしと
思ったんなら
笑っていい
本当に
そうだったから
何も言わずに
目を閉じた
君の心に
一瞬甘えたかったけど
応えるべきかと
迷ったけど
でも今は
あれでよかったと
思ってる
思い上がらなくて
すんだ
自分の気持ちに
自惚れなくて
すんだ
君をどれだけ
想えるか
試練に出逢う
前だったから
8 決裂
腹立ちまぎれに
怒鳴りつけて
そのまま君を
置いてきた
ここ何日か
僕と会うのを
ひたすら避けて
電話にも
出なかった君
打ちひしがれて
うつむいて
何よりも
ついこの前とは
全く違う
君の顔
良くないことが
起こったんだと
想像しない
訳がないだろ
「しばらくは
会えなくなる」と
切り出しかけて
それも辛くて
一瞬迷った
隙を突かれた
「もう会わない」と
君は一言
言ったっけ
「あなたと出逢って
冷たい人間に
なっちゃった」と
それは本心?
何日か前
僕の詩を
巧まず歌い
屈託なく
笑い転げて
僕の家族を
気づかった君と
今しがた
無表情に
僕を拒んだ
陰鬱な君と
いったいどっちが
本物なんだ?
それでも
今までは
明日があった
何事も
なかったように
言葉を交わせる
明日があった
でも今回は
明日がない
だからこそ君を
呼び止めた
「僕はしばらく
国を離れる」
そう言わなければ
ならなかった
「でも遠からず
きっと戻る」と
言いたかった
黙ったままで
去りたくなかった
なのにとうとう
言えずじまいで
お決まりの
けんか別れ
どんな事情
だったかなんて
僕には到底
わからないけど
怒りとも
口惜しさとも
つかない顔で
君は何を
言いたかった?
今でもまだ
“理性が感情に
負ける”と困る?
今でもまだ
僕の前で
心に理屈の
鎧を着たい?
そんなもの
蹴っ飛ばして
君らしく
体当たりして
来ればいいのに
子供っぽい
屁理屈なら
からかって
笑い飛ばして
やったのに
魂が
よじれるような
苦痛なら
黙って隣りに
いてあげたのに
結局僕は
何もして
やれずじまいで
さよならだ
まして
僕の想いを
伝えるなんて
論外だった
笑うなら笑え
君を愛してる
9 それでも君を
想いは貫く
独りで貫く
発つ前に君に
会えなくても
想いが君に
届かなくても
僕は想いを
独りで貫く
短い間だったけど
君の心に
触れた気がした
人生を共に
したいと思える
心の持ち主
そう信じた
その記憶だけを
頼りに僕は
君のことを
想いつづける
報いられるか
どうかなんて
確証はない
それでも君を
求めてる
遠からず
きっと戻る
そして君の
前に立つ
そのときもまた
君は僕を
拒むだろうか
こんなふうに
想うことすら
迷惑か?
笑わば笑え
それでも君を
求めてる
10 空港
いるはずがない
けんか別れの
ままの君が
聞こえたりする
はずがない
君の無邪気な
笑い声が
感じるなんて
はずがない
すねて僕の
腕をつねる
君の華奢な
指なんか
それでもなお
振り返った
後ろを向けば
時間が戻る
ような気がして
君が立ってる
ような気がして
あの夜
君の家の前で
押せなかった
ベルを押して
きちんと
さよならを
言うべきだった
学校の
あの廊下で
固く閉ざした
君の心と
がまん強く
向き合うべきだった
あの
ブルース・カフェの夜
やめよう
僕の望みは
ただひとつ
誰にも恥じたり
することなく
堂々と
もう一度
君の前に
立つということ
だから今は
前を向く
ただ
それだけのために
11 君となら賭けてみせる
(1)
自分が先に
好きだと告げたら
僕が冷たく
撥ねつけるかと
怖かった?
うるんだ瞳は
そう見えた
ずっと前から
告げたかったのは
僕の方
すれ違いで
とうとう
叶わなかったけど
だから綴った
君に向かって
告げるつもりで
綴りながら
自分に誓った
最後のページを
読めばわかる
お互いさまだ
安心していい
チンタ
君が
来てくれたから
そのノートごと
心を君に
預けるから
前を向いて
僕は発てる
だから泣くな
笑ってて
僕が蹴った
木の雨水に
笑い転げた
あのときみたいに
笑ってて
(2)
散々だった
初対面
顔合わせれば
売り言葉に
買い言葉
今思えば
苦笑いだ
適当にあしらって
最後まで
見ず知らずで
終わることも
できたんだろう
誰彼なしに
そうしてきた
でも
君だけは
突っかかってでも
放っとけなかった
絡んできたがる
悪がき達を
相手するのも
うっとうしかった
この僕が
理詰めの君に
負けまいと
最初は
意地でも
理詰めで通した
そしたら君は
あるとき
あっさり
半身になって
理屈の鎧を
いともあっさり
脱ぎ捨てた
返してよこした
僕の本に
無垢な手紙を
添えた君
僕がけがを
したと知って
無鉄砲にも
訪ねてきた君
ろくに得体も
知らない僕の
反応を
怖いとは
思わなかった?
あの頃だ
図々しく
人の心に
飛び込んでくる
無邪気な君に
僕が兜を
脱いだのは
(3)
なんて
跳ねっ返りで
なんて
気が強くて
人の癇に
障ることを
ずけずけと
でも
賢くて鋭くて
そして心を
偽らない君
落とし主が
小憎たらしい
天敵でも
僕が心底
大事にしてる
宝と見抜いた
あの本を
返さないでは
いられなかった
潔い君
飛行機の窓から
ジャカルタが
遠ざかる
あの中のどこかで
君が息づいてる
発つ前に
ある人が
笑って言った
動物本能の
目覚めだと
パッと咲く
花火だと
思春期には
よくあることだと
恋が叶うだの
愛が続くだの
それが
僕らの年頃なら
なおさら奇跡だと
健やかなるときは
まだしも
病んだときの
不様さが
目に見えると
なればこそ
僕は賭ける
九分九厘
嘲られても
それでも
残りの一厘に
僕は賭ける
チンタ
君となら
賭けてみせる
<完>
チンタ 残してゆく じゃじゃ馬さんへ
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 懐拳